A・A
「簡単な事だ。ただ、俺とこの身体の前の所有者を切り離してほしい」
それは、ウルマ帝国とマレストリ王国、二国間の戦争が終結する前日。そして、アルバトロス・フォン・ヴィッテンベルクとヨーラッド・ヌークスによる決闘の数時間前。
「……申し訳ありません。転生術の性質上、それは不可能です」
アルバトロスの頼みは、彼を転生した張本人であるエルフの少女、メサによって却下された。
「依代である肉体を失っては、アルバ様の魂は行き場を失い、この世に留まる事はできなくなってしまいます」
死者転生術の存在は、遠い昔、年代すら曖昧な時代の歴史書にすら記されている。
だが、その具体的な行程となると、千差万別、明確な正解といったものを見つけ出すのは難しく、後世に残されたのはせいぜいが先人達の試行錯誤の跡と呼ぶべきもののみ。
そんな中で、それでも幾つかの条件は確定されていった。
転生術は、現代の主流である五大元素魔術の流れにはなく、どうやらエルフの間でのみ受け継がれてきた独自の魔術に近い事。転生にはそれを行うに可能な周期があり、それはおおよそ、対象者が初めて生を受けてから百年の周期であるという事。そして、死者の転生にはその魂を受け入れるに相応しい器、肉体が必要だという事。
実際のところ、転生術の成功例が残っていない以上、それらの条件ですら便宜上、試行の一環として確定しただけに過ぎず、しかし、それらを踏まえて自ら行ったアルバトロス転生の儀が成功してしまったため、メサは愚直にその全てを信じていた。
「ああ、違う。そういう意味じゃない」
緊張の面持ちのエルフの少女に、白の魔術師は童のような笑みを向ける。
「もっと簡単な頼みだよ。俺とアーチライトを別の存在として見てほしいってだけの」
そう言ったアルバの姿は、少しずつ黒髪に黒の瞳の少年へと変わっていた。
「それは、どういう事ですか?」
「口にすると恥ずかしい話だが、友人が欲しいんだ」
大魔術師に相応しくない陳腐な言葉は、しかし今のアルバの姿には妙に似合っていて。
「ティアはそもそも俺の事を嫌ってる。アンナは、アーチライトと俺を重ねている事を自覚していて、それを良しとしている。ニグルは……まぁ、色々と理由を上げようとすればキリが無いが、それ以上に、俺は君に、俺を転生した君に独立した一個人として見てもらいたいと思った」
「アルバトロス卿……」
「アルバでいい。いや、頼みを受け入れてくれるなら、アルバ、とだけ呼んでくれ」
細めた瞼、その奥の深い黒色の瞳をこれ以上ないほど寂しげに揺れる。
「わかりました。アル、バ?」
戸惑いながらの愛称呼びは、アルバトロスの満面の笑みに迎えられた。




