乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-1 悪の秘密結社ドアダ
世界は、再び狂い始める──
第二章は「青の変身ヒーロー」狗鬼漢児の物語が本格始動!
父との邂逅、妹の魔法少女覚醒、そして地球を襲う邪神ドアダの陰謀……。
“熱血”と“闇”が交錯する、青き勇者の物語をお楽しみください。
(^^) ブックマークをお願いいたします!
読みやすくなりますよ❤︎
第二章―青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス
空間が悲鳴を上げた。
理が逆巻き、重力が裂ける。
そして次元の裂け目から、邪神ナイアルラトホテップが帰還した。
その腕には、意識を失った神羅。
そして傍らには、瀕死の羅漢。
彼女たちが辿り着いた場所――その名は《ドアダ》。
地球から遥か彼方、異星の荒廃した一角に築かれた、恐怖と陰謀の牙城。
怪人を造る。
人を改造し、魂を蝕み、世界を捻じ曲げる。
そのすべては、ただ一つ。
「世界征服」という目的のために。
「ナイア様、お帰りなさいマセ――」
ナイアを出迎えたのは、戦闘アンドロイド《イブ》。
一見すれば美しい人間の女性。
だが、その精緻な造形の奥には、人ならざる機械の機構が組み込まれている。
それでも無機質な美貌の端々には、どこか人間らしさの欠片が垣間見えた。
「ああ、ご苦労。……神羅を頼む」
ナイアは腕に抱えていた少女を見下ろし、面倒げに命じる。
「了解。運びマス」
無機質な声とともに、イブは神羅を静かに抱き取った。
そして、そのまま基地奥の医療区画へと歩み去っていく。
その背中を見送ったナイアは、もう一人の男へ視線を落とした。
「さて……問題は、羅漢か」
床には、血塗れの羅漢が横たわっていた。
一命は取り留めている。
だが、羅漢は魔法抵抗力が異常なほど高い。
並の洗脳魔法では、彼の精神を支配することはできない。
ならば――答えは一つ。
ナイアの口元が歪んだ。
「怪人にしてやる。改造手術だ」
「「「イーッ!」」」
黒衣の戦闘員たちが一斉に動き出す。
羅漢の身体を担ぎ上げると、禍々しい機械音の響く地下手術室へと運んでいった。
◇ ◇ ◇
闇の底で、微かな意識が泡のように浮かび上がる。
「……ん」
羅漢は呻いた。
頭が痛む。
いや、頭だけではない。
全身のあらゆる部位が軋み、焼けるような熱を帯びていた。
「ここは……?」
疲弊した瞳が周囲を彷徨う。
だが、何も見えない。
視界は完全な暗闇に閉ざされていた。
何かが頭部を覆い、両目を塞いでいる。
「誰だ! ここはどこだ!?」
声を上げた、その瞬間。
羅漢は違和感に気づいた。
「……?」
声が違う。
高さも、響きも。
自分の喉から出ているはずなのに、まるで他人の声を聞いているようだった。
「……まさか」
背筋に寒気が走る。
自分の身体が、自分のものではない。
そんな異物感。
肉体の掌握感が失われている。
手を動かそうとしても動かない。
足も同じだった。
ガチャガチャガチャ――。
金属音。
「拘束具……!」
手足は冷たい枷によって、寝台へ固定されていた。
「……くっ。この状況は……まずい……!」
羅漢は必死に身体を動かそうとする。
だが、拘束はびくともしない。
「誰かいるのか!?」
返事はない。
「答えろ!!」
その時だった。
声が響いた。
だが、それは空気を震わせて聞こえてきた声ではない。
脳髄の奥。
思考の泉へ直接注ぎ込まれるような、不気味な声。
『目覚めたようだな』
「貴様……誰だ!」
『おまえを――怪人にする』
「何……!?」
『抵抗しなければ、命だけは助けてやろう』
羅漢は一瞬だけ沈黙した。
そして――。
「ふざけるなッ!」
拘束具を引き千切ろうと全身に力を込める。
「丁重に断らせていただく!!」
その瞬間。
凄まじい電撃が全身を駆け抜けた。
「ぐあああああああッ!!」
皮膚が焼ける。
筋肉が裂ける。
骨が歪む。
痛い。
熱い。
息ができない。
絶叫する羅漢の身体へ、次々と異形の機械が接続されていく。
そして――。
「な……んだ……これは……!」
肉体だけではない。
己の内側から、何かが剥がされていく。
そんな感覚。
それは――魂。
人間であるという証。
これまで誰かに呼ばれるたび、振り返ってきた“名前”の核。
自分が《羅漢》という男だった記憶すら、悲鳴を上げながら遠ざかっていく。
(名前を……!)
意識が薄れていく。
(忘れたく……ない……!)
羅漢。
それは父母から与えられた、大切な名前。
自分が自分であることを証明するもの。
(俺は……羅漢だ……!)
必死に、その二文字へしがみつく。
(父母に名付けられた……大切な……俺の……)
だが。
その記憶すら、闇へ呑み込まれていく。
自我が溶ける。
肉体が他者のものへ変わっていく。
「ま……ず……い……!」
断末魔のような声を最後に、羅漢の意識は再び奈落へ沈んだ。
◇ ◇ ◇
――そして、時は過ぎた。
金属の寝台に横たわっていた一人の男が、ゆっくりと瞼を開いた。
機械音。
消毒液の匂い。
無機質な天井。
男はゆっくり身体を起こす。
指を動かす。
腕も動く。
しかし――。
「…………」
何かが違う。
「……私は、一体……?」
男は頭を押さえた。
何も思い出せない。
名前も。
年齢も。
どこで生まれ、何をして生きてきたのかも。
そして――。
誰かに呼ばれていたはずの、“あの名前”すら。
「くっ……思い出せない……!」
拳が壁を殴った。
鈍い痛みが走る。
包帯の巻かれた腕。
それだけが、自分がまだ生きていることを教えてくれた。
彼はまだ知らない。
奪われた名前の代わりに、《ドアダ》が新たな名を与えようとしていることを。
そして、その名がやがて――世界を揺るがすことになることを。
◇ ◇ ◇
「首領閣下。七将軍ナイア、ただいま帰参いたしました」
豪華な椅子に腰掛ける首領へ、ナイアは深々と頭を下げた。
首領の傍らには、他の七将軍たちも参席していた。
盲目の剣闘王――スパルタクス。
狂乱道化――ヨクラートル。
戦闘アンドロイド――イブ・バーストエラー。
蛇王――ナイトホテップ。
サイボーグレスラー――キャプテン・ダイナマイトボマー。
そして、残る一席は空席。
ナイアが封印されていた十五年の間に、その将軍は命を落としたらしい。
「帰還ご苦労、ナイア。よくぞ戻った」
黒紫の衣装を纏ったドアダ首領が椅子から立ち上がる。
「早速で悪いが、お前が連れてきた娘について聞きたい」
「神羅のことですわね?」
「ああ」
首領はナイアへ歩み寄った。
「女神ユキルの生まれ変わりだという、あの娘だ」
そして、ナイアを試すように目を細める。
「お前のことだ。ここへ連れてきた後、ドアダへ忠誠を誓わせるため、絶対服従魔法契約書でも書かせたのだろう?」
「はい♪」
ナイアは悪びれもせず答えた。
「女神ユキルの生まれ変わりだと確信しておりましたので、私の下僕として働かせるために連れて参りました」
「ほう」
「今はまだ心労で寝込んでおりますけれど……明日からでも立派なドアダの下僕として働けるよう、教育プランを練っているところでございますわ」
「勤勉だな」
首領は満足そうに頷く。
「それより――」
表情がわずかに変わった。
「あの娘が女神ユキルの生まれ変わりだというのは、本当に間違いないのだな?」
「ええ」
ナイアは即答した。
「あの因縁深い女神を、私が見間違えるわけがありませんわ」
「…………」
「あの顔。立ち居振る舞い。そして、内側に秘められた膨大な魔力」
ナイアは楽しそうに笑う。
「DNAの鑑定結果も、同一人物という判定が出ています。間違いなく女神ユキルそのものですわ」
そして、うっとりと頬を染める。
「もし彼女が完全に覚醒すれば……私以上の天才魔女になる可能性すらありますわよ?」
(それになんといっても……私の嗜虐心をそそる、あの眼差し♡)
ナイアは神羅の顔を思い浮かべる。
(綺麗なものを信じて疑わない、あの“いい子ちゃん”な性格……ああ、たまらないわぁ♡)
――壊して、歪ませ、自分だけに服従させる。
それこそがナイアにとっての愛であり、信仰だった。
(ああ……明日からが楽しみだわぁ!)
うっとりと妄想に浸るナイアを見て、他の将軍たちは一様に呆れた表情を浮かべていた。
「……わかった」
首領が小さく息を吐く。
「もう下がってよいぞ、ナイア」
「はい♪ では、失礼いたしますわ」
ナイアは上機嫌でスキップしながら退室していった。
その姿が扉の向こうへ消える。
「…………」
首領は再び椅子へ腰を下ろした。
「皆も下がれ」
「はっ!」
他の将軍たちも退室する。
やがて広い首領室には、男一人だけが残された。
「…………」
首領は目を閉じた。
(やはり……あの娘は女神ユキルの生まれ変わりだったか)
実際に目の前で見れば分かる。
圧倒的な魔力量。
そして、転生前と一寸違わぬ顔立ち。
間違いない。
神羅は――ユキルだ。
(皮肉なものだ)
首領の表情が、わずかに歪んだ。
(まさか、こんな形で……失ったあの娘が、再び私の元へ帰ってくるとはな)
込み上げてくるものを必死に堪える。
思わず涙が零れそうになった。
だが――。
再び目を開けた時。
先ほどまでの穏やかな表情は消えていた。
代わりに浮かんでいたのは、鬼のような怒り。
「ナイアめ……!」
拳が震える。
「何が七将軍だ! 邪神ごときが!!」
そして。
誰も聞いていない首領室で、その言葉が静かに落ちた。
「ワシの孫に――何をする気だった!?」
ドアダ首領。
世界征服を目論む悪の組織、その頂点に立つ男。
だが彼には、誰にも明かしていないもう一つの顔があった。
――神羅の祖父。
どうやら首領は、本心ではナイアのことが嫌いらしい。
「……それにしても」
怒りを押し殺しながら、首領は椅子へ深く腰掛けた。
「頭の痛い敵を作ってしまったものだな」
手元に置かれていた水晶玉へ手をかざす。
すると、その表面に一人の男の姿が浮かび上がった。
乂阿烈。
水晶に映った阿烈は川辺で上半身裸になり、鍛え抜かれた肉体を躍動させていた。
どうやら一人で武術の型稽古を行っているらしい。
その姿は、まさに威風堂々たる武人。
首領は水晶に映る阿烈を睨みつけた。
「阿烈よ……」
低い声が響く。
「お前はいずれ、私の手で必ず倒される運命なのだ」
水晶玉へ手を添える。
「私は決して、敵対する者を許しはしない」
口元が邪悪に歪んだ。
「この水晶球は、私の魂の欠片を核として作った特別製だ。これを通じ、お前が見ている光景を私も見ることができる」
阿烈は何も知らない。
――はずだった。
「せいぜい今は楽しんでおくがいい」
その時。
「…………?」
水晶の中の阿烈が動きを止めた。
ゆっくりと顔を上げる。
そして――。
真っ直ぐ、こちらを見た。
「なっ!?」
首領が目を見開く。
あり得ない。
こちらから阿烈を見ているだけだ。
向こうから、こちらが見えるはずがない。
だが。
水晶の中の阿烈は――。
ニヤリ。
確かに笑った。
「まさか……!」
次の瞬間。
阿烈が虚空へ拳を突き出した。
「――ッ!?」
首領は反射的に防御の型を取った。
ドゴォォォン!!
「なっ!?」
首領の背後にあった壁が吹き飛んだ。
「…………」
頬が引きつる。
水晶の向こうは別の惑星。
本来ならば、拳など届くはずがない。
それどころか、次元そのものが違う。
「ク……」
首領の口元が吊り上がる。
「クカカカカ……!」
拳を構えた。
「そういうことか……面白い!」
今度は首領が、水晶の中の阿烈へ向かって手刀を放つ。
もちろん、水晶玉そのものには触れていない。
だが――。
ズバァァァン!!
水晶の向こう。
異世界スラルの川辺を流れていた水が、真っ二つに割れた。
ドアダ基地から放たれた手刀の攻撃波が、水晶を介して異世界へ到達したのだ。
「フハッ!」
阿烈が笑う。
次元越しに迫る手刀を、紙一重のスウェーで躱した。
そのまま反撃の拳を虚空へ放つ。
「ぬぅッ!」
首領が《纏手功》で拳撃をいなし、即座にカウンターの突きを返す。
阿烈も同じく《纏手功》で受け流す。
拳。
手刀。
突き。
掌打。
一撃ごとに、異なる惑星の大地が揺れる。
二人は一言も交わさない。
だが――互いに笑っていた。
惑星間。
次元すら超え。
神の域へ達した二人の武仙が、激しく組み手を交わしていく。
拳が次元の壁を叩くたび、空間が軋む。
阿烈と首領。
二柱の《武仙》による、常識では測れぬ手合わせ。
やがて――。
その激突に、次元そのものが耐えきれなくなった。
ピシッ。
水晶玉に亀裂が走る。
「……あ」
首領が気づいた時には遅かった。
パァァァン!!
水晶玉が粉々に砕け散った。
◇ ◇ ◇
「クカカカカ!」
川辺。
阿烈は愉快そうに笑っていた。
「いかんいかん。ついつまみ喰いしちまったぜぇ」
何事もなかったかのように、脱いでいた服へ袖を通す。
「思わぬ稽古相手に遊んでもらったわ」
満足そうに肩を回した。
「やはり散打は、向き合う相手がいないとなぁ」
そして、先ほどまで拳を交えていた相手を思い出す。
「あのじじい……まだまだ現役じゃねぇか」
どうやら阿烈には、次元を越えて戦った相手が誰なのか分かっていたようだ。
一方――。
ドアダ基地。
「…………」
首領は粉々になった水晶玉を見下ろしていた。
沈黙。
そして――。
「ああああああああああああッ!?」
絶叫が基地に響き渡った。
「ワシの水晶がああああああッ!!」
頭を抱える。
「これ作るのに、ほんのちょっぴりだけどワシの魂の欠片まで使ったのにいいいいいい!!」
周囲を見回す。
「ワシの部屋がめちゃくちゃあああッ!?」
壁は崩壊。
家具は粉砕。
そして。
「うわぁぁぁ!? お気に入りの首領スーツがぁぁぁぁッ!!」
拳の優劣はさておき。
どうやら今回の手合わせで失ったものは、首領の方が圧倒的に多かったようだ。
「あんのクソガキャ~!」
首領は地団駄を踏む。
「なんちゅう危ない奴じゃ!!」
そして、ふと思う。
「……にしても」
顎に手を当てる。
「ナイアの奴、あの化け物相手に喧嘩を売って……よく生きて帰ってきたな」
少しだけ感心したように頷いた。
「まあ、さすがドアダ七将軍の一人……といったところか」
その時だった。
「しゅ、首領閣下ぁ!!」
黒スーツ姿の戦闘員たちが、爆音を聞きつけて首領室へ飛び込んできた。
「いったい何事でございますかぁ!?」
「ん?」
首領は周囲を見回した。
崩壊した壁。
粉々の家具。
砕け散った水晶玉。
ボロボロになった首領スーツ。
「…………」
説明するのが面倒くさい。
「ゴキブリじゃ」
「……はい?」
「そう。異次元級のゴキブリがなッ!!」
「へ?」
戦闘員たちは顔を見合わせる。
首領はそれ以上説明する気もなく、瓦礫の上へ腰を下ろした。
「それより」
ボロボロになった服を脱ぎながら尋ねる。
「ナイアが連れてきた、神羅という娘はまだ目覚めんのか?」
その時。
別の戦闘員が慌てて駆け込んできた。
「首領閣下!」
「なんじゃ?」
「例の娘が――目を覚ましましてございます!」
「……!」
首領の表情が変わった。
すぐに立ち上がる。
「そうか」
一言だけ答えると、足早に首領室を出ていった。
向かう先は――神羅のいる部屋。
十五年前に失ったはずの大切な存在。
そして今、数奇な運命によって再び自分の元へ現れた少女。
――祖父と孫。
二人の再会が、すぐそこまで迫っていた。
https://vt.tiktok.com/ZSDHVeFe5/
↑イメージリール動画




