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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-6】過熱するテロリズム

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【43】バンカーバスター

 ビネンホフ――。

国会議事堂や総務省、そして首相官邸が立地するオランダの政治的中枢となる街区だ。

オランダは立憲君主制を採用しており、国王を国家元首とする王国だが実際の国家運営は首相が行っていた。

「首相……そろそろシェルターへの避難を」

「市民や国王陛下一家の避難は完了したのか?」

首相官邸に勤務する総務省の職員はこれ以上留まることは危険と判断し、ロドルフ・エヴェルス首相に避難を促す。

エヴェルスは2期6年にわたり首相を務めている人物であり、ルナサリアン戦争時は侵略者に対し断固とした態度を示すことで国民を結束させ、戦争末期までオランダという国を守り通そうとした人物である。

公人としての責任と役割を重んじ、オランダ国民及び王室のことを何よりも最優先とする政治姿勢も高い支持率の要因だ。

「警察や消防、各地に駐留する軍の協力により迅速に進んでいます。それに……」

デン・ハーグ市民の大半はもちろん、平時は市内のハウステンボス宮殿に居住する王室も既に市外へ退避していた。

にもかかわらず職員の歯切れが悪いのは……。

「……不甲斐無いな、我が国の軍は」

「兵士たちは懸命に戦っています! そのような言い方は……!」

エヴェルスの感想は事実の指摘ではあったが、今は公衆の面前ではないとはいえ不適切な発言であると職員は忠告を述べる。

「すまない……だが、事実を述べただけだよ」

執務室の窓から外の様子を見ているエヴェルスの横顔に反省の色は窺い知れない。

「私の家族を先にシェルターへ誘導してやってくれ」

「それが……ご息女が『お父様と一緒がいい』――と」

首相官邸に隣接する公邸に住む自身の家族を先に避難させるよう指示を出すエヴェルス。

しかし、先程までその家族に状況を説明していた職員は少し問題が起きていることを伝える。

原因はエヴェルスの幼い愛娘のわがままであった。

「全く、幼いとはいえ困った甘えん坊だ」

それを聞かされてもエヴェルスは怒ること無く苦笑いで済ませる。

彼にとっては歳を取ってから生まれた末子であり、目に入れても痛くないほど溺愛していることは周囲の人物のみならずオランダ国民でさえ知っていた。

「官邸に残っている職員たちにも通達! 速やかに近くのシェルターへ避難させろ!」

「かしこまりました」

だが、非常事態下においては家族の命も閣僚及び職員の命も平等に扱い保護しなければならない。

最後まで自身の職務を補佐してくれた職員に向けてエヴェルスは避難命令を下す。

「(ルナサリアンへの同情論に便乗するテロリストどもが……敗残者は一人残らず処刑してくれる)」

祖国と家族には強い愛情を注ぐ反面、前の戦争で一時的にオランダ国土を占領した旧ルナサリアンやその信奉者に対しては強い嫌悪感を隠さないのがロドルフ・エヴェルスという男だった。


 政府関係者の退避が進み始めたビネンホフに一機のMF――ズヴァルツのフェルスタッペンが迫る。

「(懐かしいな……この辺りに来るのは修学旅行の時以来だ)」

彼はオランダ北東部の地方都市アッセンの出身。

デン・ハーグには学生時代の修学旅行で来たことがあり、目標として使えるランドマークはちゃんと覚えていた。

「(敵機……! 先回りされたか!)」

しかし、攻撃位置まであと少しという所でズヴァルツは敵機――ヴァイルのオーディールM3に捕捉されてしまう。

「直ちに戦闘行為を中止し投降せよ! さもなくば貴機を撃墜する!」

「仕事に精を出しているじゃないか、ええ?」

オープンチャンネルで警告してくるヴァイルに対し、やけに馴れ馴れしく応答するズヴァルツ。

この二人は完全な初対面のはずだが……。

「ブフェーラ3、ファイア!」

「チッ……あちらにも事情があるか」

ヴァイルの返答はレーザーライフルによる攻撃。

こうなることは想定していたとはいえ、実際に攻撃を受けたズヴァルツは振り切れないと判断し戦闘態勢に入る。

「マイクロミサイル、シュート!」

まず、敵機の接近を許す前にズヴァルツのフェルスタッペンはマイクロミサイルを発射。

「ファイア! ファイア!」

続けて右腰の4砲身ガトリングガン及び左腰のレーザーバスターランチャーによる一斉射撃で弾幕を形成し、蒼いMFの接近を許さない。

「ヴァイル! そのまま敵機を引き付け続けろ!」

だが、それにより僅かに足が止まったことをリリスは見逃さず、自分とローゼルが加勢するまで足止めするよう指示を飛ばす。

「(速い! 少しばかり無茶が必要か……!)」

自機より速い敵機を複数相手取ることは無謀だ。

これに対抗するにはズヴァルツも攻めた戦い方に切り替えざるを得なかった。


「ブフェーラ2、連携で一気に畳み掛けるぞ!」

「了解!」

2機1組のフォーメーションで瞬く間に距離を詰めてくるリリスとローゼルのオーディール。

「ボンバードユニット、パージ!」

加えて別方向にはヴァイル機もいる。

どのルートを選んでも接敵は避けられない――そう判断したズヴァルツは対地攻撃用の大型ロケットランチャーを機体本体側に移動させると、バックパック外装部品を切り離して射出。

自律航行能力を持つユニットを自機とは違う方向に飛ばすことで撹乱かくらんを図る。

「こういう使い方も……ある!」

「「ッ!」」

ユニットが2機の蒼いMFに接近した瞬間、予め精密射撃の態勢に入っていたズヴァルツのフェルスタッペンはレーザーライフルを発射。

蒼いレーザーに撃ち抜かれたボンバードユニットは推進剤などが誘爆を起こし、それに目の前で遭遇したリリスとローゼルに緊急回避を強要させる。

「隊長! ローゼル!」

「今のうちに……!」

ヴァイルの意識が一瞬だけ僚機の方に逸れた隙を突き、攻撃ポジションに設定しているビネンホフ地区上空へと急ぐズヴァルツ。

先程の大型ロケットランチャーを使えば一発でカタが付くはずだ。

「……」

「目標確認! これより攻撃に移る!」

この状況で唯一迎撃可能なヴァイルが不可解にも手間取っている間にズヴァルツのフェルスタッペンは目標位置に到達。

機体全高に匹敵する砲身長を持つ大型ロケットランチャーを右肩全体を使うように担ぎ、大きく重たい装備を動かして照準を定める。

「(人影……あれは家族か?)」

世間一般ではアラフォーのオッサン扱いされる年齢でありながらズヴァルツは良好な視力を維持しており、地上を走っている人の集団を肉眼で視認していた。

家族と思わしき男女と子どもたちの周囲を複数人の警備兵がガードしていることから、これは政府関係者である可能性が高い。

「(……お前を殺す。トリガーを引くことは躊躇わない)」

自分と同じく家族を持ち、しかも必死に守ろうとしている姿にはズヴァルツも思うところがある。

だが……自らの意思で世界の敵となった彼はもう後戻りできなかった。


「バレル接続確認、バンカーバスター発射準備完了!」

あまりに大型なため未使用時は分割されている大型ロケットランチャーの基部と砲身を接続し、バンカーバスター――所謂"地中貫通爆弾"の発射態勢に入るズヴァルツのフェルスタッペン。

「(シェルターに逃げ込んでも無駄だ。この一撃は地中深くまで貫通してから爆発する)」

地中貫通爆弾はその名の通り地下に存在する目標を攻撃するための対地攻撃兵装。

これ自体は分厚い外殻に大量の爆薬を詰め込んで製造された大型爆弾であり、大質量とロケットモーターによる加速を活かした貫通力は地下30メートルに達する。

攻撃目標がこれ以上の深々度に配置されていない限り、大地を掘り返す爆撃から逃れる術は無い。

「ヴァイルッ!!」

「くッ……!」

珊瑚色とティールブルーのMFの奇策により足止めを食らったリリスは、自身よりも敵機に近いヴァイルに妨害を命じたが……。

「ファイアッ!」

蒼いMFが攻撃態勢に入るよりも先にズヴァルツのフェルスタッペンは地中貫通爆弾を発射。

ロケットモーターに点火しながらビネンホフ地区の施設を貫いた次の瞬間、地中で大爆発を起こしその衝撃で残りの建物も一気に倒壊させる。

「ああッ! いけませんわ……!」

「す、凄い威力だ……! 核兵器ではないようだけど……」

大地を掘り返すほどの爆発力は空中にいたローゼルとリリスが感じ取れるほど強烈なモノであり、一瞬にして瓦礫の山と化したビネンホフ地区の光景を目の当たりにした彼女たちは驚愕する。

「(爆発で即死は免れても生き埋めだ……機体の右腕だけでこの結果ならば十分だろう)」

一方、これほどの破壊力を持つ一撃は使用者のズヴァルツにも相応の代償をもたらす。

そもそも地中貫通爆弾はボンバードユニット側の反動抑制機能を必要とする兵装であり、それをパージした状態で爆弾を発射した彼のフェルスタッペンは右腕が動作不良に陥ってしまっていた。

「ナインチェより各機、目標地点に対する攻撃を完了した! 作戦目標は全て達成された!」

とにかく、ビネンホフ地区の壊滅を以ってレヴォリューショナミーの作戦目標は達成された。

遅れて来た"蒼い悪魔"からの攻撃を凌ぎ、動かない右腕を庇いながらズヴァルツは北に針路を取る。

「これ以上の戦闘は必要無い! 敵部隊の追撃に注意しながら帰還ラインに向かえ!」

オランダ軍の激しい抵抗によりレヴォリューショナミー側も少なくない損害が生じている。

本作戦の指揮権を持ち仲間想いでもあるズヴァルツは全軍撤退を決断した。

「隊長、地上の街区が……!」

「今はあのオレンジを叩くことを優先する! ブフェーラ3、合流しろ!」

無残な姿に変わり果てたビネンホフを気にするローゼルを窘めつつ、ここで取り逃がすと面倒な敵エースを叩くべくリリスはヴァイルに合流を促す。

「了解!」

「今日の君は珍しく動きにキレが無い。らしくないぞ、ヴァイル」

いつも通り力強い返事で答えたつもりのヴァイルだったが、長年に亘り戦友として接してきたリリスはたった一言の応答から違和感を見抜く。

「……すみません」

上官が指摘している通り、今日のヴァイルは確かに不可解な行動が目立っていた。

【ハウステンボス宮殿】

日本のテーマパーク――ではなくオランダ王室が所有する宮殿の一つ。

デン・ハーグ市内には二つの宮殿が存在し、そのうちハウステンボスは平時における王室の居所となっていることで知られる。

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