神器邂逅《後編》
魔王城に帰還した数日後のお昼過ぎ。
「神器……ですか? うーん。確かに地下にあるっすけど。急にどうしたんすか? もしかして、記憶戻りました?」
俺の部屋、自室にゲームをやりに遊びに来ていた彩香に神器についての質問。
てか、彩香さん中々のゲーマー。俺のガノンドロフがまったく歯が立たない……。いや、話が逸れた。
セーレに聞くとあらぬ詮索を受けそうだったので、彼女が行務とやらで不在中に色々と適当そうな彩香に聞いてみたのだ。
ああ、この前のセーレは……いや、何も言うまい。忘れよう。うん。
「いんや? ただ、城中の者に神器の話されたから興味が湧いてな」
「そうっすか。前の魔王様も好きですけど、今の魔王様もエロエロで面白いんでもうちょいこのままでもいいんすけどね」
純粋無垢な瞳で言われてしまった。
「そ、そうすか……」
クロルも紳士的な変態じゃなかったっけ? いや実際に会ったことはないけどさ。毎日セーレに着替えさせてたんだぜ?
そっちの方がエロエロじゃね?
俺なんか紳士的な貴公子だから魔王になってからもちゃんと一人で着替えてるのに。はあ。
気を取り直し、神器が眠るという場所に案内してもらうことに。
・ ・ ・
地下に降りてから、しばらく暗く静かな用水路のような廊下を歩いていると、その全貌が見えた。
「ここっす。わちが来るのはこれで五回目っすかね? うーん、六回だったかなー?」
「そんなん知らんす。んで、この扉開けれんの?」
マンション七階相当の高さを誇り、辺りに痛いくらいの威圧感をばら撒く赤黒く錆びた扉を睨みながら彩香に問うてみる。
この前の廃工場の巨大扉なんて目じゃない、特大の扉。正直ビビる。
「この先は歴代魔王様しか入れないことになってるんで、わちは入れないっす」
ほう。やっぱ神器って特殊な奴にしか使えない感じなのだろうか。でもそんなこと紅言ってたっけな……。
「ふむ。じゃあとりあえず入ってみるか」
そう言い、扉に手を掛けてみる。
が、彩香が俺の肩の位置まで飛んできて制止してきた。
「魔王様はすでに神器を手に入れてるんで、中に入る必要はないっす」
「そうなのか?」
「はい。現に今も神器は発動中ですし。記憶を喪失しても、神器を維持してる魔王様って何気に凄いんすねー? ふふ」
黒髪をさらさらと揺らしながらその幼い顔立ちにいたずらっぽい笑みを浮かべ言ってきた。
おおう、顔近い。
彩香って、おかっぱ頭な幼女なのに時々セーレより大人っぽい表情をすることがある。
もしかして、実年齢は……。
「魔王様?何か変なこと考えてないっすか……?」
「な、何でもないよ?」
うげ、洞察力ぱねえ。
彩香は怪訝な表情で睨んでくる。だが、すぐに表情をニヤリとさせ、そして何故だか恥じらうように頬を染め、瞳をうるうるさせ始めた。
「もしかして、わちのことを襲おうとしてるんすねっ!? 今この誰もいない暗い廊下でこのいたいけな女の子を手篭めにしようと……っ!?」
わーなんかすごいはしゃぎ始めたんだけどー。
「 …………幼女の叫び声……そこでナニをしておるかアアアッッ!?」
突如、ダンディーボイスが響き渡る。
そして、マンション級の扉からピカピカ光る球体が出てきた。
あれだ、カラオケによくあるミラーボールぐらい光ってる。
俺達は何事だろうと眺めていたのだが、
「我はこの世界に現存する原初にして最高の神器。幼女に手を出すな」
あれ?
此処ってすごい崇高で荘厳な場所で恐ろしくすごい神器が眠っている場所なんじゃないの? なんかおっさんみたいな神器なんだけど。
彩香が唖然としてるぞ。もちろん俺も。
「幼女を虐めるでないぞ、少年。ではさらば」
そう言って元いた部屋へと戻ろうとする神器。
「ちょっと待て」
ロリコンの神器なんて聞いたことねえ。というか、神器って喋るんだ。しかもダンディーボイスだし。ロリコンなのが勿体ないわ。
「なんだ? 質問は三個までなら聞いてやる」
優しいなオイ。
「あんたが神器を生み出す“原初の神器”ってやつなのか?」
「いかにも。此処に訪れた者に、その者の、適性に応じた神器を生み出し、授けている」
やはり。
この話は紅から説明を受けていたのですんなり理解できた。
神器を生み出す神器って何気に凄いよな……。
なら……。
「俺にも神器を授けてくれないか?」
「魔王様?」
彩香が不思議そうな顔をする。先ほど神器は受取り済みって話されたばかりだしな。
「今代の魔王、第253代魔王であるクロルドレア。その者に対しては我は神器を授けた。だが……」
さすが神族に造られし神器。俺が魔王ではないと気付いてるのかも。
あれ? でも待て……今、隣に彩香がいる。
あ、ヤバい。
「確かにお主は魔王じゃな」
「マルフォォォォォォイッ!!!」
「きゃあああっ!?な、なにするんですかっ!?」
彩香に抱き着いて耳を塞ぎつつ大声を出してみた(キリッ。
彩香って柔らかい身体してるんだな。ウヘへ。
「き、貴様ぁぁぁぁぁぁっ!?」
彩香に怒られる前に神器に怒られた。
「我もそんなことしたことないのにぃぃぃ!! 我に腕があればぁぁぁぁぁぁっ!!」
あ、変態だ。
今回は彩香がいたので、神器を貰うのはまた今度の機会にする。
まあそもそも神器を貰えるかどうか分からないんだが、紅が何とかしてくれるって言ってたし大丈夫だろう。
あれ、大丈夫じゃない気がしてきた。
「むう、魔王様の変態……」
帰り道、両手で自らを抱き締めながら頬を赤らめた彩香から何回もこのお言葉を頂戴した。
何だか、変な性癖に目覚めそうだった。ウヘへ。
「油断したっす。ま、まさか魔王様があんなに変態だったなんて」
機嫌を直してもらうのに大分時間が掛かった。でもまだ睨まれているようだぜ。へへ。
「悪かったよ。マジで。やましい気持ちは無かったんだって」
抱き着いた瞬間までは、の話だがな!
「むう」
あらあらそんなに頬を膨らませちゃって。愛らしい外見にとても似合っているな。
でもそろそろ機嫌直して!
セーレに殺されちゃう!
「あまりにも彩香が可愛くってさ。ついつい抱き締めたくなっちゃっただけなんだよ」
「えっ?」
「いやあ、だからさ、お前が可愛かったから……一時の過ちってやつだ」
一瞬虚を突かれたような表情をして、直後困惑したように頬を赤らめた彩香。
「そ、そうっすか……そんなにわちが可愛かったすか……?」
「お、おう!もちのろん!」
どうしたどうした?
彩香の様子が急に変になったような気がする。俺も少し上ずった声で対応してしまった。
「……しょうがないっすね。セーレちゃんにはだまっててあげるっす」
「……ほっ」
何だか知らんが助かった。
彩香の機嫌も直ったことだし、気になったことでも聞いてみよう。
「ところでさ、俺の神器ってどんな物なんだ?」
すると彩香は少し呆れたような表情をした。
なんで? なんでや!
「はあ。魔王様、雰囲気ぶち壊しっす……」
俺は只クロルが使っていたという神器の正体が知りたいだけなのに!
「まあいいっすけどね。魔王様がそんな人だってのは昔から知ってますし……それで、魔王様の神器の話っすね?」
「うむ!」
ひたすら廊下を歩いて話している内に自室まで戻って来てしまったようだ。
俺はベッドの上に。彩香は俺の膝の上に座って話の続きが再開された。
ん? おかしくね?
「ん? なんだなんだ? 甘えたい年頃なのか?そうなのか?」
「魔王様の膝の上って居心地良いんすね」
リラックスしたようにそう言い、彩香は自らの可愛らしいちっちゃなお尻をフリフリと揺すり始めた。
そうなると俺のティムロスはとても刺激されるわけでして・・・
ティムロス「主、まずい」
俺「どうした?」
ティムロス「幼女のロリケツが某のボディにHITしてrubして色々ムッハーーーーーッ!!!」
おかしい俺のティムロスがキャラ崩壊してやがる。
お前はもっと心穏やかな紳士だったはずだろ?
俺はティムロスを鎮める為に彩香の両脇に手を入れ、隣に座らせた。
脇掴む時、指先に何かむにっと柔らかい物に触れた気がする。
柔軟剤でも使っているんですか?
「変態・・・」
なんでや!
ひとしきり彩香から蔑んだ目で見られ俺が危うく気持ち良くなりかけた所で、話は再開された。
ふう。
「魔王様の神器は、歴代魔王様の中でも限定的な状況下でなら間違いなく最強の神器っす」
歴代最強……。なんと心の躍るフレーズ。それ俺も使えないかしら。
「―devil garden―悪魔の箱庭」
おお。厨二心が擽られるワードですな。
「それが魔王様の神器の名前っす。魔族の中でも最凶最悪と言われる、ソロモン72柱の悪魔を使役し、操るのが主な能力っすね」
「ほう」
ソロモン72柱? 聞いたことがあるぞ……。確か、遙か昔ソロモン王が72の悪魔を封印したっていうアレだろ?
中学生の頃は厨二的な情報を熱心に集めていたからな。抜かりはない。
地球で聞いたことのある話を何故かこちらの世界でも聞くことになるとは……。
今回の話だけじゃない。この世界にはアニメやゲーム等、地球と共通と思われる文化も少なからず存在する。
ござるござるの女の子忍者、リンの着物や彩香の巫女服のような和服もそうだ。どこか日本を連想させる出で立ちだ。
だが、彩香は日本などという国は知らないと言っていた。
案外この世界と地球はどこかでリンクしているのかもしれないな。今度紅に聞いてみよう。
「どうしたっすか? 魔王様」
「ああすまん。考え事をしていた。それで限定的な状況下っていうのは何だ?」
「発動範囲が限定的なんです。この城の中でしか悪魔を使役できないんすよ。だから魔王城を守護するという意味では無敵なのですが……」
ああ、だから戦争にも負けちゃったと。いくら城だけ守れても攻めることができないと負けるわな。
「それに、ある程度の大人数の軍勢を城から出そうとすると決まって悪魔が邪魔するんで侵攻戦がまったくできないんすよーって今の魔王様に言っても仕方無いっすね。すみません」
そう言う彩香ではあるが、俺に対して批判したいようには感じ取れなかった。むしろ優しくからかう様な口振り……てか、
悪魔制御し切れてないやん!!
クロルさん何やってんすか!?
これじゃあ城の魔族達から非難を浴びるのも納得だ……。
これがクロルドレアが引きこもり魔王などと揶揄され、嫌われる最大の理由なのだろうか。
俺はそう思ったが、まだ理由がありそうだ。
だがそれよりも気になる事がある。
何故、俺と入れ替わりで地球へ飛ばされたクロルの神器が未だ発動中なのか。
実際発動しているようには見えないが、彩香が言うからには間違いないんだろう。魔族特有の魔力の感知みたいなもんはまだまだ俺は未熟だ。
「その悪魔達は今もこの城の中に潜んでいるのか?」
「そうですね。有事の際にはちゃんと姿を現すと思うっすよ。でもへそ曲がりな性格なのが殆んどなんで魔王様も扱いには苦労してましたよ」
「へえ。まあ悪魔なんてそんなもんか」
そんなふうに彩香と話していたら、部屋の扉が急に開かれた。
「魔王様っ! 一体今までどちらにいらしたのですか!?」
息を切らしたセーレが入ってきた。
うほっ、ハアハアしてるセーレさんテラエロス。ハアハア。
「んー? 彩香と散歩してた」
平静を装い応対するCOOLな俺。
「そうっすよー? セーレちゃんそんなに息切らしてどうしたんすかー?」
先ほど彩香には神器の件については口止めを頼んでたので安心。
「だ、だって……部屋に魔王様がいなかったから……」
息を切らしつつも、いじけるような様子でそう答えたセーレ。走った後の為、上気した頬も相まって俺のハートを揺さぶる。
かはっ!
萌えすぎて俺に大ダメージ!!
普段とのギャップがたまらん!!
・ ・ ・
あっ!!
・・・俺は気付いた。気が付いてしまった……。
俺は戦慄した。
前屈みで息を整えているセーレを見ていると……
黒メイド服からエロスな谷間がこんにちはしてやがる……っ。
谷間「こんにちは~」
ティムロス「ムッハーーーーー!!!」
俺は戦慄した。
大切なことなので二回言いました。
谷間「こんにちは~」
「ムッハーーーーー!!!」
「「!?」」
思わず雄叫びを上げた俺を誰が責められようか。
とりあえず今日は当初の目的、原初の神器との邂逅は終えた。後は一人であそこに出向いて神器を頂いてしまおう。
まあそういう算段だ。
そろそろ人間達に攻撃を仕掛けないと紅にどやされかねない。早めに神器とやらで力を得て、何とかせねば。
しかし、彩香の言っていた話が気になる。
魔族の軍勢を城から出そうとするとソロモン72柱の悪魔がそれを邪魔するという件だ。
それも何とかしないと人間との戦闘の際、大きな障害となる。少数精鋭じゃいくらなんでも限界がある。
はあ。問題は山積みだ。
クロルめ……色々と問題事を俺に残していきおって……。
いつか出会う日があるならば、一発ぶん殴ってやる。
そう俺は自分の事を棚に上げて思ってはいたが、
「でもご無事で安心致しました。魔王様、ご夕食の用意ができていますので、お運びしてよろしいですか?」
「オッケー」
「オッケー? なんすかソレ? またげえむの用語か何かすか? それよりわちも此処で一緒に食べていいっすかー?」
「オッケー☆セーレも一緒に食おうぜ」
「わ、私もご一緒でよろしいのですか?」
「オッケー☆」
「あ、ありがとうございます……」
俺のことを案じ、支えてくれるこいつらを見ていたらそんな悩みなんてどっかへ行ってしまった。
クロルめ……お前は幸せ者だったんだな。
やっぱ今度会ったらぶん殴る。




