乂阿戦記1 第五章- 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター-1 雷音と龍獅鳳は双子みたいにそっくり
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第五章 黄衣の魔王オームと雄牛の角持つ魔王の仮面ベリアルハスター
ナイアの行方は、依然として掴めなかった。
雷音たちは手分けして街を捜索していたが、彼女の気配は煙のように消えていた。
「くそっ……どこに隠れやがった!」
雷音が苛立たしげに頭をかく。
その時だった。
「あら、そこの勇者様。少しお茶でもいかが?」
振り返ると、紫の衣を纏った妖艶な女性が立っていた。
艶やかな紫髪に、紫紺の瞳。
背中には黒い翼が広がっている。
「……あんた、誰だ?」
雷音は警戒した。
何より、その顔には見覚えがあった。
(……ナイア!?)
だが、女性は穏やかに微笑む。
「私はエメサキュバ・アドラメレク。このアシュレイ領を治める領主ですわ」
「……領主?」
「ええ。神子リーン様から、この街の統治を任されております」
エメは優雅に一礼した。
「あなたが乂雷音君ね。少し、お話があるの」
*
案内された屋敷では、紅茶と焼き菓子が用意されていた。
「……それにしても、あんた、ナイアにそっくりだな」
雷音が率直に尋ねると、エメは苦笑した。
「当然ですわ。あの女は、私の姿を模倣したのですから」
「……何だって?」
「かつて、私は《紫の魔法少女》の力を持っていました。ですが、その力をナイアに奪われたのです」
「……なるほどな」
雷音は腕を組んだ。
(つまり、こいつもナイアの被害者ってことか)
エメは静かに続けた。
「この街は私の大切な領地です。ドアダのような者たちに、好き勝手させるつもりはありません」
そして、一枚の紙を差し出した。
「それより、こちらをご覧ください」
「……ん?」
――【指名手配:青の魔女】
容疑:アシュレイ家の家宝盗難、逃亡。
依頼主:ミリル・アシュレイ。
生死は問わず。
そして、その似顔絵には――。
「……え?」
雷音の目が点になった。
青い髪。
見覚えのある顔。
「絵里洲ぅぅぅぅぅぅっ!?」
雷音は思わず立ち上がった。
「ちょっと待て! なんであいつが指名手配されてんだよ!?」
「落ち着いて、雷音君」
「しかも生死問わずって! ミリルの奴、何考えてんだ!?」
雷音は手配書を睨みつけた。
だが、すぐに何かに気づく。
「……あっ!」
「どうしました?」
「ナイアだ!」
雷音は勢いよく顔を上げた。
「ナイアは姿を変えられるんだろ!? だったら絵里洲に化けて、罪を着せたんじゃねえか!?」
エメは静かに頷いた。
「……その可能性はありますわね」
「だったら、この手配書を取り下げてくれよ!」
「ええ。ミリルにも事情を確認し、撤回するよう手配いたしましょう」
「助かるぜ!」
雷音はようやく胸を撫で下ろした。
するとエメが、ふと思い出したように言った。
「そういえば……絵里洲さんを探している方が、ほかにも二人いらっしゃいますわ」
「……二人?」
「狗鬼漢児さんと、龍獅鳳君です」
「……狗鬼漢児? 龍獅鳳?」
聞き覚えのある名前だった。
神羅から、地球で世話になった人たちの話を聞いたことがある。
「その二人、今どこに――」
その瞬間。
ポンッ。
背後から肩を叩かれた。
「おう! お前が絵里洲を探してるって奴か?」
「……え?」
振り返った雷音は、思わず絶叫した。
「うわああああああっ!?」
同時に、相手も叫んだ。
「なっ!? 俺がいる!?」
そこに立っていたのは――。
サングラスをかけた長身の男と、雷音に瓜二つの少年だった。
「……なんだこれ!?」
「こっちの台詞だ!」
雷音と獅鳳は互いの顔を指差した。
髪型や服装こそ違うものの、顔立ちは驚くほど似ている。
「ガハハハッ! 面白えじゃねえか!」
漢児が豪快に笑った。
「よし、お前ら! ちょっと試してみろ!」
「……何を?」
「まず右手を上げろ!」
雷音と獅鳳が右手を上げる。
「次は左手!」
二人が左手を上げる。
「今度は両手! ワンツー! ワンツー!」
「……って、何やらせてんだよ!」
「……俺たち、何してるんだ?」
二人は顔を見合わせた。
そして――。
「「なんだ、鏡か」」
ピタリと声が重なった。
「「……って、違うだろ!!」」
「ガハハハッ! 息ぴったりじゃねえか!」
漢児は腹を抱えて笑った。
獅鳳は照れくさそうに頭をかいた。
「……俺は龍獅鳳。翠の勇者らしい。よろしく」
「俺は乂雷音! 赤の勇者だ!」
雷音は元気よく手を差し出した。
「よろしくな、獅鳳!」
「ああ」
二人は固く握手を交わした。
「それで、こっちが俺のアニキ分、狗鬼漢児だ」
「おう! 蒼の勇者、狗鬼漢児だ! よろしくな!」
「……あっ!」
雷音が突然、目を輝かせた。
「もしかして、神羅が言ってた特撮ヒーローの人!?」
「おっ! 知ってんのか!」
漢児は得意げにスマホを取り出した。
「見せてやるぜ! 俺の勇姿を!」
画面に映し出されたのは、特撮ヒーロー《アーレスタロス》。
悪の秘密結社ドアダを相手に、派手な必殺技を繰り出す漢児の姿だった。
「うおおおおおっ!!」
雷音の目が輝く。
「すっげえええ!! 何これ!? 超カッケー!!」
「ガハハハッ! そうだろう!」
「この変身シーン! 必殺技! 爆発まであるじゃねえか!」
「編集したのはユキルちゃんだぜ!」
「神羅が!?」
雷音はさらに興奮した。
「すげえ! 俺もこんなヒーローになりてえ!」
「いいじゃねえか!」
漢児は雷音の肩を抱いた。
「男なら、でっけえ夢を持て!」
「おう!!」
すっかり意気投合した二人。
獅鳳は呆れたように笑った。
「……なんか、似た者同士だな」
その様子を、エメも微笑ましく眺めていた。
「ふふっ。随分と賑やかになりましたわね」
その隣では、茶色のボブカットに小さな鹿角を持つ少女――イホウンデーが、スマホを不思議そうに覗き込んでいた。
「ぬんっ! 小さな箱の中で人が戦っている!」
「イホちゃん、それは映像よ」
エメが優しく教える。
「ほほう! 人間界の技術は奥深いのだ!」
「……お前も十分不思議だけどな」
獅鳳が小さく呟いた。
*
「……ところで、雷音」
獅鳳が真剣な表情になった。
「神羅……ユキルちゃんは無事なのか?」
「ああ! 元気だぜ!」
雷音は笑顔で頷いた。
「だったら、直接会わせてやるよ!」
「……本当か!?」
「もちろん!」
そのやり取りを聞いていたエメが、静かに微笑んだ。
「それなら、皆様をこちらへお呼びしましょう」
*
――一時間後。
エメの屋敷には、多くの仲間たちが集まっていた。
神羅、雷華、オーム、エドナ。
ミリル、鵺、白水晶。
そして、雷音、獅鳳、漢児の三勇者。
「ユキルちゃん!」
獅鳳が思わず声を上げた。
「獅鳳君! 漢児さん!」
神羅も嬉しそうに駆け寄った。
久しぶりの再会に、三人は笑顔を交わす。
だが、喜んでばかりはいられない。
「……さて」
エメが静かに口を開いた。
「皆様、お集まりいただきありがとうございます」
応接室の空気が引き締まる。
「では、絵里洲さんの救出作戦について、お話しいたしましょう」
魔法パネルに映し出されたのは、氷雪に閉ざされた巨大な山脈だった。
「《狂気山脈》……」
エメが説明する。
「地球の南極と繋がるゲートが存在すると噂される、危険な山脈です」
「……そこに絵里洲が?」
雷音が身を乗り出す。
「ええ。リーン様からの情報によれば、彼女は山脈の地下洞窟に囚われている可能性が高いとのことです」
「だったら、すぐに助けに行こうぜ!」
雷音が勢いよく立ち上がった。
「待ちなさい、雷音」
エメが静かに制する。
「この山脈は、普通の人間が足を踏み入れられる場所ではありません」
「……どういうことだ?」
「勇者、魔法少女、神、あるいは神に準ずる力を持つ者でなければ、洞窟へ到達することすら困難なのです」
「……なるほど」
獅鳳が腕を組んだ。
「つまり、少数精鋭で向かう必要があるんですね」
「その通りですわ」
「だったら、俺たち全員で――」
雷音が言いかけた、その時。
「アカンで、雷音!」
エドナが鋭く遮った。
「ナイアは神羅ちゃんを誘き寄せるために、絵里洲ちゃんを連れ去ったんや!」
「……っ!」
「敵の思惑通りに全員で突っ込んだら、まとめて罠にかかるだけやで!」
ミリルも頷いた。
「それに、乂家とアシュレイ家の同盟も危うい状態なのだ!」
「……どういうことだ?」
「偽羅刹のテロ事件以来、同盟反対派が勢いづいているのだ。神羅、雷音、雷華の誰かが領内に残らなければ、内乱に発展しかねないのだ!」
「……なるほどね」
神羅が静かに頷いた。
「だったら、私が残るよ」
「神羅!?」
雷音が驚く。
「大丈夫。私には、ここでやるべきことがあるから」
神羅は優しく微笑んだ。
「だから雷音。絵里洲ちゃんをお願い」
「……ああ!」
雷音は力強く頷いた。
「絶対に助けてくる!」
「私も行くぞ!」
雷華が勢いよく立ち上がった。
「雷音だけじゃ心配だからな!」
「なんだと!? 俺一人でも十分だっての!」
「ふん! どうだかな!」
いつもの兄妹喧嘩が始まりかけた、その時。
「ウチらも参加するで!」
エドナが手を挙げた。
隣ではオームも静かに頷いている。
「絵里洲ちゃんがこの世界に来たのは、私たちにも責任がある」
オームは漢児と獅鳳へ向き直った。
「だから、救出に協力させてほしい」
「……頼むぜ!」
漢児が豪快に笑った。
「過去のことを悔やむより、今できることをやろうじゃねえか!」
「アニキ……」
獅鳳も頷いた。
「俺たちの目的は同じです。協力しましょう」
「おう! それでこそ仲間だ!」
雷音が拳を突き上げる。
「みんなで絵里洲を助け出すぞ!」
「「おおっ!!」」
*
こうして、救出部隊が決定した。
――赤の勇者・乂雷音。
――翠の勇者・龍獅鳳。
――蒼の勇者・狗鬼漢児。
――雷華。
――黄衣の魔王・オーム。
――エドナ。
以上、六名。
神羅、ミリル、鵺、白水晶はアシュレイ領に残り、情報収集と後方支援を担当する。
「よっしゃあ! 準備開始だ!」
漢児が豪快に叫んだ。
「武器! 防寒具! 食料! 全部揃えるぞ!」
「狂気山脈か……」
獅鳳は地図を見つめた。
「まずは登山経路を確認しよう。無計画に突っ込むのは危険だ」
「細けえことは任せたぜ、獅鳳!」
「……アニキも少しは考えてくれよ」
その隣で、雷音が拳を握りしめた。
「……待ってろよ、絵里洲」
その瞳には、燃えるような決意が宿っていた。
「どんな魔物がいようが、どんな罠が待ってようが――」
雷音は仲間たちを見渡した。
「俺たちが、必ず助け出してやる!」
こうして、六人の勇者と仲間たちは、氷雪に閉ざされた《狂気山脈》へ向かう準備を始めた。
その先に待ち受ける、恐るべき魔王の存在を、まだ誰も知らない。
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