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ラムレーズンアイスとプレオープンした洋菓子店

 本日は予定が二件入ってる。一つは二日前にアッシュさんに依頼をして作ってもらったマドレーヌ型を引き取ること。

 ケーキ型の出来栄えに感動を覚えたし、このまま彼に他の製菓道具を作ってもらおうと決めたため、次はマドレーヌ型を注文したわけである。

 鍛冶屋さんだからマドレーヌ型って伝わるのだろうかと心配したが、アッシュさんは「あぁ、あの貝殻みてーなやつな」と理解してくれてるみたいなので助かった。

 そしてもう一つの用件というのが、以前私がペットのお世話をする仕事をさせてもらったときがあったんだけど、そこのお金持ち貴族さんである旦那様の専属パティシエさんが手がけるスイーツ店がプレオープンするとのことで、私は旦那様から招待されたのだった。


 人通りの多い所に出来た新店舗は場所も良く、立地だけでもお金がかかってるんだろうなぁというほど人目に引くお洒落なお店にやって来た私は入口に立つ執事さんらしき人に招待状を差し出した。確かこの人は旦那様の屋敷にいた人だ。


「お待ちしておりました、イル様。どうぞ中へお入りください」


 執事さんにお店の扉を開けてもらい、入店するとふわりと甘い香りが漂った。中はカフェスペースもあるお店のようでお店の店員さんに案内されて予め用意していたであろう席に座る。

 店に入ったときにちらりと見えたショーケースには美味しそうなケーキが並んでいたし、近くの棚にはクッキーなどの焼き菓子もあったので、恐らく匂いの元はこの香ばしいクッキー達だと思う。

 しかし、周りの人のお召し物を見てみれば、貴族やら富裕層の人達ばかりのようだ。……それもそうか、大豪邸に住む旦那様なのだから交友関係にしろ知り合いにしろ同じ生活水準の人がほとんどだもんね。

 あぁ、でも新聞記者の人もいるみたいだからメディア向けの人も招待されているのだろう。それでも、華やかな人達に圧倒されてしまう。ちょっと場違いなのでは?


「やぁ、イル。来てくれてありがとう」

「旦那様っ! 本日はご招待いただきありがとうございますっ」


 旦那様……もとい、デナーロ様が挨拶に来てくれたので慌てて席を立ち頭を下げる。


「そうかしこまらずいつも通りでいいよ」

「は、はは。なんだか緊張しちゃいまして……本当に私を招待しても良かったのでしょうか? 場違いな気がして仕方ないです……」

「もちろん、いい材料を購入させてもらってるんだ。君のおかげで販売するスイーツの種類も増えたからそのお礼も兼ねての招待だよ。それにこの店は何もターゲットを貴族や富裕層向けにしたものではなく、一般の人にも手を出しやすい物も用意してるから場違いなものか。まぁ、今日は私の知人や友人ばかりでそのように思ってしまうのだろうけど」


 その言葉を聞いてちょっとは安心した。恐らく高価な材料を使ってる生クリームやチョコレートは富裕層向けかもしれないが、それ以外なら私達のような一般民でも口に出来る物もありそうだ。

 富豪の旦那様のお店だからついお金持ち向けなのかと思ってしまったけど、購入する人の制限がないのなら普通の洋菓子店と変わらないのかもしれない。


「そして、この者が私の専属でもあるパティシエのザーネだ」

「初めまして、イル様」


 旦那様の傍らにいたパティシエ服を身に纏う三十代くらいの男性がぺこりと頭を下げる。その顔は笑ってはいないのだが、無表情というには悪い感じはしない。


「あ、こんにちは。以前いただいたザーネさんのクッキーとても美味しかったです」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、早速試食をしてもらおう。彼、表情は硬いが、スイーツを作るのは一級品なのでぜひ味わってほしい」


 旦那様が作ったわけではないのにとても自信満々の表情を浮かべるのだからよほど彼の作るスイーツがお気に入りなのだろう。

 そしてザーネさんは私の前にいちごの乗ったショートケーキを差し出してくれた。


「イルの従魔であるカトブレパスのミルクをふんだんに使ったショートケーキだ。生クリームだけでなく、いちごや小麦粉もクリームに合う物を選んでいる」

「おぉ……」


 なんというか見るからに美味しそう。ケーキが輝いて見えるくらいにすでに見た目が美味しいと伝わってくる。

 お洒落なフォークを手にしていざ実食!


「!」


 えっ? これ、本当にレスペクトのミルクで出来た生クリーム? 私が作ったショートケーキと全然違う! とろけるような口当たりで濃厚な味が最大限まで引き出していて、ふわふわのスポンジとの相性が凄くいい。

 間に挟まっているいちごも甘味と酸味のバランスも良く、頭上にあるいちごなんて大粒だし、キラキラしてる。

 これがプロのパティシエと素人との差なのか!


「凄く、凄く美味しいです!」

「それは良かった。帰りはお土産にクッキーも配布しているのでそちらもぜひ堪能してくれ。では、私は挨拶回りに戻るからゆっくりするといい」

「はいっ! ありがとうございます!」


 旦那様が次のテーブルへと向かうと、ザーネさんは会釈して彼のあとに続いた。

 しかし、同じクリームを使ってるはずなのにこんなにも出来が違うなんて……。


「私が作ったショートケーキはどうやって作ってたんだったかな……」


 誰にも見られていないか確認したあと、テーブルの下でレシピブックを出現させてからテーブルの上に置き、パラパラとページを捲る。

 レシピと手順を確かめて、私が作ったショートケーキと何が違うんだろうと首を傾げた。


「ザーネさんのショートケーキって凄いんだなぁ……」


 ぽつりと呟くとレシピブックが一人でにパラパラと勢いよく捲り始める。

 え? と思うも、レシピブックは真っ白なページでその動きを止めた。

 何も書かれていないページに一体どうしたのだろうかと考えると、しばらくしてから文字と写真が浮かび上がってきた。

 それだけじゃなく浮かび上がった内容は紛れもなくレシピだったのだけど、その料理名が『ザーネ特製ショートケーキ』と書かれていて、材料と作り方もしっかり記載されている。


「!」


 慌ててレシピブックを閉じた。

 いやいやいや、これは良くないんじゃないかな!? せっかくザーネさんが沢山試作して作り上げたケーキなのに簡単に私のレシピブックに載せちゃいけないと思うんだけど!

 そりゃあ凄く美味しかったし、自分で作れるのは嬉しいけど、このショートケーキはザーネさんが一生懸命作ったものだ。彼の許可なく作るのは良くないのでこのレシピは封印しよう。

 ……それに材料にキングストロベリーとか白銀の軟質小麦粉とか聞き慣れない材料ばかりだったので入手するのに一苦労しそうだ。

 そんなまだ知らないレシピブックの力に驚きながらも私はショートケーキを完食し、お土産としてクッキーをいただくと、旦那様の洋菓子店をあとにした。


 その足でもう一つの予定に入っているアッシュさんの鍛冶屋さんへと向かう。


「こんにちはー」


 お店に入ると彼はお仕事中だったようでゴーグルをかけながら上等な剣を叩き鍛えていた。

 随分と集中しているようで邪魔をしちゃ悪いと思いながら勝手に空いている椅子に座ってアッシュさんの仕事をする背中を見守る。


「……まったく、引き取りに来たと一言告げたらいいものの」


 しばらくしてから鍛冶仕事が終わったのか、アッシュさんが溜め息混じりにゴーグルを額に上げて、仕上げた剣を台の上に置いた。どうやら私がお邪魔していたことに気づいていたようだ。


「えへへ、邪魔しちゃ悪いかなと思いまして」

「声かけりゃそこのテーブルに置いてるから持って行きなと言えたんだがな」

「まぁ、特に急いでるわけでもないので」


 テーブルの上、と聞いて近くのテーブルを見てみると、私の名前が書かれたメモと共に紙袋に包まれた物を発見する。

 中身を確認しようと紙袋を開くと、注文した通りのマドレーヌ型が仕上がっていた。数は九個分だ。


「わぁ、アッシュさんありがとうございます!」

「軽量化に加え、魔力を込めたら最大十八個分の型まで広げることが可能だ」


 予めケーキ型のように自在にサイズを変えることが可能か尋ねたら当たり前だと返されたので、そのように注文した。その方が収納場所にも困らないしね。

 試しに魔力を込めてサイズを変えてみる。九個入りのマドレーヌ型が十八個入りへと大きさが変わった。うん、便利だ。


「そいやお前さん収穫祭の料理大会に出るんだってな? クラフトから聞いたぜ」

「ク、クラフトさんからですか!? ほ、他に何か言ってましたか?」

「他に? あぁ、もう一人出来た娘みたいなもんだから応援してやらねーとな、とか言ってたな」

「そう、ですか……」


 クラフトさんが私のことを話していた! と、テンションが上がったら未だに変わらない娘扱いに上がったばかりの気分も大きく下降した。


「まぁ、程よく頑張りなよ。あー、もし酒の入ったスイーツ作る機会があればワシにも分けてくれんか? クラフトが美味い美味いって言うから気になっちまってな」

「あ、はい。それなら今度何か作って来ますね! とは言っても趣味で作るレベルなのでそこまで期待しないでもらえると助かります」

「構わん構わん。ドロ水啜るわけじゃねぇからな」


 こうしてアッシュさんと約束し、鍛冶屋を出ると早速レシピブックを開いてお酒を使ったスイーツを探してみる。

 目に入ったのはラムレーズンアイスだ。ラム酒漬けのレーズンがあればいいのか。

 ラムレーズンの作り方も載っているけど、漬けるのに時間を要するため、ラムレーズンだけは購入した方がいいだろう。

 でも、自家製のラムレーズンも作ってみたいし、そのうち挑戦してみようかな。


 そういうわけでラムレーズン入りの瓶を購入し、他にも買い物やご飯用のパンも欲しいのでベーカリー・リーベへと寄った私はマドレーヌ型と共に帰宅した。


「では、早速ラムレーズンアイスを作りたいと思います」


 材料は牛乳、カトブレパスのミルク、卵黄、砂糖、ラムレーズン。

 小鍋に牛乳、卵黄、砂糖を火にかけて焦がさないように煮る。

 カトブレパスのミルクを加えてよく混ぜたらボウルに移し、冷凍するのだがレシピをよく見れば『魔法で凍らせてもOK』と記載されている。

 魔法で凍らせる……フリーズが使えるからそれでもいいよってことだろうか。

 レシピブックがそう書いているのなら一度試してみようとボウルに入っている液体に凍結魔法をかけてやる。カチコチと完全に固まらないように気持ち抑えめで。


「フリーズ」


 そう呟けば一瞬で凍りついたアイスクリームの液体に「おぉ」と言葉が漏れる。ちゃんと力は少し抑えめにしていたので多少混ぜやすい固さにはなっていた。

 急いでラムレーズンを投入し、アイスを混ぜて再びフリーズを使ってやればラムレーズンアイスの完成だ。

 ガラスの器に盛ればさらに美味しそうな見栄えになったので、いそいそとスプーンを手に取り、一口すくって口の中へ。


「んん!」


 ほのかに香るラム酒、クリーミーなアイスと漬け込んだラムレーズンがとても美味しい! アルコールも効いているし、アッシュさんも喜んでくれるのではないだろうか?


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レベルアップしました。ダークネスを覚えました。


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 目の前に表示された画面はいつものステータスのお知らせ。しかし、気になる言葉が書かれていた。


「ダークネスって確か……」


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・ダークネス

暗闇を生み出すことが出来る。


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「や、やっぱり! 闇魔法だ!」


 詳細を見て確信する。私は光魔法だけでなくとうとう闇魔法まで使えるようになってしまった。

 ……待って、これ全属性使えるようになったのでは? さ、さすがに全属性の魔法を使えるなんて高等な魔法使いでも一握りいるかどうか。


「……ダークネス」


 物は試し。初めての闇魔法を使うと部屋の中がフッと暗闇に包まれた。

 ただ電気が消えたとかではない。無、なのだ。普通は暗くなってもしばらくすれば家具や自分の手など見えるはずなのに全く何も見えない。

 そんな闇に染まった世界に恐怖を感じてすぐに魔法を解いた。


「……こ、怖かった」


 目の前にはいつもの自分の家の中の風景。光魔法と同じく魔力の消費も激しいようなのでこちらもお蔵入りになるのではないだろうか。闇に包まれるのだからもはや恐怖でしかない。

 冷や汗を拭いながらある意味残暑を吹き飛ばす涼を得た気もしつつ、ラムレーズンアイスの残りを食べることにした。


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