魔法使いの母
「あんたら、今日は一緒に寝るよ。」
外が真っ暗になった中、いつもよりも早い時間だと分かっているが自分達の部屋に篭り、荷造りやら本を読んだりやらしている三人の子供たちの首根っこを掴み、自分の部屋に引き釣り入れると寝床へと放り投げ、長男・次男・長女と並んで呆然としている子供らの、次男と長女の間に入り込んで、枕もとのろうそくを吹き消した。
「なんだよ、突然に・・・」
「そうだよ、まだ荷物纏めてないのに・・・・」
「まだ、寝る時間には早いでしょ?」
子供らがぶーぶーと文句を言っているが、そんなもんは暗闇の中から拳を飛ばして黙らせた。
「うるさいねぇ、最後の夜なんだから少しくらい言うこと聞きなさいよ。」
そう、最後の夜だ。
これで、もう二度と会うこともないだろう。
明日来る迎えの馬車に乗っていく子供らは、明日からは私の子供ではなく貴族の子供になる。
いきなり、そう告げる手紙が送られてきて、迎えの日時も決まっていて、でも逆らう気も起きなかった。
それが、子供らの為にも最善のことだって馬鹿な私にも分かったからね。
寂しいとか、そんな気持ちも起きない。
そんなもんには生まれたときから慣れているから・・・
私はそれなりに地位のある貴族の家に生まれた。
っていっても、私が生まれて一年もたたないうちに死んだ先代の妾の子で、父親みたいな年の兄がすでに当主で、その家族に疎まれて育った私に貴族としての矜持とか品とかは一切ない。
むしろ、気配を消すことだけを覚えて育ったようなもんだ。
ずっと一人で屋敷の中で隠れるように生きてきた。
そんな私が10才になった時に屋敷から連れ出したのは、隣の屋敷に住んでいて、こちらも高名な貴族の次男坊だった。それが、こいつら三人の子供の父親。
魔法の大家として名を馳せ、地位を築いてきたその貴族の中で、唯一魔法が使えなかったあいつは貴族の子供が決まって王立学院に入る十才になる年に家を追い出された。貴族にしたら僅かな、庶民にしたら大金だけを渡されて。
その時に、あいつは庭の端っこで出会ってその存在を知っていた私を連れ出してくれた。
それから、一緒に冒険したり、細々とした手伝いをしたりとか、いろんなことをして、旅をして生きてきた。
そのまま、なし崩しみたいにだけど結婚して、9年前に長男が、その二年後に次男と長女が双子として生まれた。
喜んだあいつは、子供らの為にと仕事を増やし、そして長期の依頼を受けたと家を出て行き、その日の夜街道で魔物に襲われ姿を消した。
それからは、がむしゃらだった。
幸いにも、この町は小さいながらも結束が強く善良で、よそ者だった私らにも助けの手を差し出してくれた。
無事に子供ら三人が物心をつくまでに育てることができた。
その頃になると、下の双子はどういうわけか魔法を操り悪戯をするようになった。
父親が無いって言われて家族からも捨てられたっていうのに、その子供に魔法の才能、しかもどうやら天才って言われる類のレベルで現れるなんて。
神様っていうのは意地が悪い。
あいつが生きていたら、どう思ったんだろうか。
そして、上の子供も近所の元騎士っていうじいさんに絶賛されるくらいの戦闘の才能っていうのがあったらしい。毎日、喜んで木刀で訓練をしていた。
去年辺りからは、自分で本を読んで研究はするわ、近くの森で魔物を退治していくわと、三人が三人とも近隣に天才と名を轟かすようなことをしていった。
母親の私としては、あんまり苦労も無い子育てだった。
集中しすぎてご飯を忘れるのを注意しておけば良かったんだから。
でも、それが悪かった。
子供らは有名になりすぎた。
あいつの父親から手紙が届いた。
「魔法の才能があるのなら、それは確かに我が家の血統である。
こちらで育てるのが筋である。
長男においても、剣術の才がある様子。
虐待を加えているような女の下にあるよりは、
私の知人の貴族の下で修行させることが幸せとなる。
10日後に迎えに行く。」
それだけの手紙。
まったく、これだから貴族ってやつは。
だが、それがいいだろう。
子供らにも伝え、その意思を確認した。
「あんたらの爺さんが魔法を教えてくれるってよ。
ってことで、私とあんたらは親子じゃなくなるから。
それで、いいね?」
さすが、天才たち。
それだけで理解はしてくれたらしい。
泣いたり、騒いだりすることは無かった。
「行った方がいいの?」
「世界有数の魔法の大家だからね。
魔法についての修行をするにはいいだろ?
王立学院に通えるし、貴族ってんだから良い生活できるだろ?
なにより、大切にしてもらえるさ。」
「俺は?魔法なんて使えないけど?」
「知人の貴族っていうのが多分私の血の繋がりのある家だと思うけど、
確か親戚に騎士団長がいたから、好きなだけ剣術とか習えるってよ。
それに、私みたいな乱暴もんのところには置いておけないってさ。」
そんなに子供らに手を挙げたこともないから、様子見された日が何時だっていうのは予想がついた。
まったくタイミングの悪いってもんだわ。
あの日は、子供ら三人が森の中で魔物をどれだけ狩れるか競争して遊んでいた。
森の脇の広場に三つ、積み上げられた魔物の山。
商人はいくらで引き取ろうかと算段をつけていた。
冒険者たちは将来性あふれる子供らに唾をつけておこうかと算段をつけ、
若い村人たちは大喜びで、子供らを褒め称えていた。
そんな中、村人に連れ出された母親の私は、三人の子供らを思いっきり殴りつけ蹴り飛ばしたのだ。
ビックリしている子供らに、周囲の村人などの大人たちは追撃をかまそうとする私にしがみ付いて止めようとしていた。
なんでっていう子供らに、森の中の生態系っていうもんを教えてやった。
あんまりにも魔物を狩り過ぎれば、他の魔物が増えたり、減ったり、
そして、それで収入を得ていた狩人や冒険者たちが追い込まれる状況。
村人たちを振りほどき、どうしたらいいか自分で考えなと子供らに言い置いて家に帰った。
その夜、子供らは泣きながら帰ってきた。
あんな様子の子供らは初めて見るものだった。
さすがに、可哀想になって抱きしめてやったけな。
すぐに振りほどかれたけど。
私も、慣れないことしたせいで気まずくなったけど。
そんな様子を報告したんだろう。
さすがに、孫が可哀想になったか?
まさかな。
「ねぇ母さん。」
とっくに寝たと思っていた長男の声が聞こえた。
耳を済ませば、他の二人の息も可笑しいから起きているんだろう。
「なに?」
「母さんは明日からどうすんだ?」
そういえば、そんなこと考えてなかったな。
「そうね・・・・宿屋でもやるか。
無駄にデカイ家だし、ここらは冒険者も一杯来るし」
あいつが追い出される時に渡された金を大半つぎ込んだ屋敷だ。
王都では平均より少し上の屋敷。
地方の中規模の町である此処では、一番凄い屋敷。
なんでも成功した商人の別荘みたいなもんだったらしい。
無駄に部屋数も多いし、調度品もいいもので長年あっても状態がいい。
それに、ここいらは初心者用から上級者向けまでのダンジョンがたくさんある。
その為に攻略して宝を手に入れようという冒険者が大量に押しかけてきている。
ダンジョンは魔界に通じているって言われているから国の軍人も投入されているし、宿屋でもやればそれないの稼ぎにもなるだろうな。
「此処にいる?」
今度は、長女の声。
「そう、だね。あんまり他に行く理由もないし、面倒くさいし。」
他のどこかに行こうにも、魔法も使えない、戦う術もない。そんな私が旅をしようにも金やら何やらがかかって仕方がない。
「・・・危なくない?」
これは次男の声。
口数が少なくて部屋に篭りがちだから、もしかしたら久しぶりかもしれないな、声を聞いたの。
「危ないって何が?
別に森に入るわけでもないし、面倒くさくって家から出ないだろうし。」
あぁ、そろそろ眠たくなってきた。
さすがに真っ暗な中布団の中にいると眠くなくても瞼が落ちてくるものだね。
それに、今日は両脇があったかいし。
子供って何でこんなに体温高いんだろう・・・
「そうだ。
明日、私見送る気ないから。
迎えが来たら勝手に行きなよ。」
「分かってるよ。
母さん、知らない人に会うの嫌いなことくらい・・・
何年、母さんの子供してると思ってるんだよ。」
数年しか生きてないくせに生意気言うなよ・・・
駄目だ。
もう、声を出すのも無理・・・
次の日、起きた時には両脇に子供らの姿は無かった。
荷物も綺麗に無くなっていて、
昨日の内に用意して台所に置いておいた弁当も無くなっていた。
そこにあったのは、「行ってきます」って書いた紙が一枚。
「行ってきます、ねぇ。
貴族の生活してたら、こんなとこ帰ろうなんて思わないって。」
あぁ、いやだ。
目にごみが入ったみたい・・・
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書くとしたら、
宿屋の名物女将な母の生活
数年後、天才として王都でも有名になった子供たちの学園生活
冒険者視点で、母や子供らを交えた感じ
のどれかかな?
定番だと、有名になって魔物退治とかしている子供の内の誰かの前に仮面の男が現れて・・・
後々、その正体が行方不明だった父親だ!とか?
長男:戦闘の天才。騎士でもいいけど、冒険者でも可。
次男:補助魔法の天才。研究職向き。
長女:攻撃魔法の天才。暴走癖。
※多分、三人ともマザコン。ついでにブラコン・シスコン。
引き取られた先でニコニコ愛想よくしているけど、心の中では憎悪しているし、
絶対に家(母の元)に帰るって思ってる。
本棚を全て(友人曰く漫画喫茶並)五十音順に並べるという無駄な作業をしていて「魔法使いの娘」「魔法使いの娘ニ非ズ」「魔法使いの嫁」と並んでいて「母」が欲しいって思ったことから・・・
でも、この母は「おかん」っていう方があってるかも・・・




