トライフルと配達後の頂き物
レイヤの帰還パーティーから数日。レイヤは商業ギルドで単発のお仕事を請け負って働きに出かけることにした。
収穫祭が終わったらエルフの村に行くので長期の仕事は受けられないため、その間の繋ぎとしてだそうだ。
お仕事は前に長期で働いていた木こりの仕事。経験があるからすぐに戦力になるし、単純仕事なのでそんなに難しいことがないとのことらしい。
私はいつものようにレスペクトからミルクを搾って、以前お世話になったデナーロ様の専属パティシエであるザーネさんが切り盛りする洋菓子店『パティスリー・ザーネ』へとミルクを納品する。
「おはようございまーす。カトブレパスのミルクを届けに来ましたー」
パティスリー・ザーネの裏口からノックをすると、その扉を店の主であるザーネさんが開けてくれた。
白いコックコートを身に纏う彼は帽子もしっかり被っていて、もみあげの部分から覗く金色の髪は少ししか見えないのにとても綺麗に見える。
「ありがとうございます」
相変わらず表情の変化が少なく、義務的な感じだけどいい人なのはよくわかる。
「こちら、前回使用した瓶です」
その証拠に前回納品に使った瓶を綺麗に洗浄して返却してくれる。別にそこまでしなくていいですよ、と伝えても彼は「いえ、これくらいなんてことないです」と言うので有難く受け取るのだけど、とてもきっちりした人なのかもしれない。
「いつもありがとうございます。こちら本日分のミルクです」
アイテムバッグに返却された瓶を入れると、すぐに搾ったばかりのミルク入りの瓶を交換するように次々取り出す。
他のパティシエさんが納品したミルクを受け取り、ザーネさんは受け取りのサインをしてくれる。
代金もその場で支払ってもらい、次回の配達日や本数を聞いて配達終了だったのだが……。
「イル様、少しお待ちいただけますか?」
「? はい」
いつもならここで失礼しますと帰るのだが、今日はそうではなかったみたいだ。ザーネさんの言われた通り、裏口の前で待っているとすぐに彼は戻って来て、小さな紙袋を手にしていた。
「こちらをどうぞ」
「え、えっ!?」
突然差し出された紙袋に戸惑う。一体なんなのかと思いながら紙袋とザーネさんを交互に見やる。
「新米が作ったクッキーです。焼き過ぎたり、見た目があまり良くないので売り物にならない物を集めたのですが味は問題ないですし、捨てるのは勿体ないのでよろしければ」
「そうだったんですね。ではお言葉に甘えていただきます」
ザーネさんは新米パティシエさんの指導までしているのだろう。売り物にはならないとはいえ、ザーネさんの指導とレシピから作ったであろうクッキーが食べられるのはちょっとラッキーである。
デナーロ様の豪邸で食べたときも凄く美味しかったし楽しみだ。
ザーネさんにお礼を言い、配達を終了した私は歩きながら早速クッキーをいただく。確かに焼きむらがあったり、形が歪なクッキーがあったりしたけど、味はとても美味しかった。ザーネさんの作った物ほどではないけど、それでも十分に美味しいと言えるもの。やはり新米でもプロはプロだ。
クッキーを摘みながら商業ギルドへと向かうことにした。最近は商業ギルドか冒険者ギルドでお金を預けてるのが日課なので。
一回の配達でかなりのお金をいただけるようになったこともあり、手元に置いておくのが不安なのだ。私のように運がない人間は特に。
どちらかのギルドにお金を預けておけば別々でお金を預けていても合算してくれるのでとても有難い。あとギルドカードで所持金の確認も出来るのでわざわざ自分で数えなくてもいいし、便利である。
お金を預けると夕飯や本日作るスイーツの材料の調達をしていたらいつの間にかお昼だ。
そしてこの辺りはアッシュさんの仕事場が近くにある。せっかく近くまで来たし、その足でアッシュさんの鍛冶屋へとお邪魔することに決めた。どうせならクッキーも分けてあげようと考えて。
「こんにちはー」
お仕事中かなと思っていたが休憩時間だったのか、アッシュさんはマグカップでコーヒーなのか紅茶なのか何かを啜りながら新聞を読んでいた。
「お? イルか。どうした? 注文か?」
「ううん。ちょっと近くまで来たし、ちょうどクッキーを貰ったからお裾分けに来ました」
「なら少し貰おうか」
「どうぞどうぞ」
いただいたクッキーをアッシュさんに分けると彼はボリボリ食べながら飲み物を口に含み「これはうめぇな」と絶賛していた。
しかし、マグカップの中の飲み物が私の目から見ると泥のような色をしていてコーヒーにも紅茶にも見えなかったので思わずジッと見つめてしまった。
「なんだ? これが気になるのか?」
「あ、はい。コーヒーでも紅茶でもなさそうに見えたので一体なんなのかと」
「泥湯だ」
「泥湯……って、泥が入ってるってことですか?」
「あぁ、泥水を沸かせたもんだな」
さすがドワーフ族……前は砂、岩を口にしていたけど、今日は泥を啜っていたとは。それでも人が口に出来るクッキーや料理も食べられるみたいなのできっと彼らは雑食なんだろうなぁ。
「そういや、しばらく注文を受け付けないからもし何か注文するなら今のうちだぜ」
「え? そうなんですか?」
「あぁ、大量の注文が入ってな。もうすぐ収穫祭の料理大会が始まるからよ」
アッシュさんが言うには料理大会に使用する道具の依頼が大量に来ているのだとか。切れ味のいい包丁、熱伝導率の高い鍋、鮮度が落ちにくいトレーなどなど。他にも持参した道具に付加魔法を願う依頼もあるとか。
少しでも料理大会で味を良くするために、毎年大会の前には沢山注文がくるのだという。
……私、そこまで考えてなかったな。確かに味や見た目も大事だから調理道具などを気にかけたりするのだろう。これはすでに優勝が遠くなってしまった……。
「しっかしよ、ああいう大会は使い込んだ道具を使ってやるのが一番だろ。使い勝手もわかるしな。大会当日で新しいもんを使っても余計手間取ると思うがなぁ。まぁ、そういうわけだからよ、料理大会が終わるまでは忙しくなるから注文すんなら今のうちだ」
「なるほど。そう言われると何か頼んでおこうかなって気になっちゃいますね。うーん、そうなるとどんな物を頼もうか……」
なんだかんだ商売上手なアッシュさんにより製菓道具の注文する気になった私は何を依頼しようか考えた。うーん。気になる物は色々あるもんね。カヌレ、シフォン、マフィン……。
「じゃあ、パウンド型はどうだ? 菓子作りなら何気にあの型は重宝するぜ。パンだったり、大きなプリンを作ることも出来るしな」
「へー! いいですね。それじゃあ、パウンド型をお願いします」
あとはいつものように大きさを変えられたりと使いやすさを重視し、アッシュさんに注文を終えると帰宅することにした。
本日作るのはトライフル。グラスの容器でスポンジや生クリーム、フルーツなどを重ねていくスイーツらしい。
材料は軟質小麦粉、卵、牛乳、砂糖、カトブレパスのミルク、そして好きなフルーツとのこと。
軟質小麦粉と卵、牛乳、砂糖で前に作ったロールケーキの生地の部分を作る。天板に耐熱ペーパーシートを敷いて生地を流し込み、予熱で温めた石窯オーブンで焼いていく。
そして前にシュークリームで作ったときと同じ要領で軟質小麦粉、卵黄、砂糖を使いカスタードクリームも作る。
出来上がったカスタードクリームは冷蔵庫に冷やしておいて、生地が焼き上がればサイコロ状にカットしていく。
あとは好きなように自分で重ねるだけとのこと。……センスが問われるなぁ。
グラスにレスペクトのミルクを混ぜた生クリームを底に入れてキウイを入れ、カスタードクリームを乗せて、また生クリーム、そしてイチゴ、カスタードクリームを順番に重ねると最後に生クリーム、そして飾り付けのイチゴを乗せたら完成である。
作ったことのあるレシピを応用して重ねるだけと思うとなんだか簡単なように感じちゃうけど、これはこれで美味しそうに仕上がってる。
「では早速」
ちょっと遅いお昼ご飯の代わりに出来上がったばかりのトライフルを食べようと、手を合わせていただきます、と声を出してスプーンを手に持つ。
「うんっ。美味しい! スプーンですくって食べるケーキみたい」
材料が材料だからというのもあるけど、生クリームにカスタードクリームという、このダブルクリームを一緒に食べるのもまた美味しい。
このダブルクリームをシュークリームにしてもいいんだろうなぁ。
========================================
レベルアップしました。魅了耐性を得ました。
========================================
お待ちかねのレベルアップ画面。今回はスキルを得たようなのだけど、魅了耐性とはまた発揮出来る日が来るのかわからないスキルだなぁ。
不運耐性とかあればいいのに。そろそろ運に対する魔法かスキルはないのだろうか。運上昇してほしい……。
========================================
・魅了耐性
魅了に対する耐性を得る。
========================================
相変わらずの詳細説明である。わかってはいた……わかってはいたけど、まぁ、名前のままだもんね。
そもそも魅了魔法を受けるようなことってあるとは思えないしなぁ。
ううーん、唸りながらトライフルを食べ終えた私は残りを冷蔵庫に入れて、夕飯の準備に取り掛かることにした。




