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嘘つきの異世界魔王譚  作者: 紅葉 咲
一方そのころ
31/33

「お前ら、ストップ」


先頭をあるく血を(まと)った女が足を止めて言う


「…敵ですかい?」


女の言葉に即座に足を止める包帯男


「さてね。でも、血の匂いが濃くなった」


「それは自分の体臭じゃなくですか?」


メガネの男は足は止まるが悪口は止まらない


「ぶち殺すぞ。私の体臭はフローラルな香りだ。おい、レン」


『レン』と呼ばれ、包帯男はすぐに伏せ地面に耳を当てる


「…8人がこちらに向かってきています。しかも走ってますね。1分後には自分らとかちあいそうっす」


地面に耳を当て数秒、レンは頬についた土を手で払いながら報告する


「オーケー。お前ら低姿勢」


女は指示を出すとそのまま茂みに隠れる


他の4人もそれに倣い身を低くし隠れる


5人が隠れ数十秒後


レンの言う通り、人の走る音が耳に届き始める


そして、まさに横を人が走り抜けようとした瞬間


「ダァオラァ!!」


女は品性の欠片もない声を上げ走り抜けようとした男に襲いかかった


「なぁ!?」


男はすぐ横からの不意打ちに対応できずそのまま押し倒される


襲撃した女は慣れた手つきで男の背中に背負われた大剣に手をかける


「熱っつ何この剣!!」


だが、その剣は予想以上の熱を持っていた為奪うことは叶わず遠くに投げ、押し倒した男の首に腰から抜き取った自前のナイフを突き付けた


「さぁ全員動くな! 武器を地面に置き手を頭の後ろで組め!!」


先頭を走っていた男が急に人質となり、少し遅れて走っていた金髪の男性は驚き止まる


「な、なんだお前は!?」


「シャラップ!! 余計な動きを見せればこいつは喉から空気が吸えるようになるぞ!? いいからはやく言う通りに女を出せ!!」


「さっきと要求が変わっているぞ!?」


「どうしたスーザ!」


金髪の男がそう叫ぶと同時に後から走ってきた2人の男が合流する


男達の鎧や肌は傷付いており、顔には疲労の色が濃く浮かんでいた


「ガライが捕まった!」


「な、伏兵か!?」


「うるさい黙れ喋るな殺すぞ!! いいから女と金目の物を差し出せ!! あ、ちがう武器を地面に置き手を頭の後ろで組んでから女を差し出せ!!」


女性は次々と現れる男たちにいらだちを隠そうともせず叫ぶ


「姉御! 言ってる事がまんま賊っす!!」


「なぁにバカなことトークしてんのよ! 私たちと賊なんて似たようなもんでしょ!」


「そこは隊長として否定してください」


「うるさいねニッチ。姉御と呼びな」


そこに隠れていたレンとニッチが現れる


「この野郎ぉ!!」


仲間が現れ、女性がそちらに話しだすと同時に組み伏せられていた男が暴れ出す


「お? この状況で人質が暴れられるとかやるやん?」


女性はそう言い暴れ出した男を組み伏せる手を緩めた


「うらぁ!!」


その瞬間を逃さず男は自由になった拳を女性の顔に叩きこむ


だがわざと手を緩めそれを読んでいた女性は、拳を紙一重でかわし逆にその殴りぬいてのびきった腕に自分の腕をからめる


「よしょ」ゴキンッ


そして、気の抜ける声と嫌な音が重なる


「がぁぁぁぁああああああ!?」


男は簡単に間接を外されたた驚きと痛みに声をあげる


「もぅ。これだから男はっと!」


「ッ!!」


女は言いながら不意に身体を(ひね)


そこに刀身の細い剣が風を切って通りすぎた


「なんなんこいつら殺意高すぎない? って、ユー怪我してんじゃん」


すぐ横を通り抜けた細剣の持ち主である男に視線を向けて女は言う


「とった!」


その後ろから銀髪の男が上段から剣を振り下ろす


「うん確かに『取った』ね。私があんたの獲物を」


だが、銀髪の男の振りおろそうとした剣は次の瞬間には女の手の中にあり、男は地面に倒れていた


何故自分は倒れ、握っていた愛剣が女の手の中にあるのか当の本人にもわからなかった


「にしても、何これ? 刃が見えないんですけど、明らかに刃は存在してるわね。おもろいわ~」


女は刀身が見えない不思議な武器をひとしきり眺め、銀髪の男の首元にその見えない切っ先を当てる


「うーん。でもこれじゃぁ見えないから脅しとかには使いにくそうねぇ」


銀髪の男は、見えないはずの刀身の長さを持っただけで把握した女に恐怖に似た何かを覚えた


「ハイネさん!!?」


「えぁ? これが私たちが迎えに来た『灯』の隊長?」


そんな緊張の場を壊したのは、今までずっと隠れていたキーリの声だった


「…まさかキーリか!?」


銀髪の男、ハイネは突如現れたキーリに驚く


「あ、姉御さん! 武器を納めてください!! お願いしますから!」


キーリは恐怖を呑み込み女に進言する


「納めろったってこれ今しがた盗んだものだからどこに納めるか」


「じゃあとりあえずハイネ隊長に向けるのをやめてください!!」


「う~ん。それもそうね」


女は意外と素直に刀身の見えない剣をハイネの首元から外した


「…いったいどういうことなんだ? キーリ。拠点にいる皆の治療は終わったのか?」


戸惑いながらもハイネはここにいないはずのキーリに話しかける


「はい! 治療は無事終わったので急いで迎えに来ました!」


「! そうか! それは助かる。なら早速で悪いがガライ達の治療を」


「ストップストップ。お前らモンスター退治に行ってたんだろ? なんであわててこっちに戻ってきてんだ?」


キーリの言葉に表情を明るくさせたハイネの言葉を止め、先ほど暴れまわっていた女性がハイネに問う


「あなたは?」


「あぁ、私は」


「この人達は私が無事に隊と合流する為の護衛の人達で」


「今は私がトークしてんだよあぁん? おぉん?」


「ひぃ!」


「姉御、一応依頼主なんですからおさえてください」


キスが出来るくらいの近さでキーリにガンをつける女の肩を叩きながらニッチは言う


「うるせぇこちとらガールズ達がモンスターのホームにゴーしててデンジャラスって聞いたからこんな所まで来たってのにさっきから出会うのは汗と血と青春の匂いにまみれた男だけで」


「隊長! はやく逃げましょう!」


「どうしたんですか!?」


「あれ? もしかしてキーリ君!?」


「なんでガライうずくまってるの!?」


「はぁ・・・はぁ・・・」


そこに遅れてやってきた女性が5人現れる


「大丈夫かい私のガールズ!!」


条件反射のごとく叫ぶ女


「え、どなたですか!?」


「うるさっ」


「ひゅー! いきのいいガールが5人も! …5人? レンてぇめぇ!! さっき8人つったよなぁ!? 全員あわせると9人いるぞゴラァ!!」


「うわすんませんすんません! あれっす! もしかしたら誰か木の上とか移動してたんじゃ」






「「「ああぁっぁあああどこぉぉおお!! 一人にしないでぇぇえええぇえ!!」」」






レンの謝罪と言いわけを、『声』がかき消した


「…クソ、どうやらこっちにむかってきてるな。ハイネとキーリ、治療と話しは後です。いまはとにかく私たちの拠点に戻りましょう」


状況を呑み込めていなかった金髪の男、スーザはその声で状況を思い出したのか早口でまくしたてる


「え、いったい何が?」


「…作戦は失敗しました」


キーリの言葉に、先ほど女に細剣を突き刺そうとした男が苦しげに言う


後ろでは痛みで汗を流しながらも外された腕を庇いながら男が立ち上がっていた


「作戦が失敗? 何があったのですか!」


「だから今は話してる時間は無いんだ」


「その時間がないっていったいどういうことですか!? あの『声』と何か関係が!?」


「あのー横からすみませんがキーリさん? この金髪さんの言う通り今はこの場を離れた方がいいっすよ。なんかバカでかいのこの人ら連れてきてるみたいっすから」


レンは叫ぶキーリの前に立ちなだめるように言う


「その彼の言う通りだ。話しは戻ってから必ずする。今は野生動物に注意して拠点に戻る事だけを考えてほしい」


「…わかりました」


キーリはまだ何か言いたげにしていたが、さすがにこの暗く見通しも悪い森の中で言いあうのはよくないと判断し口を閉じた


「では当初の予定通り拠点に戻るのですね? なら私たちが来たルートをつかいましょう。野生動物を、えー、60体くらい倒してるから他よりかは安全のはずです」


「え?」


「え?」


「…え?」


ウィーネの何気なく言った言葉にハイネとスーザは聞き返し、それをウィーネが聞き返した


「ふひひひひ…? …? …!! ちょっとそこのガール怪我してんじゃない大丈夫!? 走れるの!?」


存在を消しまだうまく状況を呑み込めていない女性陣に背後からゆっくりと近付いていた、3人の男を手玉にとった女が大声を上げる


その声に女性陣はいつの間に背後をとられたのかと驚いた


そんな女性陣の中、右足をかばう青い髪の女性が絶望に顔を染めていた


「…大丈夫」


「ノー! ノー! ノー! ノー大丈夫!! ノー大丈夫!!」


「リー、怪我だと?」


ハイネ達がその声に走り寄る


「これは酷い…! 薬は…クソッ! 全部やられたんだったか」


ハイネは仲間達を見るが、誰も持っていないのを確認し悪態をつく


「これは酷いじゃねぇよミノムシゴラァ!? おいそこの金髪! お前この青髪ガールに肩貸してあげな!!」


「は?」


「は? じゃねぇよ! パッと見お前唯一無傷だろぶっ殺すぞ! こっちきてガール様に肩貸せや! もはや馬になれ!!」


「私は、大丈夫だから」


騒ぎだす初めて見る女性にどう接したらいいかわからないリーが何とか言葉を吐きだす


「大丈夫じゃないでしょがぁ! そんなんじゃすぐに走れなくなるわよ!? あぁ適度に筋肉がついてるけど女性らしい肉つきを残してるふともも美しいです。 おら金髪はやくこいやぁ!!


「わ、わかった!」


スーザは走り寄ってくる


「何故言わなかった?」


ハイネは怪我がばれたことを悔やむようなリーに問いかける


他の仲間達も心配そうにリーを見ながらハイネの疑問への答えを待つ


「…迷惑、掛けたくなかった」


「迷惑だと? そんなこと私たちは」


「女の子が我慢しちゃダメでしょ!! ニッチとレンもこっちきな!」


女の怒声に言葉を遮られたハイネは、閉口した


「「はい」」


そして女の、隊長の命令にニッチとレンが走り寄る


「他のガールも疲労で倒れそうだから守りながら拠点に走りな!! もはや馬になりな!」


「かしこまりました。男の方は?」


「死んでしまえ! あ、ウィーネちゃんは先頭を走って道案内お願いね!!」


「かしこまりました!! 隊長は?」


あたりを警戒していたウィーネは声を上げる





「「「ああぁっぁああ!! なんでぇ!!? なんでぇぇぇぇぇえええ!!」」」





「私はこの声の主を何とかするわ!」


先ほどよりも大分近付いた地鳴りのような『声』を聞きながら女は言う


「な、無理だ!!」


それを聞きハイネが止める


「はぁ?」


「今こちらに向かってきているのは水獣と呼ば」


「うるせぇよ!!」


「ブベラッ!?」


女は男が話しだして割とすぐに殴った




「今こっちに来てる『声』がデンジャラスな奴なんてこたぁお前らの状態みりゃわかるんだよ!

 そのデンジャラスなやつをここで誰かが食いとめなきゃガールが、隊員が、ガールが危険だろ!?

 私はなぁ!

 ウィーネちゃんしか隊員がいないけどそれでも隊長やってんだよ!

 隊長が隊員の為に命張らないでどこで命張るってんだよ!

 文句あんのかあぁん!?」


「隊長。 私とレンも隊員です」




ウィーネは感動し、ニッチとレンは呆れていた


ハイネは、殴られたままの状態でその言葉をしっかりと聞いた


「ハンッ! 男は嫌いだがね、腰ぬけはもっと嫌いだよ。ましてや守るべきガールがいる腰抜けなんて見たくもない」


そういい残し、女はジャラジャラと腰についた武器の音を鳴らしながら声の方向に走って行く


「あ~・・・。大丈夫っすよ。あの人なんだかんだ言って強いっすから。ほら、銀髪の隊長さんはどうするんす?」


それを黙って見ていたハイネにレンが言葉をかける


ハイネは殴られた頬を撫でる


「ハイネ! はやく行くぞ!!」


そして自分の名前を呼ぶスーザを見やり


「…スーザ。皆を頼むぞ」


駆け出した


「ハイネ!?」


「隊長!?」


女の走って行った方向に駆け出したハイネにスーザ達は驚く


「行ってしまいましたね」


駆け出したハイネの背中を見送りながらニッチが言う


「言ってる場合か!」


「そうですね。では私たちもはやく拠点に戻りますか」


「ハイネを連れ戻してこい!!」


「? 私はあなたに命令される覚えはありませんが?」


「俺は『灯』の副隊長スーザだ!」


「だからなんですか?」


「っ…」


わめき散らすスーザにニッチは目を見て言う


スーザはその目に気圧され言葉がつまった


「私たちの隊長は悲しくもあの方ですので。あの方の命令の方が残念なことに優先されます。あなたも心配する振りはそのへんにしてもどりますよ」


「ふりだと!?」


ニッチのあまりの言い分にスーザはつまっていた言葉が口から出た


「えぇふりですよ。だってあなた、一歩もハイネ様の方に足を踏み出してないじゃないですか」


だがニッチは怒りを露わにするスーザの足もとを指さして言う


そして、メガネの奥の目は冷たかった


「…クソがッ」


「はいはい。では皆様に何か言わなきゃならないんじゃないですか副隊長様?」


「…皆! ハイネは俺達の為に時間を稼いでくれる!! 俺達は拠点を目指すぞ!!」


「で、でも」


「でもじゃないんだ! これは、ハイネの意思だ!! …俺達が今の状態でついて行っても、足手まといになるだけなんだ! だからせめて、生きて帰るんだ!!」


「「「「…はい!!!」」」」


「みなさーん! こちらですよー!!」


ウィーネの案内する言葉に導かれスーザ達は走り出した


「…あの隊の副隊長みたいにはなりたくないですねぇ」


そしてニッチも呟き、後を追う






「隊長…! なんで…!?」


リーはハイネの走っていった方向を茫然(ぼうぜん)と眺めていた


「男は女性にかっこいい所見せたい生き物何すよ。因みに姉御も女っすがそれと同じ生命体っす」


その(かたわ)らにレンはいた


「いや・・・、私も隊長と・・・!!」


「はいはい乙女っすねー。あ、いま持つから暴れないでくださいっすねぇ!!っと」


「きゃっ!?」


レンは自分から動こうとしないリーを立ってる状態から無理やり抱く


世に言うお姫様だっこだ


「ふいー役得役得っす。あ、お尻触っちゃっても事故っすからね? それと、心配しなくても姉御が何とかしてくれるっすよー」


ホクホク顔でレンは言う


「離して下さい! あの人が隊長を腰ぬけなんていうから…!! 私は隊長を待っていなければ・・・!!」


「あの人は物事考えずに直球でものを言うっすからねぇ」


リーは暴れるが、疲労と怪我で力が出ず逃れられない


「隊長は1人でも頑張ってた! だからあんな事言われる筋合いないのに…!」


そして、ついには泣きだしてしまった


「あらら、この場面姉御に見られたらころされそうっすねぇ…」


「隊長がぁ! あの人にバカにされたからぁ…!! 一緒に拠点に行けばよかったのにぃ・・・!! 死んじゃうぅ…!!」


「いやいや、自分らの隊長を信じてあげてくださいっす。それにもし姉御にあそこまで言われて、それでものこのこと自分らと一緒に拠点に戻ろうとしたら自分があの人を…」


「…え?」


「あや! なんでもないっすよ! さっ、走るから歯を食いしばっていてくださいっす!! 舌噛むっすよ!!」


「ウグッ!?」


レンはごまかすように話しを打ち切り、ウィーネ達を追いかけるため走り出す


だがリーは確かに聞いたのだ




ハイネがもし拠点に戻ろうとしたのなら、レンがハイネを殺していたという言葉を








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