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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 3-5】冬空の下、理想はすれ違う

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【193】年末休暇

 バーチャル世界に再現された夜の峠に二つのエンジン音が木霊こだまする。


 一台はシリンダーを左右水平に配置した水平対向エンジンを搭載する、四輪駆動の青い4ドアスポーツカー。


 もう一台はローターと呼ばれる部品の回転で動力を発生させるロータリーエンジンを搭載する、後輪駆動の赤い2ドア風スポーツカー。


 どちらも2000年代に日本メーカーが実際に製造販売していた車種だが、ゲーム内ではプレイヤーの好みに応じたチューニングが施されていた。



「(やるな……! 車3台分の隙間があれば並べるというわけか)」


 コース上のギミックとして設置されている交互通行エリアに2台のスポーツカーが並走しながら突入する。


 青いマシンを駆るプレイヤー――ライガは現実ではあり得ないこの状況をむしろ楽しんでいた。


 対戦相手はトップランカーの一人らしいが、レースシムとはいえ技術も度胸も持ち合わせているようだ。


「(だが、次のコーナーはこちらがベストラインを取れる。それに……)」


 交互通行エリアを抜けた先はこのコースの最終コーナーとなる中速右カーブ。


 コーナー進入時点で中央付近を走行中のライガの方がライン取りの自由度は高い。


 そして、彼にはコーナーリングスピードを維持しつつ内回りで抜ける"必殺技"があった。


「(ブレーキングで突っ込めない!? 制動力ならこちらの方が上のはずなのに……!)」


 最終コーナーへのブレーキング勝負が始まる。


 ブレーキランプの点灯は青いマシンの方がほんの僅かに遅い。


 愛車の制動力に自信を持っていた赤いマシンの女性プレイヤーは驚愕する。


「(イン側の側溝――使えるモノは使わせてもらう!)」


 一見するとライガのマシンは曲がり切れないオーバースピードのように思える。


 しかし、彼はここで"必殺技"を使用する。


 コーナー内側の白線の更に内側――現実通り再現された側溝に右車輪を引っ掛け、これをレールのように使って強引に曲がっていく。


「(溝落とし……!? くッ、理想の走行ラインが取れない!)」


 使い所を誤ればタイム短縮どころか逆にクラッシュする恐れもあるリスキーなテクニックもだが、それ以上に赤いマシンのプレイヤーは走りたいラインを占拠されていることに動揺していた。


「ッ!」


 溝落とし状態から右車輪を戻そうとしたその瞬間、ライガのマシンの右側がガタンと浮き上がる。


 コンマ1秒だけ操舵が利かなくなった青いマシンはアウト側に膨らみ、横並びになっていた赤いマシンと軽く接触する。


「(悪く思うなよ……クラッシュするほど強く接触したつもりは無い)」


 自車より軽いため弾かれ怯んだ赤いマシンを尻目に、ゴールラインに向けてエンジン全開で加速するライガ。


「(負けた……最後はムカッと来たけど、あれが本物のレースを知っている人間の実力なんだ……)」


 最終コーナー脱出からゴールラインまではそこそこキツイ上り坂。


 エンジンパワーで劣る赤いマシンのプレイヤーに逆転の術は無かった。



「……対戦ありがとうございました」


 走り屋漫画にインスパイアされたレースシム"Neo Japan Touge"にはゲーム内にボイスチャット機能がある。


 レースを終えロビーに戻って来た赤いマシンのプレイヤーは、悔しさを押し殺しながら勝者を称える。


「最後の接触は不満だったかな?」

「いえ……あれはレーシングインシデントでしょう」


 同じくロビーに戻っていたライガの悪びれない問い掛けに対し、ゲームシステムや対戦に立ち合った運営の決定が全てだと答える赤いマシンのプレイヤー。


 悪質な接触や危険走行にはペナルティが科せられるが、最も際どかった最後の攻防でさえ審議対象に上がることは無かった。


《phantomFM68:最後結構えぐかったけどな》

《24angelZ:現役TAKUMIランカーに勝てるんならブランク無いでしょ》


 一方、NJTのランクマッチにおける最高ランク"TAKUMI"の現役ランカーである赤いマシンのプレイヤーと、特例でTAKUMIからの降格を免除されているライガのエキシビションマッチを見に来たオンライン上の観客達の反応は様々だ。


「君も観戦者達も覚えておくといい――レースは命を直接奪い合うわけではないが、戦争なんだ」


 それらを踏まえた上でライガはモータースポーツに対する自分なりの持論を語る。


 強大な性能を誇るモンスターマシンに搭乗し、高い速度域で戦うという点ではMFによるドッグファイトと同じだ。


「戦争はスポーツマンシップに則りフェアプレー精神で臨むべきであり、俺はその信条の下で常に全力を尽くしてきた」

「戦争……」


 その言葉には過酷な闘いを長く何度も経験してきたライガの半生が表れていたが、おそらく民間人に過ぎない赤いマシンのプレイヤーは実感が湧かなかったらしい。


「携帯電話にメールの着信か。キリもいいし今日はログアウトさせてもらう」


 ふと現実世界――自室に視線を移すと、PCデスクの上に置いているスマートフォンのメール着信を示すランプが時々点灯している。


 同時にゲーム画面内の現在時刻も確認したライガは、自身のボイスチャットが聞こえる全プレイヤーに向けてログアウトを告げる。


「それじゃ……休暇中にもう一回ぐらいマルチに潜れるといいんだがな」


 幸いにも年末休暇は来年1月2日まである。


 休暇中にまたマルチプレイができることを期待しつつ、ライガはNJTからログアウトしゲーミングPCをシャットダウンするのだった。



 ライガの自室は完全に趣味部屋と化している。


 部屋の中央付近にあるのが、NJTなどレースシムに没入するために購入したステアリングコントローラー付きコックピットと専用ゲーミングPC。


 壁面や棚の上には優勝トロフィーなど思い出の品々が綺麗に飾られ、部屋の一角の床面にはセカンドカーに取り付ける予定のチューニングパーツ類が広げられていた。


「(メールか……電話するほどでもない内容なのか、電話がはばかられる内容か)」


 コックピットから降りたライガは整理整頓されているPCデスク上のスマートフォンを手に取り、先程着信したメールの内容を確認する。


「……ッ!」


 他車との接触をいとわない走り方をするライガを驚愕させた、そのメールの送信者及び内容とは一体……?


《2135年12月27日正午、スプリングフィールド市郊外のラヴェンツァリ邸跡地にて一人待つ -L.Laventsari-》

【Tips】

ライガのNJT内におけるメインマシンと現実世界でのセカンドカーは同じ車種である。

更に言うと家族と共有する日常使い用のマイカーも派生型のスポーツワゴンなので、彼は同一メーカー且つ同系統の車種に異様に拘っていることが窺える。

なお、趣味のサーキット走行が主目的のセカンドカーは自宅ガレージではなく、馴染みのチューニングショップに保管してもらっている。


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