乂阿戦記1 第四章- 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル-1 最強格の三者協議
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第四章 - 白の神子リーン・アシュレイと神鼠の鎧にして白神の槍ナインテイル
ここスラルの大地では、ほとんどの人が遊牧民族として暮らしている。
羊や馬を連れて、草原を渡り歩きながら、生きていく。
でも、ときどき立ち寄る町や村だってある。
今、私がいるのは、そんな町のひとつ。
『星のかけら亭』っていう名前の宿屋の前に立って、私は両手を空に突き上げる。
「さて、今日も一日、張り切っていくのだーっ!」
私の名前は、ミリル・アシュレイ。
今年で9歳になる見習い魔法使い! そして自称、未来の大冒険者なのだ!
髪の色は黒。肌はちょっと褐色ぎみ。これはダークエルフの血を濃く引いてるせい。
でも顔は――えへへ、自分で言うのもなんだけど、わりと可愛いと思う(たぶん)。
今日はね、この町を治める私のお兄にいちゃん、リーン・アシュレイに会いに来たのだ。
お兄ちゃんは私と同じくダークエルフの血を引いてるけど、どういうわけか肌が真っ白。
アルビノなのかな? でも、そんなことで迫害されたりはしない。
だって、お兄ちゃん――なんか、みんなから“神子”とか呼ばれてて、すごく畏れられてるから!
父さまのトグリル王だって、ちょっと引いてるぐらいだし。
でもね、私にとっては、普通にやさしいただのお兄ちゃんなんだよ?
今日はそのお兄ちゃんに、召喚魔法を教えてもらう予定なのだ。
お城で偉い人たちとの会議中らしいけど、早く終わらないかな~……。
新しい召喚魔法、早く覚えたいのだ!
アシュレイ族はスラル7部族の中で最も勢力を伸ばしている部族である。
白の神子リーン・アシュレイ――その名を聞くだけで、スラルの将軍たちは背筋を凍らせる。
十三歳の少年にして、まるで“神”を思わせる静謐な気配。
動かぬ銀の瞳には、老いた王でさえ跪いたという。神子と呼ばれるこの男が一族に生まれてからアシュレイ族は盛りを迎えることになった。
凛とした涼やかな容貌の少年。
終始無表情で、畏怖・重圧さえ感じるような気配をまとっている。
アシュレイ城の執務室。
白の神子リーン・アシュレイは、静かに椅子に腰を下ろしていた。
その傍らには、白髪の短髪で無表情の少女が侍っている。まるで魂のない人形のような存在。
目の前に浮かぶのは、魔法立体パネルによるリモート会議の映像。
右の画面には、燃えるような瞳を宿す男――乂阿烈。そして彼の背後に佇むのは、鋭利な目をした銀髪の女副官・乂羅刹。
左の画面には、黒き鎧を纏い鋼の肉体を持つ戦士・黒天ジャムガ。そして隣には、長髪を黒衣に包み、仮面をつけた沈黙の少女。
いずれも、このスラルにおいて“怪物”と恐れられる存在たち。
だが――彼らですら、この会議の中心に座す少年には、どこか“畏れ”を覚えている。
会議が始まる。
「では……これより緊急対策会議を開始する」
最初に口を開いたのは阿烈だった。声には相変わらず威圧感がある。
「まず、我らより重大な発表がある」
一同が静まり返る。
「単刀直入に言おう――ワシは今日より、貴様らの“仲間”になるッ!」
「…………」
沈黙。
だがリーンは、まったく動じた様子を見せない。ただ静かに目を閉じたまま、頷き応え返す。
「父トグリル王も貴殿の同盟申し出を歓迎してます。だがその前に確認したいことがあります。」
「なんだ?」
「なぜ貴殿は我々に協力する気になったのですか?」
「簡単な話だ!ワシが求めるものはただ一つ!強さのみ!!そしてこの世界の理を覆す圧倒的な力のみがワシを満たすことが出来る!!そのためなら手段を選ぶつもりは無い!それが例え悪魔の力を借りることであってもだ!!」
「つまりタイランド族に掻っ攫われたお前んとこの下のもん、取り返す準備ができたんだな?」
「そういうことだ黒天、我が幼馴染よ。2年前我が父舜烈は何者かに殺され世を去った。族長を失った乂族は統制を失っていた。ワシの叔父筋にあたるタイラント族族長アングは舜烈の後継は自分だとほざきワシらを乂族の幕営から追い出した。」
「ぶははは!笑わすな阿烈!乂族がお前らを追い出したんじゃなく、お前がブチ切れて暴れるから、皆が怖がって逃げ出したんだろ?」
「ぐぬぅ…」
阿烈が言葉につまり呻く。
そう、タイラントの族長が阿烈一家に族長権の譲渡を迫った日、タイラント族の幹部数人と乂族の裏切り者数人をド派手に殴り殺してしまったのだ。
最初の一人を全力パンチで殴ったら、その男は死体も残らず消滅し、彼の遥か後方にあった大きな岩山がパンチの風圧で穴が開きトンネルが開通してしまった。
その光景を目にした乂族の民は悲鳴を上げ我先にと逃げ出してしまったのである。
その日阿烈は父を失ったことでイライラしており、あまりに強すぎる阿烈は乂族の民達から核爆弾のように思われていた。
乂族からすれば核爆弾が目の前で爆発したようなものである。
9割の乂族の民はタイラント族に扇動され阿烈の下から逃げ出した。
「ぶはははは!あの日あった光景は今思い出しても笑えるぜ!」
「ジャ、ジャムガ〜!おんどりゃテメこのヤロ〜!」
阿烈がギリギリ歯軋りする。
ジャムガは構わず爆笑する。
スラル広しといえど乂阿烈をからかえるのは黒天ジャムガくらいなものだ。
「聞けば、タイラント族は乂族の民に圧政を敷き奴隷のように扱っているそうですね。貴殿の怒りももっともだ」
「ふん!あの下衆どもめ!だが今は我慢の時!タイラントの圧政を嘆き昔を懐かしむ者の声は多い!連中から必ず我が民草を奪い返してくれる!」
「で?具体的に何するんだよ?」
「もうじきタイラント族の中にいる乂族の人間がクーデターを起こす。だが我ら乂族とタイラント族の争いの隙を狙って他の部族が攻め行ってくるかも知れん。」
「鳶に油揚げをさらわれるちゃたまらんてわけか…」
「わかりました。タタリ族やメギド族、ナイン族が軍事介入しないよう我らが目を光らせましょう」
「俺達ジャガ族もアシュレイ族と同意見だ」
「代わりと言ってはなんですが、今我々はメギド族と諍いが起きてます。近い将来我らとメギド族と戦争になった時は助太刀をお願いしたい。」
「うむ。その時は喜んで力を貸そう!」
「交渉成立ですね。では早速ですが貴方にはこれをお渡ししましょう」
そう言ってリーンはアイテムボックスの中から一枚のカードを取り出した。
「これは?」
「それは【契約の刻印】と呼ばれるものです。これを所持している者は我々が契約している召喚獣の力を借りる事ができます。ただし1日に使える回数に限りがありますが」
「ほぉ~それが噂に聞く……いいのか?こんな貴重な物をワシに渡して……確かアシュレイ家の家宝であろう?」
「えぇ、貴方が味方についてくれるのなら心強いですし、何より貴方の父上は私達にとって恩人ですからね。これくらいはさせて下さい」
「そうか、そういうことなら遠慮なく使わせてもらおう」
「では、これで話は終わりです。お時間を取らせました」
そう言うとリーンは会議を打ち切った。
乂家の幕営、静寂に包まれた帳の中。
緊急会議を終えた阿烈は、ただ一人、沈思黙考に沈んでいた。
その鋭き眉間には深い皺が刻まれ、拳は己の膝を強く握りしめている。
(ふむ……やはり、あの男、リーン・アシュレイ……強い!! 只者ではないな。あれほどの“圧”を感じたのは、黒天ジャムガ以来か……)
そのとき、戸を叩く音が響いた。
「……兄様、入ってもよろしいですか?」
姿を現したのは、阿烈の末弟――乂阿乱であった。
「おお、阿乱か。ちょうど良いところに来た。お前に、少し問いたいことがある」
阿烈は立ち上がり、弟の肩に手を置いて見つめる。
「――あのリーンとかいう男、どう思う?」
阿乱は一拍、目を伏せて沈黙し、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……正直に申します。あの男は……“人間”ではないと思います」
「ほう? 理由は?」
「……昔、一度だけ彼を見たことがあるのです」
「何っ……? いつだ?」
「私が五歳の頃……ある日、木に登って遊んでいた時のことでした。誤って枝から落ちて、気を失ってしまったんです。気づけば家の中、夜になっていました」
阿乱の声がかすかに震える。彼の記憶の底から、ゆっくりと、冷たい影が這い出してくるように。
「ふと窓の外を見ると……一人の男が、家の前に立っていたのです。――真っ白な肌、銀の瞳、動かぬ表情……それが、リーンでした」
阿烈の目が細く鋭くなる。
「……それで?」
「彼と目が合った瞬間……体が、動かなくなったのです。全身が凍りついたように。まるで、蛇に睨まれた蛙のように……」
「……!」
「彼は窓越しに、ただ一言だけ、こう告げました」
阿乱は言葉を飲み込み、そして震える声で続けた。
「――『お前の兄は、いずれこのスラルを変えるだろう』……と」
部屋の空気が、一気に冷え込む。
「……それだけ言って、闇の中に消えていきました。以後、二度と姿を見ていません」
静寂。長い沈黙。
やがて、阿烈は低く呟く。
「……やはり、ワシはどこかで……あの男に会っている。だが、思い出せん……」
阿乱が去ると、阿烈は再び、拳を握り締めた。
その目に宿ったのは、武人ではなく、謎を解かんとする賢者の光――。
(リーン・アシュレイ……あれは、ヒトではない……だが“何か”を知っている。ワシの……そしてスラルの、運命に関わる何かを)
そして、重く深い夜が、再び帳を下ろした。
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