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マドレーヌとドワーフの食事情

 本日は朝からマドレーヌ作りに励もうと思います。

 材料は軟質小麦粉、バター、蜂蜜、砂糖、卵、膨らまし粉。

 ボウルに卵をほぐし、砂糖と蜂蜜を混ぜ、ふるっておいた軟質小麦粉と膨らまし粉も混ぜてから溶かしバターも投入してまた混ぜる。

 そのあとは生地を休ませるためボウルに防乾燥シートを覆って冷蔵庫へ。

 休ませた生地を少し混ぜ、溶かしバターを塗って冷蔵庫に入れていたアッシュさん特製のマドレーヌ型に小麦粉をまぶし、生地を型に入れるとあとは予熱で温めていた石窯オーブンで焼く。

 こうして焼き上がったマドレーヌを型から外すため、ヒートレジスタンスで耐熱魔法をかけた手で型からポイポイと取った。


「出来た!」


 早速出来たて熱々とマドレーヌを一口。見た目も貝の形をして可愛らしいけど、食べてみれば蜂蜜のほんのりとした甘さとバターの風味、しっとり感がなんともいい。

 冷めたらさらにしっとりするのだろうか。せっかくだから冷めたマドレーヌもいくつか残して食べ比べてみよう。


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レベルアップしました。ファイアピラーを覚えました。


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 マドレーヌをもぐもぐしながらステータス上昇を知らせる画面が表示され、慣れた手つきで詳細を確認する。


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・ファイアピラー

火の柱を出現させることが出来る。


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「……だろうなぁ」


 名前からして火魔法だとは思っていたし、恐らく攻撃に特化した魔法だろうなとも思っていた。

 さすがに家の前を焼け野原にはしたくないので試すのはやめておこう。


 スイーツを作り終わるとちょうどお昼過ぎなのでこの前作ったラムレーズンアイスとマドレーヌを持ってアッシュさんのお店へと向かった。






「失礼しまーす」

「よぉ、イル。注文か?」


 鍛冶屋にお邪魔すればアッシュさんはお昼ご飯中だったのか、テーブルにはカレースープとパンが並んでいてそれらを食べていた。


「この前アッシュさんに頼まれたお酒を使ったスイーツを作ってみたのでお裾分けに来ました」

「お? もう作ってくれたのか。もっと先だと思ってたぜ」

「私も食べてみたいなぁと思ってましたので」


 アイテムバッグからアッシュさん用に盛りつけていたラムレーズンアイスとマドレーヌを取り出して、食事中のアッシュさんの前に差し出す。


「ラムレーズンアイスとこっちはお酒は入ってないけどさっき作ったばかりのマドレーヌです」

「ほぉ……ちょっと口直しにいただこうか」


 そう言ってアッシュさんはラムレーズンアイスから口に運ぶ。

 彼に気に入ってもらえるだろうかとドキドキしながら見守るとうんうんと頷きながらマドレーヌにも手を伸ばして食べた。

 ……しかし、感想がない。アッシュさんは無言で食べ続けていて、途中でマドレーヌにアイスをつけて食べたりしていた。


「アッシュさん……味は大丈夫そうですか?」

「ん? あぁ、なかなか美味いな。マドレーヌに酒が入ってないのは残念だが、洋酒を浸して食うのも美味そうだろうな」


 不味いわけではなさそうだったので安心した。それにしても洋酒のマドレーヌかぁ。洋酒でしっとりしたマドレーヌも美味しそうに思える。

 そう考えていたらいつの間にかアッシュさんに差し入れしたスイーツは空になっていた。おぉ、早い。


「馳走になったな。マドレーヌの型も使ってくれてこっちとしても作ったかいがあったもんだ」

「お口に合って良かったです」

「食後のデザートにしとけば良かったなぁ」


 少し残念そうに笑いながらアッシュさんは食べかけだったカレースープに手を伸ばす。

 そういえばパンと思っていたものをよく見るととても黒い。焦げたパンのように見えるけどそれにしてもゴツゴツとした硬い石のようだ。

 カレースープの色も肌色っぽく見えるのでよく知るカレーとはまた違うように感じる。


「アッシュさんのご飯ってあまり見ない色合いですね?」

「あぁ、人間はあまり見ないだろうな。これは砂飯、岩飯と呼ばれるもんだ」

「砂……? 岩……?」

「これは黒塩岩。海に沈んでる岩で海水に浸かってたから塩みがあって美味いんだよ」


 石のような焦げたパンだと思っていた物はどうやら岩だったようだ。……って、岩? 岩を食べてるの!?


「い、岩って食べられる物なんですか?」

「まぁ、人間には無理だろ。歯が脆いしな。だが、ドワーフは別だ。ワシらにとっちゃ岩も砂も食料だからよ」


 ドワーフの食事について詳しく教えてくれたんだけど、ドワーフ族の歯は人間よりもとても丈夫で消化器も強いらしい。

 岩や砂、粘土、なんなら樹木だって食べられるらしいんだけど、木はしっかり料理しないと口の中が刺さるのだとか。


「もちろん、調理や味付けしなきゃ味気ないぜ。黒塩岩は味があるからそのままでも食えるが」

「じゃあ、そっちのカレースープも?」

「おう。こっちは砂漠の砂が入ったカレースープだ」


 なんと……砂漠の砂入りカレースープだったとは。試しにアッシュさんがスプーンですくってみるとスープの液体に混じってサラサラした砂も流れ落ちた。


「ドワーフって物作りが得意だから砂や岩って商売に必要な物でもあるのに食材にもしちゃうんですね」

「まぁ、ドワーフにとったら身近だからな。食えるなら食っちまうし、仕事で余った素材も飯の材料にしちまうな」


 へぇー。と呟きながら初めて知るドワーフの食事情はなんだか興味深かった。

 黒塩岩を手に取ったアッシュさんはそれに齧りつくとガリッゴリッととても硬そうな音を立てながら食べていて、あまりにも普通に食べるのだから私も食べられるのでは? と錯覚をしてしまいそうになる。


「間違っても食おうとすんなよ。歯がなくなるからな」

「……はい」


 美味しそう、と思ったのが伝わってしまったのか、アッシュさんに注意を受けてしまった。


 アッシュさんへの差し入れも終わり、家に帰ることにした私は自宅に近づくにつれて何やら人の姿が遠目から見えた。

 レスペクトの小屋を建設してる大工さん達のようには見えないんだけど、お客さん?

 こんな町外れの家に来る人なんて知り合いとかくらいなんだけど。知ってる人かな?

 少しずつ近づいてみると、その人物はレスペクトと対峙しているように見える。もしかしてまたレスペクト狙いの不届き者だろうか。

 後ろ姿だからわからないのだけど、レスペクト相手に男一人で挑んでいるようだ。


「まさか、魔物がここまで来るなんて……」


 聞き覚えのある声だった。久しぶりに聞いたけど、そんな遠い昔でもない。

 もしかして、もしかしてあの人は……!


「レイヤ!」


 声をかけるとその人物は振り返る。間違いなく、レイヤだった。


「イル……! 魔物がいるからこっち来るな!」


 あ、そうか。レイヤはレスペクトのことは知らないんだった。ちゃんと彼に説明しなければ。


『イル、誰だこいつは。危害を加えるようなら潰しておくからな』


 ああっ、レスペクトにも説明しないと邪視を発動されてしまう! 自身のテリトリーに入られたと思ってちょっと怒ってるみたいだし。


「ま、待ってレスペクト! 彼はね、私の友人なの! 危害を加える気はないから一先ず落ち着いてっ」

「おい、イル!」


 慌ててレスペクトの元へ駆け寄り、レイヤに攻撃を仕掛けないように必死に伝えた。

 危険だと訴えようとしたレイヤはそんな私の様子に疑問符を浮かべながらゆっくり私達に近づく。


「……イル? それ、魔物だよな……?」

「あ、うん。レイヤ、驚かせてごめんね。彼はね、カトブレパスのレスペクト。色々あって従魔契約したから襲ったりしないよ」

「よくわからないけど……ペットみたいなものか?」

『ペットだと!? 私をあのような隷属と一緒にするな!』


 ひぇ……レスペクト怒ってる。レイヤはちょっと世間に疎いだけだからそのこともしっかり説明しないと。

 これはちょっと大変だろうけど、一匹と一人にしっかりと話をしなければ。


「レスペクト。彼はね、レイヤって言って大切に育ったから少し世情に疎いの。でも凄くいい人なんだよ」

『フン……温室育ちの坊主だろうと礼儀がなってないな』


 なんとかレイヤをフォローしてみるものの、レスペクトは鼻を鳴らして不服そう声を漏らす。

 すると、レイヤは戸惑ったような声で私に問いかけた。


「……なぁ、会話が出来るのか?」

「うん。覚えたスキルで魔物や動物の言葉がわかるようになったの」

「そうか。しばらく会わないうちに色々と覚えたんだな」

「そうだよ。色々と話をしたいことがあるからね」


 レイヤがこの町を離れて一ヶ月以上は経っている。そんなに長くはないはずなのに凄く久しぶりに感じたけど、無事にまた戻って来てくれたことは純粋に嬉しくて、レイヤに目一杯の笑顔で伝えた。


「おかえり、レイヤ! 帰って来るのを待ってたよ」

「あ、あぁ、ただいま……」


 再び帰って来たレイヤに出迎えの挨拶を口にすると、彼は照れくさいのか後頭部を掻いて目を逸らしたあと、しっかりとこちらに目を合わせて帰宅の挨拶で返してくれた。

 ……レスペクトの警戒心は解ける様子はないのだけど。


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