乂阿戦記1 第三章- 黄金の太陽神セオスアポロと金猪戦車アトラスタイタン-2 異世界のギルド
\異世界転移✖️勇者の証✖️世界を救う使命/
目覚めたのは、見知らぬ森。
そこにいたのは、祈るように立つ白き少女――そして、七部族に崩壊の兆し。
少年の物語が、ここから始まる。
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「アサシン……って、俺、暗殺者タイプなのか?」
「そうですね。潜行、奇襲、素早い戦闘を得意とする職業に分類されます。
そしてもう一つ――“翠の魔力色”を持つ適合者、つまり――」
「“翠の勇者”」
アヤシキが静かに言葉を重ねた。
「そうです。あなたは、この世界に選ばれた存在なのです」
受付の職員も、どこか敬意を含んだ眼差しで獅鳳を見ていた。
「……なんだか実感ねぇけど、力を与えられたからには……使い道を考えねぇとな」
そう呟いた獅鳳の胸に、一つの決意が灯りかけていた。
その時だった。
「おおおおおおおおおおおおっっ!! 獅鳳ぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」
ギルドの喧騒を切り裂くような声が、突然飛び込んできた。
「な、なんだ!?」
振り返ると、火の玉のような勢いで突っ込んできた男がいた。
「ア、アニキ!?」
駆け寄ってきたのは、獅鳳の兄貴分――狗鬼漢児だった。
「てめぇ、本当に生きてたか……! 消えた時はどうなることかと思ったぞッ!!」
がしりと抱きつこうとして、ふと手を止めた。
「……ちょっと待て、あれ見ろよ、あれ」
指差されたのは、ギルドの壁に貼られた一枚の張り紙だった。
――行方不明者の捜索願い。
『乂羅漢』
『乂神羅』
地球より召喚された特異個体。確認次第、報告を。
「ら、羅漢……神羅……!?」
獅鳳は息を呑む。
「まさか……神羅って、ユキルのことじゃ……」
そして、隣に並ぶもう一枚の張り紙に目を向けた狗鬼が、声を詰まらせる。
「……おい……これって……」
⸻
【指名手配:青の魔女】
容疑:家宝の盗難、逃亡
提出者:ミリル・アシュレイ
備考:見かけた者は報告のこと。生死は問わず。
⸻
描かれた似顔絵を見て、獅鳳と狗鬼は声を揃えて叫んだ。
「絵里洲~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!?」
ギルド中の視線が二人に集まるが、そんなことに構っていられない。
「あいつも、この世界に来てたってことか……しかも手配されてるって……」
「……詳しいことは、領主様に聞いた方がいいわ」
アヤシキが静かに言った。
「エメお姉様なら、なにかご存知かもしれません」
獅鳳は、ギュッと拳を握りしめた。
(……絶対に、助け出してやる)
それが“勇者”としての力を得た最初の目的になると、彼は無意識に悟っていた。
⸻
冒険者ギルドを後にして、獅鳳たちは街の中心部へと向かっていた。
目指すは、この地《アシュレイ領》を治める領主――エメの屋敷。
道中、アヤシキがぽつりと呟く。
「エメお姉様は、元は《サキュバス族》の王女様だったんですよ」
「……サキュバスって……あれだよな? 男の精気を吸って命奪う、あの……」
「そこだけ拾わないでくださいっ!」
アヤシキが慌てて否定すると、隣で狗鬼漢児が笑いながら肩をすくめる。
「こえぇな……変な薬でも盛られて、“精力回収実験”とかされねぇだろうな……」
「アニキ、黙って」
そんなやり取りを交わすうちに、彼らは館の門に辿り着いた。
荘厳な鉄製の門。その奥には、豪奢で妖艶な雰囲気を漂わせる洋館が広がっていた。
*
「エメお姉さま~! いらっしゃいますか~っ!」
アヤシキが元気よく声を張ると、館の奥から高いヒールの音が優雅に響いてきた。
やがて現れたのは――
紫紺の瞳、艶やかな紫髪、陶器のように白い肌を持つ女性。
その美貌は、見る者の時間感覚すら奪うほどに洗練されていた。
「はーい♪ アヤちゃん、いらっしゃい……あら、お連れ様?」
「はい! こちら、龍獅鳳くんと狗鬼漢児さん。新しい仲間です」
「初めまして。私はエメ・アシュレイ。この街の領主を務めております」
柔らかな笑みと共に、お辞儀をするその姿すら絵画のようだった。
思わず、獅鳳も背筋を正して返礼する。
「ご丁寧にありがとうございます。龍獅鳳です」
「狗鬼漢児だ。ま、よろしく頼む」
「ふふ、ぶっきらぼうな方も、なかなか可愛げがありますね?」
「や、やめろって……」
からかわれて照れる漢児を見て、獅鳳は(天然で翻弄するタイプだ……!)と警戒心を高めた。
だが、エメの顔から微笑が消えた瞬間――空気が一変する。
「……“青の魔女”の件、ですね」
「やっぱりご存知で?」
アヤシキが静かに頷く。
「つい先日、領内の騎士団が手配書を貼り出しました。
提出者は……《ミリル・アシュレイ》。私の遠縁にあたる子です」
その名前に、獅鳳と漢児は息をのむ。
「どうやら、“家宝”とされる魔道装置が盗まれたそうです。そして、それを持ち出したのが……あなた方の仲間、“絵里洲”に酷似した少女だったと」
「絵里洲が……盗みなんて、するわけない……!」
獅鳳は、即座に否定した。
「確かに、ちょっと抜けてて、間違って鍋に絆創膏落としたりするような子だけど……それでも、犯罪なんて……!」
「……例え話に悪意を感じますけど、信頼してるのは伝わります」
エメは苦笑しながらも、真剣なまなざしを向けた。
「正直に言いましょう。私は、あの子が“真犯人”だとは思っていません。
ただ、魔力色《青》を持つ人間がこの世界にはほとんど存在しない。
その“異端”ゆえに、恐怖と偏見が集まりやすいのです」
「……魔力色だけで、魔女扱いされるなんて……っ!」
拳を握る獅鳳。その隣で、狗鬼も黙って唇を噛んでいた。
「でも……助けなきゃ。絵里洲は、俺たちの、大切な仲間なんだ……!」
エメは静かに席を立つ。
「協力しますわ。私の人脈と情報網を使って、“青の魔女”の足取りと、ミリルの真意を探ります」
「ほんとに……いいんですか?」
「ええ。“この世界に来た勇者”に恩を売れる機会、そうそうありませんもの」
にっこりと微笑むその顔には、したたかさと優しさが同居していた。
獅鳳は、そのまなざしを真っ直ぐに見返す。
「……アニキ、アヤシキさん、エメさん……俺、絵里洲を助けに行くよ」
「もちろんだ! 俺の妹みたいなもんだからな!」
「私も行きますよっ!」
決意の輪が、静かに、しかし確かに結ばれた。
青の魔女の真実。失われた家宝。
そして、七部族の崩壊を前にして、少年たちの選択が世界を揺るがしていく。
(――待ってろよ、絵里洲。必ず迎えに行くからな)
新たなる冒険の鐘が、静かに鳴り始めていた。