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ダークドラゴンの長と呪水晶

「詳しい話を聞かせてもらえるかしら?」


 リリーフの部屋で少年の事情聴取が始まる。彼はベッドの上で胡座をかいてどこか豪然たる態度だった。


「フン。仕方ないから名乗っておくかの。よく聞くんじゃ軟弱な人間共よ、儂こそがダークドラゴンの……いででででっ!!」

「下手に出てるからって上から目線やめなさい!」

「リ、リリーフ落ち着いてっ!」


 ほぼダークドラゴンと確定したからってあの厄介な邪竜相手に耳を引っ張って叱るのはやめて! 報復が怖いから!


「こっちは助けてあげたのに感謝こそしても偉そうにされる覚えはないわ!」

「話! 話を聞こう! ねっ?」


 ひとまず耳を離してもらいリリーフを宥める。この誰が相手でも強気でいるリリーフの性質は羨ましいところだけど火に油を注ぎかねないのでもう少し落ち着いてもらいたい。

 それにしても邪竜だろうと魔王様だろうと同じ態度で怒鳴り散らすリリーフってほんと凄い。怖いものないのかな……。


「くっ……童の姿だろうと本当に容赦のない人間じゃ。……しかし主らが儂に食事や寝床を提供してくれたことは礼を言わねばならんの。かたじけない」


 意外にも少年は胡座をかいたまま頭を下げた。もしかして案外話がわかるドラゴンだったりするのだろうか? そう思ったのもつかの間、彼はすぐさま私を睨みつけてきた。


「が、しかし! 儂は全ての原因であるお主だけは絶対に許さんからの!」

「えぇっ!?」

「精霊花……あれは儂らが探していたものじゃ。一刻も早くあれを手に入れなければならぬというのにまさか人間なんぞに横取りされるとは……」

「横取りしたのはそっちのチビトカゲでしょ!」

「リリーフ……」


 リリーフがすぐさま反論する。レイヤも話が進まなくなるからと彼女を宥め始めたので、私はもっと詳しい話を彼から聞くことにした。


「こっちも精霊花が必要だったから探してたんだよ。それに一番に見つけて手に入れたのは私達だけど、どうしてそんなに血眼になって探してたの?」

「……儂らの縄張りに出現した呪水晶を破壊するために必要なんじゃ」

「呪水晶?」


 なんだか名前からしておっかない気しかしない。


「その名の通り呪われた水晶じゃな。そこに存在するだけで近くの者を苦しめる厄介な代物よ。その大きさによって力も比例するしの。それがいつの間にか儂らの住処に現れたんじゃ」


 ダークドラゴンによると彼らの住処である洞窟のとある場所にその呪水晶が発生したのだという。

 元々呪水晶を見つける数日前からダークドラゴン達の体調に変化があったようだ。まるで吸い取られるように魔力がなくなっていくのだと。

 寝ても休んでも回復しない魔力に段々と衰弱していく中、見つけた呪水晶。

 おそらく魔力を吸い取る力を宿したもので全ての元凶だと判断し、取り除こうとするが呪水晶に近づくたびに吸い取られる魔力が強くなるため誰も近づけなかった。

 ならばどうすればいいのか? そう考えた結果が精霊花の力だったという。


「精霊花をすり潰した粉を自身に振りかければ一時的ではあるが自分に向けられる魔法、呪術関係を無効化することが出来るためどうしても必要じゃった。こうしている今でも同胞達が苦しんでおる。早くあの呪水晶を取り除かねばなるまい」

「なるほど……でも、それがわかっててどうして別の場所に避難しないの?」

「何百年と住んできた大事な寝床を簡単に捨てるわけなかろう。そんなこともわからぬか?」

「この子の家を潰しておきながらよく言えるわね」

「……」


 リリーフの一言によりダークドラゴンは冷や汗を流しながら口を噤んでしまった。そうだ、この子に壊されたんだっけ、私の家……。


「年甲斐なく焦って頭に血が昇ってしもうたんじゃ……すまぬ。暴れた上に身勝手なことを言うが、どうか精霊花を儂に譲ってくれぬか? 礼と詫びは後ほど改めてするのですぐに欲しいんじゃ」


 そう言うと彼は頭を下げた。最初からそう話してくれたら良かったのに。いや、それだけ切羽詰まっていたのか。あとミニドラゴンを虐めたって思われてるから話し合いは最初から応じる気はなかったのかもしれない。

 年甲斐なく、と言うが見た目が子どもなので調子が狂ってしまう。彼もデジールみたいに相当長生きなのだろう。

 暴れたことは許せないけど事情が事情なので渡してあげたい、のだけど……。


「そうしてあげたいのは山々だけど、あれはリリーフのお母さんの献花だし……それにもう一週間経ったから枯れてるはずだよ」

「……そうか。無駄な時間を費やしてしもうたな」


 顔に手を当てて深い溜め息を吐く彼になんだか申し訳なく感じてしまった。そもそも精霊花すら簡単に見つかるものではないので探してあげればいいのだけど、以前のように情報がなければ探しようがないし。


「そもそもその呪水晶というのは勝手に出現するものなのか?」


 レイヤが疑問に思ったのかドラゴンに尋ねた。すると彼は怒りを抑えるかのように強く己の拳を作る。


「……思えばあの魔族もどきの女のせいじゃ」

「魔族もどき……?」

「魔王教などというふざけた宗教の勧誘に来た女……。あいつの勧誘を断ってから魔力が低下しよった」

「!」


 魔族、魔王教、女、そのワードに思い当たりがある人物がいる。まさかと思って私はその名を確認してみた。


「その人……フェーデって名前だった?」

「……確かそのような名だったの。知っておるんか?」

「私もその人を探していて……。呪水晶が現れたのは彼女が原因ってことなの?」

「間違いない。半端者の臭いが呪水晶に残っておった。どうやって呪水晶を作り出したかは知らぬがあの女のせいで同胞が苦しんでおる!」


 どういう巡り合わせかはわからないけど、本当にフェーデの仕業のようだ。幸か不幸か、新たな情報ではあるがそれ以上の彼女の動向はさすがにダークドラゴンもわからないだろう。

 けれど、フェーデが絡んでいると言うならば尚更放っておけない。


「ねぇ、その呪水晶の所まで連れてってくれないかな?」

「! イル、何言ってるんだ!」

「そうよ! あんたが行ってどうするのよ!」

『危ないことなの? の? イル、ダメだよ! よ!』


 想定していたとはいえ反対されてしまった。そりゃそうだよね。私達を始末しようとしたダークドラゴンの住処ってだけでも恐ろしいだろうし、フェーデが仕掛けた呪水晶の力に当てられるのだから。


「フェーデの手がかりがないか確かめたいの。それに何も出来ないかもしれないけど、呪水晶を壊す方法もあるかもしれないし」

「慢心するな、人間よ。邪竜である儂らの力をもってしてでも近づけぬ上、魔力を吸われ魔法すらままならん。力を振り絞って出した魔法も力が足りぬゆえ呪水晶に届かんのじゃ」

「それでも、私の魔力はまだ有り余ってるから強引にでもやってみてもいいんじゃないかな。精霊花を見つけるのは難しいし、それなら何とかして壊すしかないよ」

「ハッ。お主は防御や補助魔法ばかり出しおったくせによくそんなことが言えるもんじゃな」

「私これでも攻撃魔法は結構あるんだよ……ただ昨日は色んな助けが入ったから出る幕がなかったけど、あのとき使用した魔法で一番攻撃力が高い落石魔法よりもっと強力な魔法もあるし……」


 ドルックさんからも防御に徹していいって言われたしね。

 最大限の力を引き出した落石魔法のことを口にするとドラゴンはびくりと肩を震わせた。


「……あの大岩、お主の魔法だったか。なるほど、なかなかに強烈であったわ。弱体化してなければどうってことなかったが……」


 ぶつぶつ言いながら頭をさするダークドラゴン。あの様子から見るとよほど痛かったのだろう。外皮の硬そうな邪竜様でもあの大きな岩を頭から落とされたらたまったものじゃないのかもしれない。


「……まぁ、試す価値はあるじゃろうな。主の力を見せてみよ」

「うんっ」

「待て、イル。さすがに危ないだろ。簡単に引き受けるものじゃないし、そもそもこいつはお前に危害を加えようとした奴だ。他のダークドラゴンもいるだろうし、いっせいに襲ってきたら逃げられないだろ」


 確かにそうだけど、話を聞けばこのダークドラゴンはまだ話がわかる方だと思うし、このままにするのはさすがに可哀想だと思う……って言えるような雰囲気じゃなかった。


「他の者には儂から注意するから手出しはさせん」

「それを信じろって言うのか? 言うことを聞かない可能性だってあるだろ。お前みたいに人の話を聞かずに襲ってきたくらいだ。仲間だってそうだろ?」


 レイヤめちゃくちゃ怒ってるようだ。そんなに怒らなくても……と思うものの、きっと心配ゆえの怒りなのだろう。


「儂の仲間は皆言うことを聞く。なぜなら儂がダークドラゴンの長じゃからな。命令に背く者は命を捨てることと一緒じゃ」


 なんと……この子がダークドラゴンを纏める長だったというのか。いくら弱体化してたとはいえ確かにドラゴン姿の彼はとても恐ろしかった。納得出来る気がする。


「レイヤ、彼もこう言ってくれてるから呪水晶のことを調べさせて。フェーデの手がかりは少しでも欲しいの。早く彼女を捕まえないとまた誰かの命を奪われるかもしれないし……」

「……」


 レイヤは悩んでるようだった。私としてはダークドラゴンの悩みも解決させたいし、フェーデの手がかりも欲しい。もちろん解決するとは限らないし、手がかりも見つからないかもしれない。それでも試さないことにはわからないんだ。

 私の決意は変わらないでいると、ずっと黙っていたリリーフが口を開く。


「イル。あんたがどうしても行くって言うならあたしも行くわ」

「え、えぇっ!? いや、でもそれはっ!」


 リリーフは一般人だ。魔法も体術も持っていない普通の人。彼女を連れて行くのはさすがに危険なのに━━。


「今、危ないからって思ったでしょ? あんたも同じことをしてるのよ。嫌ならあんたも諦めなさい!」

「うう……」

「そもそも魔力が吸い取られる呪水晶なら取られる魔力がないあたしが行っても問題ないでしょ」

「た、確かにそうかもしれないけど」

「魔力も体力も一番なさそうな小娘のその度胸はなかなかに面白いのぅ。儂は気に入った。ついて来い」


 って、この子が決めるの!? なんだかリリーフがダークドラゴン様に気に入られちゃったんだけど! 確かにリリーフは物怖じしないけども、大丈夫かな……。


「……心配そうにしてるけど、俺達もお前が心配なのは理解した方がいい」

『そうだよー。よー。イル、危ないことしちゃダメっ! メっ!』

「あ、危ないことはしない! しないから大丈夫! 万が一ダークドラゴン達が約束を反故にした場合は……えーと、相手は弱体化してるし全属性の攻撃魔法を駆使して仕留めるから! ねっ?」

「儂の前でようそんなことが言えるのぅ……まぁ、いい。反故する気はないからなんとでも言うとけ」


 はぁ、と腕を組んで溜め息をつくダークドラゴンの目の前に剣先が突きつけられる。それは紛れもなくレイヤの蜂毒の剣。


「レイヤ何してるのっ!? 相手はダークドラゴンな上に今は子どもの姿で━━」

「俺はお前を信用していないし、イルの大事な家を潰したことだって許してない。彼女に何かしたら俺が絶対にお前の息の根を止めてやるからな」

「レ、レイヤ……」


 私を思ってのことなんだろうけど、今にも刺しそうなオーラを漂わせてるけど、私を守ろうとしてのその言葉が嬉しくて格好良くて思わずドキッとしてしまう。


「フッ、いいじゃろ。約束はしっかり守る、が……勘違いするなよ、人間。本来の力を取り戻せば主のような雑魚は一捻りじゃぞ?」


 剣を突きつけられても動揺する素振りを見せないダークドラゴンはむしろ挑発するような態度でレイヤを煽る。

 レイヤは眉間に深い皺を刻むがその挑発に乗ることなく、すぐに剣を収めたのでひとまず戦闘にならずにすんで一安心した。


「さて、ダークドラゴンの縄張りに行くことが決まったわけだけど、どうやって向かえばいいのかしら?」

「儂が主らを背中に乗っけて運んでやろう。その方が早いからの」

「でも体調は大丈夫なの? 私達との戦いでまだ完全には回復してないと思うけど……」

「運ぶくらいなら造作もないわ。そもそも力を温存するために人間の童になったんじゃからな。魔力も体力もそんなに使わんですむし、日も経っとるから元の姿になっても体力面など問題ないじゃろう」


 そういえばレスペクトの鼻をもってしても、彼をドラゴンだと見破ることが出来なかったんだっけ。

 レスペクトの嗅覚は結構鋭いのにそんな彼の鼻も欺けるくらい人に化けるのが上手いなんて相当凄い気がする。


「じゃあ、明日行くわよ。店も休みだし、あたしとしても動けるのにちょうどいいもの」

「あぁ、ならば明朝に出発するとしようかの」


 淡々と決まるダークドラゴンの住処への出発。こうして明日の朝に向けて私達は早めに就寝することになった。


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