褒められたから
俺は魚が食べられないが、好きではあった。
母が焼いた魚を「他におかずもないから」と、仕方なく食べていた時の事。
2階から降りてきた母が、俺の頭を撫ぜながらこう言った。
「お前が1番綺麗に魚食うわ」
姉でも、弟でもなく、俺が1番。
感心したように褒められ、その瞬間から俺は尾頭付きの焼き魚が大好きになった。
姉は骨を取るのが苦手だったのか、お皿の上はグチャっとしていたし、弟は骨を取るのが面倒だったのだろう、大きく身まで残していた。
俺が1番。
初めての1番。
魚は食べられない癖に、折角の1番を手放したくなくて、魚料理を食べる。すると、
「お前は美味しそうに食べるなぁ」
と褒められた。
「美味しいもん」
嬉しくなって笑顔で言うと、母も嬉しそうに微笑んでくれた。
「いただきます、ごちそうさまも、ちゃんと言うのお前だけやで」
小声で言っていた事を知ってもらえている。しかもそれを褒めてもらえた。
俺は、認められているのか?
酷く嬉しかった。
恐ろしい程誇らしかった。
その時の気持ちが残っているのか、俺は今でも時々焼き魚を食べ、いただきます。と、ごちそうさま。は、必ず言っている。




