【39】"平和な世界を想像してごらん"
【2026/7/14追記】
改行の形式を後半のエピソードと統一させるように修正。
初期版から文章を一部修正。
※ストーリー展開自体に変更点はありません
栖歴2135年10月4日――。
ついにアイスランド首都レイキャヴィークは解放される。
レヴォリューショナミーによる占領期間はわずか半月程度だったとはいえ、数週間ぶりに戻ってきた自由にアイスランド国民は歓喜していた。
戦闘終了から間もない真夜中にもかかわらず、レイキャヴィーク市内は歓声に包まれている。
◆
「――そうか、君たちは翌日中にはアイスランドを発つのか」
市内中心部に到達した多国籍軍はプレハブ小屋を利用した仮設司令部を設置。
ここに各国軍の代表者を招集しデブリーフィングを行っていた。
主な課題は軍隊を持たない国アイスランドの今後の防衛についてであった。
「ええ、我々の任務は『ヨーロッパ諸国への軍事支援』ですから。要請に応じて別の戦場へ向かわなければなりません」
オリエント国防軍代表の一人として出席していたメルトもアイスランドへの再侵攻を懸念していたが、彼女は既にオリエント国防軍総司令部から新たな作戦命令書を受け取っていた。
「うむ……大陸ではレヴォリューショナミーが比較的活発に活動していると聞く。これからも気を付けたまえよ」
「ご忠告感謝いたします。では……」
イギリス軍代表の高級将校と握手を交わし、互いの武運長久を願いながら同じくデブリーフィングに出席していたカリーヌは仮設司令部を退室する。
「――噂通り実直そうな人たちだったわね」
オリエント人らしくルックス・プロポーションともに抜群で、時に外国人の男達からそういう目で見られることがあるのを自覚しているのだろう。
今回は全くセクハラを受けずに済んだカリーヌはデブリーフィング時の"余所行き英語"を止め、母国語のオリエント語で出席者たちの誠実さを評価する。
「はい、あの人達が駐留している間はレヴォリューショナミーもこの国に手出しすることは無いでしょう」
共同戦線を展開した友軍の人々は能力・人格共に信頼できる――。
彼らに任せておけばアイスランドの防衛に問題は無いとメルトは太鼓判を押す。
「デブリーフィングの前にXXのタイムラインを見てたんだけど、アイスランドが解放されたことは早くも世界中に拡散されているみたいよ」
オリエント連邦有数の貴族アリアンロッド家の後継者候補でありながら、カリーヌは妹と異なり庶民派な人物として知られている。
軍用車両の車列が通過するのを待つ間、彼女は私物のスマートフォンを取り出しSNSの最新タイムラインをメルトに見せる。
「それに呼応してレヴォリューショナミーが優勢の地域でも動きがあればいいんだけど」
インターネットの普及から130年以上経った現代社会では情報というモノは即座に世界中へ広まる。
カリーヌはポジティブな情報がSNSを通して電子の海に拡散し、それを見た人々の行動がレヴォリューショナミーに対する牽制となることを期待していた。
「世界規模のテロリスト集団に立ち向かうためには、一般市民の積極的な行動も必要というわけですね……」
直接的な武力行使以外にもレヴォリューショナミーを追い詰める手段は必ずある――。
メルトもまた、人々の願いと祈りが平和な世界をもたらすためのビッグウェーブとなることを望んでいた。
◆
10月5日早朝――。
レヴォリューショナミーより奪還したレイキャヴィーク港に停泊する短距離戦術打撃群艦隊は夜通しの準備作業を終え、作戦成功の余韻も程々に次の戦場へと旅立つ。
「艦長、艦隊全艦の出港準備が完了しました」
「了解、確認お疲れ様」
艦隊旗艦アドミラル・エイトケンの副長として動き回っていたシギノ中佐からの報告を受け、彼女を座席に着かせながら軍帽を被るメルト。
「船体固定用アンカー全基解除!」
「了解! 船体固定用アンカー全基解除!」
まずは海底に投錨されている固定装置を全て収容するよう操舵士のマオ大尉に命じる。
マオは艦長からの指示を復唱しつつコンソールパネルを操作し、固定装置が正常に引き上げられていることを確認する。
「機関微速!」
「了解! 機関微速!」
続いてメルトは低速での離岸を指示。
それに対してもマオは内容の復唱を忘れず、スロットルレバーを所定の位置にセットして微速前進を行う。
現代の軍艦は全自動で離着岸が可能だが、今回は港湾施設が整っていないためマニュアル操作で対応しなければならない。
こういう場面は操舵士の腕の見せ所だ。
「アドミラル・エイトケン、抜錨――!」
「艦長! 前方に青い光の棒が……!」
メルトが艦長らしく力強い号令を下そうとしたその時、火器管制官の席に座るイライザ中尉が不審物の存在を報告する。
それは艦の前方約3000メートル付近に位置しており、夜明け前の空に向けて青く細い光を放っていた。
「安心しろ、あれはレイキャヴィークに100年以上前から存在するランドマークらしい」
一見するとレーザービームのような光の正体をシギノは知っていた。
「確か……『イマジン・ピース・タワー』とか言ったかな。祖国解放を記念して特別に点灯しているそうだ」
シギノも詳しく調べたわけではないが、まるで自分達の出港を祝福しているかのような光の柱は期間限定で点灯される平和のモニュメントであるという。
「"平和な世界を想像せよ"――か。その名前を付けた人の願いと祈りを守るため、私達はできることを精一杯続けましょう」
今から100年以上も昔、当時の人々は未来に希望を抱いてモニュメントを灯すようになったのだろう。
明るくなり始めた夜空を見ながらメルトは想像する。
100年後の未来――23世紀の世界は今度こそ平和に満ち溢れているのか、と。
◆
同じ頃、ここは宇宙のどこかに存在するレヴォリューショナミーの秘密拠点。
高能力人工人間バイオロイドの積極利用により省力化が図られている施設だが、今はそのバイオロイドたちが忙しそうに通路を往来していた。
「私です、"カグヅチ"です。重要事項の報告のために参りました」
無論、バイオロイド以外の構成員も暇を持て余している余裕は無い。
コードネーム"カグヅチ"――ヨミヅキ・スズヤは主要メンバーの私室のドアをノックし入室許可を求める。
「入りなさい」
「失礼いたします」
"MASTERMIND"というネームプレートが掲げられている部屋の主はライラック・ラヴェンツァリ。
彼女の返事を確認したスズヤは多数のコンピュータと資料に囲まれた、如何にも研究者らしい部屋へと入室する。
「博士……良くない報せです。我々レヴォリューショナミーが電撃侵攻により占領したアイスランドが奪還された模様です」
床に仮置きされた資料類を踏まないよう気を付けながらライラックの所へ歩み寄り、ヨーロッパ戦線の最新情報を報告するスズヤ。
「ええ、インターネット網を監視させているBOTの動きが半日ほど前から騒がしいわね」
ライラックの部屋に設置されている多数のコンピュータ機器は飾りではない。
彼女は電子の海で効率良く情報収集を行うため多数のプログラムを稼働させており、同志よりも先に地球上での出来事を察知していた。
「さすがは多数の博士号を持ち合わせる御方だ……世間の動向は把握しておりましたか」
「アイスランドの占領はあくまでもデモンストレーションと陽動にすぎない。早い段階での奪還は想定の範囲内よ」
レヴォリューショナミーの活動に必要な情報収集を平時から欠かさない勤勉さに感心するスズヤに対し、今回の敗退には過剰反応しなくていいと述べるライラック。
元々彼女は戦略的価値に乏しいアイスランドを長期間占領し続けることは難しいと考えていたし、それに固執する意味も無かった。
「現場では臨機応変に対応しつつも、計画自体に大きな変更の必要は無し――いいわね?」
「ハッ、幹部同志達にもそのように伝えます」
ライラックから今後の計画について指示を受けたスズヤは力強く頷き部屋を退室する。
「(……さて、個人的な調べ物を再開しようかしら)」
同志が出ていったのを確認したライラックは自分の作業に戻るのであった。
【イマジン・ピース・タワー】
20世紀の伝説的ミュージシャンの想いを受け継ぎ、その男の妻がプロジェクトを主導したとされるモニュメント。
台座に埋め込まれた装置から天に向かって伸びる青い光が"タワー"となることが特徴である。
また、台座の石板にはこの世界の地球に元々存在する24の言語と人工言語エスペラント、そして後年になって追加されたオリエント語で「IMAGINE PEACE(平和な世界を想像してごらん)」というメッセージが彫られている。
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総合評価ポイントが増加すればランキング入りする可能性が増え、より多くの人の目に留まる機会を得ることに繋がるので……。




