【191】義侠のライラック(前編)
ライガのパルトナ・メガミRMとライラックのエクスカリバー・リベリオン――。
本来敵対関係にある2機のMFが並んで飛行している光景はあまりに異様だ。
「……ライガ、お母様はお元気かしら?」
"共通の敵"との接触が近付く中、唐突にライラックの方から話題を振って来る。
「元気も何も……貴女のような無法を鎮圧するために仕事納めまで働き詰めだ」
ライガのお母様とはオリエント国防軍総司令官レティ・シルバーストン元帥のこと。
平時なら仕事納めの日は早めに上がって自宅に帰って来るが、今年は誰かさんのせいでそれは叶わないと肩をすくめる。
「あの人もとっくに第二定年を過ぎているからな……そろそろ引退して穏やかな老後を過ごしてほしいと思っているが」
レティ元帥は2005年生まれの130歳。
長命種のオリエント人社会においてセミリタイアの目安とされる75歳の"第一定年"、そして多くの人が完全引退を決める100歳の"第二定年"を過ぎてもなお第一線で活躍する鉄人である。
今年で103歳になる息子ライガもあまり人のことは言えないが、彼の言葉には母親を気遣う本音が表れていた。
「彼女も私も――そしてあなたも、果て無き戦いの環からは逃れられないというわけね」
「……貴女の技量とその機体の性能、今後の対策のために見せてもらう」
母と同い年のライラックの意味不明な呟きをスルーし、敵部隊との交戦準備に入るライガ。
彼女の乗機エクスカリバー・リベリオンは敵に回すと厄介な超高性能機。
間近でデータ収集ができる貴重且つ絶好のチャンスを活かさない手は無い。
「敵UAVは6機。3機ずつの割り当てでいいわね?」
自身の手の内を見られることを気にしないライラックは敵部隊を捕捉すると、撃墜ノルマを勝手に決めてから攻撃を仕掛けるのだった。
◆
「(あなたの魂胆は手に取るように分かるのよ。だから、遠慮無く先に仕掛けさせてもらうわ)」
ライラックは格闘戦を得意とするMFドライバーであり、愛機エクスカリバーも接近戦に強く調整された機体。
予め抜刀していたメインウェポンの専用高出力大型ビームソードを構えつつ、灰色の大型MFは敵無人戦闘機部隊に真っ向勝負を挑む。
左腕に装備したシールド一体型レーザーライフルと持ち前の重装甲でパルスレーザー砲による反撃を受け流すと、すれ違い様に力強く得物を振るうことでUAVを一刀両断してみせる。
「ファイア!」
一方、後衛に回ったライガのパルトナは予備兵装の専用レーザーライフルを機密保持の観点から使用。
誰もが見慣れた正確無比な早撃ちで、UAVに反撃される前に中枢部を撃ち抜いて処理していく。
「なるほど、行動パターンを分けてきたか! 博士、後方に注意!」
先制攻撃でいきなり2機撃墜された敵UAV部隊だったが、搭載されているアメリカ製AIは優秀なのか不測の事態にも冷静に対応。
残った4機は自己判断で攻撃役と妨害役に分かれ、後者がパルトナとエクスカリバーの背後に回り込む。
AIらしからぬ挙動に感心しつつもライガはライラックに対し注意を呼び掛ける。
「飛べ、我が僕たち」
後方でしつこくチャンスを窺うUAVを確認したライラックはエクスカリバーの特徴的な兵装――背部ウェポンラックに装備されているオールレンジ攻撃端末を射出。
6基中2基しか使用しないという手加減モードながら後方攻撃可能な特徴を最大限活用し、AIの反射速度でも間に合わない不意打ちでこれを撃墜する。
「(オールレンジ攻撃……あの人と本気で戦うなら、必ず対策しないといけないな)」
3年前からライラックは乗機にオールレンジ攻撃端末を採用し、それを自身の戦闘スタイルに積極的に取り入れている。
端末同士で死角を補完する三次元的な攻撃を観察しながらライガは自分の仕事に取り掛かるのであった。
◆
「(VSLCをスキャッターモードにセット――)」
ライガのパルトナにも後方の敵に対応可能な兵装が装備されている。
それは腰部ハードポイントを基点に180度近い射角を持つ2基の可変速レーザーキャノン。
複数用意されている発射モードのうち、彼は短射程だが光弾を拡散して放つ"スキャッターモード"に設定する。
「("後ろにも目が付いている"と評されるほどのセンス、改めて見せてもらうわよ)」
スターライガ最強――いや、史上最強クラスとされるMFドライバーがどう動くか見守るライラック。
「――ファイアッ!」
勝負は一瞬だった。
VSLCの砲身が下方向に約180度回転し砲口が後ろを向いた瞬間、無数の蒼い光弾がショットガンのように発射され敵機に浴びせられる。
ライガが後方確認も撃墜確認もしなかったのは、自らの攻撃に絶対の自信を持っていたためだ。
「妨害役は全て排除した! 後はボールドイーグルへの攻撃役を撃墜するだけだ!」
至近距離でモロに攻撃を食らったUAVは火の塊となって墜落していく。
その爆発だけを確認したライガは護衛対象を狙う別働隊への対処に移行する。
「(敵としては厄介だけど、味方としては最高に頼りになるわね。これも血筋かしら)」
白と蒼のMFに追従するライラックはライガの卓越した才能の原点について考える。
彼は史上初のエースドライバーであるレティ、そしてMFの基礎となった機動兵器を地球に持ち込んだ亡命異星人の血を受け継いでいる。
もちろん本人の努力もあるだろうが、両親から遺伝した能力や裕福な家庭環境の影響も小さくないはずだ。
「博士、貴女と母さんは旧知の仲だと聞くが……本当にそれだけの関係か?」
「藪から棒にどうしたのかしら?」
次の接敵までの間、今度は珍しくライガの方からライラックに対して話を振る。
「いくら大学の同級生でママ友とはいえ、あの人が二つ返事で操縦技術を教えてくれるとは思えなくてな」
ライガはオリエント国防空軍に所属していた一時期、当時基地司令官だったレティの指揮下に入っていたことがある。
母は部下の自主性を尊重するタイプだったため、余程困難な壁にぶち当たらない限り積極的な指導はしてくれなかった。
「……彼女とは色々あったのよ。あなたが生まれる前の古い話だけどね」
この話題をライラックは苦笑いしながら誤魔化してしまい、核心を突く答えは得られなかった。
【第一定年、第二定年】
平均寿命が150歳を超えるオリエント人やルナサリア人特有の概念。
晩成型で若年期が非常に長いこれらの種族も加齢による衰えが存在し、また社会構造の健全化には若者への世代交代が必須である。
そのため平均寿命の約半分にあたる75歳で一度目の定年を迎え、世代交代に備えて徐々に現場を退いていく。
そして多くの企業や組織では100歳を正規雇用の年齢上限としており、本人の強い要望や雇用主による慰留が無い限り引退することになる。
それ以降も働くことを望む場合は、基本的に定年前の経験や人脈を活かすフリーランスとして活動する。
ライガは自分自身がスターライガに主要株主として参画している権限を利用し、自分自身に対する雇用契約を特例で延長することで正規雇用の状態を維持している。
本作を読んで面白い・良かったと感じて頂けたら、高評価・ブックマーク・感想・レビューなどをお願いします。




