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遭遇しました

お待たせしてしまって申し訳ありません。

長いこと放置しておりますが、亀更新で頑張ります。


お読みいただき、またブックマークしていただき大変ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


※今回は、若干ではありますがいじめのような表記があります。不愉快に感じられるかもしれません。ご無理な方は読まれないことを推奨いたします。ご注意ください。


15/10/11 前書きと本文中の言い争う部分を若干追加しています。

講師棟でアルフレッドと邂逅したイルヒナートは、シエスタを連れ木立の中を歩いていた。

この木立は、学園の敷地の南部を大きく占めるもので、馬術や魔術演習、オリエンテーリングなどにも活用されている。

もちろん学園によって整備されており、現在イルヒナートとシエスタが歩いている道もきちんと遊歩道として石畳が敷かれている。

木立を抜ける風に心地好さを感じながら歩くイルヒナートの横をシエスタは放課後の予定を復唱しながら歩いていた。


「ーーーー、本日一番の予定は王宮でのお茶会でございますね。主催はエルシュタット様です。なんでも、シーズンのためのドレスを決めるためにお嬢様のご意見を伺いたいと。」


既に恒例行事でございますね。と微笑むシエスタだが、シエスタのその態度にしても、エルシュタット本人に対してもイルヒナートとしては、複雑な思いを抱かざる得なかった。

エルシュタットは、アスティリカ王国唯一の王女だ。

現在アスティリカ王国の王子王女は、第1王子であるアマルトリヒ、第2王子であるオルトリッド、第3王子のアルフレッド、そして第1王女のエルシュタットだ。

ちなみにアマルトリヒとアルフレッド、オルトリッドとエルシュタットのそれぞれが同腹だが関係なく4人とも仲が良い。

イルヒナートがアルフレッドの婚約者に決まったときには、イルヒ姉さまが本当の義姉様になると喜んでいたくらいだ。余談である。

10日前まではイルヒナートもいずれ義妹になるのだからと親しくしていたが、婚約を破棄してしまった今、幼馴染にも等しい少女を傷つけてしまったのではないかという心配などで、エルシュタットの誘いに重圧を感じてしまっていたためだ。


「そうだったわね。」


複雑な内心を押し隠し、笑顔を見せるイルヒナートだったが、シエスタに隠し通すことは出来なかった。

シエスタとて、時期を思えば決して楽しめるものではないと理解はしていたが、それでも長年エルシュタットはイルヒナートを『義姉』と慕ってきた。

イルヒナートを慕うちっちゃなお姫様は大層可愛らしく、しかもシエスタ自慢のお嬢様をキラキラとした眼差しで見つめるのだから、鉄面皮の侍女であるシエスタをしてもついつい頬が緩んでしまうのは致し方のないことだった。

とはいえ、そのエルシュタットも御年14歳の立派な淑女である。

社交界にこそデビューはしていないが、シーズン開始の夜会には王族として8歳の頃から毎年出席している。

そしてそのドレスのデザインを毎年イルヒナートに相談するのだ。


「来年にはデビューを控えておられますので、気合も入っていらっしゃるでしょう。」

「そうよね。」

「ですからきっとお嬢様を頼りにしていらっしゃいますよ。」


シエスタの断定的な言葉に、イルヒナートは多少の疑念を抱きながらも情報面、社交面などで多大な信頼を置く侍女のことだからと納得することにした。


「シエスタ、馬車とドレス、お茶会用のお菓子の用意はよろしくて?」

「整えております。」


その満足のいく回答に、ありがとう。とシエスタに感謝を伝えた。

では、行きましょう。と踏み出したときだった。




ーーーーあなた。ご自身の身分も弁えず殿下のお側に上がるなど、分というものについて考えたことがおありですの?


学園の敷地内には数え切れないほどのガゼボが設置されている。

それはこの木立も例外ではないため、少し探せば見つけることがすぐに出来る。

話し声が聞こえたのでイルヒナートが周囲を見回すとシエスタが、あちらです。と示す方向に、木立の中に建つガゼボが見えた。


ガゼボの前には金髪の令嬢と赤茶の髪の令嬢、銀に近い灰色の髪の令嬢の三人と対峙するように立っているピンクゴールドの髪の令嬢が見える。


「リルシア様でございますね。相手のご令嬢は王子派筆頭の方々かと。」

「そう。」


いかがなさいますか?と、視線で問うて来るシエスタにイルヒナートはちょっと考えた。

助けに入ることは簡単だ。公爵家令嬢であるイルヒナートが現れれば、必然的にそれより下位の家格の人間がその行動を阻害することは本来不可能なのだから。

以前イルヒナートが悪口雑言を受けていたのは、イルヒナート自身が情報収集のためその行動を諌めなかったからに他ならないのだ。


「リルシア様は王子妃になられるのよね。」


それならば、社交界でうまく人脈を作ったりするためにも社交術は必要になってくる。

それは下位の爵位の人間の言葉は流して誘導して自分に都合よく、上位の爵位の人間は勘気に触れないようにかわしながら、気に入られるように相手の感情をうまく操作しなくてはならない。

果ては外交や政務に関わることまで考えたら、安易に助けるということは悪手なのではないか。

実際にその場面になってからでは遅いのだから、学べるときに学ばなければ後々悪影響が出かねないと、イルヒナートが考えていると、その横に静かに歩み寄った人物がいた。

身長が高く、格闘技を習得しているので筋肉質なその人物は、普段は巌のような風格があるのに今このときにはうまく気配を殺している。

実際かなり近づくまでシエスタすら気配を特定できなかったのだから、相当の腕前だ。

その人物はちらりとイルヒナートに視線を向けながらも、視界の中からリルシアをはずさないようにしていた。


「助けには?」

「ナストスク先輩は仲裁されないのですか?」


イルヒナートの隣へ歩み寄ったのは、風紀を取り締まる指導部の会長、先日のお茶会にも参加していたトイニスト・ナストスクだった。

トイニストの質問に質問を返したのは、彼が指導部の会長だからだ。

一対複数で対峙し、複数が一人を取り囲むように一方的に話をしていれば、--しかも一人の方が俯いて何も言い返さずに居れば客観的に見て、風紀を乱す行為と判断されても不思議はない。

さらにそれが、複数の女生徒が一人の女生徒を取り囲んでいるとなれば、男性・・の視点ではいじめと認識してしまうかもしれない。

そう、イルヒナートは判断したからだ。


「必要か?」

「…必要に感じておられるのではないかと思いまして。」

「貴女は違うようだ。」

「そうですね。」


トイニストの断定的な言葉を肯定すると、ピクリと眉を持ち上げ、しかし何も口にすることなくトイニストはリルシアへと視線を移した。

二人で静観する女生徒4人の様子は、次第に激しくなっていく。

始めは俯いて言い返さずに居たリルシアも何がきっかけだったのか弾かれたように顔を上げたかと思うと、反論し始める。

下位貴族に反論されたことが屈辱だったのか、3人の女生徒の様子はますます激しくなっていった。

さすがに暴力には訴えていないし、暴力に訴えるような事態になればトイニストとて静観は出来ない。

それぞれ普段は使うことのめったにないだろう罵詈雑言を醜悪な表情で吐き出し、応酬を繰り返す女性の姿はさながら悪鬼といってもいいかもしれない。

女性同士だけに遠慮というものが存在していないのだ。

そもそも女性は、同姓にはとても厳しい。

そんな女性の社交界はある意味戦場だ。

男性が見るには少々刺激が強いかもしれない。

現にその様子を見ていたトイニストは若干青ざめているようだ。

おそらく女性の社交の場での辛辣なやり取りを初めて目の当たりにしたのだろうとイルヒナートは予想した。

そして、シエスタに目配せされたイルヒナートはトイニストに酷な告白をしなければならなかった。


「ナストスク先輩。大変申し訳ありませんが、私約束の時間が迫っておりますので辞去させていただきたいと思います。」

「……」


イルヒナートの言葉に驚きと戸惑いの視線を寄越してくるトイニストだったが、生憎イルヒナートもこの後に控えているエルシュタット主催のお茶会に遅れるわけにはいかない。

時間にまだ多少の余裕があるとはいえ、女性の準備には時間がかかるし、そもそも会場も王宮なので移動時間も必要だ。

そんなイルヒナートの態度は、男性から見たらーーまた一般的な平民から見たらいじめを容認するような、そんな態度に見えただろう。


「……」


納得がいかない。理解できない。軽蔑する。--そういった負の感情が明らかに籠もった視線。

トイニストの険しい顔が3割り増しで険しくなっていた。

そんなトイニストにイルヒナートは苦笑を禁じえなかった。


「ナストスク先輩。私達ーーーー私も彼女達も貴族なのです。」


貴族たるもの社交界を渡るために社交術は必須の技術なのだ。

それは貴族であれば、上位も下位もない。


「彼女、リルシア様が王子妃になられるというなら下位の貴族程度軽く手玉に取れねば、上位貴族の間を渡ることなど出来ませんよ。」


そもそも、言わせてばかり置いては誘導することも、流すこともかわすことも、果ては話題を転換することも出来はしません。そんな方は、女性の社交界で生き抜いてはいけませんよ。


そこまで言ってにこりと微笑んだイルヒナートは、今度こそ辞去の挨拶を告げてその場を後にした。





※今回は貴族って一般的な人とは見解が違うんだろうなという視点から書いています。作中表現としてご理解をお願いいたします。


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