【40】デン・ハーグ、燃ゆ
Date:2135/10/08
Time:03:02(UTC+1)
Location:Den Haag,Nederland
Operation Name:-
【2026/7/16追記】
改行の形式を後半のエピソードと統一させるように修正。
初期版から文章を一部修正。
※ストーリー展開自体に変更点はありません
レヴォリューショナミーの占領から解放されたアイスランドを発った短距離戦術打撃群艦隊は、大西洋に出てフェロー諸島西方沖を通過するルートでイギリス・ベルファストに到達。
全領域艦艇の整備能力を持つ同地のベルファスト港に立ち寄り、半舷上陸で乗組員達を休ませつつ次の作戦に向けて準備を進めていた。
「……zzz」
現在時刻は夜の11時。
アイスランド解放作戦の過酷な戦闘で疲れが溜まっていたのか、作戦資料の確認を終えたセシルはベッドに入りスヤスヤと寝息を立てている。
「……ん……!」
しかし、彼女の安眠はスピーカーから鳴り響くサイレン音とそれに連動した自動起床装置によって妨げられた。
「(サイレン……敵襲か!?)」
ベッドから起き上がったセシルはすぐに状況を理解し、タンクトップの上にシャツを着ながら自室のドアを開ける。
「あ……セシル!」
通路に出ると寝癖が残ったままのリリスと偶然出くわす。
「空襲警報だろ? 全員招集しろ!」
「ローゼルもヴァイルも叩き起こした!」
それでもセシルの指示よりも早く動いていた辺り、寝惚けているのは髪の毛だけのようであった。
「よし、私も部下たちの起床を確認したら格納庫へ向かう!」
「総員、第二戦闘配置! MF部隊の搭乗員は至急ブリッジに集合せよ!」
同僚と共にセシルがMF格納庫の方へ走り出そうとしたその時、通路に設置されているスピーカーから新たなアナウンスが流れてくる。
戦闘配置への移行は指示されているが、MF部隊の緊急発進が必要な状況ではないらしい。
「ブリッジだって?」
「……艦長たちも状況を把握し切れていない可能性がある。とにかく私たちもブリッジに向かおう」
今は情報が欲しい。
困惑気味のリリスを引き連れたセシルは踵を返して上層階へ上がるエレベーターを目指す。
「(こんな夜中の呼び出しだ……良いニュースとは思えないな)」
セシルは経験的に察していた。
これから起こるのは自分達の力が必要な面倒事だろう、と。
◆
「艦長。セシル・アリアンロッド以下MF搭乗員6名、全員揃いました」
第二戦闘配置の発令から数分後、セシル達MF部隊の面々は短距離戦術打撃群艦隊旗艦アドミラル・エイトケンのブリッジに全員集合していた。
「急に叩き起こしてごめんなさい。でも、今回の緊急事態はあなた達を出撃させる必要があるかもしれないの」
実際に戦闘配置の命令を下したメルト艦長は安眠妨害については謝罪するが、それはそれとして事態は一刻の猶予を争っているとも述べる。
「私達が必要な作戦……ですか?」
「ああ、これを見てほしい」
まだ眠そうに頭を掻いているアヤネルが首を傾げると、副長のシギノはリモコンを操作し大型モニターに映像を表示させる。
「ッ! 空襲だと!? それも市街地にッ……!」
「こいつはイギリスの公共放送が動画サイトでライブ配信中の映像だ。ニュースによるとオランダ領土内に所属不明機が多数侵入、複数の中心都市に対し爆撃が行われたらしい」
モニターに映し出されたのはいくつかの黒煙と火の手が上がっている市街地の光景。
瞬時に何が起こっているのかを察して握り拳を震わせるヴァイルをよそに、皆の前で流しているニュース映像について説明するシギノ。
「その空襲は今も継続中で、SNSのタイムラインは一般市民が撮影したと思われる写真や動画で溢れかえっているわ」
世間がざわついているのは動画サイトやテレビ放送だけではない。
短距離戦術打撃群参謀のカリーヌは高級将校に限り持ち込みが認められている私物のスマートフォンを取り出し、たまたま隣に立っていた妹セシルに画面を見せる。
「……まあ、SNSをソースとする情報は鵜呑みにはできないけどね」
タイムライン上の写真や動画がフェイクである可能性は低いが、過去には編集加工技術を駆使した極めて巧妙なデマが拡散しトラブルを招いた事件もあった。
スマートフォンの画面に表示されているモノ全てが真実ではない――とカリーヌは妹に向かって苦笑いを浮かべる。
「しかし、オランダが空襲に晒されているというのは現在進行形の事実よ」
だが、少なくとも世界中の数多のマスメディアによる報道は真実だとメルトは指摘する。
「当然ながら現地ではオランダ空軍が迎撃に当たっているが、もし所属不明機がレヴォリューショナミーだとしたら苦戦は必至だ」
艦長の言葉に同意するようにシギノは大型モニターの映像を切り替え、現時点で判明している情報を基に戦術シミュレーション班が作成したマップデータを表示させる。
「偉い人たちにとってはこれ幸いというべきだったのかしら。つい先程、駐蘭オリエント連邦大使館を通して私達に支援要請があったの」
戦闘エリアに関するデータが早くも作られているということは、おそらくMF部隊の出撃が必要という想定で物事が進んでいる可能性が高い。
その答えはカリーヌが暗に示していた。
「短距離戦術打撃群航空隊、緊急出撃命令よ」
妹が中隊長を務めるMF部隊の方を振り向き、表情を引き締めながら上官として命令を下すカリーヌ。
「ゲイル及びブフェーラ隊はオランダ上空へ急行、同国の空軍と協力して敵戦力を排除し一般市民を守ること――いいわね?」
オリエント国防軍所属の彼女たちが異国の民であるオランダ人を守る義理は無いのかもしれない。
しかし、自分達の手が届く範囲で起こっている危機を見過ごすことはオリエンティア的騎士道精神が許さなかった。
◆
数時間後――。
ベルファストに停泊する母艦から緊急発進したゲイル及びブフェーラ隊はイギリス政府の許可を得て同国上空を通過できる最短ルートで南東へ飛び、北海上空で空中給油を受けてからオランダの政治的中枢都市デン・ハーグに入ろうとしていた。
「ゲイル1より各機、デン・ハーグ市街地を視認できるか?」
現在時刻は夜中の3時。
セシル達はまだ洋上を飛行しているにもかかわらず、デン・ハーグの街並みは炎で赤く照らし出されていた。
「ええ……火災規模は思ったよりも小さいですね」
3年前に逆戻りしたかのような光景は確かに衝撃的だが、スレイはニュース映像での第一印象よりも火災が小規模に見えることを報告する。
「精密爆撃だな。視界が悪い夜間でも加害範囲を必要最小限に絞れることを証明し、自分達がクリーンだと印象付けたいのさ」
元々レヴォリューショナミーはルナサリアン戦争における地球側の戦争犯罪と占領政策を糾弾するために結成されたと思われる組織。
当然、"戦争犯罪人"たる地球側へのアンチテーゼとして異なる戦術を採ってくる可能性は十分あり得る――ヴァイルはそう推測していた。
「テロリズムにクリーンもダーティも無いでしょうに……!」
「ローゼルの言う通りだ。如何なる理由であれ市街地に対する空襲は止めさせるぞ」
どんな御託を並べてもテロ行為の正当化は許されないというローゼルの真っ当な指摘に同意し、慣れない土地での夜間戦闘に向けて集中力を高めるリリス。
「FCS(火器管制システム)のセーフティ解除! 交戦を許可する!」
セシルの号令を合図に5機のオーディールM3はドロップタンクを海上で切り離して戦闘態勢に移行する。
「ゲイル2、今日は私とのエレメント(2機編隊)を維持しろ。アヤネルの分まで働いてもらうからな」
「了解です」
先日のアイスランドの戦闘で搭乗機が大破したアヤネル用の予備機の準備が間に合わなかったため、ゲイル隊は2機編隊で作戦に臨むことになる。
欠員発生に伴う戦闘力低下を補うにはセシルのみならずスレイの活躍も必要不可欠だ。
「IFF(敵味方識別装置)の情報は既に更新されているはずだが、友軍機との同士討ちには気を付けろよ」
H.I.Sのレーダー画面に表示されている敵味方の配置を確認しつつ、セシルたちはデン・ハーグ市街地上空に進入するのだった。
◆
「ファイア! ファイア! ファイア!」
本土防衛に当たっているオランダ空軍の主力兵器は、アメリカ製の戦闘機"F-35E ライトニングⅡ"とオリエント連邦製のMF"RM5-20B スパイラルB型"の二機種。
それぞれの特徴を活かした相互補完が為されているので優劣は付け難いが、今回のようにMF及び無人戦闘機を迎撃する場合は運動性に優れる後者の方が便利ではあった。
「くそッ、このままじゃ戦線を維持できん!」
デン・ハーグから最も近いギルゼ=レイエン空軍基地より発進したオランダ空軍機は健闘しているものの、数で攻めてくるうえ個々の戦闘力が高いレヴォリューショナミー相手には苦戦を強いられていた。
このままでは遅かれ早かれ防衛ラインは崩壊してしまうだろう。
「戦闘機部隊は寝惚けてる場合じゃないぞ!」
「小回りが利くMFとUAVは捉え切れない! MFの相手はMFがやれ!」
スパイラルB型はMFらしく高い運動性を誇るが機動力は若干低い。
F-35Eはステルス性を持ち速度性能を活かした高速戦闘を得意としているが、中低速域でのドッグファイトに引きずり込まれると対応できない。
レヴォリューショナミーは機体サイズが大きく取り回しが悪い戦闘機は積極運用していないため、F-35部隊は相性が悪い小型機との交戦を余儀無くされていた。
「ッ! 後方に注意! ルーキー、お前だ!」
何とか無人戦闘機を撃墜したベテランドライバーは、僚機のスパイラルに近付く白い可変型MF――バイオロイド専用機リガゾルドB型を確認し注意を促す。
「くッ……振り切れない!」
視界がブラックアウトするほどの急加速と急旋回で回避を試みるルーキードライバーだが、機体性能・身体能力共に上回るバイオロイドのリガゾルドは牽制射撃を交えながら影のように追従。
劣等種が息切れし始めるタイミングを見計らい、ビームブレードを抜刀し一気に襲い掛かる。
「ゲイル1、ファイアッ!」
蒼い光の刃がスパイラルの背部に迫ったその時、別方向から突如飛来した蒼い光線がバイオロイドのリガゾルドを逆に撃ち抜いたことでルーキーは窮地を脱する。
「援軍か……!?」
「あの蒼いMF――おいおい、マジかよ!」
オランダ空軍のMFドライバーと戦闘機パイロット達は知らされていなかった。
遅れてやって来た援軍が考え得る限り最強の戦力であったことを……。
【戦術シミュレーション班】
一定規模以上の軍艦に設置されているサーバールームのハイパーコンピュータを利用し、作戦行動に必要なデータの収集・分析を行うための部署。
高度な軍事機密を扱っていることからCIC(戦闘指揮所)と同じく限られた乗組員しか入室できず、戦術シミュレーション班への配属に必要な資格取得は大変難しいとされる。
本作を読んで面白い・良かったと感じて頂けたら、高評価・ブックマーク・感想・レビューなどをお願いします。
総合評価ポイントが増加すればランキング入りする可能性が増え、より多くの人の目に留まる機会を得ることに繋がるので……。




