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墓参りと賑やかな日常

 解呪魔法を使用出来るようになった私は最初に母の形見である呪術をかけられた懐中時計で試してみた。結果は問題なく解呪に成功。

 これ以上人に迷惑もかけることがなくなり、私の不運もなくなったと思うと嬉しくて仕方なかった。長年悩まされた運の悪い出来事もこれでおさらばである。


 しかし解呪魔法を得たからには私にはまだやらなければならないこともあるのでずっと喜んでるわけにはいかない。そのため私はすぐにテレポートでエルフの村へと赴いた。フェーデがかけたシャイの呪術を解くために。

 解呪は無事に成功し、彼女にかけたストッパーとしての役割を果たした不死の呪いも解除した。

 シャイからは泣きながらの謝罪とお礼を沢山いただいた上に村長さんからも何度もお礼を告げられる。むしろこちらの方が助けるためとはいえ、村長さんの許可もなく呪術を無断で孫娘にかけたことを謝らなければいけないのに。


 そんなやりとりをしてから私は最後に魔界へと転移した。フェーデとの因縁を終わらせるために。






「本当にジャグの意識を残しておいて良かったのですか?」


 全てを終わらせ、魔界のお城の地下にある牢獄から出るとアドラシオンが少し心配そうな表情で尋ねてきた。その問いかけには躊躇うことなく頷く。


「うん。いくらフェーデでも一人は寂しいだろうし……それに私は彼女みたいに大切な人を奪いたくはないから」


 彼女に大切な人を奪われたという人は沢山いるだろう。私のお父さんとお母さんもそうだ。フェーデが直接手をかけたわけじゃないけれど。

 フェーデにも同じ思いをしてもらうという考えがなかったわけでもない。ただ、彼女の死罪は決定しているということをアドラシオンから聞いたとき、ジャグと一緒にさせてあげようかなと決めた。

 同情なのか恩情なのか、私にはわからないし、そのどちらでもないのかもしれない。同情にしてはフェーデの気持ちは理解出来ないし、恩情にしてはそのような温かい気持ちも持てない。

 ただ刑を執行するのはそう遠くはないから、最期のときまで一人は寂しいだろうと押しつけをしただけ。きっとフェーデがそれを知ると余計なお世話だと怒鳴るだろう。


 ……結局、彼女とは分かり合えることはなかったし、聞く耳も持ってくれなかった。おそらくフェーデと会うのも今日で最後だ。


「イルさんはお優しいですね」

「そんなんじゃないよ。……私が勝手にしただけだし、フェーデのことは今でも許せないから」

「それは正しい感情かと。別に許さなくても構いません。本来ならばイルさんの手で葬り去りたいところでしょうに、フェーデの処分をこちらに委ねていただいたことはアイントラハト様共々感謝しております」

「私は別にフェーデを止めようとしただけで、彼女の命までどうこうしようとは思ってないよ。もちろん、場合によってはそうせざるを得ないとは考えたけど……被害者は私だけじゃないし、私が決めることじゃないから」


 復讐に走るほど目的のない人生を送っているわけじゃない。それにフェーデの悪事を止められたことでスッキリしたから。だから魔族となった彼女のことは魔界のルールに従うべきだろう。


「おかえり、イル」

『イルー! おかえりー! りー!』


 客間へと戻ると、ソファーで大人しく待っていたレイヤとプニーに出迎えられる。

 彼らも一緒に来てくれたのだけど、大勢でフェーデと顔を合わせるとさらに彼女が癇癪を起こすと思って待ってもらっていた。二人とも不服そうだったけど、何とか説得したわけである。


「ただいま、待っててくれてありがとう」

「あぁ、それより大丈夫だったのか?」

「うん。ジャグの力も消し去ったし、フェーデの不死の呪いも解除したよ。態度は……まぁ、相変わらずだったけど」

「やっぱり俺も行けば良かったな。あいつ、また暴言を吐いたんだろ」


 レイヤの目が鋭くなる。プニーも『僕も! も!』とご立腹な様子だったので慌てて問題ないと訴えた。


「大丈夫! 大丈夫だからっ。いつものことで聞き流してたし。……それにもう会うこともないだろうから」

「はい。フェーデのことは私共にお任せを」

「……ね、アド。フェーデってどうして魔族になったのかとか、人間を恨んでるのかとか知ってるの?」

「えぇ、存じております。ただ、イルさんには話さないようにとアイントラハト様から口止めをされていますのでお話は出来ません」

「え? そうなの?」


 フェーデがあそこまで人間を敵対しているのだからそれなりに理由があるとは思っていたけど、まさかアイントラハト様に秘密にされるとは想像していなかった。


「……イルが同情して刑罰を軽くすることを望むから、か?」

「レイヤさんの仰る通りです。アイントラハト様も新しく出来たばかりの姪にお願いごとをされると判断が鈍るかもしれないと思い、予め予防策を出しました」


 それってつまり同情するような事件がフェーデにはあったということだろうか。


「フェーデは不幸だったのでしょうね。私が言えるのはそれだけです」

「……私はフェーデに何があったのかを知ったとしても同情はしない。そうしても仕方ないと認めることになるから」


 そう。それだけは絶対にしたくない。フェーデは無関係な人の命を幾度も弄んでいたんだ。何があろうと正当化してはいけない。

 世の中にはフェーデと同じような境遇の人だっているのかもしれない。でもみんながみんなフェーデと同じ道に進むわけじゃないし、罪のない人の命を奪っていい理由にもならない。


「それでしたら執行後にでもお話させていただきますね」

「ありがとう。……それじゃあ、そろそろ私達は帰るね」

「あぁ、もう帰られてしまうんですね。業務に追われているデジール様が悲しまれますが、それは仕方ないことですし、またそちらに訪問させていただきます」

「うん、デジールによろしくって伝えてね」

「かしこまりました」


 頭を下げるアドラシオンの前で私はレイヤ、プニーと共に転移魔法で魔城をあとにした。


 魔界からスタービレへと戻った私達は、花屋に寄ってから今度はとある場所へ向かった。墓地である。


 今日は父と母の命日だから。






「あ、まただ」


 二人のお墓の前に辿り着くと、すでに献花されていた。状態からして新しいので私より先にお墓参りに来てくれた人がいるのだろう。

 実は昨年も同様なことがあった。きっと同じ人だと思うのだけど、今ならそれが誰かわかる気がする。ご丁寧に父の墓だけ綺麗に掃除され、さらに花を置いているのだから。

 そんなあからさまなことをする人物を思い浮かべては小さく笑いながら、付き添いに来てくれたレイヤとプニーと共に母の墓を綺麗にする。そして花屋で買ってきた白い花を二人のお墓の前に置いてしゃがみ込んだ。


「お父さん、お母さん、一年ぶりだね。今回はあっという間に感じるほど色んなことがあったんだよ」


 二年目の墓参り。一年目と比べて明るくなった気がして笑みを浮かべながら簡潔に今までのことを語った。


「イストワール様に助けられて恩恵を受けてから生活が少しずつ変わったの。大切な人も出来たし、沢山の人と出会ったし、魔物を従魔にして家族が増えたり、魔族や魔王様とかはたまたダークドラゴンと知り合ったりで何だかてんやわんやすることばかりでね。あ、一応冒険者でもあるんだよ。それと洋菓子店で働かせてもらってるし、毎日充実してる。……あと、お母さんが魔族だって知ったよ。イストワール様から詳しい話も教えてくれたの」


 去年だとこんなに報告することなかったのにな。リリーフやクラフトさんの話をしてたくらいだと思う。


「危険な目にも沢山遭ったりしたけど、悩んでたことは綺麗に解決出来たよ。沢山の魔法やスキルを使えるようになったのも私の中にお母さんと同じ魔族の血が流れてたからなんだね。お母さんのお兄さんでもあるアイントラハト様にも会えたし、何だか嬉しかったよ」


 フェーデのことは語らない。彼女の暴虐を知っているのか知らないのかはわからないけど、わざわざ私から話すことはない。

 常に誰かを恨んでばかりのフェーデ。正直に言えば私も生き方を間違えたら彼女のようになっていたのかもしれない。

 両親が亡くなって、周りを寄せ付けずに恨んでいたこともあった。もう全てどうでもいいなんて思っていた時期もあった。

 でも私はリリーフやクラフトさんと出会ったし、レイヤやレスペクト、プニーとも出会って考え方を変えることが出来たからフェーデのようにはならなかったんだと思う。

 フェーデは……自分からその道を外れていった気がする。


「色々、色々あったから全部話しきれないんだけど、今は幸せだって言えるよ。そう思えるのはやっぱりお父さんとお母さんがいたからだから、ずっと二人には感謝してます。ありがとう。……それじゃあ、またお話をしに来るからね」


 感謝の言葉を述べて両親へのお参りを終わりにしようとしたらレイヤが私の名前を呼んだ。


「俺も挨拶していいか?」

「え? うん。いいよ」


 レイヤも両親に挨拶をしてくれるんだ。そう思って何を言うのか見守ることにする。


「……初めまして。レイヤと申します。イルさんとはお付き合いをさせていただいてます」


 わ、わ、改めてそう言われるとすっごく恥ずかしい!


「彼女には沢山助けてもらっていますし、俺も同様にお返ししたいのですが、イルさんに遠く及ばないのが現状です」

「そ、そんなことないよっ。レイヤはいつも私を支えて助けてくれてるのに!」


 口を挟んでしまったが聞き流せなかったので仕方ない。そんな私にレイヤは小さく微笑みを見せるのでドキリとする。


「こんな様子でとても素敵な女性だと思います。あなた方の宝物を俺も守っていきますので、どうかこれからもイルを見守ってください」

『僕もイルを守る! る!』


 嬉しい言葉と共に締めるレイヤに照れつつ、プニーもぴょんぴょん跳ねながら頼もしいことを宣言してくれた。


「あ、ありがとう二人とも」


 えへへと頬を掻きながらお礼を告げる。私も守られるだけじゃなく、みんなを守っていきたい。

 それじゃあ、そろそろ帰ろうかな。そう思ったところだった。頭に響く金属音。思念伝達を受けたということ。


(おい、イル。早く帰ってこい)

(レスペクト? どうしたの?)


 相手は自宅の敷地にいる大きい方の従魔、レスペクトからである。どことなく不機嫌そうな声色だったので何かあったのか、それとも私が何かをやらかしたのか。


(あの小うるさい魔王とやらがお前の帰りを待っている。面倒だから早く戻れ)


 えっ。え? ……いや、確かにアドラシオンはまた訪問するとは言っていたけど、その日のうちにとは思わないでしょ?

 デジールの業務とやらは終わったのかな。だから家に来たと思うけど。


(わ、わかった。すぐに帰るね……)


 レスペクトにそう伝えてテレパシーを切る。早く戻らないとレスペクトがデジール達に手を出しかねないので急いで帰ろう。


「イル、何かあったのか?」

「レスペクトからテレパシーが飛んできて、デジール達が来てるから戻ってこいだって」

「……本当にいつも自由だな」

「あはは。まぁ、普段は忙しそうだし、仕方ないんじゃないかな。今日は何を作ろ━━」


 屈んでいた身体を起こす。ずっとしゃがんでいたせいなのか、足がよろめいてしまい、バランスが保たずにそのまま倒れるところだった。レイヤが慌てて私の身体を支える。


「大丈夫かっ?」

「あ、うん。ごめんね、ありがとう……」


 レイヤと密着する身体にドキドキしながらも鈍臭いところを見せてしまって恥ずかしくもなる。


「不運を招く呪いは消えたはずなのに何だかこれじゃあいつもと変わらないね」

「……実は不運は関係なく元々そういう体質だったりとか?」

「うぅ、それはやだな……」

「念のために運の数値を確認してみたらどうだ?」


 そういえば懐中時計の呪いは解いたけど自分のステータスまでは確認してなかったっけ。そう思い、自身のステータスを開示する。

 すぐに運の数値へと注目すると、そこには『18』と記載されていた。


「ひ、低いけどマイナスじゃない!」


 改めて呪いが解けたということを実感する。運の数字が18というのもなかなかに低いとは思うけど最初は-100だったことを思うと良くなった方である。

 あ、でもレイヤから貰った幸運のラピスラズリのブレスレットを装着した状態で18ということは、つけてなかったら正確な数値は13ということになるわけだから……。


「やっぱり元から私の運は低いってこと!?」


 マイナス値から脱出したのはいいけど、結局運自体はいいとは言えない数字に思わず叫んでしまった。

 レイヤには「前より良くなってるし、俺もいるから大丈夫」と慰められ、プニーからは『僕が代わりに運を良くする! る!』と愛らしいことを言われ、その後すぐに『イル、まだ帰ってこないのか!?』とレスペクトからまたテレパシーを通じて怒鳴られたりしたのだった。


 今日も忙しない一日だけど、運が良くても悪くてもそれもまた楽しい思い出になると思うと悪い気はしなかった。

 そう思えるほど私は沢山の人と出会い、大好きになったから。

 呪いの影響を受けなくなった私の生活はまだ始まったばかりである。


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― 新着の感想 ―
[一言] 自己犠牲みたいなのが無くなると思ってたけど強くなればなるほど自己犠牲が酷くなって気味が悪かった。
[良い点] 読んでいると暖かい気持ちになりました。 [気になる点] ついロールケーキを買ってしまいました。美味しそうなスイーツばかりを載せるから甘いの食べたくなっちゃいました。 [一言] 番外編が見た…
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