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キョウヤは眠りに就き、夢で昔の記憶を見た。
静かな夜が、彼らの過去と今を繋ぐように包み込んだ。
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資源を求めて廃墟のビルに来た時のもの。
崩れたコンクリートの隙間から冷たい風が吹き込み、埃と錆の匂いが鼻をついた。
「おい、アイツらに見つかる前に早く逃げるぞ」
戦闘装甲『迦具土神』を装着したキョウヤが、『鳴神』を装着したシロガネの肩に手を置く。
装甲の重い音が、廃墟の静寂に響いた。
シロガネの目の前には子供がいた。
左足と左腕がなく、ここらの化け物にやられたのか、人間にやられたのかは分からない。
その小さな体が、瓦礫の中で震えていた。
「生体チェッククリア。武器も未所持。だけど、そいつを担いでアイツらから逃げるのは不可能だ。行くぞ」
「ああ、分かってる。分かるけどよ……」
仮に助けたとしても、キョウヤ達には障害を抱えた子供を養う余裕が今はない。
食料も燃料も乏しく、生き延びるだけで精一杯だった。
シロガネが中腰になり、子供に一言だけ告げる。
「ごめん……」
バーニアの点火音が響く。
キョウヤが外へ出て飛び立った。
その背中が、灰色の空に溶けていく。
追うようにシロガネも出ようとした時、微かな声が聞こえた。
「た……す……けて……」
微かな声だったが、『鳴神』の音声システムが確実に拾い、シロガネにははっきり聞こえていた。
その声が、心に鋭く刺さった。
一瞬歩みが止まるが、すぐ前へ進み始める。
だが
「……ッ」
シロガネ・ヤマトは━━
別の場面の夢
汚染された大地が広がり、空は鉛色の雲に覆われていた。
キョウヤとシロガネがいた世界は、海も大地も空も取り返しのつかないほど汚染されていた。
それでもなお、人間は生きるために資源を奪い合い、殺し合う。
そんな世界でキョウヤ達は生きていた。
瓦礫と錆が広がる荒野で、希望は遠く感じられた。
「そっち、なんか使えそうなもんありそうか?」
「いや、特に何も」
キョウヤがやる気のない声でシロガネに問いかけ、シロガネが返す。
その声が、荒涼とした風景に虚しく響いた。
そのまま落ちているガラクタを掻き分けながら、二人は会話を続ける。
クソまずい空気も毎日吸っていれば、もう何も感じない。
汚染された風が、肌にまとわりつくだけだった。
「こんなことするより、他の奴らから奪った方が何十倍も楽だな」
「無駄な争いするのはダメだって」
「無駄ではないだろ」
「……そうだな」
シロガネが深いため息を吐く。
二人はここに至るまで地獄の日々を送ってきた。
自分達の故郷は消え、空船にいた仲間を失い、今はあるかも分からない使えるガラクタを探している。
その重さが、ため息に滲んでいた。
「この世界……ここから戻れると思うか?」
「あ? 無理に決まってんだろ。あれ見てみろよ。もう手遅れだ、手遅れ」
キョウヤが変色した海を指差し、シロガネに言う。
その海は、かつての青さを失い、毒々しい色に染まっていた。
「俺達の最後ってどうなるんだろうな」
「さあな。ただ、死ぬ前にこんなクソな世界にした元凶のあいつを後悔させて殺したいな」
キョウヤが真面目な口調で殺意を込めた言葉を放つ。
その声に、静かな怒りが宿っていた。
「その時は俺も付き合うよ」
「……トドメはお前に譲ってやる」
「……ああ」
そんな話をしていると、止めていた空船から一人の少女が降りてきた。
その小さな足音が、荒野の静寂を軽く破った。
「キョウヤ兄とヤマト兄、なんかあった?」
少女の名前はミナセ・メイ。
ミナセ・アヤという、キョウヤ達と同じ歳の女性の娘である。
父親はすでに死んでいる。
その小さな体に、過酷な世界の重さが乗っていた。
「いやぁ、何もねえよ」
「……私も手伝うよ」
キョウヤが答えると、メイが申し訳なさそうに声を出した。
そしてガラクタを漁り始める。
その小さな手が、汚れた金属を掻き分けた。
「おいおい、メイは休んでろって」
シロガネが声をかけて止めようとする前に
キョウヤがメイを後ろから両手で持ち上げる。
その動きが、彼女を軽く驚かせた。
「もうこんなとこ探しても意味ねえよ。帰るぞ」
「ちょっと手伝い始めたばかりだよー! キョウヤ兄ぃ!」
シロガネがキョウヤとメイのやりとりを見て笑っていたが、ふとメイの漁っていた場所に目が吸い寄せられた。
その瞬間、何かが頭をよぎったが、夢の中で曖昧に消えた。
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「……」
ラルナーの家の部屋のベッドで、キョウヤはガバッと夢から目を覚ました。
仰向けのまま起き上がらず、額に手を当てて考える。
窓から差し込む朝の光が、部屋を穏やかに照らしていた。
(ここから先、何があったんだっけ……? 俺たちはどうなった?)
思い出せない。記憶を失ったのか、それとも思い出したくないのか、キョウヤには分からなかった。ただ、胸に残る微かな不安だけが燻っている。
キョウヤはベッドから起き上がり、窓を開けた。
そこから見えるアッシュベリーの光景は、平和そのものだった。瑞々しい緑が朝の陽光に輝き、遠くで鳥の声が心地よく響いている。
だが、今日はその平和の殻をひっぺがすような行動を、キョウヤは取るつもりだった。その強い決意が、静かな朝の光の中に鋭い影を落とした。
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学園でいつも通り過ごし、授業がすべて終わり自由時間になった瞬間。
キョウヤは真っ直ぐ、教室の席にいるアイリスの元へと歩を進めた。
教室の喧騒がふっと静まり、昼の陽光が窓から差し込む中、周囲の生徒たちの視線が一気に彼へと集まる。
「ちょっと、いいか?」
「……何?」
相変わらずジト目で生気のない、だが整った顔立ちのアイリスが椅子に座ったまま応じる。彼女の冷たい瞳が、キョウヤを静かに捉えた。
「この前のあれ、ちょっと油断しすぎてたからさ。再戦させてくれ」
「えぇ……。あいつマジで言ってるのか?」
キョウヤの直球すぎるリベンジ宣言に、近くにいたユウジが思わず呆れた声を漏らす。周囲のクラスメイトたちもざわつき始め、教室にピリついた緊張感が広がっていく。
「何回やっても変わらない。何も捨ててない君は、私に勝てない」
「何の話だよ」
アイリスは慣れたように席を立ち、キョウヤに背を向けて歩き出そうとする。
その背中に向けて、キョウヤは挑発するように言葉を投げつけた。
「逃げるのか?」
「……は?」
不機嫌そうに振り向いたアイリスの顔が、明確な感情を剥き出しにする。彼女はチッと小さく舌打ちをした。その音が、静まった教室に鋭く響く。
「……君みたいな人は何人もいた。言い訳をして──」
「じゃあいいだろ。俺も同じ目に合わせれば」
キョウヤの畳みかけるような追加挑発に、アイリスの瞳に冷たい苛立ちと不快感が浮かぶ。
「あのあのー二人ともそんな熱くなったらだめだよーほら私達仲間だからー!」
ベーアが今にも殴り合いになりそうな二人の間に苦笑しながら挟まろうとするが、キョウヤは一歩も引かない。ここで引けば、あの悔しい敗北のまま勝ち逃げされてしまう。
「俺は白黒つけたいだけだ」
「君は黒だったよ」
「だから、油断してただけだって言ってるだろ」
「油断する方が悪い」
「もう一回だけでいいからさ」
「もう、二人ともちょっとは穏やかに……」
止まらない二人の応酬に、ベーアが困り果てて天を仰ぐ。だが、そのベーアの制止を切り裂くように、アイリスが冷酷な声音で言い放った。
「もういいよ。どこでやるの? 」
アイリスが不機嫌を解放するかのように言葉を荒げる。
「いいね。これから採取任務を理由に、外に出る」
どこでやるか、キョウヤは最初から計画を立てて準備していた。
「外で?」
「中じゃお互い、周りの目が気になって本気でやれねえだろ。外なら邪魔も入らない」
「……そう。君の命は保証できないけど」
「そっちの命は保証してやるから安心しろ」
「……」
キョウヤの連続挑発により、アイリスの心は今にも爆発寸前だった。彼女の瞳の奥で、凍てつくような闘志が激しく燃え上がっていく。
「おいおい……マジで外でやるのかよ?」
ユウジが呆れ気味に声を上げると、実戦派のアイギス学園の生徒たちらしく、クラスの面々が「決闘の立ち会い」を面白がってぞろぞろと立ち上がり始めた。
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ギルド・ユグドラシルの受付。巨大な樹と一体化した造りで木と石でできた無骨な建物内は、依頼を求める人々で賑わい、壁には古びた掲示板が掛かっている。
キョウヤは受付の女性に、薬草の採取依頼を提示した。
「えっと……その人数で、この依頼を受けるのですか?」
キョウヤの後ろには、ライゼやユウジを含めたクラスメンバー全員が揃っている。ただの薬草採取に対して、明らかに過剰すぎる戦力だ。その異様な光景に、受付の女性が目を丸くしている。
「俺が依頼を受けるの初めてなんで、クラスのアイツらが手取り足取り教えてくれるそうなんです」
「あぁ、なるほど(全然教えてる素振りはないし、みんなニヤニヤして一人は殺気立ってる気がするけど……)」
キョウヤが適当な言い訳を並べると、受付の女性は困惑しつつもすぐに手続きを通してくれた。
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依頼を受理し、外の世界へと繋がる巨大な門へと移動する。
昼の陽光がアッシュベリーの巨大な防壁を明るく照らし、遠くで鳥の声が響いていた。
「えっ、どうしたんだ? お前ら、揃いも揃ってぞろぞろと」
門番をしている男が、驚いた様子で声をかけてくる。その素朴な問いに、ユウジが慣れた様子で前に出て答えた。
「みんなで西の森に採取仕事さ。新しく入ったキョウヤとの親睦を深めるためにな」
「そ、そうなのか。いやぁ、ヴァリアントの精鋭揃いで豪華だなぁ。気をつけて行けよ」
門番には奇妙な目で見られたが、これでようやく、足枷なしでアイリスと全力で再戦する舞台が整った。
ゴゴゴ、と重い音を立てて門が開き、外の世界を照らす昼の光が、キョウヤたちの背中を強く照らし出した。




