乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-2 魔王城にようこそ
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三者会談が終わり幾日か経ったある朝、乂家の幕営の前で雷音と雷華が出立の準備をしていた。
「なぁ雷音、ちょっといいか?」
「なんだ?」
「阿乱が私たちが旅立つまえに話があるって」
翌日、雷音一行は旅支度を整えて出発しようとしていたのだが、それを引き留めたのは一番下の弟阿乱だった。
「まずはコレ、阿烈兄さんが雷音兄さん達に渡してやれって預かったモノがあるんだ」
「ん?オイオイこのカード【契約の刻印】じゃないか!?アシュレイ家の家宝がなんでこんなところに!?」
「阿烈兄さんが護身用に持っておけってさ。そしてこれは母さんから雷音兄さんって」
そう言って阿乱は紅い指輪を雷音にたくした。
「なんでも亡くなった母さんのお父さん、つまり僕達のお祖父ちゃんがくれたとっておき御守りらしいよ。もし兄さんが魂の双生児に会ったなら、その指輪はきっと兄さんに力を貸してくれるって……」
「魂の双生児?」
「一卵性双生児とは違う、同じ魂から分たれた運命の双子らしいよ。母さんにも運命の双子がいて、昔その人と協力して邪神を相手に戦ったんだってさ!」
「俺の魂の双生児かぁ…いるとしたらどんな奴かな?……」
「それと僕からなんだけどタタリ族の街に僕の知り合いの腕利きの鍛冶屋がいるんだけどその人を紹介しようと思って」
「いいのかい?それは助かるけど・・・でもなんでまた急にそんなことを?」
「だって二人はこれから魔王オームの所に行くんだろ?だったら武器をもう一つくらいは持っておかないと心許ないだろ?」
「うん、まぁそうだけど」
「旅路は決して楽なものでは無いと思うんだ」
「ああ、そうだな確かに道中何が起こるか分からないからな」
「そこでだよ、もし武器が必要になった時にすぐに取り出せるようにしておくんだ!僕ならどんな状況にも対応できるように準備を怠らないからね!!」
そう言って自慢げに胸を張る阿乱を見て雷音と雷華は顔を見合わせた後、お互いに苦笑を浮かべ
「わかったよ阿乱、じゃあ頼むよ」
「おう、任せて!最高の装備を用意させる!」
こうして二人は阿乱の紹介により腕のいい鍛冶職人の元へ赴くことになったのだ!
鍛治職人は雷音に打撃武器としても使えるガントレットを雷華に一振りの太刀を用意した。
魔剣クトゥグァは二人で使い回して、ここぞと言うときだけ使う武器だ。
鍛治屋が用意してくれた武器は丁度欲しいと思っていた常時用の装備だった。
それからしばらく街道を歩き続けた一行の前に大きな城が見えてきた。
どうやら目的地に到着したらしい。
「あそこか?」
「うん、そうだよあの大きなお城が俺達の旅の目的地だ」
すると二人の上から声がかけられた。
「よう、お二人さん待ってたぞ!」
上を見上げるとそこにはグリフォンに跨った一人の少年がいた。
背丈は雷音よりやや低いくらいで顔は幼さが抜けていない
褐色の肌に金髪と切れ目の金眼
タタリ族を治める魔王オームである。
「よおオーム久しぶりだな。神羅は何処にいる?」
雷音がそう聞くとオームはニヤリと笑って親指で背後を指し示した。
その先には大きな門があり、その前に門番らしき人影が二人見える。
一人は筋肉隆々の大柄の男でもう一人は小柄な老人だった。
そして二人とも人間ではなく亜人だった。
大柄な男は鰐の亜人で小柄な男はゴブリンの魔導士だ。
「あれがここの番人かい?」
「そうだあの二人はリザードマンの勇者とゴブリンの司祭だ。戦闘能力は高いんだが人間語が喋れなくて会話が成立しないかもしれないぜ?」
「へぇ、そりゃ大変だな」
「まぁな、だからあいつらに用があるなら力ずくで突破するしかないぞ」
「わかった。じゃあ行ってくるよ」
風が唸る。
城門の前、膠着していた空気を真っ二つに裂いて、雷音の脚が地を蹴った。
「行ってくるぜ」
風が唸る。
魔城の前、戦火の訪れを予感して張り詰めた空気を裂いて、雷音が地を蹴った。刹那、風鳴りが奔り、稲妻の如き声が空を貫く。
「行ってくるぜ」
その言葉は、誰にともなく放たれた呪詛にも似た決意の咆哮だった。瞬間、雷音の身体は弾丸となり、大気を薙いで宙を舞う。
気流を纏った回転。唸りを伴って振るわれた回し蹴りは、鋼の壁すら砕く嵐の一撃。
「うおおおおおッ!!」
直撃。その風圧は木々を唸らせ、標的となった巨体のリザードマン──否、“獣王”ワニキスを、咄嗟に構えた戦斧ごと吹き飛ばした。土煙が舞い、轟音と共に地面が震える。
「ぬう、やるな……小僧……」
呻くような声。が、油断は許されない。
同時に杖を掲げ詠唱を始めようとする小柄なゴブリン司祭の口から、異界の言語が漏れ出る。
《テイ・アール・ヴァルグ・ラド──》
その咒言が結実することはなかった。
雷音の影が疾駆し、踵が杖を空へ弾いた。
「──させるかよッ!」
鳩尾を撃ち抜く拳。ゴブリンは呻きも漏らせぬまま崩れ落ち、砂に沈んだ。
「ふぅ……片付いたか」
「おーやるなぁ、流石は“赤の勇者”雷音様だ」
オームが軽く口笛を吹く。
「当然だろ、こんくらい」
だが。
「──まだ終わっておらんぞ」
地が鳴った。ズシン、と。獣王ワニキス、土煙を割って悠然と姿を現す。全身の鱗に、傷一つない。
「ふふ……見事だ、小僧。さすがは“灰燼の覇王”乂阿烈の弟……」
「……って、流暢に喋れるのかよ! つーか、マジでアレ、効いてなかったのか?」
「フハハ! このワニキス、かつて“メギドの城壁”と謳われた男! 凡百の一撃ごときで崩れるほど柔ではないわ!」
雷音の顔が引き攣る。
「マジかよ……伝説ってのは飾りじゃなかったか……!」
理屈が通じない、理不尽なまでの強靭さ。蹴りが通らなかった事実が、彼の背筋を冷たく撫でる。
「だったら……こっちも本気出すしかねぇな。雷華、いけるか?」
「もちろん!」
火炎の揺らぎ。雷華の手に収まったのは、紅蓮を抱く魔剣──クトゥグァ。刀身に宿るは、神を灼く焔。
「丁度2対2だ! 私も助太刀するぞ、雷音!」
「……仕方ねぇか、頼むぜ、雷華!」
「任せろ!」
二人の閃光が、大地を蹴って駆ける。
「かかってこい、小僧ども!」
交差する斬撃と拳撃。
雷華の剣閃は炎の花を咲かせ、雷音の拳が稲妻の轟きを伴って唸る。しかしワニキスは、その巨体に似合わぬ軽やかさで全てを捌いていく。
剛と柔、鉄と水。
刃を、拳を、すべて受け流す。
「ぬおおおおっ!!」
逆撃の拳が雷音の頬をかすめ、雷華が弾き飛ばされる。
(速い……! でかいのに、なんでこんな……!)
戦場に響くのは、次第に雷音の荒い呼吸と焦燥の音。
「ぐっ……うあああああっ!!」
拳と拳が交錯する。だが今度は、雷音が吹き飛んだ。その腹に、質量の塊が深くめり込む。
「がはっ……!」
地を転がり、膝を折る雷音。立ち上がろうとした瞬間──
「──終いだ、小僧」
振り下ろされようとする戦斧。
だが、刹那の風切り音と共に、何かが上空から襲い来る。
「お姉ちゃんキーック!!」
迅雷の一閃。雷音の視界の端に、影が疾る。飛び蹴りが、ワニキスの顎を撃ち抜いた。
「ぐぬっ……!?」
巨体が揺れる。地が裂けた。
その影の正体に、雷音は目を見張った。
「……神羅!?」
「神羅姉様っ!」
桜嵐が、舞い降りる。ピンクの髪をなびかせ、女神の如く佇む彼女の名は神羅。乂一族の次女、誇り高き戦姫。
「うーははは! 危なかったね、我が弟妹たち!」
雷音に手を差し伸べ、支える。その手は、温かく、そして何より頼もしかった。
「ありがとな、助かったぜ神羅」
「当然でしょ。姉として当然の務めだよ」
その視線が、よろよろと立ち上がる獣王へ向けられる。
「大丈夫? 結構強く蹴っちゃったけど」
「ん、ああ……少し脳が揺れただけだ。流石は乂の姫……見事な蹴りだったぞ」
ワニキスは、どこか清々しげに笑いながら頷く。
その雄姿に、雷音も自然と頬を緩める。
「ワニキス将軍……お強いッスね、マジで」
「お前たちこそ……よくぞ我が試練を越えた。見事だ」
風がまた、唸る。
だが、今やそれは、次なる戦いの到来ではなく。
剣と拳を交えた者同士の、静かな敬意を讃えるものだった。
その時、オームが呟いた。
「試合はここまでだな……本当は雷音がもっとボコられるのを見たかったけど、まぁ仕方ないか……」
試し合いはここまでとワニキスはゆっくりと立ち上がった。
「若!試し合いはもうこのぐらいでよろしいですか?」
ワニキスはオームに手合わせ中断の許可を求む
「……そうだな。もっと雷音がボコボコにされるのを見たかったが、ちょっとまずいことになった……」
「どうしました?」
「さっきからザビエル司教が口から泡吹いて起き上がらない……」
雷音の当てところが悪かったのか小柄なゴブリンの司教は変な痙攣をしたまま起き上がらなかった。
みんなの顔がさーっと、青くなる。
「やばい、早く医者に連れていかないと!」
「すぐに回復魔法かけるからとりあえず医務室に!」
雷音達は再会の感動を味わう間も無く、魔王城の中に入っていくのだった。
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https://www.facebook.com/reel/3988223034794885/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
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