乂阿戦記1 第一章- 赤の勇者雷音と炎の魔剣クトゥグァ-3 異常に強い乂阿烈
拳で神を殺す男と、暴走する赤の勇者。
敵は“外なる神”、ナイアルラトホテップ。
魔剣の覚醒、暴走、兄弟激突。そして伝説の勇者が目覚める――!
熱血✖️神話✖️家族愛が交錯する、シリーズ最大級のバトル編スタート!
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──それは、拳で奏でる交響楽だった。
烈火の如き打撃、雷鳴の如き脚撃。
断続する破壊音が空間を軋ませ、世界の骨格を震わせる。
交錯する拳と拳は物理法則すら蹂躙し、存在の根幹に干渉する。
その渦中で、ただ一人──男は笑っていた。
「フハハハハハハハハッ!!!」
黒き虚無を背に咆哮するは、乂阿烈。
名を持つ拳。狂気を制する熱。
この世に生を受けし“熱血マグマ”の器にして、神すら圧殺する破壊の申し子。
その肉体はもはや人の枠を超えていた。
剛骨の腕は鉄を凌ぎ、胸筋は大地よりも分厚い。
そして、その眼だけが──奇妙なまでに澄んでいた。
「お前の肉体は、すべての物理的攻撃を拒む……そうだな?」
阿烈が低く呟く。
その言葉に応じるように、対峙する異形が口を開く。
「然り。我が身は“神の意志”そのもの……汝ごとき人の拳など、何億回重ねようと届かぬ」
邪神ナイアルラトホテップ。
邪神の腕から伸びる槍が、空気を裂いた。
世界を貫く混沌の槍――《深紫ノ槍パープル・スパイン》。
全てを貫き、焼き、無に帰すはずのその一撃。
「消えろ、人間ッ!」
雷鳴のような咆哮と共に、神の殺槍が阿烈の胸を穿たんと迫る。
だが――
「……ふん」
阿烈は一歩も退かない。
振り下ろした拳が槍と衝突した瞬間、洞窟全体が爆ぜた。
衝撃波が大地を裂き、天井から無数の岩片が降り注ぐ。
一瞬、拮抗。
炎と深紫がぶつかり合い、空間が悲鳴を上げる。
しかし次の瞬間――
「ぐるぉぉぉおおおおおおッ!!!」
阿烈の雄叫びと共に、拳が槍を握り潰した。
破砕音。
槍は粒子となって崩れ、虚空に溶けて消える。
「神だか邪神だか知らぬが……理屈など関係ないッ!」
咆哮が轟き、紅蓮の拳が振り上がる。
「わが拳は、神をも砕くッ!!!」
──その一撃が《阿烈ノ拳ゴッドブレイカー》。
天地を揺るがし、神の理を粉砕する“天上殺し”の拳だった。
ナイアルラトホテップの巨体が一拍の静寂を置いて、崩れ落ちる。
否、“崩れた”のではない。
──“壊された”のだ。
「な、なぜだ……!? 我は混沌の顕現。存在を超越せしエッセンス……滅びるはずなど……!!」
「理屈で組んだお前の存在、それを否定したのがワシの拳よ。納得しろ。そして死ね」
その眼は、戦闘狂のそれではなかった。
冷静に、静謐に、ただ破壊の結果を受け止める、超越者のまなざし。
全能の理を、たった一発の拳で覆した男。
肉体という言語で神を論破した、異界の殺意。
──それが、乂阿烈。
だが、戦場は終わらない。
なぜならその裏で、新たなる神話が産声を上げようとしていた。
「つまらぬ、邪神の力とはこの程度か?」
阿烈は邪神を挑発した。
邪神はそれに乗らず冷静に距離を取った。
そして呪文を唱える。
にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな! にゃる・しゅたん! にゃる・がしゃんな!
刹那雷音が絶叫を上げ膝から崩れ落ちた。
邪神の体の一部が千切れて、ナイアと名乗った少女の形に変形する。
少女体ナイアは雷音の傍へと歩み寄り、薄く笑った。
「ふふっ……可愛いわね、貴方。そんなに怯えた顔して」
言葉と共に指が雷音の頬を撫でる。
雷音はびくりと身を竦めたが、ナイアは優しく囁くように続けた。
「どう? 私のものにならない? ねえ……全部、忘れさせてあげるわ。痛みも、怒りも、悲しみも──私と一つになれば、もう何も怖くない」
「……断る!!」
雷音が叫んだ。
「俺は……お前みたいな奴のものになるくらいなら、死んだほうがマシだ!!」
その声は震えていたが、確かだった。
「こんなことして……恥ずかしくねぇのかよ!?
力でねじ伏せるなんて、最低だ!!」
「この変態野郎がッ!! 弱い者いじめなんて、絶対に許さねえ!!」
「ふざけんな!! このバカ女!! さっさと俺を離しやがれッ!!」
――その言葉に、場の空気が凍りついた。
「……雷音、めっちゃカッコ悪いよ?」
神羅が静かにツッコんだ。
直後、白銀の残像が疾風のように駆け抜けた。
次兄・羅漢がその間に入り、合気の要領でナイアを地に叩き伏せる。
「ちっ……!」
ナイアは変身しようとするも──その身体は、もう動かない。
「な、なに……? 変化が、できない……!?」
「……捕らえた」
羅漢が低く呟いた。
「“無為ノ理”で縛った。
姿が変わろうと、もう逃がさない」
「な、なんという……! 自然法則の否定!? 兄弟揃って理外の怪物かッ!?」
そこへ──轟音。
爆発と共に振り向けば、神の本体を吹き飛ばしたのは、拳ひとつの破壊者。
阿烈の拳により、ナイアルラトホテップは“足首だけ”を残して消滅していた。
その阿烈が、こちらに顔を向けた。
顔面には、明らかに“怒り”の刻印。
怒気が空間を焼く。
「貴様……今、ウチの弟を“化け物”って言ったかァ……?」
ゆらり、と殺気が世界を撓ませる。
「それに……ワシの弟に呪いをかけおって……殺す! 殺してくれる! じわじわと、なぶるようになァ!!」
ナイアは少女の姿のまま、顔面を蒼ざめさせた。
「う、うわああん!! ま、待ってぇ!! ごめんなさい! もうこの世界には干渉しません! 本当です! お願い、殺さないでえ!!」
阿烈は静かに呟いた。
「奸智の邪神ナイアルラトホテップよ。お前の悪名は、母者からも聞き及んでおる。信じぬ。殺せる時に殺す。それが理だ」
――殺気、爆発。
ナイアは即座に判断を下す。
「マズい、これは本当に殺される!!」
動けぬ身体。
だが、ナイアは迷わなかった。
自らの手刀で首を掻き切る。
飛んだ首が、一直線に雷音の元へ。
「にゃる・しゅたん……にゃる・がしゃんな……
赤き勇者よ、血の契約に応えよ。
汝が魂、我が接吻にて、理の柵より解き放たれよ――!」
唇と唇が触れ合った刹那、雷音の身体が光に包まれる。
皮膚が裂け、筋肉が隆起し、骨が軋み、
背後には──赤き鳳凰が、神の如く羽ばたいた。
「う、うおおお……あ、ああ……力が……ッ!」
雷音が、変貌する。
二メートルを超す巨体と化し、血のように紅く染まった魔剣クトゥグァを携え、暴走状態に陥っていた。
阿烈が嬉しいような困ったような微妙な面持ちになる。
「おお~! これが赤い勇者の力か! 面白い! 雷音の潜在能力の高さは知っていたがこれほどとは!! さて弟の潜在能力の高さが嬉しい反面困ったことになったなぁ~。雷音め、正気をうしなっておる!……くくっ、雷音。そこまでの力を秘めていたとはな。だが……暴走はさせられん」…」
「ああ、雷音! なんてこと! 不甲斐ないぞ! 雷音! 目を覚ませ!! 雷音!! 雷音!!!」
神羅の叫びは、雷音に届かなかった。
少年の眼は虚ろなまま。
その腕には、なおもナイアの“生首”が抱えられていた。
「無駄よ」
その唇が嘲るように動く。
「彼は今、私の意志の延長。魂の隅々まで、“私”で染め上げてあるの。もう、戻れないわ」
雷音が神羅の肩に手をかける。
冷たい、感情のない動き。
それは人間のものではなかった。
神羅は必死に抵抗する。
「お願い、雷音……戻って!」
「ふざけんな……ナイア、離れろッ!」
だが、その叫びは空虚を切り裂くだけだった。
──その瞬間。
「……変。神」
低く、冷たい声が響いた。
羅漢だった。
銀のペンダントを握りしめる彼の手から、稲妻のような白光が奔った。
世界が“反転”する。
天地の境界すら溶けるかのような、理の暴走。
白銀の風が戦場を貫き、その中心にひとりの男が立っていた。
全身を覆う白銀の鎧。
その意匠は、神獣――《ケルビム・ベロス》。
十二の神器を統べる伝承の鎧にして、勇者たちに語り継がれし“銀の勇者”の証。
「な、なんだ……!? あれが……銀の勇者……ッ!?」
誰かの震える声が漏れた。
羅漢は、何も言わず拳を構えた。
その姿は、まさに“理”そのもの。
空気が張り詰め、背後に浮かぶ光輪が世界の密度を歪めていく。
ただ立っているだけで、“万象が正されていく”ような静謐。
そして――
ズバッ!!
白銀の閃光が、空間そのものを裂いた。
羅漢の拳が雷音の腕を撃ち抜き、ナイアの生首をサッカーボールのように吹き飛ばす。
「家族に手を出す奴は──許さない」
低く、重く響いた声に、場の空気が完全に支配された。
「……邪神よ、覚悟」
羅漢の体から逆巻く銀の闘気は、まるで世界そのものが彼に引き寄せられていくかのようだった。
ナイアが慌てて絶叫する。
「ひ、ひぃいッ!? 雷音、私を守って!!」
命令に従い、雷音がその首を拾い上げる。だが、そこにかつての彼はいなかった。
「くっ……! 体の再生が遅い……! さっき阿烈に本体を消し飛ばされたのが……!」
ナイアは焦る。羅漢と阿烈という“理外”の存在が、同時に相手をしてくる悪夢。
「おのれ……こうなったら、逃げるしかないッ!!あんなチート共の相手とかマジで無理!」
雷音がナイアを担ぎ、羽ばたく。
紅蓮の鳳凰の如き姿となり、天へと逃れんとする。
だが──その行く手を、黒き巨影が遮った。
阿烈。
顔面には怒りと喜悦が刻まれていた。
「逃がすかァッ!!!」
阿烈の拳が雷音へと振り下ろされる。
狙いは──ナイアではない。雷音、そのものだった。
「え?」
一瞬、ナイアが間抜けな声を漏らした。
ドゴォッ!!
雷音は咄嗟に魔剣クトゥグァを構え、拳を受け止める。
斬馬刀の如く巨大化したそれと阿烈の拳がぶつかり、世界が震えた。
膝がわずかに沈む。その一瞬。
ガンッ!!
阿烈の頭突きが雷音の顔面を直撃する。
「オオオオオオオオッ!!」
雷音が反撃の拳を振るう。
右手が龍化し、灼熱の炎を帯びて阿烈の顔面に炸裂する。
――ジュウゥッ!!
嫌な音が響き、阿烈の頬に×印の火傷が刻まれた。
その顔には──喜びが浮かんでいた。
「フハッ……フハハハハハッ!! 楽しい、楽しいぞ雷音!! 邪神なんぞ相手にしてる場合じゃねえ!! お前と戦うのがッ、何よりも楽しいんだァ!!」
──地響き。拳が唸り、魔剣が吼える。
炎と拳、兄弟が交差する。
戦いの余波だけで、クトゥグァ火山の半身が吹き飛んだ。
「グルァーーア”ッア”ッア”ッ!! 雷音!! 雷音ぉおおおおおッッ!!!」
狂気の咆哮が洞窟内に響き渡る。
最愛の弟に、全力で襲いかかる“兄”。
それは、悲劇か。それとも、宿命か。
――その戦いは、もはや誰にも止められない。
周りが見えなくなった彼は弟が元に戻らぬ限り狂戦士のように戦い続けるだろう。
「ヒ~~! 阿烈お兄ちゃんの悪い病気がまた出ちゃったよう…」
神羅が泣きべそをかく。
──そのとき。
ナイアが上半身だけを再生させ、羅漢に声をかけた。
「おい、銀の勇者。取引しない?」
「……取引?」
「ええ、あのまま兄弟喧嘩を続けさせれば……君の妹ちゃん、あの熱血地獄の余波で焼き鳥コースよ? ついでに私も八つ裂きだけど。でもまあ、君次第かな?」
「……何が望みだ」
ナイアはにっこりと微笑んだ。
その笑みは、冗談のようで、真実のようで──どこまでも悪辣。
「命さえ保証してくれたら、雷音は返すわよ。条件つきでね?」
「……選択肢はない、か。……いいだろう。だが、貴様を信じてはいない」
羅漢の眼差しが鋭く光る。
「私はふたりの戦いの余波を中和する。お前は──何としても、神羅の命を守れ。そして……タイミングを見て、雷音を解放しろ」
ナイアは肩を竦めた。
「ええ、ええ。全力でがんばらせていただきますとも……(たぶんね☆)」
阿烈と雷音の戦いはもはや神域。
その激突に巻き込まれ、神羅はとうとう意識を失ってしまう。
羅漢は彼女を抱え、ナイアのほうへ──く投げた。
ナイアが咄嗟に受け止めたその瞬間──凍りつく。
「この魔力……これは……!?」
神羅の胸元で、微かに脈打つ気配。
それは──十五年前、世界を救った希望そのもの。
女神ユキルの魂が、今、神羅に脈打っていた。
「バカな……確かに、滅びたはず……!」
しかし、それは確かに──今ここに、存在していた。
眠るように。
脈打つように。
静けさの奥底で、なおも世界を見つめていた。
やがて、“それ”は再び目覚めるだろう。
今なお、世界を導く者として。
希望の名のもとに、混沌を断つ光として。
そして――
★すべては、十五年前に終わったはずの物語の──
“第二楽章”が、いま、静かに奏でられようとしていた。
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