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アーモンドビスコッティと新たな従魔

 翌日、ようやく私はレイヤと共にエルフの村へと旅立つ日が訪れた。

 もちろん、デジールによる訪問はない。昨日、リリーフにこっぴどく怒られたのが効いてるのだろう。

 しかし、魔王を叱りつける人間なんてリリーフくらいじゃないだろうか。


 昨日のことを思い返しながら、準備が整った私はレスペクトに出発する挨拶をした。


「レスペクト、行ってくるね。搾乳の時間にはちゃんとここにいるんだよ。じゃないと、リリーフが困っちゃうから」

『フン……従者を養わねばならないからな。それくらい言われなくとも理解している』


 ……と、彼は言ってますが、当初は一緒に行く気満々だった。

 しかし、エルフの村に行くには馬車に乗り継いで、さらに馬車に乗り継いで、それを繰り返した先の森の奥にあるという。

 もちろん、大きな身体を持つレスペクトが馬車に乗るのは無理だし……いや、そもそも従魔とはいえ大きな魔物を乗せてくれる御者がいるかどうか……。

 仮にレスペクトに合わせて徒歩で向かうとなると何ヶ月もかかってしまうだろう。

 そんなに長い日数離れたくないし、レスペクトのミルクを買取契約してるパティスリー・ザーネにも迷惑がかかる!

 だからレスペクトには沢山お願いをしてなんとか渋々ではあるが納得してもらったのだった。


 そんな苦労もあったなと思い出しながら、レスペクトに行ってきますと伝えて、レイヤと共にエルフの村へと向かう。

 天気も良好。いい旅路である。早速馬車に乗って最初の乗り換え場のある町へと向かった。


 数時間ほど馬車に揺られ、途中で休憩を挟みつつ目的の町に着くが、残念ながら乗り継ぐ予定の最後の馬車はすでに出発したあとだったようで本日はこの町に宿泊することに決めた。

 だが、小さな町なので宿は少なくてどこも満室。その日は町の外で野宿となった。旅立ち初日からツイていない……。


「うぅ……ごめんね、レイヤ。私の運がないばかりに野宿になってしまって……」


 町を出て野宿出来そうな林で今夜は休むことになった。

 適当に枝を集め、ファイアで火をおこして、前もって作っていたサンドイッチをアイテムバッグから取り出し、もしゃもしゃ食べながら項垂れる。

 野宿になる可能性も極めて高いとは思っていたので、事前に寝袋を用意していたとはいえさすがに初日からは幸先が悪い。


「俺も道中よく野宿していたから気にするな。雨が降られないだけ運がいいと思うし」

「そう言ってくれるなら少しは気持ちが楽になるけど……」


 空を見上げれば林の木々で隠れるとはいえ星が散らばっているのがよくわかる。確かに雨に降られるより全然マシだ。

 気持ちを切り替えて、私は前の夜に仕込んでいたスイーツを食べようとアイテムバッグから例の物を取り出した。


「レイヤ、スイーツ食べよっ」


 取り出したのはアーモンドビスコッティ。

 軟質小麦粉、膨らまし粉、砂糖、卵、油、アーモンドで作った物。

 ふるいにかけた軟質小麦粉と膨らまし粉、砂糖を混ぜて、卵も加え混ぜたら油も同じように入れてまた混ぜる。

 粗く刻んだアーモンドを生地に入れたら、一纏めにして平べったい形に整える。

 予熱で温めた石窯オーブンに生地を焼き、粗熱が取れたら生地をカットし、切った面を上にして再度オーブンに入れて二度焼きすれば出来上がり。


 それをレイヤに渡すと、レイヤからは用意してくれたコーヒーを受け取った。アーモンドビスコッティによく合う組み合わせなのではないだろうか。


「ありがとう、レイヤ」

「イルもありがとう」


 秋になり涼しくなったとはいえ、夜は冷え始めてきた。凍えるほどではないのだけど、火がなければ寒いと感じるかもしれない。

 コーヒーを一口飲んで身体を少し温めてから、アーモンドビスコッティを食べてみる。

 持った感触から思っていたけど、口にするとやはりと確信した。ガリッとした硬めの食感だけど、香ばしくて美味しい。


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レベルアップしました。ウォームライトを覚えました。


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 目の前に表示される画面を食い入るように見つめる。どうやら昨日に引き続き光魔法を覚えたようだ。

 しかし、私には光魔法を使いこなせないからあまり覚えたくはないんだけどなぁ。魔力の減りが尋常じゃないし……闇魔法もしかりだけど。


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・ウォームライト

温かい光を出すことが出来る。


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 詳細を確認するけど、どういうときに使えばいいのやら。植物を育てるときとか? ライトと違って温もりがあるくらいだしなぁ。


「使い道が難しいなぁ……」

(日焼けサロンとか……?)

「まぁ、いっか。ビスコッティ美味しいね、レイヤ。硬いけどそれはそれでクセになりそうな感じ」

「コーヒーに浸して食べると少し食べやすくなるから試してみるといい」

「コーヒーに?」


 そんな方法があったのか。へぇー、と呟きながら早速コーヒーに浸して食べてみる。

 確かにコーヒーの苦味とビスコッティの甘さが合うのでとても美味しかった。


「この食べ方も凄いいいね!」

「アイスとかにつけて食べるのもいいらしい」

「へー!」


 確かにアイスクリームにつけてみたいかも。今度はアイスを用意して食べてみたいなぁと考えながら次のビスコッティを手にした所でガサッと物音が聞こえた。


「!」


 まさか魔物? この辺りは強敵になるような魔物はいないから火さえ焚いとけば弱い魔物は近寄らないと聞いたのに。

 レイヤと共に身を構え、息を飲みながら音がした草むらを見つめる。


 ガサガサ、ガサガサ。ぴょん。


「……」

「えっ?」


 草むらから出て来たのは薄い緑色のスライムだった。火を灯しているから弱い魔物は寄って来ないのになぜスライムが出て来たのだろう?

 スライムはぽよぽよしたその姿でこちらの様子を窺っているように見えた。


「スライムだ……」

「スライムだな……」

「そういえば、スライム液がなくなりかけたから欲しいなぁって思ってたとこなんだよね」


 せっかくだからスライム退治をしようかな。そう思ったときだった。


『スライム液、欲しいの? の?』

「「!!」」


 喋るスライムだ! いや、私は言語理解スキルがあるから元からわかるんだけど、レイヤも理解してるみたいだし、なおかつこちらの言葉も向こうは理解してる。

 言語理解のスキルを持つ者同士なら会話は可能だけど、片方が言語理解のスキルを得ていなかったら言葉は理解出来ないので会話すら出来ないはず。

 恐らくこのスライムは言語理解のスキルではなく、誰とでも会話が可能な対話スキルを持っているのかもしれない。


『スライム液欲しいなら僕あげられる! る!』

「え? スライム液って倒さなくても手に入るの?」


 スライム液はスライムを倒したときに出てくる心臓となる核の中に入ってるのに、スライム自身で出せる物なのか?


『僕出せるよ。よ。それくれたらあげる! るっ!』

「それ?」

『甘くていい匂いするやつ! つ!』

「あ、ビスコッティのこと?」


 これ? というようにビスコッティを見せると、スライムはぴょんぴょん跳ねた。


『それー! れー!』

「……どうするんだ?」

「まぁ、戦わずにして交換してくれるのならいいのかも。どうぞ」


 話が通じる上に好戦的ではない魔物というのは有難い。こちらも戦わずにしてスライム液を入手出来るのは嬉しいし。

 スライムの前にビスコッティを渡すと、スライムはぷるんとした身体を近づけ、私の手ごとビスコッティをその身体に取り込んだ。

 突然のスライムの感触に驚いてぞわわっと鳥肌が立つ。ひんやりとしていて湿っているが、手の上のビスコッティは少しずつ容量が減っているのがうっすらと見える。

 ……待って。これ、溶けてる? 吸収してる感じ?


「まままま待って! 私の手も溶ける!!」


 慌てて手を引いてスライムの身体から抜き出した自分の手を確認する。

 ベタついた様子もなく、何も溶かされていないようで安心し、深い溜め息を吐く。


「よ、良かった……」

『大丈夫ー! ぶー! 食べ物だけ! け! これ、美味しい! い!』

「スライムもスイーツは口に合うんだね。美味しいなら良かった」


 不味いと言って襲われても困るしね。レスペクトもそうだけど、魔物ってスイーツもいける口なんだなぁ。


『スライム液あげるよー。よー』

「あ、ま、待って!」


 今出されても受け取る物がないので急いでアイテムバッグから未使用のコップを取り出して、スライムの前に置く。

 ぴょんとコップの上に乗ると、スライムは身体を捻って粘度のある液体を絞り出した。

 しばらくして、コップから降りるとコップの中には確かに無色透明のスライム液が入っていた。

 しかし、普通に倒したときに採取出来る量に比べると半分以下くらいだろう。

 まぁ、心臓となる核の中にあるものだし、人で言うと血液みたいなものかもしれないので、命を削っていると思うと少量でも有難いことだ。


「ありがとう、スライム」

『どういたしましてー。てー』


 ぴょんぴょんと跳ねるスライムはなんだか可愛くて思わず笑ってしまう。

 そこで帰るのかと思いきや、スライムはそのまま溶けるように身体をべたーと広げ、寝入ってしまった。警戒心のないスライムだなぁ。


「魔物……だよな?」

「うん。でも、こんなに人懐っこい子もいるんだね」


 まぁ、身の危険はないのでそのまま寝かせてあげることにして、私とレイヤも寝袋に包まり、就寝することにした。


 翌日、再び町に戻って馬車に向かうのだが、なぜか昨夜のスライムが後をついてくる。

 どうしたの? と問えば『スライム液欲しい? い? ビスコッティと交換ー! んー!』と言うのでビスコッティが欲しいのかなと思い、残っていたビスコッティをあげて再びスライム液をいただいた。

 ……なのに、スライムはどこまでもついて来る。結局、馬車にまで乗り込んで来たのでスライム分の運賃を支払って一緒に次の目的地まで向かう。


『スライム液いる? る? ビスコッティと交換! ん!』

「……またビスコッティを強請ってるな」

「まさかここまで気に入ってくれるとは思わなかったよ。あと数本くらいしかないけど、全部いる?」

『いる! る!』


 なかなかに食いしん坊なスライムだ。残りのビスコッティをスライムに与えれば、また私の手ごと身体を包んで器用にビスコッティだけを溶かして食べていく。

 最初こそはびっくりしたが、手が包まれる感触には慣れつつあった。なんだかこのひんやり感が気持ちいい。……溶かされないか心配してドキドキはするけど。


「ねぇ、もうビスコッティはなくなったからあげられないんだけど、これから君はどうするの?」

『? ついてくー。くー』

「えっ? ついてくの!? でも、もうビスコッティはないんだよっ?」

『従魔契約したー。たー』

「えっ!?」


 嘘、いつの間に!? 慌てて自分のステータスを確認すると、従魔の項目にはカトブレパスの名前しかなかったのに相手の言う通りスライムの名前が載っていた。


「ほんとだ……」

「いつ契約を交わしたんだ?」

『朝だよっ。よっ』


 朝ってことは二回目に強請られたときのこと? 確か従魔契約って人の手の甲に忠誠を誓う口付けをして、お互い拒否しなければ従魔契約完了となるはず。

 もしかして、ビスコッティをあげた際に手を包まれたときに口付けしたのだろうか。むにむにしてて全くわからなかった……。

 そりゃあ、確かにスライムにビスコッティをあげただけだから拒否も何もしなかったけど、まさか従魔になるなんて思わないし。


「……イル、従魔が増えるのは大丈夫なのか?」

「まぁ、従魔師っていう従魔を沢山従える人もいるから増える分には問題ないよ。それにスライムは可愛いしね」


 ……しかし、帰ったらまた従魔登録しに行かなきゃだ。従魔管理リングも作らなきゃいけないだろうし、帰ってからもやることが多いだろうなぁ。


「あ、それじゃあ名前が欲しいね。君はつけて欲しい名前はある?」

『なんでもいいー。いー』

「うーん……それじゃあ、ぷにぷにしてるからプニーでどうかな?」

(安直……)

『プニー……いいよ! よ!』


 喜んでいるのか、何度も跳ねながらプニーという名前を受け入れてくれたようだ。

 こうしてプニーを仲間に加えた私達は次の町まで馬車に揺られた。


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