起
魔物の拠点の北に位置する大きな湖
この湖には、水獣という野生動物が住んでいる
だが、その水獣を除いてもここには多種多様な危険な野生動物達が飲み水を求めて訪れる
なので湖の側を通るときはその野生動物に遭遇しないか、刺激をしないように行動しなければならない
また、湖には大陸からから湧き出る魔力が含まれるため、これを飲み水にしてる野生動物にも多かれ少なかれ魔力が宿る
そのため、湖の近くに住む野生動物は魔力を使う
野生動物にもともとある純粋な力と機動力、そこに魔力という何が起きるかわからない未知数な力が加わる
こうして、魔力を得た野生動物は人間・魔物共通の強敵になる
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「あぁもうずっとモンスターばっか! いつになったらそのガールズに会えるのよ!!」
夜の森の中心で不満を叫ぶ声が響いた
叫び声の発信源は血まみれの女だ
腰あたりまで伸ばされた艶の有る黒髪は返り血でどす黒く変わり
痩せすぎとは言わないがほっそりとしたスマートな体型には不相応な血の滴る大きな剣や棍棒を腰にがしゃがしゃと巻き付けている
そして意思の強さを感じるツリ気味な目にはあきらかな不満がにじんでいた
「だから姉御! そんな大きな声出さないでくだせぇ! 野生動物が集まってきちまうっす!!」
殺意をふりまき、今しがた自分が殺した数匹の野生動物の群れのできたての死骸をぐちゃぐちゃと踏み歩く女に右目と左足を包帯で覆った背の小さな男が声をあげる
「シャラップ!! あんたのボイスの方がうるさいわ!! 大体こんなに血を撒き散らしてんのよ!? ボイスをスモールにしてたってこの臭い匂いでモンスターが寄ってくるわよ! こんな風にね!!」
女はその声に怒りを示しながら瞬時に真上へと腰から取り出した大きめのナイフを投げる
ナイフは一瞬で闇に消え、直後短い声が響いたかと思うと犬の顔をもった猿のような生き物が落ちてきた
その首には女が投げたナイフが赤い花を咲かせていた
「さすが隊長。 大当たりでございますね」
それを見て先ほどと違う、メガネをした不健康そうな男性が拍手をしながら言う
「あったりまえよ!! じゃなくて、あんたは拍手してないでもっと周りに気を配りなさいよ! あと隊長じゃなくて姉御と呼びなさい!! ほらリピート!!」
「わかりました隊長」
メガネの男は表情を変えずに言う
「あぁんもぅまったく! それとあんたは野生動物なんて大丈夫だって言ってんのにいつまで怯えてんのよ!!」
女はメガネの明らかにわかってない返事を無視し一番後ろで終始ガクガクと怯えているローブをまとい杖をもつ男を睨む
だが男は震えるだけで何も言わない
「…ほんとなんで私達がこんなビビリもやし男の護衛でモンスターフォレストを進んで行かなきゃならないのよ!!」
「仕方ないじゃないっすか! 今俺らにゃ金がないんすから!!」
包帯男は女のローブ男を睨む目をさえぎるように2人の間に入りなだめる
「ていうか隊長。 こんな行って帰ってくるだけの仕事であんな沢山の金が報酬でだされるのですよ? 隊長の頭でも中々うまい話しだと理解出来ませんか?」
メガネもややバカにしながらなだめる
「そりゃあんたらは行って帰るだけかもしんないけど、私はバトルバトルの連続なのよ!! ほら!!」
それにたいし、女はまるで子供のように地団駄をふみながら持っている刃物の先で歩いてきた道を指す
そこには沢山の種類の野生動物が流した血で出来た川が広がっていた
その川には頭のもぎ取られた身体や背中から無数のナイフが生えた野生動物、内臓やら何やらが不必要に踏みつぶされたような物体、沢山の死体が沈んでいた
その川に先程絶命した犬顔の猿が女に蹴飛ばされ、不快な音をたて川の一部になる
ローブの男は、野生動物にではなく
川をほぼ1人で作った女に怯えていた
この、人間の気配や血の匂い、音に寄って来た全ての野生動物を殺しつくす女にずっと怯えていたのだ
「いやいや俺らもなんだかんだ戦ってるんすからね!? あと危ないから刃物を振り回さないでくださいっす!!」
「うるさい! だったらあんたはもっと前にでなさいよ!」
「いやぁ、自分野生動物の攻撃は怖くないんすがね? 前にでるともれなく姉御の敵味方平等攻撃に巻き込まれるからいやっすよ!」
「それくらい我慢しなさいよ!」
「なんで前の敵より後ろの味方に注意しなきゃならないんすか!?」
それに気づかず女と包帯男は大声で話しを続ける
「あの、やはり私も前に出た方が…」
そこに場にそぐわない鈴の鳴るような幼い声が響く
声の方を見ると、ローブの男の横を歩いていた紫髪の女性が申し訳なさそうにしていた
「大丈夫。ウィーネちゃんは何もしなくていいんだよ?」
先程の叫び声が嘘かのように、女は柔らかい口調で言う
「で、でも・・・」
「そもそも私はウィーネちゃんのような可憐で幼い少女がこんな血生臭い森について来ることがそもそも反対なのよ?」
「いや隊長。知ってるとは思いますがこいつ中々強いんですが?」
「うっさいよニッチ! あんたはもっと強くなりな!!そして姉御と呼びな!!」
「かしこまりました」
メガネはやはり表情を変えずに言う
どうやら女は女性に愛を、男性に殺意を抱いているようだ
「あ、あの、ほ、ほんとに私は、無事ハイネ隊長に、会えるのでしょうか?」
そこに初めてビクビクとしながらだがローブの男が声を出す
その発言に横にいたウィーネと呼ばれた紫髪の少女が答える
「大丈夫ですよ。うちの隊はあなたがた『灯』のような凄い人達の集まりではないですし人数が4人と少ないですが、それでも魔物の大陸侵攻を食いとめるべく立ち上がった人の集まりです。少しでも国の為、皆の為になるのなら私たちは全力で」
「あぁもうはやく帰ってガールズ達と遊びたいなりぃ! 夜遊びしたいなりぃ!!」
女が若干泣きながら叫ぶ
「同感っす! 俺もこんな仕事さっさと終わらせて酒が飲みたいっす!!」
それに続き包帯男が舌を出しながら叫ぶ
「全く。私だってこんな危険な場所、多額の金が出されなければ来ませんよ」
最後にメガネがため息をつきながら呟く
「…全力で命を賭けます!!」
その3人の言葉を聞いてもウィーネは言い切った
ローブ男は変わらず怯えた目を向ける
「うぅ…。ほんとに頼りになる方々なんですよぉ…」
その目に耐えきれず言いわけのような言葉をウィーネが発した直後
「「「あああああぁあぁぁあぁあああああああああああ!!!!」」」
『何か』の声が森にこだました
「…今のはなんだ?」
「一応、人の声っすね」
女と包帯男は瞬時に声のした方向を見据え武器に手をかける
「キーリさん。今の声、お仲間さんの声ですか?」
メガネはローブの男に話しかける
「い、いえ今のような叫びをあげれる人は『灯』にはおりません」
ローブの男、キーリは首を振りながら身体を振るわせ言う
「なら、とりあえず声のした方向に行くわよ。あと、今の声は断末魔に近いから覚悟しておきなさい」
「「「はい」」」
女がそう言うとキーリ以外は目を鋭くし雰囲気を変える
キーリは、野生動物以上に危険な人物たちに護衛を任せた自分を呪い、そしてついて行くしかない状況を悲しんだ




