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この小説を読んで、笑ってくれたあなたへ。
告白します。あなたが大好きです。そんなあなたには、明日三つ良いことがありますので、全力で探してみてください。
この小説を読んで、損をした気分になったあなたへ。
お気持ちお察しします。おそらく十五分くらい、あなたの貴重な時間を奪ったことをお詫びします。お詫びの印として、明日三つ良いことがあるように祈りましたので、全力で探してみてください。
この小説を読んで、泣いてしまったあなたへ。
今までよく頑張りましたね。あなたが思うより百倍くらいあなたが魅力的だということを私が保証します。ありのままのあなたを愛せるように、たった今魔法を掛けました。とりあえず明日三つ良いことがありますので、全力で探してみてください。
では、本編スタート↓
その神社は、とある山の登山口付近にあった。
遠くから見ると、おにぎりみたいな形をした、絵本に出てくるようなかわいらしい山である。一周一時間半ほどのトレッキングコースがあり、気軽に登れる山として近所の住民に人気がある。千果も時間が空いた週末に、運動不足解消のためによく登っていた。
さて、その神社。
名のある神社ではない。社務所はもちろん、手水舎も絵馬掛所もない。神社用の駐車場はないので、車で参拝する際は、登山口の左隣にある、お墓参りをする人用の駐車場を拝借することになる。神社の参拝に、墓場の駐車場を利用する。その時点でなかなかシュールである。
階段を登りきると、テニスコート三つ分くらいの広場があり、奥の方に拝殿兼本殿があった。社殿の扉は、いつも固く閉じられていて、ご神体がなんなのかはわからない。誰が管理をしているのかも不明だが、それでもいつもきれいに掃除はされていた。
賽銭箱すらないので、扉の中央に開けられた小さな隙間に、千果は五円玉を差し込んだ。コトンと内部に置かれた賽銭箱に硬貨が落ちる音がする。扉の裏側に賽銭箱があるというのは千果の想像なので、もしかしたら、ただ床に落ちただけなのかもしれない。賽銭を投じる人はほとんどいないらしく、五円玉の立てた音はチャリンではなくコトンだった。
頭上から降りたボロボロのひもを引っ張り、錆びた鐘を鳴らす。それから千果は、長い髪を縛っていた紺色のシュシュを解き、軒下の缶の中に入れた。古びたお菓子の缶には、千果の入れたシュシュのほかにも、ボールペンやバッチ、メモ帳にボタンに使い古しの口紅、みるからに安物の指輪などが入っていた。どれも変色し、色あせている。
千果は社殿に向かって二度頭を下げ、二度拍手をし、目をつぶった。そして心の中で願い事を口にする。
(どうか、良い小説のアイデアをお与えください。)
沈黙。
静寂。
無音。
………。
しーん。
サイレンス。
一つ溜息をついて、千果は顔を上げた。何も心に浮かばなかった。当たり前だ。何の努力もせずに名作が浮かぶなんて、そんな虫の良い話はない。それでも心の中で感謝の意を唱えると、千果は社殿を離れて、脇の小道から続く、山頂へのトレッキングコースに向かった。まあ、いい。軽い運動をすることも、本日の目的の一つだ。




