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その頃のギルド長&指導員と呼び出しを受ける者

 イルがクイーンを倒す少し前のこと、冒険者ギルド長のドルックは拳に装着したナックルダスターを武器に一人で町に侵入したキラービーを殴りつけ倒していた。

 ドルックの戦闘スタイルは主に体術である。相手の相性によっては魔法を使用することもあるが、ほとんどは己の拳、または足が武器だ。


「うーん……予想以上に増えてるなぁ。早くクイーンを叩かなければ」


 拳で殴られたばかりのキラービーがピクピクと痙攣を起こしながら地面に伏している。

 それをトドメだと言わんばかりに足で踏みつけ、また一匹討伐を完了した。

 そんな彼の背後を音もなく近づく者が一人。ドルックは後ろを振り返ることなく口を開いた。


「やぁ、ラートくん。君も害虫駆除の手伝いに来てくれたのかい?」

「えぇ、不本意だけど。このままじゃゆっくりショッピングも出来ないんだもの」


 髪を掻き上げながら不服そうな表情でドルックと話をするのは戦闘訓練施設のオネェ系指導員であるラートだった。


「あっはっは! それは死活問題だね。一刻も早くクイーンを潰しておかないと。ちなみに何匹相手したの?」

「四匹よ」


 腕を組みながら四本の指を立てるラートにドルックは「へぇー」と呟いた。


「僕は六匹だよ。ラートくんに抜かされちゃうかもなぁ」

「よく言うわよ。一人で攻撃的になったキラービーを六匹も相手にしただなんて他の冒険者が聞いたら真っ青でしょうね」

「それ、そのまま君に返すよ」


 クイーンの指示により攻撃性を増したキラービーを一人で相手するのは危険が高く、少なくとも二、三人がかりでないと厳しい戦いになる。

 それを一人で対応する冒険者を引退した元ランクAのドルックとランクAの実力を持っているであろうランクEのラートの戦闘能力は上級冒険者の中でもずば抜けていた。


 そんな二人の前に新たなキラービーが姿を現れた。ギチギチと顎を動かし、二人に狙いを定めている様子。


「うーん……次から次へと困ったものだよ。クイーン探しが出来ないじゃないか。久々の討伐参戦なんだから筋肉痛になっちゃうよ」

「あらやだ、ドルックちゃんったら。筋肉痛とは無縁な身体をしてるくせに。素直に雑魚の相手はしたくないって言えばいいのにぃ」

「そう言ったらラートくんがアレの相手をしてくれるのかい?」

「嫌よぉ。アタシ、クイーンの毒針が欲しいの」

「毒針を?」

「えぇ。美容鍼灸のために使いたいから毒を取り除いて細く加工して鍼にしたいのよ。クイーンの毒針は刺激も強いから細胞の活性化も増すわけなの」


 頬に手を当てて美を追求するラートを見て、ドルックは「ラートくんらしいなぁ」と軽く笑う。

 そんな二人にキラービーは攻撃を開始した。勢いよく飛びかかる兵士蜂にドルックとラートはひらりと躱す。


「だから、アタシもクイーン以外はどうでもいいわけよ。ドルックちゃんに譲るわ」

「え~? 四匹も殺っちゃってるなら一匹くらい引き受けてくれてもいいんじゃない?」

「やぁよ。獲物を横取りされたくないんだもの」

「クイーンを見かけたら合図をするようにってお願いしてるし、そう簡単に倒されるような相手じゃないから安心しなよ」


 会話をしながらも二人はキラービーの攻撃を躱し続けていた。

 互いに始末するのを押しつけ合い、ドルックの方がそろそろこちらが折れるかと考えたときだった。


 キラービーの攻撃がぴたりと止んだのだ。


「?」

「あら?」


 急に止まるキラービーの攻勢に二人も口と動きを止めて様子を窺う。

 キラービーは何かを探るように顔をあちこちに向けている。

 それもそのはず、このとき女王であるクイーンキラービーはイルの魔法によって倒れたため、配下であるキラービー達への命令信号が途絶えてしまった。

 常にクイーンの指示を受けている兵士蜂はクイーンのサインが消えてしまったことに戸惑っている様子でもある。


「なるほどね」


 静かに呟くドルックがナックルダスターを装備する拳でキラービーを殴って地面に落とし、もう一度その拳でトドメを刺した。


「どうやらラートくんの心配が現実になったようだね」

「うっそぉ!? 誰かがクイーンを殺っちゃったわけ!? 合図も何もなかったじゃないの!」

「奇跡的にクイーンを倒せる人数と実力者がいたんじゃないかなぁ。いやぁ、残念だよ。格好つけてギルドを飛び出たのにクイーンを駆除するどころか発見すら出来なかったとは」

「あら、ドルックちゃんってば格好いい所を見せたい相手がいるのぉ?」

「そりゃあいるさ。男はいつだって気に入った相手には格好良く見せたいからね」


 いつものようににっこり笑うドルックを見たラートは何かに気づいたのか、一気に目を輝かせて、ずいっとドルックに近づいた。


「なになにっ? 恋バナ!? ちょっと詳しく聞かせないよー!」

「そういうんじゃないんだけどなぁ……」


 まるで得意分野だと言いたげに詰め寄るラート。恋愛話などが好きなようで、こうなったときの彼の圧はドルックもお手上げ状態である。


「ほらほら。それよりもクイーン探しをして毒針を譲ってもらえるか交渉した方がいいんじゃないの?」

「もぉー! 話を逸らしちゃうんだから! ……でも、確かにそうよね。素材が無事なことを祈って行きましょ」


 まだキラービー達は残っているが、指示する者がいなくなった今、戦意喪失とも言える彼らを討伐することは容易になったのでドルック達は後始末を他の冒険者達や憲兵に任せてクイーンキラービーの死骸を探し始めた。


 時間はそうかからなかった。中心部に近い場所へ向かっていると、憲兵達が沢山集まっていたのでおそらくあそこだなと察した。


「やぁ、お疲れ様」

「ドルックギルド長! お疲れ様です」

「クイーン討伐者は?」

「すでに聴取を終えたのでどこにいるかは……。後程報酬を受け取りにギルドへ向かうと思いますが」

「だそうだ、ラートくん」

「だそうだ、じゃないわよ。どっちにしろ丸焦げなんだから毒針もダメになってるわ。あ~ぁ、ざぁんねん」


 黒焦げで転がるクイーンを見て深い溜め息を吐き出したラート。

 今回は討伐が優先なので仕留める方法は問わないため、致し方ないとすぐに諦めはついたようではあるが。


「丸焦げで詳しくはわからないが、魔法のみで仕留めた感じかな?」

「はい。あまりにも回避するので相打ち覚悟で攻撃を受け、近距離で火魔法を放ち息の根を止めたとのことで」

「力技だなぁ。毒を受けたのかい?」

「腕に深く毒針が刺さったようですが、毒耐性持ちでして回復魔法も使えたそうなので傷はもう跡形もなくなっていました」

(いくら凶暴化したとはいえ、クイーンキラービーにそこまで自己犠牲を払わなくても……)


 少し思う所があったのか、ドルックは難しい顔をして顎に触れる。


「討伐者は何人だったの?」

「クイーンキラービーを相手にしたのは一人、冒険者イルです」

「!」

(イルって確か……)


 討伐者の名を聞いて驚くドルック。隣ではラートが聞き覚えがあるわねと感じて自分の記憶を掘り起こしていた。

 すぐにプニーの顔が出てきて、いつも「イル、イル」と言ってたことを思い出し、彼は「あぁ、プニーちゃんの契約者ね」とすぐに理解する。


「……本当に彼女一人で? 従魔のカトブレパスは一緒じゃなかったかい?」

「いえ、今回は連れていないようでした。魔紋鑑定もしたので間違いないかと」


 魔法を発動した際に残る魔力を調べると模様が出てくる魔紋。同じ模様はないとされているため、個人識別に利用されている。

 ドルックと話す憲兵が装着している眼鏡はその魔紋を瞬時に調べることが出来る魔紋鑑定眼鏡という名の魔道具で、冒険者ギルドに登録されている冒険者や犯罪者などの魔紋は全てデータ化されていて、眼鏡にもリンクしているためすぐに魔紋の持ち主がわかる仕組みだ。


「その代わり近くにいたもう一匹の従魔であるスライムと同じ冒険者のレイヤがクイーンの傍にいたキラービー退治を引き受けていたみたいですね。そのおかげでタイマンで戦闘出来たとのことです」

「なるほど。教えてくれてありがとう。僕は早速ギルドに戻るとするよ」

「あら、もう帰っちゃうの?」

「ギルドをずっと空けるわけにはいかないからね。部下達がてんやわんやしてると思うし」


 ドルックの言う通り、現在冒険者ギルドでは憲兵達による各冒険者の討伐成果の報告や、報酬金払い待ちの冒険者達が次々とやって来るため、ギルド職員達は大忙しとなり冒険者ギルドは阿鼻叫喚と化していた。






 リリーフの家を出て、その足でレイヤとプニーと一緒に冒険者ギルドへと向かう。討伐金を頂戴するためだ。

 外は倒したキラービー達を憲兵達が回収して、安全性も認められたため町の人達もぽつぽつと外に出てきている。

 「怖かったねー」と語り合う者もいれば、興奮気味で「フードでよく見えなかったけどうちの旦那に毒消し草を譲ってくれた人がいたのよ! 絶対イケメンよ!」と語るご婦人もいた。


「この様子だと死者は出てなさそうだね、良かった~」

「アドラシオンのおかげでもあるのか……。(色々と胡散臭いが)」

『僕も頑張ったよー。よー』

「うん。プニーも沢山戦ってくれてありがとうー」


 私の肩に乗るプニーの頭を撫でると、彼は嬉しそうに身体を揺らした。


 冒険者ギルドへ到着するや否や、そこは人、人、人の密状態である。

 どうやら緊急討伐にも関わらず多く参加した冒険者達の報酬待ちの列が出来ていたようだ。

 これは時間がかかるね、とレイヤと話しながらその列に並ぶこと三十分。あと二組ほどで受付に辿り着くといったところでギルド職員のフロワさんが私の存在に気づいた。


「イル様! ギルド長がお呼びですので奥へどうぞ!」


 一瞬でみんなの視線がこちらへと向けられる。ひぇ、怖い……。


「ギルド長から直々に呼び出されてるぞあいつ。一体何をしでかしたんだ?」

「いや、待て。あいつは例のカトブレパスを従魔にした奴だ」

「あんな弱そうなのがか? カトブレパスも大したことねぇな」

「バカ野郎! 相当ヤバかったんだぞ! 変なこと言うと報復されるって話だ!」


 待って待って! どこ情報なのそれ!? 報復しないから注目しないで!

 フロワさんもせめて受付に辿り着いたときにでもこそっと言ってくれたら良かったのに!

 ダラダラ冷や汗を流しながらレイヤとプニーにぎこちない笑みを向けて「……ちょっと、行ってくるね」と伝えた。


「わかった。終わったら外で待ってるから。プニーは俺が預る」

『ううん。僕もイルと行くー。くー』

「呼ばれたのはイルだけだからプニーは俺と留守番だ」

『えー……』

「プニー。そんなに長くはかからないと思うから待っててね」

『ほんとー? とー? それじゃあ待ってるー! るー!』


 ぴょんとレイヤの肩へと飛び移るプニーをレイヤに託して、私はフロワさんの案内により職員以外は入れないであろう奥へと進んだ。


 ……それにしても一体なんの話だろうか。やっぱりクイーンキラービー討伐についてかな? 大物を倒したので褒めてくれたり?


 そんなことをちょっと期待しながら、私はギルド長室へと案内された。

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