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終章- 刻のカケラを巡る-35 引き際

――援軍が来ても、勝てない。


絶望の戦場に現れたのは、

最悪の盤面をひっくり返す三人の勇者。


だが、それでもなお――

この戦場は、踏み越えられない。


第6部、撤退戦開始。




場面は変わり再び白阿魔王達の戦場




吹雪は止んでいなかった。


だが――戦場の色が変わっていた。



氷世界ニブルヘイム・外郭戦線


黒き影が八つ。


ナインライダー。


その異形の騎士たちすら、今は歯車を背負っていた。


白い影――アイナクィンが、騎士たちの背に張り付く。


神経に絡みつく。


寿命を焼きながら、無理やり出力だけを引き上げる。


「契約共鳴」

「出力拡張」

「個体寿命、消費許容」


≪ゴォォォォ……≫


騎士たちの魔力が跳ね上がる。


空間が歪む。


重圧が倍化する。



阿門達は完全に劣勢だった。


≪ギィィィィン!!≫


紅茜の刀が弾かれる。


「くッ……!!」


衝撃だけで氷床が砕け散る。



≪ドォォォン!!≫


塵芥鏖の念動制御が押し返される。


「チィ……!!」


支配の力が、正面から“踏み潰される”。


「……強化率が異常すぎるだろ……!!」



ミスティルの魔力障壁が軋む。


「くそ……!! 何だよこの硬さ……!!」



今宵鵺の時間制御が裂ける。


「……止めきれない……!」


彼女の額に冷たい汗が流れる。


「時間の“抵抗力”が増してる……!」



フレアが吹き飛ぶ。


「きゃあッ!!」


クレオラが結界ごと後退する。


「……っ……!」



戦況は、目に見えて崩壊していた。


パピリオ以外――全員が防戦一方だった。



さらに巨人族の長老メフィスト・フェレスは――死の淵にあった。


雪原の中心。


血に染まった老人メフィストが、かろうじて息をしている。


ナインライダーの呪刃が深く突き刺さり、再生や回復魔法すら追いつかない。


「……ぐ……」


視界が霞む。


身体が言うことを聞かない。



シグルドの瞳が揺れる。


「……親父……」


その瞬間。


脳裏に――閃光。


記憶。


過去。


罪。


誇り。


そして――


“宇宙刑事シグルド”


封じられていた全てが、暴力的に解放される。


≪ドクン≫


魔力が爆発した。





だが。


容赦なく、強化された騎士達ナインライダーが迫る。


≪ギィィィィン!!≫


黒刃が振り下ろされる。


≪ドォォォン!!≫


念動結界が粉砕される。


≪ズバァァァッ!!≫


空間そのものが裂ける。



そして――


ナインライダーの一体が、ついに紅茜へ致命の一撃を放とうとした、


――その瞬間。


戦場の空気が、変わった。


――風が裂けた。


「ファフニールシュトラール!!!」

≪ドォォォォン!!!!≫


爆音。


衝撃。


閃光。



ナインライダーの一体が、横から吹き飛んだ。


「……!?」


塵芥鏖の目が見開く。



次の瞬間。


「漢の鉄拳ドリルパーーンチ!」

≪ギィィィィィン!!≫


黒騎士の鎧を、蒼き螺旋の一撃が粉砕する。



さらに――


「封獣ケルビムベロス斬魔刀形態!」

≪ズバァァァァッ!!!!≫


大剣。


軍隊式。


殺意の塊。


ナインライダーがまとめて弾き飛ばされた。





吹雪の中から現れた三つの影。



先頭。


青き闘気。


馬鹿みたいな笑顔。


漢児。


「よう、遅くなったなァ!!」



隣。


赤い瞳。


獣の殺気。


レッド。


「……地獄みてぇな盤面だな」



最後。


銀髪。


軍服。


圧倒的な暴力の気配。


羅刹。


「相変わらず騒がしい戦場だな」


そして――


阿門を見る。


静かに、敬意を込めて。


「……遅れました阿門兄上」





加減なし。


容赦なし。


ただ、蹂躙するためだけの暴力だった。


≪ドォォォン!!≫

漢児の拳が騎士を粉砕する。


≪ギィィィィン!!≫

レッドの斬撃が影を裂く。


≪ズバァァァッ!!≫

羅刹の大剣が空間ごと薙ぎ払う。



八体のナインライダーが、初めて明確にひるんだ。



パピリオが目を見開く。


「……は……」


次の瞬間。


ニヤリと笑う。


「……遅いわよ、バカ弟子」



紅茜が息を呑む。


「レ……レッド……」


漢児が笑う。


「HERO参上ってな!」



塵芥鏖が低く呟く。


「……最悪のタイミングで……最高の連中が来やがったな」




だが。


レッドの視線は笑っていなかった。


戦場全体を見渡し、即座に結論を出す。


「……ダメだな」


低い声。


「ナインライダーまで契約共鳴で底上げされてる」



最強魔女羅刹も即断する。


「この場は削り合いになる」


阿門を見る。


「兄上」



漢児が叫ぶ。


「一時撤退だ!!」



空気が凍る。



紅茜が叫ぶ。


「なッ……!?」



レッドが怒鳴る。


「今は“勝てる戦場”じゃない!!」


悔しさで、全員の顔が歪む。


だが――誰一人、反論できなかった。



羅刹が続ける。


「立て直しが先だ」



漢児が拳を握る。


「ここで潰されたら意味がねぇ!!」



シグルドの瞳が揺れる。


葛藤。


怒り。


悔しさ。


だが――


宇宙刑事の理性が勝つ。


「……チッ……!」


歯を食いしばる。


「……了解だ……!」



阿門が静かに目を閉じた。


そして――開く。


「……撤退する」



紅茜の顔が歪む。


「…旦那様アモン……」



阿門の声は揺るがない。


「今は退く時だ」



ナインライダー達が再び構える。


だが。


その前に――


≪ドォォォン!!!!≫


漢児が笑う。


「よォし!! 逃げ道は俺がぶち開ける!!」



レッドが剣を構える。


「付き合うぜ」



羅刹が嗤う。


「敵は斬り伏せるだけだ」



吹雪の中。


勇者三人が前に出る。



氷世界ニブルヘイム。


戦場は、次の段階へ移行する。


――そして誰もまだ知らない。


この“撤退戦”こそが、

さらなる地獄の入口であることを。


次に失うものは、もう戦線だけでは済まない。


挿絵(By みてみん)


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