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学校からの帰り道、テイクアウトしたコーヒーを手に近くの公園で、俺は河藤と二人でベンチに座り、砂場で遊ぶ子供たちを見ている。
「話がしたいから」と、一緒に帰ろうと誘ってきた河藤に頷いて、本当はコーヒーショップのテラス席にでも座るつもりだった。
けれど、女子のグループや恋人同士と思われる男女が多数集まっているその場所は、どうにも居心地が悪くて、高校生の男女が選ぶには少し小さすぎる公園へ入った。
文句も言わずついてきて、子どもたちを見て微笑ましそうに笑っている河藤は、やはり根本のところが自分と似ていると思う。
だからこれから河藤が俺に確かめようとしている話の内容も、予想はついている。
「いつから?」
何の前置きもなく、河藤はそう訊いてきた。
その質問は想定していたものだったので、俺は予定通りに答える。
「中学二年から」
「え? 同じ中学だったの?」
驚かれるともわかっていたので、河藤の方は見ないまま頷いた。
「うん」
「全然知らなかった……」
それはそうだろう。高校に入ってからは一度も同じクラスになっていないし、校内ですれ違ってもどちらも話しかけたりしない。
だって俺たちは、『友だち』ですらないのだから。単に同じ中学出身で、同じ高校へ来ただけ。
考えると次第に視線が俯きがちになる。
少なくとも俺は、宇津木が行くと聞いたからこの高校への進学を希望した。多くを期待したわけではない。ただ遠くからその姿を見ていたい——その一心で。
「中学時代の宇津木くんでどんな感じだったの? 今と同じ?」
河藤は俺の方へ視線を向けることなく、砂場の子どもたちを見たまま、ぽつぽつと話す。その距離感が絶妙で、本当は彼について誰かと話などしたくないのに、これくらいならいいかと譲歩してしまう。
「そうかも」
それは半分嘘で、半分本当だった。
俺の知る宇津木は、中二の夏を境に、印象がまったく変わってしまっている。その理由は少なからず自分にあるとわかっているので、認めることもふり返ることも後ろめたい。
俺は忘れられない罪悪感を今も抱えている。
それについて語ることは本当に無理なので、中二の夏以降の宇津木についてなら、河藤と情報を共有できる。それは確かに、今と同じ宇津木だから。
心の中で言い訳をしている俺の耳に、河藤の呟きが聞こえてきた。
「いいな……」
それはおそらく、宇津木を知っている年月とか、思い続けてきた日々の長さについて、うらやましいという気持ちを持ってくれているのだろう。
でも俺にとってはどちらも、申し訳ないという思いの方が大きい。
(いつまでもしつこいよなぁ……)
つい本音が、言葉になって零れてしまった。
「いいもんじゃないよ」
それを耳にした河藤の大きな目が、ちらっと俺の姿を捉えたと感じたので、はっと我に返る。
(違う。俺にとってはそうでも、河藤はちゃんと女の子で、可愛くて、後ろめたいことなんて何もないんだから……)
自分にはまったくないとわかっている可能性だとか、未来だとか、そういうものが俺の方こそうらやましかった。
じっと横顔に注がれている視線が苦しくて、逃げるように口を開く。
「河藤は? いつから?」
特に興味があったわけではないが、俺同様に河藤にも、特に宇津木と接点があったようには見えなかったので、問いかけてみた。
と言っても、俺が河藤について知っていることなど、教室の中でわずかに交わす言葉から得られる情報程度なので、ほぼないに等しいのだが——。
「去年の今頃から……かな」
「そう」
本当は、どういうきっかけで宇津木を知ったのかとか、なぜ興味を持ったのかとか、訊いてみたいことは少なからずあった。
だけど自分に同じ問いかけをされたら、正直に答えることは難しい。
なのでそのまま、河藤がそれ以上訊かないことに任せて、俺も訊かないでおく。
ただ同じ想いを抱えているらしいという状態を確認しあっただけ——。
それで、おかしな連帯感のようなものが生まれつつあることは実感があった。




