乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-4 七将軍ユキル・ドアーダ強襲!
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「来やがったな、今週の爆発枠……!」
週に一度の恒例行事。それは、忌まわしき“火曜爆発タイム”。
ティラノ事件から一年、あの“歩く可燃物”――キャプテンダイナマイトボマーは、
もはや学校行事のような顔で俺の前に現れるのだ。
「ふはははッ! 青の勇者よ、今日こそこの宿命に決着をつけてくれるわぁ〜!」
派手な爆煙と共に現れたのは、爆弾頭にバルカン腕のサイボーグ怪人。
例のノリのいい戦闘員たちをこれでもかと従えて……ん? 今日は人数多くね?
「かかってこいよ、爆弾野郎!」
「今日はちょっとばかし一味違うぞ〜! いでよ、我が最強の軍団たち!」
ズズンッ! 地面が裂け、地中から湧き出す黒覆面戦闘員の群れ。およそ百体。
だが視線を奪われたのは――その中心に立つ、たった一人の少女だった。
「う〜はははッ! 我が名はユキル! ドアダ七将軍が一角、桜色の魔法少女・プリティ☆ユキル・ドアーダなりッ! さぁ、お兄さん! 我を倒してみるがいいッ!」
声の勢いそのままに、彼女はくるりと舞うように空中で一回転し――
桜色の光が炸裂した。
光の中から現れたのは、ピンクのフリルに身を包み、背中に巨大なリボンを背負った“朝アニメ出身です”な正義の味方風ヒロイン。
……だが、その実態はドアダの敵幹部。
なんという二重詐欺。
「いくぜ! ユキルちゃん!」
俺が拳を構え、間合いを詰めた――その瞬間。
「ちょ、待ったー!」
突然ユキルが、懐から白い色紙を取り出してこちらへと差し出してきた。
その顔、満面のキラキラ。
「クラスの友達に、あなたのファンの子がいてね。先にサインちょうだい♡ 戦いはそのあとで〜♪」
「う、うぬぅ……! 調子が狂う……!」
だが、ヒーローたるものファンサは命。
俺は観念して、丁寧にサインを書いて渡す。
「ありがと♡ これ、一生の宝物にするね♡」
敵なのに可愛い……いや、だからって油断するわけには――
「いくよ〜! 顕現せよ、聖弓!」
ユキルの魔法ステッキが、まばゆい光を放ちながら桜色の弓へと変形する。
「機神招来――封獣ユグドラシルッ!!」
轟音と共に、大地を割るような光の矢が空から降り注ぐ。
そして――その中心に、桜色の巨影が現れた。
それは、巨大なロボットだった。
ピンクと赤紫の機体。頭にはウサ耳。胸にハート型のコア。翼を広げ、着地の衝撃で突風が舞う。
胸部ハッチが開き、そこから登場したのは――
「んフッフー☆ これが私の封獣ユグドラシルだよっ!」
ユキルだった。
なぜかさっきよりもさらにフリフリ度の高いドレスの上に、黒マントを羽織って悪の女幹部モードで仁王立ちしている。
「さぁ、お兄さんも封獣アーレスタロスを招来しなよ!」
「いやいやいや! 俺そんなの持ってねぇし!」
「え? だってお兄さん、そのベルト持ってるじゃん? あれ、封獣だよ? 単独招来くらいできるはずだけどなぁ?」
そう言ってユキルが俺の腰を指差す。
確かにベルトのバックル部分には……蒼い狼のような紋章が。
「封獣ってのはね、全部で12体いるの。干支にちなんで――鼠から亥まで、ぜ〜んぶ!」
「ってことは、俺のは……犬か?」
「正解っ! 蒼い狼、狗の封獣! あ、ちなみに私のはウサギ! 桜の兎姫って言うんだ〜」
なるほど、妙にロボに名前ついてると思ったら干支かよ……。
「でね? お兄さんがロボ出せないと、私のユグドラシルとロボ対決できないじゃん? それはちょっと困るの!」
「はぁ? なんで困るんだよ」
「だって! 巨大ロボ対決だよ!? ぶつかり合う鋼鉄の拳と拳ッ!! ユキチューブに上げたら再生数爆上がりなの!」
「おい……お前、そういう理由で……」
「ロボ対決って、燃えない!? ねぇ、燃えるよね!? ロボ最高だよね!?」
「燃えるに決まってんだろ! よっしゃ、やろう!!」
「キャーッ♡ やっぱお兄さんわかってるぅぅ〜〜!!」
もうテンション爆上がりで手を握り合う二人。
するとボマーと戦闘員たちも「ロボファイト! ロボファイト!」と合唱しはじめた。
この場にいる全員が、同じ種類のアホだと知れた瞬間だった――。
「じゃあ、お兄さんの封獣を招来してみようか! そのためには、まず――ほっぺを出して♡」
「……は?」
「ほっぺ! ほっぺよ、お兄さん。ヘルメット外して、素肌をちょっと見せて?」
「ちょ、おま……なんでそんなこと……」
「機神召喚の儀式よ儀式! 封獣を巨大ロボ化できない勇者は、魔法少女の“キス”で臨時起動するんだってば! いわばお助けバフ! 巨大ロボ召喚は魔法少女も勇者もめっちゃ疲れるから3分が限界なんだけどね☆」
「そんなテンプレ魔法少女みたいなノリで召喚されるのかよ……」
「うりゃっ♪」
ピッと背伸びしたユキルが、漢児の頬にチュッと軽いキスを落とす。
……だが、何も起きない。
「……おかしいなぁ。魔力が足りないのかな……それとも……」
彼女は小さくうつむき、ぽつりとつぶやく。
「私が……女の子として魅力ないのかなぁ……」
うっ。
爆弾頭のボマーが慌てて叫んだ。
「いえいえお嬢様! そ、それは違いますぞ! あの、その……ユグドラシルです! 封獣ユグドラシルを顕現させたまま、もう一体を召喚するのは――流石に魔力的に無理が……!」
「あっ! そっか〜〜〜! いっけな〜い!」
ぺちんと手を打ち、ユキルは愛機に命ずる。
「引っ込めユグドラシル〜〜〜!」
その瞬間、赤紫の巨大ロボは桜色の光に包まれ、空中へと粒子化して消えていった。
「よしっ、これでOK! もう一回いくね〜!」
「ちょっ……ま、まじかよ……」
「いっくよ〜♡」
ちゅっ♡
……今度は、何かが起きた。
漢児の変身ベルトがぼんやりと青く輝きはじめる。
「ふふん♪ どうやら成功したみたいね! じゃあいよいよ、起動呪文を唱えて召喚してみよっか!」
「お、おう……で、どうすんの?」
ユキルは、ピッと指を立てて説明を始める。
「まず! ベルトに魔力を流し込む! 次に、“蒼い狼っぽいロボット”をイメージする! あと、被害が出ないようにロボでフィールドを展開してね! で、自分の魔力で操縦して、最後は必殺技をカッコよく決めて、キメ顔で立ち去る! 以上!」
「いや最後、急にノリが軽くなったな!? ……まあ、いいや」
覚悟を決めた俺は、目を閉じ、深く息を吐いた。
(イメージしろ……蒼き狼。俺の中の、最強のロボ……!)
「それじゃいくぜ! 我、汝と契約せし者なり――今こそ契約に従い、我が前に姿を現せ!
いでよ、蒼き狼! 戦神アーレスタロス!!」
ベルトが眩い光を放つ。
その光は地を裂き、空へ突き抜ける光柱となって――次の瞬間、そこに立っていたのは……
「……こいつが、俺のロボ……っ!」
高さおよそ20メートル。鋼鉄の肢体は青きオーラを纏い、狼の面影を宿す蒼い人型ロボット。
その存在感に、言葉を失った。
「うおおおおおおおおっ!!!」
俺が叫んだ瞬間――時間が、止まった。
爆発音も、風のざわめきも、ユキルのきゃっきゃした声も、すべてが凍りついたように消える。
そして。
(やあ、漢児くん)
頭の中に、落ち着いた声が響いた。
「うおっ!? だ、誰だ!?」
(失礼、驚かせてしまったかな。私は戦神アーレスタロス。君の変身ベルト……いや、君自身と契約を結んだ“封獣”だ)
「え、お前……しゃべんのか!?」
(君に何度か助言を送っていたろう? 必殺技の起動とか、安全圏の設定とか)
「あー! あの機械音! お前だったのか!」
(ふふ……君のその“勢いで行く”感じ、どこか君の母親に似ているな。ユノさんに)
「お、おふくろを知ってるのか!?」
(いや、そっちは後にしよう。今は――君に伝えなければならないことがある)
場面はシリアスに転じていく――。
(……漢児くん。これは、君の星に関わる話だ)
静かに――けれど、確実に心に届く声だった。
(最悪の魔女。その復活が近い。女神ユキルの覚醒は、その前兆にすぎない)
「エクリプス……?」
(十五年前。かつて世界を滅ぼしかけた七罪の魔女。その頂点に立つ存在だ。
勇者と女神たちの連合によって封印されたが……スラル、あの異世界で再び戦乱が始まる今、アレは蘇ろうとしている)
「スラル……」
(そう。君たち地球人が知らない戦乱の世界。
スラルでは今、部族間戦争が始まりかけている。血と怒りが溢れ、戦死者の魂が渦を巻いている。
その混沌こそ、エクリプスが目覚める燃料になる)
「地球も……巻き込まれるってことかよ」
(ああ。アレの呪いは無差別だ。
“人間”というだけで、全ての理性、知性、人のかたちを奪われ――化け物に変わる。
わかりやすく言うなら、地球人は皆“ゾンビ映画のゾンビ”になる、というわけだ)
「なっ……そんなの、絶対に阻止する!」
(頼もしいな、漢児くん。……だが君はまだ“未完成”だ)
「どういうことだよ?」
(君には“正式なパートナー”がいない。
勇者が封獣を完全に制御するには、対応する魔法少女との共鳴が必要なんだ。
本来なら、女神ユキルと仮契約するか、“青の魔法少女”とパートナーを結ばねばならない)
「青の魔法少女……?」
(心当たりがあるだろう。君の妹、エリスだ)
「えっ……エリスが!?」
(そう。実は……君の母、ユノもまた十五年前、青の魔法少女だった。
エクリプスを封じた女神戦線のひとり。彼女の血を継ぐ者なら、目覚めの資質がある)
「……じゃあ、あのグラサン男──ジャムガが、ベルトを俺に託したのは……」
(その通り。彼は“地の魔法少女”アタラから依頼を受け、ベルトをユノのもとへ届けにきたのだ。
だが、君が先に手を取った。選ばれたのは君だ)
「……そっか」
(そして、もう一つ。ユキルのことだ)
「ユキル……?」
(君が今日出会ったあの少女。彼女は今、記憶を失い、ドアダに利用されている。
だが本来、彼女は“かつての女神”のひとり……封印された存在だ)
「っ……!」
(君が“今代のアーレス”として覚醒するために、彼女の存在は欠かせない。
どうか……彼女を助けてほしい)
その言葉を最後に、声はふっと消えた。
光に包まれ、蒼き巨神・アーレスタロスもまた、空へと還っていく。
時が、動き出す。
「え? ええっ? えぇ〜〜!? 今の、なに!? ロボ召喚成功してたじゃん!! え!? どこ行ったのロボ!?」
ユキルが首をかしげながらあたりをキョロキョロしている。
どうやら、俺とアーレスタロスの会話は聞こえていなかったらしい。
「えっと……さっきロボが喋ってきてな。なんか俺、まだ完全じゃないんだと」
「ほえ?」
「巨大ロボを制御するには正式なパートナーが必要で……どうやら俺の妹がその“青の魔法少女”になれるらしいんだ」
「……へぇ〜!」
「だからさ、まずは妹に話してくるわ。覚醒させて、ちゃんとロボファイトできるようにする」
「なーるほど! お兄さんの妹ちゃんが魔法少女かぁ……」
ユキルがにまにまと笑ったかと思えば――
「じゃあ、今度その妹ちゃんに会わせてっ♡」
「おう、明日にでもウチ来るか?」
「行く行く! 魔法少女パーティ開こうね♪」
まるで修学旅行の相談のようなテンションだった。
……こいつ、本当に敵幹部か?
「じゃあ、今日はこれでお開きだね! また明日♡」
魔法少女との約束は、次回予告のように軽やかに交わされた。
――けれどその背後では、まだ誰も知らぬ《魔女の目覚め》が、静かに始まっていた。
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