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王都の双子のお悩み事情  作者: さつき けい


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5/5

親子の呼び名


 案の定、翌日はある部屋で、ユイリは祖母と顔を知っている従業員に挟まれていた。店舗のいつもの二階の部屋の隣にある、応接用の部屋である。


「エルフは大人までの成長が早いと聞いていたけど、本当ね」


そして一定の年齢になると、容姿はそれ以上あまり変わらない。


『王国』に来る前に双子の衣服を調達するために採寸したのだが、また短期間で背が伸びているそうだ。




 ユイリはげんなりした顔をする。


彼のいた『商国』では獣人や妖精など様々な種族がいたため、成長の度合いなどあまり気にしたことがない。


それぞれが違って当たり前だったからだ。


「それにしても、細いわねー。男性用の服より、こちらの女性用の方がー」


「お祖母さま、それはあんまりです」


ユイリが涙目で訴える。


それを見て祖母と従業員が残念そうな顔をする。


それでも着せられた服はどれもまるで夜会用のひらひらしたもので、到底普段着とは言えなかった。


「お祖母さま、これでは外に出られません」


「そ、そうねえ」


祖母は「似合うのにー」と残念そうな顔をしていた。


ユイリは扉の外から中を覗き込んで笑っている妹をぎろりと睨んだ。




 一段落して自宅の居間へ戻る。今日は学校が休みなのか、従兄のレリガスが居た。


「ユイリ、お疲れ様」


待っていてくれたようでお茶とお菓子を勧めてくれた。


彼も経験があるのだろう。何せこの商会の後継のひとり息子なのだから。


庭では一足先に逃げたミキリアが、精霊のコエンと組手をしている。


「お祖父さまの手が空くまで暇みたいだね」


ユイリとレリガスが少し呆れた顔で庭を見ていた。




「そういえば、レリー兄さんは魔道具が趣味とか」


「うん。昔、ギードさんにもらった魔道具のおもちゃがうれしくてさ」


誕生日祝いにもらった魔道具は、どこへ放っても手元に戻って来るという単にそれだけのおもちゃだった。


あれからずっと遊んでいたが、途中からどうして動くのかが気になって研究し始めたそうだ。


「いろんな店で高くて買えない魔道具を見せてもらったり、お祭りで展示される実力者の作った魔道具を見学したり」


「作ったりはしないのですか?」


「いやいや、君たちと違ってあんまり魔力がないからさー」


頭を掻く従兄は、実に残念そうだ。




 昼になり、店舗から祖父母が戻って来た。


ミキリアも昼食の匂いに気づいて、早々に軽く身体を拭いて戻って来ている。


「ユイリはお父さんの後を継ぐの?」


昼食は各自で取るため、屋台の料理を取り分けながらレリガスが話し続ける。


「いいえ、僕は楽師になりたいので」


父親は寿命のないハイエルフである。ユイリの出番はない。


「え?、楽師って、劇場とかの?」


こくりと頷く。


「ギドちゃんも好きにしていいって言ってるし」


魔道具は趣味で、ちゃんと商会を継ぐ準備をしているレリガスはうらやましそうな顔になる。


「まあ、エルフだしねえ」


エルフだからという訳ではないのだが、それは家庭の問題なのでユイリは何も言わなかった。




「そういえば、何故『お父さん』ではなく『ギドちゃん』って呼ぶの?」


双子は顔を見合わせる。


これはきっといつか聞かれる話しだと分かっていたからだ。


大人たちは事情を察してくれているのか何も言わないが、子供はある意味素直で残酷だ。


「学校では親を名前で呼ぶのが一時流行ったことがあったけど、それは親に威厳がないからだってー」


「ギドちゃんはそんなことない!」


ミキリアが立ち上がろうとするのをユイリが止める。


双子の雰囲気が変わったことにレリガスが驚いた顔をしていた。




 お茶をいただきながら、ユイリはにこにことしているがその笑みは少し暗い。


「ギドちゃんは僕たちと似ていないでしょう?」


人族であるミキリアは、母親のタミリアと瓜二つであり、エルフであるユイリは、ギードが偽装しているためにかなり容姿が違って見える。


うんうんと頷く従兄と、その傍で伯母や祖父母もじっと聞いている。


「でも町中で『お父さん』って呼んだら、似ていなくても身内だと分かってしまいますよね」


「親子だと知らせないため?」


従兄の言葉に双子は頷く。


「ギドちゃんはそれだけ敵が多いので」




『商国』の実質上の経営者である。


その子供に取り入ろうとしたり、危害を加えようとする者がいないとは言えない。


まだ建国して日が浅い国であり、獣人を解放する際に多くの人族からは敵視されている。


だからこそ、ギードは『暴君』だとして、下手に手を出すと危ないという宣伝をしたのだ。


 まあ、妻であるタミリアなら蹴散らしてしまうし、精霊である末っ子は種族自体が強者である。


 双子は自分たちが弱いから、名前呼びを受け入れざるを得なかったと話した。




 名前で呼ぶことは、眷属たちも別に反対はしなかった。彼らも人族の常識には疎かったのだ。


ただロキッドだけは王都で執事の仕事を仕込まれたため、末っ子のナティリアには


「きちんと『お父さま、お母さま』とお呼びください」


と教育している。


ナティのことはロキッドに任せているので、ギードは眉間に皺を寄せながらも何も言わない。


「じゃ、私もー」


と、タミリアも便乗し、双子にお母さんとは呼ばせなかった。




 実は、それは表向きの理由だ。双子が知らない、もう一つの事情がある。


双子が生まれた頃、ギードたちは家族だけで誰もいない遺跡の中に住んでいた。


さらにその後、家族で旅に出て、双子が三歳の時に商国に落ち着いた。


辺境の土地ばかりだったので、王国の人族の常識など気にする者はいない。


両親は普通にお互いを名前で呼び合うので、双子も物ごころついた頃には普通に名前で呼んでいた。




 それをいいことに、ギードは子供たちに教えなかったのである。


「だって、くすぐったいしー」


孤児だったギードには、親というモノが分からなかった。


ただ単に子供が産まれたというだけで、親になるということが理解出来なかったのだ。


「いずれ結果は出るさ。子供たちにとって親といういものが一体何なのか」


それは自分が決めることではない、とギードは双子のいる王国の方角の空を見上げた。



        〜完〜


お付き合いくださり、ありがとうございました。

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