芋けんぴと魔族の訪問
昨日の収穫祭が終わったあと、その日はさつまいも畑の人から貰っていた傷物のさつまいもを使って芋けんぴを作った。
材料はさつまいも、砂糖、水、油。
さつまいもは細いスティック状に切っていく。皮はついたままでも大丈夫とのこと。
切ったさつまいもを水に浸し、そのあとは布巾で水気を取る。あとは乾燥させるらしいのだが、ウォーターアブソープションで軽く水分を取っておこう。
完全に水分を取るとカラッカラになりそうなのでしっかり調整をする。
そのあとは鍋に油を入れて乾燥させたさつまいもを揚げていく。こんがりと茶色になったら大丈夫。
別の小鍋に砂糖と水を入れて溶けてきたら油を切ったさつまいもを投入。
しっかり絡めて水分がなくなってきたら網バットの上に乗せて冷めたら完成である。
和菓子に分類されるものなのでレイヤも凄く喜んでくれた。
味はもちろんレシピ通りに作っているので美味しく出来上がっていた。カリッとしていてついつい次へ次へと手を伸ばしたくなる中毒性があるようなスイーツだ。
そして芋けんぴで得た魔法がアイスランス。氷魔法である。
詳細説明には『氷の槍を放つことが出来る』と書いていて、ウォーターランスより威力がありそうだなと感じた。
収穫祭の翌日。いよいよ明日はエルフの村へ出発する日だ。そのため、本日は準備などを進めていた。
アイテムバッグがあるので多少の荷物があるくらいなんてことないので本当にこの収納魔法は有難い。
「レイヤ、着替えとか荷物になりそうな物ある? 私のアイテムバッグにまだ色々と入るよ」
「ありがとう。でも替えの服くらいは自分で持てるから大丈夫だ」
「……それだけでいいの?」
レイヤが持っていくであろう肩に引っ掛けるタイプの荷物袋をよく見ると旅に出るには少なめに見える。何日も家を空けることになるのに。
「短剣はあるし、着替えは洗濯とか出来るし、多く持っても大変だからな」
「そうなんだ」
すでに旅慣れしていそうな何かを感じる。私は王都までしか行ったことないけど、それでも片道は早くて三日、酷いときは一週間かかるので色々と用意はしておきたい性分である。
あれやこれやと準備をしつつ、ご飯になる物も作ってアイテムバッグに入れようかなと考えていたそのとき、家のドアをドンドンと叩く音が聞こえた。
一体誰だろう? 一番可能性があるのはリリーフだけど、まだベーカリーの仕事のはずだしなぁ。
「はーい」
ガチャッとドアを開けると、そこにはフードを被って顔を隠す謎の二人組が立っていた。
「……えっと……どちらさまでしょうか?」
なんだか怪しさ満点だし、レスペクトもよほど警戒しているのか、二人の後ろをぴったりとくっついて今にも邪視を使いそうなオーラを醸し出している。
しかし、謎の二人はそんなレスペクトに怯えたり怖がったりする様子がない。なんなのだろうか。
……ん? あれ? この二人そういえば昨日クレープの屋台にいた二人に雰囲気が似ている……ってことは!
「花の種をくれた人!」
「ふふふ……よくぞ余を覚えておったな。褒めてつかわす!」
「あの……昨日も収穫祭にいましたよね? なんで逃げたんですか?」
「うっ……それは……こちらにも色々と事情があるのだから仕方ないというか……」
相変わらずフードで顔を隠してるので表情が見えないけど、やはり声と身長からすると私より年下の女の子のように思える。
対して隣の人は一言も声を発しないし、女の子と同じく顔が見えないので男性なのか女性なのかもわからない。
『イル、離れてろ。こいつら人間の臭いが全くせんぞ。人型の魔物の可能性がある』
彼女達の後ろにいるレスペクトが鼻をスンスンさせながら二人の匂いを嗅いだようだ。
人間の匂いってどんなものかは私にはわからないけど、きっと彼には区別がつくのだろう。
というか、人型の魔物といえばハーピーとかセイレーンとかラミアとか半分人間で半分が鳥、魚、蛇とかそういうやつ!?
人間の言葉も理解して話しているから魔物だとしたらスキル持ちか、高い知性を持っていることになる。
「むっ。余を魔物呼ばわりとはこのカトブレパス無礼であるぞ!」
「……デジール様。やはり例のカトブレパスを欺くのは少々難しいかと」
「……魔物の言葉もわかるんですか?」
ずっと口を開かなかった人物がやっと口を開いた。声から察するに男性のようだけど、魔物の言葉までわかるのならますます怪しくなってきた。フードで顔を隠すくらいだし、やっぱりレスペクトの言う通りかもしれない。
「あの……失礼しますっ!」
関わってはいけないと思い、ドアを勢いよく閉めようとしたら男性が片足を差し込み閉めるのを阻止する。そして女の子がドアを開けようとその隙間に手を入れた。いやいや、危ないよっ! 手挟んじゃうよ!?
『貴様ら、私の従者から離れろ!』
レスペクトの強い雄叫びが響く。突風を起こすほどの威力だ。
「イ、イル!? 一体何が起こってるんだ!?」
さすがにレイヤも何か揉めごとが起きたのかと慌てて駆けつけて来てくれた。
「私が聞きたいんだけど、昨日クレープ屋にいた人達が人間じゃないってレスペクトがっ……!」
瞬間、ぞわっと寒気がした。これは、あれだ。レスペクトのプレッシャーを受けたときのやつだ。
怪しい二人組に向けて放っているんだろうけど、私もレイヤも巻き添えになっているので、身体に上手く力が入らないし、硬直したように動けない。
「これはこれは……この圧力はなかなかのものですね」
フードの男性がそう言うと、ゆっくりレスペクトに向けて腕を上げ、魔法らしき光が手から発する。その魔法は透明で大きな防護壁を作り上げた。
「シ、シールド……!?」
このレスペクトのプレッシャーを受けても腕を上げて、さらに魔法をかけるなんて! この人、レスペクトと同等かそれ以上の強さの人なのっ!?
『小癪なっ』
レスペクトが守りの魔法であるシールドに体当たりを始めた。大きな音と共にその一撃が凄く重いものだということが私の身体にまでビリビリと伝わる。
しかし、シールドは破られなかった。だが、大きなヒビが入っている。
レスペクトは何度も自身の身体や角を使って防護壁を壊そうとする。ヒビは次第に大きくなり、今まで冷静だった男性が少しばかり焦りを見せるような声色になった。
「一撃でヒビを入れるとは……称賛に値しますが、これでも何重にもシールドを張らせていただいているんですがね……」
「イル……なぁ、イル! 頼むから話を聞いてくれ! 余の頼みを聞いてくれ! 望むのなら我らの素性も明かすから話だけでも頼むっ!」
女の子の縋るような懇願の声を聞いてさすがに良心が痛み、無視は出来なかった。名前まで知っているのは新聞のせいなのか、それとも別の理由なのか。
怪しさ満点ではあるけど、危害を加えたわけじゃないから話を聞く分にはいいんじゃないかな……。
「レスペクト! お願いっ! ストップ、ストップ!!」
攻撃を止めてもらうために大きな声をあげると、ピタッと彼は止まってくれた。
同時にレスペクトのプレッシャーからも解放される。良かった、お願いを聞いてくれたとホッと胸を撫で下ろした。
『止める必要があるか?』
「話、だけでも聞こうと思って……。まだ二人とも何もしてないから先に手を出しちゃダメだよ」
『手を出される前に手を出すのだろうが。お前のその甘ったれた思考をどうにかしろ』
「あ、あはは……」
不機嫌そうなオーラを漂わせるレスペクトに返す言葉もないのだけど、とりあえず二人から色々と話を聞かなければ。
「と、とりあえず、そのシールドの魔法を解いてください。レスペクトが警戒しますので」
「……わかりました。どうせ壊されますしね」
男性にお願いしてもう少しで破壊されるところだった防御壁を解除してもらう。
私は閉じかけだった扉をゆっくり開いて、謎の二人の前に立った。
「それじゃあ、まずはちゃんと顔を見て挨拶をしてほしいかな。すでに知っているかもしれないけど、私はイル。あなた達が何者なのか、目的も教えて」
あくまでも優しく問いかける。尋問するような技量は私にはないし、そこまでするつもりはない。
「……その、驚くでないぞ? こっちは敵対する意思はないんだ」
女の子の方が躊躇う様子を見せつつ、真っ先にフードを脱ぎ始めた。フードの下から覗くのは美しいほどに輝く黄金の長い髪と赤ワインのような瞳。
少女に続き、隣に立っていた男性もフードを脱ぐ。彼は銀色の長い髪に女の子と同じ赤い目、モノクルをかけた執事服のようなものを身に纏っていた。そして少女の手にしたフードを受け取り、自身の腕に引っ掛ける。
「余は泣く子も黙る魔界の王、デジールである!」
腰に手を当てて胸を張る様子はどこか勇ましい。……しかし、今なんて? 魔界の王……?
「ま、魔界……って」
『なるほど、魔族か』
「はい。この方は紛れもなく魔族の王。魔王デジール様です。あぁ、申し遅れました。私はデジール様の側近アドラシオンと申します」
アドラシオンと名乗る側近の人がぺこりと頭を下げる。てっきりあの子のお兄さんとか保護者代わりの人かと思ったけど、彼女に仕えていた人だったとは。
「えっと、ちょっと待って。魔族がなぜ人間の土地に? まさか和平条約を白紙にして人と魔族との戦争を……!?」
かつて、人と魔族は何百年もの争いを続けていた。
畏怖嫌厭となる存在を排除するため、互いの住む土地を奪うため、理由は様々だったのだろうけど、人間側は人類の危機を守るためと銘打っていた。
魔族は人型で人間と同じ思考力を持ち、魔族はみな赤い目をしている。魔王の家系に至っては金色の髪を持っていると、その昔学生時代の歴史で習った。
何人もの冒険者や勇者と呼ぶに相応しいパーティーが魔界に乗り込むも、魔王に辿りつく前に倒されることばかりだったが、とあるパーティーが瀕死の状態とはいえ魔王と対峙した。
彼らの活躍により詳細は不明だが互いに干渉しないことを条件に和解することが出来て、人と魔族は和平条約を結んだ。
それ以来、魔族に襲われることも姿を見ることもなくなり、人は平和に暮らしたという子どもの昔話としても有名な話だ。
この出来事は五十年以上前のことなので人によればまだ最近のことだと言われる。
一部によれば本当に魔族が和解するのか疑問に思う人もいるし、もしかしたら王は魔族に操られたのではないかとか、魔族を飼い慣らして人に紛れ込ませているのでは、と噂を立てる者もいる。
だが、実際に私の目の前に魔族と名乗る人物……というか魔王と言う人が現れるということは和解したのをなかったことにして再び戦争を起こすつもりなのだろうか。
それで脅威になるであろうカトブレパスを従魔にする私を潰しに来たとか!?
「待て待て待て! 敵対せんと言っただろう! 勘違いするでない! そもそも戦争を起こしてたのは父上であり、余ではないのだぞ!」
「えっ? そう、なの?」
「そうだ。父上が和平条約を結んですぐに魔王を引退し、余が継いだのだからな」
でもそれって五十年以上前の話だよね? この子、どう見ても十代くらいにしか見えないのに……いくつなんだろう。
「えっと、それじゃあ、目的は一体……?」
「そなたに頼みがあってな。余にスイーツを作ってもらいたい」
「……えっ?」
なぜ魔王様が直々に私の元へやって来てはスイーツを作ってと言うのか全くわからなかった。
思いもしない頼みにどうしたらいいのやらと思っているとレイヤが「なぁ」と私に声をかける。
「魔界とか……魔族って結局なんなんだ?」
その問いを聞いた私はレイヤの世間知らずを思い出した。魔族についてもよく知らなかったとは。昔話とか絵本とか触れずに育ったのだろうか。
「き、貴様っ! 魔族も知らずに生きていたのか!? ついこの間のことだろう!」
「デジール様。彼らにとっての五十年弱は人生の半分以上を占める年数です。そもそも生まれていないかと」
「むむっ、寿命の短い奴らだな」
「す、すみません。彼、ちょっと世間に疎いので……」
一先ずレイヤに魔族について説明をすることにした。……なんだか子どもに昔話を聞かせるような気持ちになっちゃうなぁ。
レスペクトはどうでもよくなったのか、警戒しつつも腰を下ろして座り込んでいた。




