2-10
「あの人も、中々に喰えない人ですね」
どちらからともなく歩みを再開した男女の間、苦笑混じりの声が二人の沈黙を破る。
「……いや、本来はあれが正しいのだろう。本来、大魔術師アルバトロス卿があのくらい尊大な態度を取る事は何も間違っておらず、むしろごく自然だと言える」
ティアも同じく苦笑を返し、その後に小さく溜息をつく。
「悪いのは全て私だ。建前を守るのか事実を優先するのか、アルバトロスへの接し方を決めきれていない。それどころか個人的な感傷すら清算できていなかった結果として、彼が祭りの中に消えていくのを止めるどころか喜んでしまっていた」
「仕方ないでしょう。誰もその事で団長を責めたりはしません」
自嘲の言葉を吐き捨てるティアに、ロシは優しげな笑みで言い含めるように告げる。
「それに、アンナさんもああ見えて馬鹿では……腕は相当に立ちます。アルバトロス卿の身に何か起きる可能性なんて、万に一つくらいしかないでしょう」
「お前がアンナの事をどう思っているかはなんとなくわかった」
ロシの言葉を受け、ティアは呆れたように、しかし少しばかり晴れた表情で息を吐く。
「考え過ぎ、という事なのだろうな。アルバトロスの護衛はアンナの仕事で、私が気に掛ける事ではない。ロシの考えは違うようだが、アンナは実際に頭も回る。楽天的なところはあるが、本当に危険だと思えばここまで連れ出したりはしないだろう」
「俺だってアンナさんが頭の回らない人だと思っているわけじゃないですよ。ただ、頭が回っても馬鹿な人ってのはいますから。ね、団長」
完璧な笑顔は、しかし文脈から皮肉にしか受け取られない。
「そこで私の名を呼ぶという事は、つまりそういう事でいいんだな」
「あれ、また怒ってます?」
「面と向かって馬鹿にされたら普通は怒るだろう。……だが、そうだな、私なんて結局はただの馬鹿なのだろうな」
瞬間的な怒りが落ち付いたティアは、今度は一転してしみじみと呟く。
「いやいや、落ち込まれるのもそれはそれで困りますって。おかしいなぁ、なんでいつもこう上手くいかないんだか」
その隣で後を追うように落ち込むロシを見て、対照的にティアの口元には徐々に笑みが浮かび始めた。
「それは、お前も馬鹿だからという事だろう。お前は無理に私を慰めようとなんてしなくてもいい」
「結局はそうなんでしょうね。俺もまだ修業が足りません」
二人共にお互いを見て、同じように小さく笑い合う。
「――あっ、あそこに飴の剣が飾ってありますよ。アンナさんの持っていたのと同じものですかね、あの人も変わったものが好きだなぁ」
「それをお前が言うか、というか買うのか?」
財布を取り出すロシとそれを眺めるティアの二人の間の空気は、ほとんどアルバトロスとアンナの二人に出会う前のものへと戻っていた。




