相打ち討伐と無茶をした結果
「ご、ごめんなさい!!」
「っ……イ、イル?」
『イルー!』
「え? レイヤ? プニー?」
どうやらぶつかった相手はレイヤとプニーだったらしく、慌ててレイヤの手を引いて起こした。
どうしてここにいるのかと尋ねたら、レスペクトからの伝言を聞いてリリーフの所に向かったのだと。
そしてクラフトさんやデジールから私はキラービー討伐に行ったって聞いて急いで探しに来てくれたらしい。
「ひとまずイルが見つかって良かった。走ってたけどキラービーがいたのか?」
「それが……」
現状を説明しようとした矢先、後ろから私を追ってきたキラービー率いるクイーンキラービー達が姿を現した。
「……なるほど」
説明する手間が省けたというべきか、レイヤはクイーン達を見て納得したようにぼそりと呟く。
「う、裏道にクイーンがいたんだけど、狭すぎて大きな魔法が使えなかったから開けた場所まで移動してきたのっ」
別に逃げてたわけじゃないよ!? 場所を変えただけだから! そう伝えるとレイヤは「ああ」と一言答える。
「大きい奴を叩けばいいんだな?」
「そういうことになるけど、結構手強いよ……」
「やってみる」
『僕も〜! も〜!』
レイヤが剣を鞘から抜くと、彼の肩に乗るプニーもなぜかやる気満々な様子を見せていた。
プニーはさすがに危ないから避難した方がいいんじゃないのかな。そう口にしようとしたら、すでにレイヤの姿はなく、彼は驚くべき速さでキラービーの群れに向かって走り出していた。
「ちょっ……!」
レイヤはクイーンに狙いを定めているようだが、相手もそれに気づいたのか、彼女を守る兵士であるキラービー達が先に襲いかかる。
「レイヤ! その数を一気に相手するのは危な━━」
その瞬間、キラービー達は真っ二つに斬られて地面に落ちた。
一匹や二匹だけじゃなく、レイヤに攻撃を加えようとするキラービー達が次々と。
あまりにも動きが速すぎてよくわからなかったけど、恐らくレイヤは自宅にあるバナナパウンドケーキを食べてから来てくれたのだろう。
そのおかげで能力上昇効果を得ているからキラービー達も難なく倒していくので少し安心した。
きっとそれだけじゃなくて戦闘訓練施設に通ってる効果もあるのかもしれないけど、剣の扱いが上手く見える。
そしてプニーもレイヤに負けず消化液を吐き出し、目を潰して応戦しているようだ。プニーもとても逞しくなってる。
でも、これならクイーンにも届くのではないだろうか? 私もこうしてはいられないと参戦するため魔法発動の準備をするが、相手の動きの方がやはり速かった。
レイヤとプニーに配下のキラービーを押しつけるようにして、彼女は変わらず私に狙いを定めて飛んでくる。
「! イル!」
レイヤがキラービー達を振り切ろうとするが、また新しい仲間を呼んでいたのか先程より数が増えたようで、彼も苦戦している様子だった。
「私は大丈夫だからレイヤはそっちに集中して!」
こちらは毒耐性スキル持ちだけど、レイヤにはそんなスキルはない。だから私の心配をしている暇なんてないはずだ。
裏道よりオープンなこの場所なら多少強い魔法を使っても大丈夫なはず。
「エクスプロージョン!」
爆発魔法を放った。大きな爆音もするし、むわっと一気に浴びる熱気に少し後退りしたが、範囲も広い魔法だから確実に当たっているし、避けきれないはず。
「!?」
しかし、クイーンキラービーは煙炎を突き抜け、怯むことなく私に攻撃する姿勢は変わらなかった。
確かに攻撃を食らっているはずなのに、クイーンも多少は傷を負っていることだって目視出来るのに、そこまでして襲いかかるだなんて。
『イルー! イルー!』
「イル! 逃げろ!」
この様子だと逃げてもずっと追いかけてくるだろう。おそらくこのクイーンは一度ロックオンした人間を刺すまで追いかけるのかもしれない。
鋭い毒針を見て身体が震えるけど、確実に仕留めるにはもう相打ちを覚悟しなきゃいけないだろう。
緊張で身体が固くなりそう。目の前の脅威に呼吸も乱れてくるけど、リリーフに怪我を負わせたのはこいつなんだと思うと決心がつく。
深く息を吐き、敵を睨んだ瞬間、私は顔面目掛けて突き刺そうとする毒針を避けるため、腕を立てて盾にした。
「いっ……!!」
「イル!!」
『イルー!』
腕を深く刺さる毒針のあまりの痛さに呻き声を上げてしまう。
しかし、ここがチャンスだ。ゼロ距離の今が。
「ッ……よくもリリーフを……ファイア、ピラー!!」
ドンッ! と地面から火柱が上がり私の目の前の魔物を焼き始める。
突然の火魔法に相手も驚いたのか奇声を発しながら私から針を抜いた。
「うっ……!」
解放されたのは良かったけど、その激痛に顔を歪めながらもクイーンから視線を外さないように注意する。
どうやら彼女は直撃した魔法から逃げることが出来なかったようで火柱の中で落下する音が聞こえた。
「あ、つっ!」
目と鼻の先にある火柱は焼けるような熱さでこちらも危険な状態だったから急いでその場から離れ、魔法の発動を解除する。
そこには黒焦げでぴくりとも動かなくなったクイーンキラービーが地に伏していた。
「やったかな……?」
心臓をバクバクしながら少し近づいてみる。……大丈夫そうかな? そう思って一安心すると、レイヤが駆けつけてきてプニーには顔面へと飛びかかられてしまう。
「うぶっ!」
『イルー! 大丈夫っ!? 大丈夫っ!?』
「だ、大丈夫だよ」
窒息するかもしれないと思い、とりあえず顔からプニーを引き離す。
「キラービー達は……?」
「親玉が倒されたせいで動きが止まったからそのまま退治した……が、イル……腕は大丈夫なのか?」
青ざめた表情でこちらの腕へと視線を向けるレイヤにそういえば深く刺されたんだった……と思い出した私も腕を見てみる。
刺された箇所からは当然ではあるが大量の出血をしていて、思わずクラッとしてしまう。
「い、痛い……」
「!」
張り詰めた緊張感がなくなったせいか、意識をすると腕に力は入らないし、急激な痛みにポロポロ涙がこぼれる。
『イルー! 死んじゃやだー! だー!』
「え、いや、死なない! 死なないから大丈夫!」
「早く病院に行くぞ!」
「待って待ってレイヤ! 私、回復魔法使えるから!」
私よりも慌てるレイヤとプニーを見ると涙は引っ込んでしまった。
なんとか二人を宥めてから負傷した腕にヒールをかけて傷を癒し、それを見せてから「ね?」と大丈夫なことをアピールする。
「毒は……本当に大丈夫なのか?」
「うん。毒耐性がなかったらきっと私もすぐ倒れてると思うよ」
「そう、か。……けど、なんで逃げなかったんだ?」
「え? 私が攻撃を受けた隙に攻撃出来るかなって……その方が手っ取り早いと思って」
事情を説明していると、レイヤは顔を顰め始めた。……もしかして怒ってる?
「だからってあんな無茶をしないでほしい。俺やプニーも心配するから」
「あ、ご、ごめんね……」
心配かけさせてしまったことに申し訳なさを感じてしまった。
確かに我ながら思い切ったことをしてしまったとは思うし、個人的には切羽詰まっていたこともあり、あれが最善かと思っていたのだけど……無茶といえば無茶ではあったかな。
……無茶するなってレスペクトにも言われたし、あとで怒られそう。
「いや……謝るのは俺の方だ。すぐにイルを助けてやれなかった。肝心なときに限って全然役に立たないな……ごめん」
申し訳なさそうな表情でいつの間にかレイヤの方が謝罪するから私は慌ててそんなことないよ! と答える。
「レイヤはプニーと一緒にキラービーを沢山の退治してくれたんだよ。そのおかげで私も集中出来たわけだし、むしろ感謝してるくらいだから。レイヤもプニーもありがとう」
『プニー頑張ったー! たー!』
プニーが嬉しそうに飛び跳ねる。レイヤはというと、私の言うことを信じてくれたのか、小さく笑ってくれたのでホッと安心した。
「……イルもお疲れ様。もう、あんな無茶だけはしないでくれ。頼りにならないかもしれないが、少しくらいは俺達を頼ってほしい」
「頼りにならないなんて思わないよ。……でも、遠慮していたのはあるかもしれないね。だからレイヤがそう言ってくれるならこれからはお互い遠慮なしに頼っていこう」
「あぁ、そうだな」
『僕も頼ってー! てー!』
「もちろんプニーも頼りにしてるよ」
こうして、町に侵入してきたクイーンキラービー及びキラービーの討伐は完了し、魔物回収に来た憲兵さん達に討伐数などの確認をされた。
町に魔物が出た場合、倒したあとの亡骸は憲兵達が回収を引き受けてくれる。
冒険者に任せると必要な素材だけ採取して放置する人もいるため、住民の迷惑にならないように彼らがギルドまで届けてくれるので凄くありがたい。
さすがに大きな虫ともいえるキラービー達を触るのはちょっと躊躇ってしまう。
ラミアのような上半身が人型ならまだなんとかアイテムバッグに入れることが出来るんだけど。
憲兵さんの聞き取りにて、一人でクイーンキラービーを倒したと伝えると、憲兵さん達は固まって「カトブレパスを手懐けた奴はすげぇな……」と、ぼそっと呟かれてしまった。
クイーンキラービーを討伐したということもあり、詳しい聞き取りが始まる。
町に現れた魔物ということで今後の対策のためにも戦闘時の様子など聞かれたのだけど、必死だったからなんとなくでしか答えられなかった。
そんな聴取も終わり、あとで冒険者ギルドへと向かえば緊急討伐の報酬金をいただけるそうなので、リリーフの様子を見てから行くことに決めた。
「このっ……馬鹿!! なんであんたはそうやって後先考えず危ないことするのよ!」
リリーフの部屋へ戻ると、目も覚めてすっかり元気になった部屋の主にこれまでのことを報告したら思い切り叱られてしまった。
「ただでさえ危ない状況で一人飛び出した上に、大ボスであるクイーンにも一人で挑むなんて普通に危険でしょ! いくら毒耐性やら回復魔法があるからって致命傷だったら意味ないでしょ!?」
「うう、ごめん……」
「……やはりあの娘はおっかいな、アドよ」
「いや、むしろ猛毒に侵されたあとだというのにあの回復力ですし逞しくてよろしいかと」
私の後ろではデジールとアドラシオンがコソコソと話をしていた。
デジールはちゃんとリリーフの傍にいてくれたみたいだし、アドラシオンも毒消し草を欲している人達に沢山配り回ったと聞いている。
そのおかげでキラービー達に襲われた人はみんな回復に向かっているそうで安心した。
「……でも、リリーフだって子どもを庇って毒を受けたんだから危険なのはお互い様だよ」
「子どもを盾にして逃げるわけにいかないでしょ。大人として子どもを守るのは当然のことよ。けど、イルの場合は無鉄砲なの!」
「はい……反省してます……」
結局、口でリリーフには勝てなかったので素直に反省を口にするとようやく彼女も落ち着いてくれた。
「とにかく、リリーフが無事で良かった。何かあったらイルも悲しむし」
『良かったー。たー』
「そうだぞ。毒消し草を持参した余のおかげである!」
「そうね。ちゃんとあたしの意見を尊重してくれたし、感謝してるわ。見直したわよ、ありがとうデジール」
いつもデジールに怒ってばかりだったリリーフが彼女をちゃんと褒めてお礼を言うなんて初めてじゃないだろうか。
「あ、ああ、う、うむっ! わ、わわわかればそれでいい!」
優しく微笑む姿を見るのはおそらく初めてであろうデジールはまさかこうも簡単にお礼を言われるとは思っていなかったのかもしれない。
その証拠に恥ずかしさと動揺が全面的に出ていて、顔を赤くしながら目を泳がせていた。
「アドラシオンもありがとう。毒消し草を他の人にも配ってくれたのよね?」
「我が主の命令ですのでお礼は結構です」
「いやいや、あんたらはうちの娘の命の恩人だ! とりあえず約束だ。下でパンを用意するから好きなだけ持って行きな!」
「ひとつで良かったのですが……まぁ、ご主人がそこまで仰るならばお言葉に甘えさせていただきましょう」
「そ、そうだな! うむ、そうしよう!」
リリーフが無事なのを一番に喜んでるクラフトさんはデジールとアドラシオンを連れて下のベーカリー屋へと降りて行った。
「あぁ、そうでした。イルさん、今回のこのアドラシオンの活躍、しっかりとその胸に刻んでおいてくださいね」
「えっ? うん」
そうだね。アドラシオンもそうだけどデジール達のおかげでリリーフを含め、町の人達も救われたし、今度ちゃんとお礼をしなきゃいけないね。
ぼんやりとそんなことを考えながら手を振ってアドラシオン達を見送った。




