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2020  作者: 安藤有理
1/2

第一部 1

注:この作品はフィクションであり、登場人物名及び団体名は、実在するものと一切関係ありません。

ただし...

 2月11日も三木哲三にとって何ら変わったことのない一日だった。ただ日常の仕事を淡々とこなすだけだ。いつも通り、8時に登庁し、コーヒーを入れ、テレビを点けた。例によってコーヒーは味も香りもろくになく、テレビはといえば、ここ数日間は「タンザニア、エチオピア、イランのISC2020ボイコットを許すな」やら、「反戦デモに明け暮れている労組を潰せ」と連呼するのに終始していた。


 今日は幾分仕事が多い方ではあった。国会前で建国記念の日反対のデモが数件あるのだ。警備部警備第一課の仕事は、いつも通り上がってきた逮捕者を取り調べ、東京警備センター機動隊の業務を監督することだった。東京警備センター機動隊と言っても、1年半前までは警備部下の機動隊に属していた人間が大多数であった。


 最初のデモは10時から12時の予定だったが、10時48分ごろに終わりとなったようだ。例によって天皇制打倒のシュプレヒコールが上がり、国家転覆準備扇動罪の予防措置として機動隊がデモ隊を停止し、参加者を全員拘束する。天皇制打倒を掲げたデモが停止されることは、連日報道されているというのに、なぜ今そのようなシュプレヒコールが上がるのかはよくわからないが、特段考えたことはない。無論、抵抗を試みるものもいたが、警察法人法の規定に基づき、正当防衛として射殺される。今日は、参加者235人中、死者は38人、負傷者は112人となり、128人が逮捕された。参加者が回を追うごとに段々と減少していることを除けば、いたっていつもと変わらない。15時からのデモも同じようになるだろう。テレビや、新聞は、今日もこうして「建国記念の日に反対する売国奴を吊るしあげろ、中朝露のスパイを殺せ」と煽り、機動隊や我々警備部、そして公安部をさも英雄のように祭り上げている。だが、我々にとっては、所詮ただベルトコンベアーの如く仕事をこなしているだけだ。


 さっきからテレビがうるさく、音量を下げたいくらいだった。だがしかし、それは危険だった。もっといえば、ため息一つすら、いや、心拍数の変化だってまずいかもしれない。こういう職場のデスクトップのコンピュータや、あらゆるスマートフォンは、常時バックドアでモニターされているのだ。異変があればすぐに特別保安局のコンピュータに検出され、数日以内になんかしらの嫌疑をかけられて逮捕されるだろう。「中国人民民主党がイラン政府に経済援助を見返りに国際スポーツ杯をボイコットさせた、これは平和の祭典ISCの反日への政治利用だ、許されない!」とコメンテーターががなりたてる。よくもまあ、そこまで熱くなれるものだと半ば呆れながら、感情を無にして、取り調べの準備を進めた。今回のデモは2年前に非合法化された共産主義戦線戦士同盟との繋がりがあるらしい。これはまた公安部に持っていかれる案件か。機動隊の武器使用について形ばかり警備部長に報告しなければならない。検挙されたデモ参加者が来るまでは、その書類の準備を進めておこう。哲三は、パソコンの画面に全意識を集中させた。

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