授かった能力とリクエストをする青年
一息つきませんか? と彼女が言い出したものなのでつい返事をしてしまったが、俺がぶち壊した天井がダイニングキッチンの場所だったため、ダイニングテーブルの席に座らせられるも、頭上が気になって仕方ない。
「すみません、うちにあるの牛乳くらいしかなくて……。コーヒーや紅茶などお出し出来ずに申し訳ないです……」
恥ずかしそうに口にするイルが俺の前に牛乳を置いた。一応お気遣いなくと返すも、確かに牛乳を出されることは滅多にないなと胸の中で答える。
「そういえばレイヤさんは一体どういう経緯で女神様に会われたんですか?」
「あ……」
どこまで答えたらいいんだ? 違う世界に来ましたっていうのはいちいち説明が面倒臭い気もするし。そもそも受け入れてくれるのかもわからない。というか信じてくれるのか?
「……俺もよくわかんないんですよね。女神の気まぐれってやつかと。あ、そういえば役立つ能力をプレゼントしたとか言ってたような」
「え!? レイヤさんもイストワール様から恩恵を授かったんですね! 一体どんなものなんですか?」
「えっ、いや、俺も何かはわかんなくて……」
「……もしかして、レイヤさんもステータスが見れるんじゃないでしょうか?」
「えっ?」
「ほら、ステータスって魔道具がないと普通は見られないんですけど、私イストワール様にステータスって唱えたらいつでも見られるようにしてくれたんです」
魔道具って何。やばい。また知らない言葉が出てきた。この世界で生きていける自信がさらになくなってくる。
「見ててくださいね、試してみます」
そう言うと突如イルの目の前にゲームでいうウィンドウ画面が現れた。
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イル (21歳)
レベル 5
体力 24
魔力 15
攻撃力 12
防御力 9
素早さ 14
運 -100
魔法一覧
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……本人から聞いていたとはいえ本当に運が-100と表示されている。なんだこの嬉しくないステータスは。
「もしかしたらレイヤさんもステータスって唱えると出てくるかもしれません。そうしたらレイヤさんに与えてくれた力がわかるかも!」
「……」
胡散臭くはあるが、唱えるだけでいいのなら一度やってみるか。……ステータス。
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レイヤ (25歳)
レベル 20
体力 109
魔力 49
攻撃力 58
防御力 61
素早さ 64
運 87
能力:フードリアリゼーション
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……本当に出た。レベルは20だけど、これ低いのか? それとも平均値なのか?
「レイヤさんの運高いんですねー!」
「これ、高いんですか……?」
「-100に比べたら凄く高いですよ」
「あぁ……」
納得してしまった。確かに運の数値の上限が100だとしたら高い方ではあるな。
まじまじと見ていると能力と書かれた欄にフードリアリゼーションという言葉が書かれていた。
「フード……リアリゼーション?」
食物……実現……? 一体どんな能力かわからずに首を傾げると、イルがその文字に指を差した。
「多分、この文字を押すと詳細が見れるんだと思います」
言われるがまま文字をタップすると、彼女の言う通り詳細と思われる文が表示された。
「『欲しい食材を思い浮かべただけで手に入れることが出来る』……って、なんだこれ」
これが役立つ能力だと? 全然使えない……わけでもないか。食事には困らないだろう。しかし、材料じゃないとダメなのが厄介だな。せめて料理が良かったんだけど。
「レイヤさん! これ、凄い能力ですね! どんな食材も手に入るってことですよ! 例えば高級食材とか!」
「そ、そうですか……」
言われてみれば確かにそうだと思うが、勝手に連れてきた女神が与えた能力というには大したことのないものだ。
「ところでレイヤさんはどちらに住まわれてるんですか?」
ドキリとした。そもそもこの世界の住人ではないし、下手なことを言って面倒なことになるのも避けたい。
こっちの世界だと違う世界から来ましたなんて言ったら頭がおかしいと思われるし、最悪彼女もそう思うかもしれない。正直、右も左もわからない俺にとっては今このイルという子が頼りなところもある。
……それにあの女神が俺をあてがおうとしていたのだから恐らく俺にとっては悪い相手ではないと信じたい。
「えーと……俺、地図にも載らないような名前のない小さな村出身でして……。すっごい田舎で、村からも出たことがないため、よそのこととか常識的なこととかも全然知らない男なんです。出来れば色々と教えていただけると有難いのですが……」
苦しい言い訳めいた発言だと重々承知の上だ。それでも頭おかしい奴と思われるよりかはまだマシだろう。
元の世界では死んだ身だし、元に戻ることも出来ないだろうし、この世界で生きる知識が俺には必要だ。
「なるほど、そうだったんですね! 私でわかることでしたらなんでも聞いてください。それにしてもてっきり、ニホン? って所と関係があると思っていたんですけど……」
「あ、あぁ、ニホンって言うのは俺の生まれ故郷で……えーと……あ、そうそう! 地獄っていう意味なんです! ほら、俺って空から落ちて来たじゃないですかっ? 地獄に落ちたのかと思ってつい……」
「別名、ってことなんですね。勉強になります」
「は、はは……」
あぶねー! 思わず額に流れる冷や汗を拭う。
そういえば日本って言葉使ってたわ俺。咄嗟に答えたけどもまぁあながち間違いではないので我ながらナイスである。
「でも、困りましたね。地図にも載らないとなると、レイヤさんは家に帰れなくなりますね……」
「あー……そう、ですね……出来れば女神とまた会ってどうにかしてもらいたいんですけど、無理ですよね……」
「だと思います。イストワール様は人前に姿を現すことはそうそうないことですので」
「やっぱり……」
金もないし、そうなると野宿しかない。これは困った。さすがに外で寝るのは厳しいし、せめて屋根のある所でもあればいいんだが。
「……あの、レイヤさん。嫌でなければうちで住んでみてはいかがでしょうか?」
「……えっ?」
「この家、私しかいなくて……でも、部屋はあります。少し埃があるかもしれないんですけど、掃除をしたら問題なく眠れると思いますので」
「え、いや、その……すっごく有難い話ですけど、大丈夫ですか? こんな怪しい男を泊めるなんて……」
まさかの申し出に俺は慌てた。若い女性が一人住んでいる家に素性も知らぬ男を住まわせるなんて警戒がなさすぎる。危ないと思わないのだろうか。
「大丈夫です。イストワール様の恩恵を受け取った方なら悪い人じゃないですし!」
あぁ、そうか。俺と同じ考えということか。警戒心がないわけではないのならまだ良かった。
……とはいえ、ずっと住まわせてもらうわけにはいかないしな。屋根を修理して、定住するアテを探さないと。まずは資金稼ぎだな。……あぁ、もう色々と頭が痛い。
あまりにも突然のことばかりで一気に疲労感が溜まったのか、無意識に溜め息が出る。
「……レイヤさん! あの、何か甘い物食べませんかっ?」
「えっ?」
「あの、先程も説明したんですが、私このレシピブックを見てその通りに作るとレベルアップが出来るんです。せっかくなのでレイヤさんのお好きな物があればお作りします」
何もなかったイルの手から急に赤い本が出現した。どうやらその手にしているのがレシピ本らしく、その本を彼女は開いて見せてくれる。
しかし、そのレシピブックはどれを見てもスイーツばかり。ということはお菓子のレシピ本なのだろう。……本当にあの女神は微妙な物を与えるんだな。
「甘い物……か」
お好きな物と言われても俺が好きなのは和菓子だからこの世界には存在しないだろうな。
そんな諦めた気持ちで本を捲っていくと、驚くべきページを見つけた。
あったんだ、和菓子が。草餅やかりんとう、いちご大福まで。信じられなかった。もしかしてここは日本に似た世界なのか?
「この……和菓子は作れますか?」
「和菓子……」
ん? 難しい表情をしている。そういえばまだレベルも低かったから最近作り始めたんだろうな。それだと和菓子は難しいのだろうか……せめて汁粉だけでもどうにか……。
「すみません……この和菓子の部類に入るスイーツなんですけど、見たことないスイーツで食材もわからない物ばかりで……」
「わからない……か」
「この小豆とか、抹茶とか、町でも見たことないものでして……高級食材なんでしょうか?」
日本伝統菓子だからなのだろうか。レシピはあっても知名度はないのかもしれない。材料もこの世界では存在や価値すらもわからないから手に入るかどうか……いや、待てよ?
閃いた俺は自身の手のひらを見つめる。そして頭に思い浮かべたのだ。小豆を。そして言葉を告げる。
「フード、リアリゼーション」
瞬間、手のひらに光が集まり、ずりしとした重みを感じる。光が収まると、俺の手の中には小豆が入った袋が存在した。
……本当に訳のわからない能力が使えた。
「これが……レイヤさんの力……」
「本当に出来るとは思わなかったけど……あの、これなら汁粉を作れますかね?」
「えっと……材料は小豆と砂糖、塩、なので大丈夫そうです。早速やってみますね!」
イルに小豆を手渡すと彼女は急いで準備を始めた。




