乂阿戦記4 第三章 桜の魔法少女神羅と天下の大泥棒-16 狂気のスーパーデンジャラスウルトラ天才マッドサイエンティスト メガデスドクター鳳博(フェニックスエジソン)
その後――。
気絶したレイミ達が回収され、戦場の安全が確認されたところで試合は再開された。
巨大化魔法の失敗によって、魔法学園側は一気に六人もの戦力を失ってしまった。
残された主力は――もはや雷音達、ほんの数人。
名実ともに《サバゲー決勝戦・最終ラウンド》である。
しかも、ただでさえ人数で劣る彼らの前には――。
ズシン。
ズシン。
大地を揺らしながら迫る、六機合体巨大ロボまで健在だった。
「いやいやいや!」
あまりにも理不尽な光景を前に、アキンドが叫ぶ。
「これ、戦力差おかしいだろ!?」
「来るぞ!」
雷音が警告した次の瞬間、巨大ロボが二人へ向かって突進してきた。
「うわっ!?」
「ちょ、待て待て待て――!」
二人は慌てて逃げ出す。
だが――遅かった。
ガシッ!!
「うわっ!?」
「捕まった!?」
巨大な両手が、それぞれ雷音とアキンドを鷲掴みにする。
そして――。
ブゥン!!
「「うわあああああああ!?」」
そのまま豪快に空中へ放り投げられた!
まさかの――プロレス式ジャイアントスイング。
ロボットのくせに、どこで覚えたんだその技術!?
「このままじゃ場外だぞ!」
「分かってる!!」
落下しながら雷音の身体が眩い光に包まれる。
「飛竜形態!!」
次の瞬間、その身体は巨大な飛竜へと変貌。
急降下しながら落下するアキンドの真下へ回り込み、その身体を背中で受け止めた。
「た、助かったぁ……!」
「まだだ! 反撃するぞ!」
雷音はアキンドを乗せたまま上空で大きく旋回すると、巨大ロボめがけて一気に急降下する。
だが――。
ババババババババ!!
「うおっ!?」
巨大ロボの頭部バルカンから、大量のペイント弾が吐き出された。
雷音は咄嗟に翼を傾けて急旋回。
無数の弾丸が身体スレスレを通過していく。
「危なっ!?」
そんな二人の様子を地上から見上げながら、巨大ロボをラジコンコントローラーで操るヒースが得意満面に胸を反らした。
「ウーハハハハ!! 無駄、無駄、無駄です!」
「ムカつくなアイツ!」
「そんな直線的な攻撃、このドラゴニックアーマーには通用しませんよ!」
勝ち誇るヒースを見下ろし――。
「だったら――」
雷音の背中に乗っていたアキンドが、ニヤリと笑った。
「こういうのはどうだ?」
右手を伸ばす。
「……アポート」
シュンッ。
「…………あれ?」
ヒースが手元を見る。
「…………」
ない。
つい今まで握っていたはずのコントローラーが――綺麗さっぱり消えている。
「おおぅ!?」
そして上空では――。
「へへ~ん!」
アキンドが、奪い取ったコントローラーを得意げに掲げていた。
「いただきぃ!」
「わあああああ!? ずるい!!」
「能力だから反則じゃねーよ!」
アキンドが楽しそうにレバーを操作する。
すると――。
ギギギギギ……。
巨大ロボの頭部が、ゆっくりと旋回を始めた。
やがてバルカン砲の銃口が――自らを作り上げたスパロボ研の面々へ向けられる。
「…………」
ヒース達の顔が、一斉に青ざめた。
「ちょっと待って」
「待たねーよ」
「話し合いましょう!」
「発射ぁ!!」
ババババババババ!!
「きゃああああああ!!」
容赦なく降り注ぐペイント弾。
ヒースはまともにその餌食となった。
そして――。
「デブチン!!」
「ほんぎゃあああ!!」
「ウチウ!!」
「ぎゃあああ!!」
「ドリやん!!」
「何で自分達のロボにぃぃぃ!?」
次々と赤いペイントに染め上げられていくスパロボ研の面々。
そして――。
ギュイィィィン!!
巨大ロボのバルカン砲が、五人目の標的を捉えた。
ラブちん。
「…………!」
咄嗟に巨大な盾を構える。
ババババババババ!!
「ぐぬぬぬぬ!!」
凄まじいペイント弾の雨。
だが、ラブちんは巨大な盾を真正面に構え、その猛射を防ぎ切った。
「会長!」
攻撃が途切れた一瞬を見逃さず、ラブちんは盾を鳳博へ押しつける。
「ちょっと持っててほしいでやんす!」
「ロイ!?」
ラブちんは返事も待たず、足元に転がっていた石を拾い上げた。
そして――。
ポイッ。
空へ放り投げる。
直後。
タンッ!
「…………?」
なんと、その石を足場にして跳んだ。
さらに別の石を掴み――空へ投げる。
タンッ!
そして踏む。
また投げる。
タンッ!
また踏む。
そうして自分で投げた石を次々と足場にしながら――。
ラブちんは空中を駆け上がっていく!
「…………って」
アキンドの目が飛び出した。
「ええええええ!? 何やってんのあの人ぉぉぉぉぉ!?」
だが、その隣で雷音だけは妙に冷静だった。
「……やっぱりな」
「何が!?」
「移動の足捌きで分かってた。アイツ、かなりの軽気功の使い手だ」
「いやいやいやいや!」
「流石に真狂王みたいな《倍化加速飛び》までは無理みたいだけど――」
雷音が真顔で断言する。
「武仙級だ!」
「ないから!!」
アキンドが全力でツッコむ。
「人間が自分で投げた石を足場にして、空中をピョンピョン跳ぶとか絶対ありえないから!!」
「仕方ないんだ」
「何が!?」
雷音はどこか悟ったような顔で答えた。
「物理法則を無視した武芸を披露する。それが武仙なんだぁ……」
「おいいいい!!」
アキンドの絶叫が空へ響き渡る。
「何でも《武仙》って言っとけば説明つくって風潮やめろやあああ!!」
※現在、物理学と倫理観は一時停止中です。
そんなツッコミを完全に無視して――。
タンッ!
タンッ!
ラブちんは着実に飛竜となった雷音との距離を詰めていた。
だが――。
(まずいでやんす……!)
ここへ来て、ラブちんの表情が曇る。
投げられる石が――もうない。
眼前には雷音とアキンド。
あと少し。
だが、このままでは届かない。
「…………!」
その時だった。
何かを決意したように、ラブちんの表情が変わる。
そして顔に掛けていた――分厚いグルグル瓶底メガネを外した。
ポイッ!
「……え?」
さらに――。
口元から出っ歯の義歯まで取り外す。
ポイッ!
「それも使うの!?」
次の瞬間。
タンッ!!
メガネを踏んだ。
そして――。
タンッ!!
出っ歯まで踏んだ。
「出っ歯を足場にしたぁぁぁぁぁ!?」
アキンドの悲鳴じみたツッコミが炸裂する。
だが、その非常識極まりない最後の二歩によって、ラブちんは遂に雷音達の高度へ到達した。
「いただきでやんす!!」
シュバッ!!
「あっ!?」
すれ違いざま。
ラブちんの手が閃き――。
アキンドが握っていたコントローラーを奪い取った。
「やられた!!」
だが――。
次の瞬間。
アキンドの意識は、奪われたコントローラーとはまったく別のものへ向いていた。
「…………って」
ラブちんの顔を見る。
眼鏡がない。
そして――出っ歯もない。
その二つが取り払われた顔は――。
「ぬあああああ!?」
アキンドが絶叫した。
「あのラブちんとかいうチー牛オタク、メガネと出っ歯取ったら普通にイケメンじゃねーか!!」
「…………」
雷音も思わずジト目になる。
「なんかムカつくよねぇ~」
「何でイケメンってだけでムカついてんだよ!?」
しかも――。
シュルルルッ――。
ラブちんは空中で華麗に回転。
そのまま――。
スタッ。
無駄に美しい着地まで決めた。
「…………」
雷音が改めて呟く。
「……やっぱムカつく」
「理不尽でやんす!!」
そんなやり取りをしている場合ではない。
コントローラーを奪還したラブちんは、すぐさま鳳博の元へ駆け戻った。
「会長、これを!」
「うむ! でかしたロイ!」
一拍。
鳳博は何事もなかったかのように言い直す。
「いや、ラブちん!」
「どっちでもいいでやんす!」
鳳博はラブちんからコントローラーを受け取った。
それを見た上空のアキンドが――。
「へっ!」
すぐさま右手を伸ばす。
「だったら、また奪い取ってやる!」
再び《アポート》を発動しようとした――。
その時。
「待ちな」
鳳博が不敵に笑った。
「…………?」
「これをよぉ~~く見るんだなぁ?」
そう言って、鳳博はコントローラーを高々と掲げる。
「…………」
雷音が目を凝らす。
「…………」
アキンドも目を凝らす。
よく見ると――。
コントローラーに何かが付着している。
茶色い。
妙に茶色い。
「……何それ?」
雷音が恐る恐る尋ねる。
鳳博は、さも当然のことのように答えた。
「犬のフンだ」
「…………」
一秒。
二秒。
二人の思考が完全に停止した。
そして――。
「「ゲェェェェェェェェェ!?!?」」
雷音とアキンドの絶叫が戦場中に響き渡った。
なんと鳳博――。
どこからか拾ってきた犬のフンを、手袋をした上でコントローラーへ塗りたくっていたのである。
「きったねぇぇぇぇぇ!!」
「何やってんのお前ぇぇぇぇ!?」
「ふーははははは!!」
鳳博が天を仰ぎ、勝ち誇ったように高笑いする。
「どうしたアキンド! アポートしてみろ!」
「できるかぁぁぁぁ!!」
「俺は犬アレルギー持ち! こんなことをすれば痒くて仕方がない!」
「じゃあやるなよ!!」
至極もっともなアキンドのツッコミ。
だが――。
「…………だが」
鳳博の表情が変わった。
先ほどまでの狂騒が嘘のように消え、妙に真剣な顔でコントローラーを握り締める。
「命を失うより――」
「…………」
「誇りを汚す方が恐ろしい」
ヒュウゥゥゥ……。
風が吹いた。
何故か――妙に格好いい。
「だから俺は――」
鳳博は汚物まみれのコントローラーを天高く掲げる。
「自らを穢してでも、貴様を倒すッ!!」
「「…………」」
雷音とアキンドはしばらく無言で鳳博を見つめていた。
そして――。
二人同時に息を吸い込む。
「「犬のウンコ塗っただけで格好つけんなぁぁぁぁぁぁ!!!」」
二人の絶叫が、再び戦場を揺るがした。
――この瞬間。
後世に語り継がれるかどうかは定かではないが。
少なくとも、その場に居合わせた者達の記憶には嫌でも刻み込まれるであろう――。
《ロボットサバゲー史上最低の戦法》が爆誕したのである。
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