転校生
夜風が頬を叩く。
ビルの屋上を蹴り、
俺は夜の街を駆けていた。
視線の先。
炎。
悲鳴。
爆発音。
「っ……!」
胸の奥がざわつく。
嫌な感覚。
右。
反射的に身体を捻る。
次の瞬間。
轟音と共に、
岩のようなものが頭上を通過した。
「チッ、避けやがった!」
路地裏。
そこにいたのは、
両腕が石化している男だった。
異能犯罪者。
最近増えている、
黒の末端構成員だろう。
「ゴートだ!!」
男が叫ぶ。
「お前最近調子乗ってるらしいなァ!!」
「……うるせぇな」
俺はゆっくり構える。
ヤギの骸骨の仮面。
黒いパーカー。
拳を握る。
男は腕の石を巨大化させ振りかぶる。
「死ねぇぇぇ!!」
だが。
見えていた。
俺は最小限の動きで回避。
そのまま懐へ潜り込む。
「は?」
男の目が見開かれる。
遅い。
拳を叩き込む。
鈍い音。
男の身体が吹き飛び、
壁へ激突した。
「がっ……!」
終わりだ。
……そう思った瞬間。
ゾワッ。
全身に鳥肌が走る。
危険。
瞬間、
俺は横へ飛ぶ。
直後。
轟音。
さっきまでいた場所が、
“切断”されていた。
「……ッ!?」
ビルの壁が、
まるで紙みたいに斬れている。
誰だ。
視線を向ける。
路地裏の奥。
そこに、
黒コートの男が立っていた。
顔は見えない。
けど。
ヤバい。
本能が理解する。
今まで戦ったどんな相手とも違う。
「ほう」
男が笑う。
「お前がゴートだったのか」
低い声。
背筋が凍る。
「……誰だお前」
「ただの通りすがりのおっさんだ」
男はゆっくりこちらへ歩く。
その瞬間。
頭痛。
視界がブレる。
嫌な感覚が止まらない。
逃げろ。
本能が叫んでいる。
「面白いな」
男が言う。
「その力」
俺は反射的に距離を取る。
やばい。
こいつは。
関わっちゃいけない。
「また会おう、ゴート」
次の瞬間。
男の姿が消えた。
静寂。
「……なんだったんだよ」
嫌な汗が止まらない。
⸻
翌朝。
「眠そー」
雪がケラケラ笑う。
「あぁちょっと夜更かししてな」
こいつ朝から元気すぎるだろ。
「春くん、おはよう」
後ろから声。
唯だ。
「……おう」
「昨日寝れてない?」
ドクッ。
「なんでそう思う」
「なんとなく」
嘘だ。
こいつ絶対何か気づいてる。
「春ってわかりやすいよねー」
雪が笑う。
「考えてること顔に出るし」
「出てねぇよ」
「出てる出てる」
唯が小さく笑った。
けど。
その目は、
やっぱり俺を観察していた。
⸻
昼休み。
「ねぇ春くん」
唯が机へ頬杖をつく。
近い。
「なんだよ」
「もしさ」
唯は笑いながら言った。
「ゴートが目の前にいたらどうする?」
ピタッ。
空気が止まった気がした。
「……は?」
「いや、なんとなく」
こいつ。
探ってる。
「別にどうもしねぇよ」
「ふーん」
唯は俺を見る。
真っ直ぐ。
まるで。
“答え合わせ”をしてるみたいに。
「でも私は好きだな」
「何が」
「ゴート」
唯は窓の外を見る。
「誰にも褒められなくても、人を助けてるから」
その言葉に、
少しだけ胸がざわついた。
「……偽善だろ」
「それでも助けられた人は嬉しいと思うよ」
俺は答えられなかった。
⸻
放課後。
教室を出た瞬間。
嫌な感覚。
反射的に振り向く。
その先。
階段の踊り場。
黒スーツの男が立っていた。
白の腕章。
視線が合う。
男は小さく笑った。
「見つけた」
瞬間。
空気が変わる。
強い。
こいつ、
今までの奴らと違う。
「春くん?」
唯の声。
男は唯を見る。
「ご苦労だったな」
その言葉で理解した。
こいつら。
繋がってる。
唯は静かに息を吐いた。
そして。
俺を真っ直ぐ見る。
「ごめんね」
その目に、
嘘はなかった。




