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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 2-4】その扉の向こうに待ち人あり

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【91】ライガ、エジプトに立つ

 AW609――。


ヨーロッパの航空機メーカーが開発した民間向けティルトローター機で、スターライガも連絡機として数機を導入している。


白地に蒼いラインが特徴的なスターライガ所属のAW609は護衛のMF1機を伴いながら広大なリビア砂漠を横断し、エジプト共和国の首都カイロに赴いていた。



「ふぅ……外はもっと暑いな。それに日差しもキツイ」


同国のスフィンクス国際空港に着陸したAWから降りたライガはサングラスと帽子で日差し対策をしていたが、それでも右手で喉元を扇ぐなど暑さには参っている様子を見せている。


正直なところ、冷房を利かせていたはずの機内もそこまで涼しいわけではなかった。


「ようこそ、ミスター・ダーステイ。雪国生まれの貴方にとってこの国の気候は厳しいでしょう」


そんな彼を出迎えたのはビジネススーツを身に纏ったアラブ系の中年男性。


見た感じ外交官であろうか。


この男は世界共通語の英語で遥か遠い異国からやって来たライガの長旅を労う。


「その送迎車、爆発物や盗聴器が取り付けられていないかチェックしているんだろうな?」

「もちろんです。1日3回は信頼できるセキュリティに確認させております」


握手を交わしながら公用車と思われるSUVの安全性を気に掛けるライガに対し、外交官の男はセキュリティチェックには万全を期していると答える。


「……こっちの荷物はトランクに載せてくれ。これは私が持っておく」


自分たちが乗り込む車に不審な点は無いと判断したライガは着替えや飲料水が入ったスーツケースを迎えの者に預ける一方、重要資料などが収められたブリーフケースは肌身離さず持っていくつもりだった。


「ロサノヴァ、コマージ! お前たちはこの空港で待機だ」


車に乗り込む直前、ライガはAWのパイロットを務めるサニーズと護衛機として連れて来たコマージに指示を伝えておく。


「俺たちが話し合いに行ってる間にAWには給油しておけ。いざという時にいつでも機体を出せるようにしておくんだ」


帰路で迂回の必要が生じた場合に備えて給油しておくのが一つ。


今回は荒事をしに行くわけではないが、オリエント連邦とエジプトは正式な国交を結んでいない。


想定外のトラブルが発生する可能性は十分あり得る。


「了解。お気を付けて」

「行くぞ。クローネ、フランシス」


ロサノヴァたちの見送りを受けながらライガは秘書役のクローネと地上での護衛を務める白兵戦要員、フランシス・ハートマンと共に車へ乗り込むのであった。



 ライガたちを乗せたエジプト政府公用車が向かったのは、カイロ市内にある外国人観光客向けの高級ホテル。


彼とエジプト政府関係者はこのホテルの多目的ホールの一つを貸し切り、話し合いの場を設けていたのだ。


「ようこそ、エジプト共和国へ。私はエジプト外務省国際協力局のアブラル・スレイマーンであります」

「スターライガ非公開株式民間軍事会社の最高経営責任者代行、ライガ・ダーステイだ。本日はよろしく頼む」


屋外と異なりエアコンがよく効いた涼しい部屋でエジプト側の代表者スレイマーン氏とライガは握手を交わす。


「つい先日ダカールで発生した大規模な武力衝突の情報は我が国にも届いております」


着席したスレイマーンはまず先日アフリカ大陸西部で繰り広げられたダカールでの戦闘について言及する。


「あなた方の活躍によりアフリカ大陸はルナサリアンの実効支配から解放され、諸国は再び独立と自治を取り戻すことになるでしょう」


同地を拠点にアフリカ大陸の大部分を実効支配していたルナサリアン残党の壊滅は既にアフリカ諸国の人々にも知れ渡っていた。


しかし、大昔の隕石災害により世間から取り残されたアフリカ諸国は独自の道を行くことを選択。


被害が比較的軽微だったエジプトら北アフリカ各国による主導の下、あらゆる手段を用いてでも独立を貫き続けたという。


スレイマーンの笑顔は果たして本心か……。


「……我々は真の目的のためにたまたまダカールを通り掛かっただけさ」


そうしなければアフリカ大陸は列強諸国の介入を許していた――それは分かる。


ライガの母国オリエント連邦とその周辺地域も似たような事情を抱えているからだ。


そして、その中には前の戦争でルナサリアンにくみした勢力がいるという共通点も……。


「事態は一刻を争っている。本題に入ろう」


信用を得るための社交辞令などに耳を傾けている暇は無い。


表情を引き締めたライガはブリーフケースを開き、いくつかの資料をテーブルの上に広げるのだった。



「カーメン・コネクション――今のところ大きなアクションは起こしていませんが、奴らの存在その物がこの地域の安全保障におけるリスクであります」


一枚の資料を手に取ったスレイマーンは眉をひそめる。


アフリカ諸国の安全保障を脅かす要因はルナサリアン残党だけではない。


エジプトなど複数の国から危険視されている謎の組織"カーメン・コネクション"もその一つだ。


「『大きなアクションは起こしていません』? 言葉を慎め、こっちは仲間をさらわれているんだ」


カーメン・コネクションはテロ組織とも秘密結社とも反アフリカ工作活動部隊とも云われているが、神出鬼没ゆえ実態把握は未だできていない。


だが、スターライガチームに関して言えば主要メンバーの一人――サレナ・ラヴェンツァリ博士を拉致されるという明確な実害をこうむっていた。


ここまで紳士的な振る舞いに徹していたライガは明らかに苛立っている。


「我々は大切な仲間を救うためにアフリカへやって来た。その作戦を遂行するために必要な許可を求めている」


ただし、いくら大義名分があるとはいえ主権国家の領土内に勝手に立ち入ることは国際問題に繋がりかねない。


円滑な作戦行動のためにはエジプト側の理解と協力が必要不可欠だ。


「言っていることが分からないか? 単刀直入に言おう、カーメン・コネクション討伐のため奴らが潜伏していると思わしきエリアでの作戦行動を許可してほしい」


ライガのエジプト政府関係者に対する要求はただ一つ。


エジプト国内の特定地域における治安維持活動の許可である。


「……それは有り難いお言葉ですが、ここに奴らがいるという証拠は?」

「オリエント連邦が運用している偵察衛星が人員及び物資の移動らしき痕跡を定期的に観測している。これが一番重要且つ信頼性の高い根拠だ」


エジプト-リビア国境付近を撮影した衛星写真を指差しながら詰問してくる政府関係者に対し、その写真は世界最高クラスの情報収集力を持つオリエント連邦の諜報機関から合法的に入手したモノだと反論するライガ。


「そして、個人的な意見だがカーメン・コネクションが仲間の拉致に関わったという情報は信頼できる人間から提供された」


また、彼は前置きをしたうえで"信頼できる情報筋"からのリークもあると伝える。


「君たちが何もできずに手をこまねいている間、我々はたった一人の仲間のために準備を進めてきたんだ。分かるか?」


エアコンが効いているはずの大部屋の室温が上がっていくように感じられる。


ライガは自分たちの要求が受け入れられるまで一歩も引き下がるつもりは無かった。



「む……しかし、ルナサリアン戦争で我が国は損害を受けたうえ、その戦争以降はアメリカ合衆国からの軍事支援も途絶えていまして……」


言葉を度々詰まらせるスレイマーンが指摘している通り、3年前の戦争ではエジプトも地球の一員として侵略者と戦った。


そして、同国がアメリカを中心とする欧米諸国から兵器供与を受けていることも周知の事実だ。


もっとも、"世界の兵器工場"を自任していたアメリカの軍需産業はルナサリアン戦争で執拗に攻撃された結果、立て直しに十数年掛かると見積もられるほど極めて大きな痛手を負っていた。


「それはどこの国も同じだ。事情があるにしても、他国からの支援をアテにし過ぎるなよ」


その言い訳にライガは決して同情しない。


ルナサリアン戦争は万国に降り注いだ災いであり、また国家間の過度な依存関係はそれが不安定化した時に危機を招く。


これは彼自身の個人的見解に基づく忌憚きたんの無い意見であった。


「オリエント連邦政府や正規軍との関係が深い我々の要求を呑んだ結果、アメリカから睨まれるのが怖いのか?」

「ぐッ……!」


ライガからおそらく図星を指されたスレイマーンは顔を歪ませる。


オリエント連邦とアメリカが政治・軍事・経済といったあらゆる面で対立していることは国際社会の常識であり、その"冷戦構造"は二大国家と関係が深い国々の外交政策にも多かれ少なかれ影響を与えていた。


ちなみに、エジプト含めたアラブ諸国はアメリカの影響力が比較的大きい地域として知られている。


「無用な心配だな。私たちはただ仲間のために動いている。それを政治的に利用するか否かは政治家が決めることだ」


揺さ振られている交渉相手を追い詰めるべく、ライガは自身の組織の清廉潔白さを主張することでスパートを掛ける。


「救出作戦は時間との戦いだ。君たちがその書類に調印してくれるだけでいい」


こう言いながら彼が差し出したのは2枚の契約書。


内容は全く同じだが片方はエジプト側に保管してもらうため用意した物だ。


代表者が署名した瞬間、この契約書は記載内容の効力を発揮する。


「さすれば、私たちは全力を以って速やかに問題解決に当たることができる」


スレイマーンがサイン用の万年筆に手を伸ばそうとしているのをライガは見逃さない。


「……」

「……分かりました。私は今回の交渉に関する全権を大統領及び首相より一任されております」


政府関係者同士による短い議論の末、スレイマーンはついに万年筆を手に取る。


「フッ、貴国の賢明な判断に心から感謝を申し上げます」


交渉成立の瞬間に見せたライガの笑い方は奇しくも情報提供者の"彼女"とよく似ていた。

【Tips】

生粋の趣味人であるロサノヴァは様々な航空機の操縦免許を持っていることで有名。

本業で必要なMFやティルトローター機の他、レジャー用に所有する自家用機(主にレシプロ戦闘機のレプリカ)を操縦するための免許も取得している。

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