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乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-2 魔王城にようこそ

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読みやすくなりますよ❤︎




三者会談が終わってから、幾日かが過ぎた。


ある朝――。


乂家の幕営の前では、雷音と雷華が旅立ちの準備を整えていた。


目指すは、タタリ族を治める魔王オームのもと。


荷物をまとめていると、一番下の弟・阿乱が二人のもとへ駆け寄ってきた。


「雷音兄さん、雷華姉さん。出発する前にちょっといい?」


「なんだ、阿乱?」


「まずはコレ。阿烈兄さんから預かってたんだ」


阿乱が差し出したものを見て、雷音の目が丸くなる。


挿絵(By みてみん)


「ん? オイオイ……これ、《契約の刻印》じゃねぇか!? アシュレイ家の家宝が、なんでここにあるんだよ!?」


「阿烈兄さんが、護身用に持っておけってさ。それから――こっちは母さんから」


続いて差し出されたのは、紅く輝く一つの指輪だった。


「亡くなった母さんのお父さん――つまり、僕たちのお祖父ちゃんから受け継いだ、とっておきのお守りらしいよ」


「爺ちゃんの……?」


雷音が指輪を受け取る。


「母さんが言ってた。もし雷音兄さんが《魂の双生児》に出会った時、この指輪がきっと力を貸してくれるって」


「魂の双生児?」


「普通の双子とは違うんだ。同じ魂から分かれた、運命の双子なんだって。母さんにも昔そんな相手がいて、二人で邪神と戦ったらしいよ」


「俺の……運命の双子か」


雷音は紅い指輪を陽光に透かした。


「いるとしたら、どんな奴なんだろうな……」


答えは、まだ誰にもわからない。


雷音は指輪を大切に懐へしまった。


「それと、もう一つ!」


阿乱が胸を張る。


「タタリ族の街に、僕の知り合いの腕利きの鍛冶屋がいるんだ。二人ともこれから何があるかわからないだろ? 予備の武器くらい持っておいた方がいいよ」


「確かにな。魔剣クトゥグァだけじゃ心許ない」


「でしょ? 準備を怠らないのが冒険の基本だからね!」


雷音と雷華は顔を見合わせ、苦笑する。


「わかった。じゃあ頼むよ、阿乱」


「おう! 任せて!」


 



 


阿乱が紹介した鍛冶職人は、確かに腕利きだった。


雷音には、拳を守りながら打撃武器としても使えるガントレット。


雷華には、一振りの太刀。


魔剣クトゥグァは二人で共有し、ここぞという時のみ使用する。


二人にとって、まさに欲しかった常用装備だった。


そして――。


旅を続けること、しばらく。


「見えたぞ!」


街道の彼方に、巨大な城が姿を現した。


「あそこか?」


「ああ。あれが俺たちの目的地――」


その時だった。


「――ようやく来たか。随分と待たせてくれたな」


「ん?」


声は頭上からだった。


見上げると、一頭のグリフォンが悠然と旋回している。


その背に跨がるのは、褐色の肌に金髪、鋭い金色の瞳を持つ少年。


年若く見えるその容貌とは対照的に、眼差しには他者を見透かすような知性と威圧感が宿っている。


タタリ族を治める魔王――オーム。


「よお、オーム! 久しぶりだな!」


「久しぶりだな、雷音。相変わらず考えるより先に身体が動きそうな顔をしている」


「久々に会って最初に言うことがそれかよ!」


「事実を確認しただけだ」


オームは涼しい顔で言い切った。


「それより神羅はどこにいる?」


「姉に会いたいか。ならば――」


オームは口元に小さな笑みを浮かべ、城門を指した。


「まずは、あの門を越えてみろ」


門の前には二つの人影が立っていた。


一人は巨大な戦斧を携えた、筋骨隆々の鰐の亜人。


もう一人は杖を持った、小柄なゴブリンの老人。


挿絵(By みてみん)


「あれが門番か?」


「鰐の方が“獣王”ワニキス。ゴブリンの老人がザビエル司教だ」


オームはグリフォンの上から二人を見下ろす。


「二人とも、我が国でも指折りの実力者だ」


「へぇ……」


「そして残念なことに、人間語での意思疎通は期待できない」


「マジかよ」


「門を通りたければ、自分たちの力でどうにかすることだ」


雷華が眉をひそめる。


「……オーム。何か企んでない?」


「さて、何のことだ?」


オームの表情は崩れない。


ただ、その口元だけがわずかに笑っていた。


「行くぞ、雷華!」


「もう……雷音はすぐ乗せられるんだから!」


オームは二人の背中を眺めながら、静かに呟いた。


「さて――《赤の勇者》のお手並み拝見といこうか」


 


風が唸る。


城門の前で、雷音の脚が地を蹴った。


「うおおおおおッ!!」


身体が弾丸のように宙を舞う。


気流を纏った回し蹴りが――ワニキスを捉えた!


――ドゴォォォン!!


戦斧ごと巨体が吹き飛び、土煙が舞い上がる。


同時にザビエル司教が杖を掲げた。


《テイ・アール・ヴァルグ・ラド――》


「させるかよッ!」


雷音が一気に間合いを詰める。


蹴りで杖を弾き飛ばし、そのまま拳を鳩尾へ叩き込んだ。


「ぐぼっ!?」


ザビエルは白目を剥き、その場に崩れ落ちる。


「ふぅ……片付いたか」


「なるほど」


オームはグリフォンの上から戦況を観察していた。


「判断速度は悪くない。先に術者を無力化したのも正解だ」


「なんだよ、偉そうに!」


「僕は魔王だぞ? 偉いに決まっているだろう」


「ムカつく奴だな!」


だが――。


「――まだ終わっておらんぞ」


「!?」


ズシン――!


大地が揺れた。


土煙の中から、ワニキスが悠然と姿を現す。


全身の鱗には――傷一つない。


「見事だ、小僧。さすがは《灰燼の覇王》乂阿烈の弟よ」


「…………」


雷音が固まった。


そして。


「って、普通に喋れるじゃねぇか!!」


ワニキスは首を傾げる。


「何を言っている?」


「人間語が通じないって聞いたんだよ!」


「誰からだ?」


沈黙。


雷音がゆっくりと上を見る。


オームは頬杖をつき、実に愉快そうな笑みを浮かべていた。


「…………オーム」


「何だ?」


「てめぇ……騙したな?」


「騙した? 心外だな」


オームは悪びれる様子もなく答える。


「僕は『意思疎通は期待できない』と言っただけだ。一言も『喋れない』とは言っていない」


「屁理屈じゃねぇか!!」


「戦場で敵の言葉を額面通りに受け取る方が悪い」


「こいつ……!」


オームの金色の瞳が細められる。


「情報を疑え、雷音。目で見たものを判断し、自分で答えを出せ。力だけで全てを解決できると思うな」


「……!」


一瞬だけ、雷音が言葉を失う。


オームは意地悪で騙しただけではない。


これもまた――雷音を試すための仕掛けだった。


「もっとも――」


オームがニヤリと笑う。


「お前が見事に引っかかったのは、純粋に面白かったがな」


「やっぱり遊んでんじゃねぇか!!」


「フッ。否定はしない」


その時、ワニキスが戦斧を構えた。


「余所見とは余裕だな、小僧!」


「っと!」


雷音が構え直す。


「このワニキス、かつて《メギドの城壁》と謳われた男! 凡百の一撃で崩れるほど柔ではないわ!」


「だったら……こっちも本気でいくしかねぇな!」


「雷音!」


雷華が前へ出る。


その手には、紅蓮の魔剣――クトゥグァ。


「私も行く!」


「頼むぜ、雷華!」


二人が同時に大地を蹴った。


雷華の斬撃が炎の花を咲かせ、雷音の拳が雷鳴を轟かせる。


だが――。


「甘い!」


ワニキスは、その巨体からは想像もつかない動きで攻撃を捌いていく。


剣を流し。


拳をかわし。


そして――。


「ぬおおおおっ!!」


「ぐあっ!?」


逆撃。


雷音が吹き飛ばされ、雷華も弾き返される。


(速い……! こんなデカいのに……!)


「くそっ!」


雷音が再び踏み込む。


拳と拳が激突する。


次の瞬間――。


「がはっ……!」


ワニキスの拳が雷音の腹へ突き刺さった。


身体が地面を転がる。


「雷音!」


「ぐっ……!」


起き上がろうとする雷音。


その頭上で、巨大な戦斧が振り上げられた。


「――終いだ、小僧」


「っ!?」


その瞬間――。


「お姉ちゃんキィィィィック!!」


「なにぃ!?」


上空から飛来した影が、ワニキスの顎を蹴り抜いた!


――ドゴォン!!


「ぐぬっ!?」


巨体が揺らぐ。


桜色の髪が、風に舞った。


「……神羅!?」


「神羅姉様!」


乂一族の次女――神羅。


誇り高き戦姫が、弟妹の前へ舞い降りた。


「うーはははは! 危なかったね、我が弟妹たち!」


「助かったぜ、神羅!」


神羅は雷音へ手を差し伸べる。


「当然でしょ? 可愛い弟を守るのは、お姉ちゃんの務めだからね!」


その光景を見下ろしながら、オームは小さく息を吐いた。


「……まったく。予定より早く出てきたか」


神羅が振り返る。


「オーム君! 私の弟たちで遊んでたでしょ!」


「人聞きの悪い。実戦形式で能力を測っていただけだ」


「それを遊んでたって言うんだよ!」


「結果として良い訓練になった。問題はない」


「あるよ!」


雷音は思わず苦笑した。


「相変わらずだな、お前ら……」


ワニキスも戦斧を下ろす。


「見事だったぞ、小僧ども。よくぞ我が試練を越えた」


「ワニキス将軍……マジで強いッスね」


「お前たちもな」


戦いを終えた者同士に、静かな敬意が生まれる。


「――そこまでだ」


オームの一言で空気が切り替わった。


「ワニキス、ご苦労だった。十分なデータは取れた」


「はっ、若」


「データって……俺たち実験台かよ」


「魔王として、客人の戦力を把握しておくのは当然だ」


オームは平然と言い放つ。


「もっとも、雷音があと二、三発殴られるところまで見られれば理想的だったが」


「お前やっぱり俺が嫌いだろ!?」


「いや?」


オームが薄く笑う。


「むしろ気に入っているからこそ、からかい甲斐がある」


「嬉しくねぇ!」


その時だった。


オームの視線が地面の一点で止まる。


「…………待て」


声色が変わった。


「どうした?」


「ザビエル司教は、いつからあの状態だ?」


「え?」


全員が振り返る。


そこには――。


「…………」


ザビエル司教が倒れていた。


ピクッ。


ピクピクッ。


口から泡を吹きながら、妙な痙攣をしている。


沈黙。


「…………」


「…………」


「…………」


オームの顔から、完全に余裕が消えた。


「雷音」


「な、なんだよ」


「お前……どこを殴った?」


「鳩尾だけど……」


「…………」


オームは数秒だけ考え込む。


そして――。


「全員、聞け!」


魔王の声が響き渡った。


「試練は中止! ザビエル司教を医務室へ搬送する! 雷華は回復魔法の準備! ワニキスは司教を運べ! 神羅は医務室へ先行して治療班を呼べ!」


「は、はいっ!」


「承知!」


「わかった!」


瞬く間に全員へ指示が飛ぶ。


「雷音、お前も来い!」


「俺は何すればいい!?」


「責任を取れ!」


「指示になってねぇぞ!?」


「いいから走れ!!」


「お、おう!!」


こうして――。


神羅との感動の再会を味わう暇もなく。


雷音たちは泡を吹くザビエル司教を担ぎ上げ、大慌てで魔王城へ駆け込んでいくのだった。

https://vt.tiktok.com/ZSa8wNNSY/


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