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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 2-1】Welcome to Africa

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【61】幸運と不運

 CIC(戦闘指揮所)を襲った衝撃と振動が収まり、何事も無かったかのように短距離戦術打撃群艦隊旗艦アドミラル・エイトケンはバレルロールを完了する。


少なくともCICは全ての機能を維持しており、ブリッジクルーたちも全員健在だ。


「……だ、ダメージチェック急げ!」


衝撃で落ちた軍帽を太股ふとももで挟み込み、それを被り直しながら損傷箇所の確認を促すシギノ副長。


「至近弾です! ブリッジ最上部に損傷有り! 同セクションのレーダーアンテナ使用不能!」


オペレーターのエミールは不完全ながら攻撃の解析を完了。


超高速で接近した飛翔体はバレルロール中の船体のブリッジ最上部付近を掠め、構造物の一部を破損させたことを報告する。


「バレルロールをしていなければ当たり所が悪かったかもしれん……幸運も強者の条件の一つだ」

「ええ……ジャパニメーションの戦艦みたいにブリッジにいたら死んでいました……」


それを聞いたシギノとメルト艦長は互いに顔を見合わせ、回避不能な攻撃をかわせたという事実に胸を撫で下ろす。


どちらが幸運体質だったのかは定かではないが、今回はちょっとした奇跡により運命を捻じ曲げることができたのかもしれない。


「艦長、敵機が離れました! 今ならブフェーラ隊の発艦いけます!」


しかも、先の攻撃によるフレンドリーファイアを避けるためか、あんなにしつこく纏わり付いていた敵MF部隊が全機いなくなるという僥倖ぎょうこうにも恵まれていた。


エミールはこの絶好のタイミングを逃すべきではないと進言する。


「しかし、さっきの攻撃の正体も気になるわね。次に狙われたら避けられないかもしれない」


ただ、メルトは兎にも角にも自分たちを追い詰めた攻撃を気にしていた。


今回は幸運と強運により偶然回避できたが、二度も奇跡に頼るようなマネはしたくない。


「……フライトクルーとリリス大佐を呼び出して。彼女には別命を与えたいの」


現時点で可能な限りデータを収集し、今後の戦闘に備えた対策を検討する――。


メルトは大破着底からよみがえったアドミラル・エイトケンが再び沈むことを何よりも恐れていたのだ。





「くそッ、ブリッジが!? 航行に支障は無さそうだが……!」


アドミラル・エイトケンが至近弾を食らった時、同艦の甲板上で敵機と交戦していたセシルのオーディールはバレルロールにより振り落とされていた。


彼女はローリングから復帰中の母艦の姿を確認すると、同じく振り落とされた敵機――フタバの陸戦改造型ツクヨミに視線を戻す。


「(マティアス将軍のバカ! 下手したら巻き込まれてたわよ!)」


一連の出来事で不利をこうむったのはむしろフタバの方であった。


退避指示を無視してギリギリまで蒼い可変型MFと鍔迫り合いを演じたのは確かに自分のミスなのだが、自分が交戦中なのを知りながら超長距離砲撃を敢行したレーヴェンタールも頭がおかしいと言わざるを得ない。


フレンドリーファイア上等の攻撃の結果、飛行能力が低いにもかかわらずフタバのツクヨミは空中に放り出されていた。


「貴様ら……私たちのふねに手を出したことを後悔してもらう!」


空中・宇宙両対応の可変型MFと飛行能力が限定される陸戦型サキモリでは空戦における優劣は明白だ。


母艦の対空砲火の被弾に気を付けながらセシルのオーディールM3は再び攻撃態勢に入る。


「ッ……対空砲火が……!」


対するフタバのツクヨミはスラスターを噴かして回避運動を試みるが、濃密な弾幕をかわし切れずダメージが蓄積していく。


あえて翼をもいだ砂色のサキモリの空中における運動性はお世辞にも高いとは言えなかった。


「落ちろッ! 月のケルベロス!」


使い慣れたビームソードを二刀流スタイルで振りかざすセシルのオーディール。


「悪魔は刺し違えてでもッ!」


逃げも隠れもできないと悟り、ルナサリアン式機動兵器用実体剣"カタナ"を構え直して決死のカウンターに賭けるフタバのツクヨミ。


不可視の"オーラ"を纏いし悪魔と狂犬の交錯の結末は……。





 砂漠の夜空に蒼い光と火花が飛び散る。


「きゃあああああッ!」


ビームソードの素早い斬撃で四肢をもがれたのはフタバのツクヨミだった。


彼女は反射的に悲鳴こそ上げていたが冷静さは失っておらず、機体が地面に叩き付けられる前に射出座席のハンドルに手を掛ける。


「くッ……腕が……!」


一方、セシルのオーディールは戦闘不能に至るほどのダメージは免れたが、それでも右腕を乾坤一擲のカウンターで斬り落とされるなど深手を負っていた。


"月のケルベロス"の異名に相応しく、フタバは最後の最後で悪魔に噛み付いていたのだ。


「(パラシュート……ベイルアウトしたか。まあいい、あれを殺すことが目的ではない)」


達磨と化した砂色のサキモリが墜落する直前、セシルは白いパラシュートが空中で開いたのを確認する。


オリエンティア的騎士道精神を重んじる彼女は戦闘能力を失った相手に対する追撃は行わなかった。


「……ブフェーラ隊か? 航空優勢の確保に手間取ったとはいえ遅いぞ!」


隊長機を撃墜された敵部隊の動きが一時的に鈍くなり、乗機を庇いながら一息つく時間を得られたセシル。


状況が落ち着いてからノコノコと発艦してきたブフェーラ隊に文句の一つや二つぶちまけたくなるのも無理はない。


「セシル、いきなりで悪いが部下たちを君に預ける」


自分たちの出番が遅すぎたことの自覚はあったが、別命を受けているリリスは出撃早々に僚機の指揮権をセシルに託す。


「偵察用装備でどこに向かうつもりだ?」

「さっきの攻撃の発射地点を特定してこいと、艦長直々に命令されてね。偵察任務に大所帯で向かう必要は無いだろう?」


親友の機体の装備を視認したセシルからの詰問に噓偽りの無い答えを返すリリス。


リリスに与えられた別命とは《アドミラル・エイトケンを狙った攻撃の情報収集》であった。


「……お前の腕は信頼しているが、気を付けろよ」


最高の実力を持つ親友をセシルは言葉少なに送り出す。


偵察任務に際して今更小言を押し付ける必要は無いだろう。


「君こそ斬り落とされた腕を僚機にカバーしてもらうことだね」


いつも通りの飄々とした軽口を言い残し、リリスのオーディールM3は南東の夜空に向けて飛び去っていく。


「全く……おい! ブフェーラ2及び3は私の指揮下に入れ!」


余計な一言に珍しく苦笑いしながらもセシルは親友の頼みを快く引き受け、母艦の直掩に残ったブフェーラ隊の2機に合流を促すのだった。





「(見逃してくれたのか……フフッ、無益な殺生を好まないのも"英雄の条件"というわけね)」


手足をもがれた乗機からベイルアウトしたフタバは未だ戦闘中の夜空を見上げ、自身を撃墜した蒼い可変型MF――セシルのオーディールを目で追いかけ続ける。


軟らかい砂漠に不時着したおかげで幸運にも怪我をせずに済んでいた。


「姉さん……!」


砂まみれの射出座席からサバイバルキットを取り出そうとしたその時、ミツバのツクヨミが目の前に降り立ち右手を差し伸べてくる。


「バクリュウの超電磁砲は連射できません。先ほどの一発を外した時点でこの戦闘は私たちの負けです」


戦線後方からの超長距離砲撃による敵艦撃沈を狙っていたが、その目論見が崩れた時点で本戦闘は自分たちの負けだとミツバは姉を諭す。


「そうね……ここは出直すべきかしら」

「ミツバねえ! 一機戦域から離脱していくヤツがいる!」


上の妹の言葉に同意したフタバがマニピュレーターに乗り移ると、姉妹を庇うように上空で戦闘していたヨツバから気になる報告が寄せられる。


理由は不明だが敵MF部隊のうち一機が単独で行動しているという。


「バクリュウの方角に飛んでいくぞ! 追跡するのか!?」

「適当な機体を2機回しなさい! 残りは戦闘行動半径の限界まで敵艦隊を追撃せよ!」


ヨツバの報告から推測するに問題の敵機は陸上戦艦バクリュウの位置特定を目的としている可能性が高い。


フタバは敵艦隊の追撃を続行させつつ、単独行動する敵機の追跡にも極少数の戦力を割くのであった。

【Tips】

MFや戦闘機では僻地や海上に不時着水した場合に備え、射出座席のユニット内にサバイバルキットが搭載されている。

内容物は一般的に連想される物品が中心だが、サハラ砂漠を主戦場とするミヅキ隊の機体ではそれに対応した同梱物が追加されている。

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