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エッグタルトとパーティー

 人の住む大陸に面した海の遥か向こうには魔族が住む魔界とも呼ばれる土地が存在する。

 その昔、人と魔族は敵対し、長い間互いの存続をかけた戦争が行われていたが、とある勇者の活躍により魔族と人は互いに干渉しないことを条件に和解することに成功した。

 それから魔族と人はそれぞれの住む土地で互いを傷つけることなく平和に過ごしたのだった。というのが、昔話として子どもによく聞かせる実話である。

 そんな魔界にある城の一室。思春期の少女と思わせる姿の彼女は執務用のデスクと向かい合い、何枚もの用紙にびっしりと文字を書き込んでいた。

 その視線は同じデスクの上にある水晶へと向けては羽根ペンを走らせる。水晶にはとある一軒家と人の姿、魔物が映し出されていた。

 その映像は少女がかつてイルに無理やり育てるように託した盗撮、盗聴することが出来るスターサーベイランスという花を通して映されている。

 魔力を注げば過去に花を通して見たものを同じように見ることが出来るし、遠くからでもリアルタイムで音声と映像を届けることも可能だ。


 一人で黙々と水晶に映るイルについての行動を纏めている少女、現魔界の王であるデジールの執務部屋にノック音が響いた。


「入れ」


 デジールが許可を出すと扉は開き、彼女の側近であるアドラシオン、通称アドがティーセットを手に部屋に入室した。


「失礼致します。紅茶をお持ち致しました」

「うむ。ご苦労」


 彼女のデスクにティーカップを置き、ティーポットを手にして香り高いジャストなタイミングで蒸らした紅茶をカップに注ぐと、側近は口を開く。


「研究の進捗はいかがですか?」

「飽きた」

「飽きたじゃありません。あなた様の責務でしょう」


 魔王という肩書きを持つ少女というのにアドラシオンは容赦なく叱責した。

 デジールは唇を尖らせながらティーカップを手にしてぐいっと一口飲む。


「しかし、アドよ……この花は映す範囲が決まっておる。一日の大半は娘が映らぬのだから暇で暇で仕方なかろう。せめて家の中にも監視花を仕掛けていたらな……」

「今さら遅いかと。それにレディーのプライベートまで監視するのもいかがかと思いますが」

「もう一度花の種を押し付けて今度は家で育てるように言い付けておくか……?」

「さすがにもう怪しすぎて廃棄されますよ。下手をすれば今そちらを映してる花も摘み取られかねないですし、ただでさえカトブレパスも警戒心高くしてましたからね」

「もう嫌だ……」

「どうせ暇でしょうが」


 うぐ、と言葉に詰まるデジールはデスクに項垂れる。逃げ出そうとしても執務室の外にはアドラシオンが立っているので息抜きすら許されない彼女の悲痛な叫びが城中に響き渡った。






「こんにちはー!」


 もはや常連と言っても過言ではないベーカリー・リーベに足を踏み入れ、機嫌良く挨拶する。そんな私の様子にどうしたのかと言いたげな目を向けたリリーフは私の後ろにいるレイヤを見て目を丸くさせて驚いていた。


「あ、あんた……!」

「どうも……久しぶり」

「レイヤね、昨日帰って来たんだよっ」

「……そう」


 不満そうな顔でレイヤを睨むリリーフ。うん……想像通りの対応だけど、相変わらずレイヤへの当たりがキツい。

 すると店の奥から店主であるクラフトさんが出来たてのパンを持って姿を現した。


「お、イルと……レイヤじゃねぇか!! 久しぶりだな!

帰って来てたのか!」

「あ、はい。お久しぶりですクラフトさん。昨日戻って来ました」


 クラフトさんが私よりもレイヤの方への反応が大きかったけども仕方ない。今日は彼が主役だ。クラフトさんもレイヤのこと心配してたしね。


「レイヤが無事に帰って来たから報告しに来ましたっ」

「わざわざありがとな。レイヤも元気そうで良かったぜ」

「ありがとうございます」

「よし、今日はうちでパーティーでもするか! リリーフ、夕飯の買い出し頼むぜ!」

「はあ? そんな急にっ? ……もう、いいけど」

「そういうわけだから二人とも夕方にまたうちに来てくれや。せっかくだからレイヤの話も聞きたいからよ」

「えっ、あの、俺が……いいんですか……?」

「ったりめーだろ! 待ってるぜ」


 ニカッと笑うクラフトさんの笑顔に胸がきゅんとしてしまう。私にももっとその笑みを向けてほしいんだけど、レイヤが主役なので欲張ってはいけない。


「それじゃあ、私もまた何かスイーツを作って来ますね」

「そうか? いつも悪いなぁ、楽しみにしてるぜ」

「はいっ」


 楽しみにしてるって……! これはもう気合いを入れなきゃいけないね。リリーフに白い目で見られたけど、気にせずクラフトさんにも喜んでもらえるようなものを拵えなければ!

 パンも購入し、また後程とリリーフとクラフトさんに伝えると一旦店を出て、自宅へ戻ることにする。


「そういえば」

「ん?」


 突然思い出したかのように口を開くレイヤに思わず歩みを止める。


「クラフトさんとは上手くいってるのか?」

「……いや、いつも通りというか」

「そうか……まぁ、頑張れよ」


 慰められてしまった。まさかレイヤがそのことを突いてくるとは思わなかったな。うぅ、レイヤがいない間もいつも通り脈がなさそうな日々を過ごしてますとも。


「それにしても私がクラフトさんのことを好きだっていうのレイヤに言ってたっけ?」

「言ってはないが見ればわかる」

「えっ……」


 見ればわかる……? その言葉を聞いた私は一気に顔を赤くし、レイヤに詰め寄って取り乱す。


「わ、私そんなにわかりやすいっ!? クラフトさんも気づいてる感じ!?」

「え、や、気づいてるかはわからないけど……少なくとも俺はわかりやすかったってだけだし。というか、前にリリーフとそんな感じの話してたからな」

「そ、そっか……気づいてたらどうしよ……」

「クラフトさんを見る限り気まずそうにはしてないし、嫌だったら夕飯を誘ったりしないから一先ず嫌われているわけではないと思うけど」

「なるほど! そうだよね!」


 レイヤの言う通りだ。とりあえずクラフトさんは私が近くにいても迷惑ではないはずなのでもう少し前向きに頑張ってみよう。少しでもクラフトさんに相応しい女にならなければ!


 一度自宅に戻った私はレシピブックを開き、本日差し入れるスイーツを選ぶ。相変わらずどれも美味しそうで迷ってしまうけど、迷っても仕方ないので直感で選ぶことにした。その結果、エッグタルトを作ることに決める。


 材料は軟質小麦粉、バター、卵、卵黄、塩、カトブレパスのミルク、牛乳、砂糖。

 ボウルの中にふるいにかけた軟質小麦粉、塩、数センチ角に切ったバターを入れて指で擦り合わせながら混ぜていく。

 卵を加えて混ぜてると防乾燥シートを被せて冷蔵庫に休める。

 打ち粉した上で休めた生地を麺棒で伸ばし、クラフトさんからお下がりでいただいたタルト型に合わせて敷き詰め、フォークで穴を開けたら生地はオーケー。

 小鍋に牛乳、砂糖を入れて火をかけたのち、粗熱を取ってから卵黄とレスペクトのミルクの入れたボウルに牛乳を少しずつ加え混ぜていく。

 そしてタルト生地にフィリング液を流し入れたら予熱した石窯オーブンで焼けばエッグタルトの出来上がり。


「出来た!」


 ヒートレジスタンスのおかげで熱々のタルト型を素手で持っても火傷をしない。しかし、まだ彼は知らなかった。


「!?」

「あ、レイヤ! エッグタルト出来たからそろそろリリーフの家に行く準備を……」

「や、火傷!!」


 そう叫ぶ尋常ではない様子のレイヤに、私がどんなふうに見られているのか気づいた。


「あ、大丈夫だよレイヤ! これ、耐熱の魔法をかけてるから熱くないし、火傷もしてないんだよ」


 慌ててエッグタルトをテーブルの上に置いて、両手を彼に見せる。魔法と聞いて安心したのか、レイヤは大きな溜め息を吐いてその場に座り込んだ。


「はぁ~~……魔法なら安心した。もしかしたら熱いことにも気づいてないのかと思って焦った」

「ご、ごめんね。さすがの私もそこまで鈍くはないから大丈夫だよ」


 それにしてもあそこまで焦るレイヤもなかなか見ることが出来ないからそれはそれで貴重ではあるかも。

 心配してくれてありがとうとお礼を言うと、照れくさくなったのか「あぁ……」と顔を逸らしながらも短い返事をしてくれた。


 そろそろ時間なのでエッグタルトをアイテムバッグに入れてリリーフの家に向かう。

 リリーフとクラフトさんのお家にお邪魔すると、急に決まったというのにしっかりとご馳走が並んでいてリリーフの料理の腕前が凄過ぎると友人を賞賛する。

 彼女の手料理に舌鼓を打ちながら、これまでのレイヤの旅の話で盛り上がり、収穫祭が終わったらエルフの村に行くという話もした。

 リリーフが少しレイヤのことを含めて不安と疑念を持つけど、クラフトさんが「二人なら大丈夫だろ!」と持ち前の太陽のような明るさに「ですよねっ!」と全力で頷いた。

 そんな話を交えつつ、食事はいよいよデザートタイムとなり、私は熱々の状態のエッグタルトをアイテムバッグから取り出す。

 リリーフが切り分けると、早速味見を兼ねてフォークで一口。卵とミルクの濃厚なクリームが熱々なのもあり、とろーりとして美味しい。


「美味い」

「んん! 相変わらず上手く出来てんだな!」

「美味しい……けど、生クリーム入ってるでしょ?」

「そうだよー。やっぱりレスペクトのミルクを加えると美味しさが引き立つよね~」


 みんなも美味しいと言ってくれたので安心して食べていく。リリーフは「また高価な物をタダで……」とぶつぶつ言っていた。


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レベルアップしました。コールドレジスタンスを覚えました。


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 おぉ。出た出た、いつものレベルアップ画面。これは氷魔法だなぁ。

 そんなふうに考えてると、私の目の前に浮かび上がる画面をみんなが覗き込んでいた。興味津々なんだろうなぁ。


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・コールドレジスタンス

寒さを感じることのない耐寒性の防御膜を張ることが出来る。


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 魔法の詳細も確認し、使い方もなんとなくわかったけど、ヒートレジスタンスほど使う機会はないかな。冬場になったら使えるかも。


「ほー。相変わらず、面白い魔法の覚え方するよなぁ」

「でも、運の数値も相変わらずなんでしょ」

「なぜか運だけステータスアップしないんだよね……他は上がるのに」

「……呪われてる、とか?」


 ぼそりと呟くレイヤに「まっさかー!」と笑う。さすがに呪いをかけられたなんてことがあれぱ自分でも気づいたり、覚えてたりしてるはず。

 ……結局不運な理由はわからないけど、運上昇みたいなスキルでも覚えたらいいのになぁ。

 いつかゲット出来るだろうかと夢を見ながらエッグタルトの続きを食べることにした。


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