乂阿戦記1 第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター-2 囚われた絵里洲
(^^) ブックマークをお願いいたします!
読みやすくなりますよ❤︎
ここは、狂気すら凍てつく山脈の底――
ドアダ帝国が密かに築いた、禁忌の研究施設。
世界の理をねじ曲げるための《何か》が、この地で蠢いている。
その深奥、時すら止まる虚無の領域にて、ひとりの少女が目を覚ました。
「……うっ……ここは……?」
喉はかすれ、指先は冷え切っていた。
けれど、それ以上に異様だったのは――目に映る光景そのものだった。
星も、空も、地面もない。
ただ、無限の闇に浮かぶ漆黒の虚無。
(……ここは宇宙?)
けれど、それは宇宙ですらなかった。
上下も重力も、時間の流れすらも存在しない、“認識不能の空間”。
(私……なぜ、ここに?)
思考の糸をたぐりかけた刹那――
脳髄を殴りつけるような“黒い閃光”が、意識を焼いた。
自分の名前が、思い出せない。
「……まさか……記憶喪失……?」
震える唇からこぼれたその言葉は、どこまでも空虚だった。
胸の奥から、名状しがたい“恐怖”が溢れ出す。
世界と、自分自身の輪郭が、音もなく崩れていく――そんな錯覚。
(誰か……誰かが……)
そのときだった。
少女の精神に、“誰かの”記憶が流れ込んできた。
色彩。知識。風景。痛み。快楽。
それは美しくも、おぞましい“他者の記憶”だった。
(これ……私の記憶じゃない……誰かが……脳を、上書きしようとしてる!?)
見えぬ“それ”が、彼女の存在を塗り替えようとしていた。
――やられるものか!
奥歯を噛み締め、少女は精神の底に眠る“蒼い魔力”を呼び覚ます。
魔法。
それは記憶と精神を護る、最後の防衛線。
魂の核から溢れ出した蒼き光が、脳内に障壁を構築し、“それ”を拒絶した。
悪意は弾かれ、侵蝕は止まり、失われた記憶の断片が繋がり始める。
少女は名を取り戻した。
「――絵理洲。私は……絵理洲……!」
その瞬間、背後から“それ”とは別の、もっと冷たく艶やかな声が響いた。
「……ふむ。なるほど、なかなか興味深いわね」
漆黒のドレス、夜を羽織ったような黒翼の女――ナイア。
邪神の残滓を宿す、歪んだ使徒。
「洗脳魔法の効きが悪いとなると……ゾンビ化させるのも手だけど、ヨクラートルが黙ってないわねぇ。さて……どう料理してあげようかしら、絵理洲ちゃん?」
絵理洲の視界がにじむ。心が凍りかける。
そのとき――彼女の眼前に、水球が出現した。
蒼白い魔法の奔流が、一直線にナイアを狙って飛ぶ。
「――こざかしい」
指先一つで水球を弾き返すナイア。魔法は虚空に霧散した。
だが、それでよかった。
「今だッ!」
絵理洲は、全力で駆け出した。
水球は囮。真の狙いは――“逃げること”。
背後からナイアの苛立ち混じりの叫びが響いた。
「チッ……まさかレジストされるなんて。一般人と油断した私の負けね!」
絵理洲は答えない。振り返らない。ただ、闇の中を走る。
しかし――
(……誰かに、見られている)
気配だけが張り付くように追ってくる。
だが、振り返っても“何も”いない。
正確には、“何か”が確かに“いる”。
この空間は既に現実ではない。
重力は歪み、距離は壊れ、時間すら狂い始めていた。
精神界。闇に呑まれた、認識の監獄。
それでも――彼女は“光”を見つけた。
淡く、優しく、希望を孕んだ蒼い光。
「……あれが……!」
足を引きずりながら、彼女は光へと手を伸ばす。
だがその光は、近づけば近づくほど遠ざかり、ついには霧のように掻き消えた。
「そ……そんな……なんで……?」
膝から崩れ落ちる。心が砕ける音がした。
そして、その時だった。
背中に――ぬくもりが触れた。
「!!」
冷えた体に、優しさが染み込む。
それは抱擁だった。
慈しむように、頭を撫でる、温かな手。
「……もう大丈夫だよ、絵理洲ちゃん。ユッキーが、助けに来たんだから」
耳元に届いたその声に、絵理洲は――泣きそうになった。
(……ユッキー……)
その名を思い出した瞬間、意識がふわりと薄れていく。
最後に見たのは、蒼の魔法少女――神羅ユキルの微笑みだった。
「まったく……よくここまで一人で耐えたわね」
神羅ユキルは、絵理洲をそっと地面に寝かせた。
その顔には、揺るがぬ確信と優しさが宿っている。
「ふふーん、それは私の天才的な頭脳と根性のおかげよ!」
自信満々に胸を張る神羅に、絵理洲は思わず微笑みかける。
ユキルの背後には、三人の仲間が控えていた。
ミリル・アシュレイ
黒の少女・鵺。
そして、白き従者・白水晶。
雷音たちを見送りアシュレイ領にお留守番するはずの神羅=ユキル達
だが――おとなしくお留守番などするはずもなかった。
雷音たちが旅立った直後、神羅の姉・羅刹から連絡が入ったのだ。
「例の偽羅刹テロ事件については、自分がアシュレイ領へ直接赴き、釈明する」と。
それを聞いた神羅は、即座に決意する――「ならば自分も雷音たちを追う」と。
神羅は即座に雷音達の後を追う事にした。
神羅を追ったミリルは、鵺を誘い出す。
だがその鵺もまた――密かに“抜け出す気満々”だったのだ。
そしてリーン・アシュレイより護衛を命じられた白水晶が追い付き――、ミリルの思惑通り一同は合流を果たしたのだった!
結局彼女達は雷音たちに先駆けて、ドアダの秘密基地に潜入したのである。
「本当に、よくここまで来たわね」
「でしょ? さすが私、世界一賢くて可愛い天才魔法少女!」
神羅のドヤ顔に、全員が思わず笑い出す。
絵理洲は、その光景を胸に刻む。
この狂った世界の中でも――仲間がいる。
それだけで、心は救われるのだと。
•
「それで……これからどうするの?」
絵理洲が問いかける。
「決まってるじゃない。雷音たちと合流して、ここから脱出する!」
「……というか、先に出発したはずの雷音たちは何してるんだ? なんで私たちの方が先に絵理洲を見つけちゃってるのだ?」
「それは合流してから問い詰めるの。今は、ここから脱出することが最優先よ。ナイアがこの基地にいる以上、時間が惜しい」
「……私も、賛成」
白水晶が静かに頷き、鵺もこくりと首を縦に振った。
神羅は皆を見渡して、静かに言った。
「じゃあ、みんな――準備はいい?」
「当然なのだ!」ミリルが拳を握る。
「問題ありません」白水晶が静かに頷く。
「帰りましょ。」鵺が笑う。
「……うんっ!」
少女たちは、闇を裂くように駆け出した。
――目的は、ただ一つ。
狂気山脈の秘密基地からの脱出。
そして、その先にいる仲間たちと再び合流すること。
だがそれは、単なる“脱出”ではない。
彼女たちは、自分の意志でここへ来た。
誰かに守られるだけの存在ではない。
この狂った世界に抗う――“戦う者”として。
たとえ、この先に待つのが、狂気と絶望の果てだったとしても――
それでも彼女たちは進む。
恐れず、退かず、誰かを守るために。
蒼の祈りと、戦う心をその身に宿して。
https://www.facebook.com/reel/418000051406286/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
↑イメージリール動画




