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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
海百合からの挑戦 本栖湖派出所攻防戦
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89 堂島華怜のなんてたってアイドル

なんで異世界にやって来たのか堂島華怜。その辺を書きました。


2024/09/30 こちらの世界にやって来た堂島華怜の様子を追加


「毒島伽緒子と師匠」

霧というのは境と共に存在する。それはもう天之狭霧神(アマノサギリノカミ)が生まれてからこっち、境界(demarc)(ation)といったら『戦争のはらわた』か、霧が付き物なのだ。

堂島華怜も霧に紛れて借金と共に境界線を踏み越えてしまった。

堂島華怜はアイドルユニット シンボリックフラワーのメンバーとして活動していた。

ど素人で歌が下手だろうが、少しくらい不細工だろうが、情報操作でアイドルに仕立て上げることが可能ということをみんながおニャン子倶楽部で知ってしまった。以降、カリスマ性を兼ね備えたアイドルが居なくなって久しい。現在ではアイドルはあまりメディアに取り上げられることもなく、ライブハウスなどを拠点に、いかにコアなファンから金を巻き上げるかみたいな活動をしている。昔はレコードが何枚売れたかが人気のバロメーターとして機能したのだけど、現在ではこれは全く機能していない。おニャン子のノウハウをリブートしてこれまた絶大な人気を誇ったAKB。所属メンバーの人気を投票して決めようという総選挙が行われた際に、1票=シングルCD1枚、自分の推しの順位を上げるためなら、大量にCDを購入して投票する。CDの売り上げ=人気の指標とはちょいと言えなくなってしまった。人気の指標が時代と共に変わっていくのだろうけど、AKBのファンがCDを大量購入しちゃうという行為は、それに拍車をかけた。今は多様性がうんぬんと説明されるが、当時は混沌以外の何ものでもなかった。売り上げ記録は更新されたのだろうけど、果たしてそれにいかほどの意味があったのか? アイドルの価値が揺らいで霞になった瞬間であろう。

堂島華怜はアイドルを目指そうと奮闘したわけではなく、なんとなく周りに流されてアイドルになってしまった人だった。ファンと一緒に写るチェキ10枚でうん万円とか、握手何秒でうん万円とか、なんだかお酒飲んだり激しいセクハラはないけど、ガールズバーのスタッフみたいな仕事だなあと考えていたわけである。歌も踊りもなぜかそつなくこなしてしまったのも悪かったのか、まあアイドルという仕事を

「こんなもんか」

と舐めていたわけである。

堂島華怜はなし崩しでアイドルになったので、思い入れは全くない。楽しく生きられればいいと考えていた。ファンの前ではピュアな女の娘を演じて金を毟り取り、私生活は人には自慢できないようないろいろと乱れた生き方をしていた。付き合っていた彼氏が事務所の幹部クラスだったので、アイドル活動でも優遇されていたのだが、その彼氏が堂島華怜に貢ぐために事務所の金に手を出してしまった。

発覚するのは早かった。というのも堂島華怜が所属していたアイドル事務所は、絶滅寸前の反社会な人々の資金源だった。金の流れには超シビアだったのである。ゴクドルズもマッ青である。


「もうもうもうもうっ! なんでわたしがこんなことしてるのよっ。あ、いったーい。マメが潰れちゃったじゃない」

堂島華怜は人も寄り付かぬ山奥で、シャベルで穴を掘っていた。その隣には彼氏の久本正がいて、同じように穴を掘っていた。いや、掘らされていた。

穴を掘る二人を監視する男が煙草デバイス燻らせながら笑った。

「連帯責任だよお」

穴を掘る動作を途中でやめて堂島華怜は噛みついた。

「わたし関係ないじゃんさー。お金取ったのタダシでしょ」

ふーっと息を吐きながら煙草デバイスの男はさらに笑う。

「紙巻き煙草ほど煙は出ないんだなあ。盗んだのはタダシくんだったけど、散財したのは華怜ちゃんでしょお? どっから引っ張ってきたお金か察しもついてたんでしょお」

「知らないってば。私は被害者なのよう。なんで穴なんか掘らなくちゃいけないのよう!」

堂島華怜は久本正が何処から金を工面しているか、おおよそ解っていた。解っていたが黙っていた。

「気づいた時に言ってくれれば穴なんか掘らなくて済んだかもねえ」

煙草デバイスの男がふーっと息を吐きだす。紫煙というほどではない中途半端な煙が目視できた。

「ていうかさあ、商品(アイドル)に手を出した時点でタダシくんは終わってるなあ。それ受け入れちゃった時点で華怜ちゃんもアウトじゃん」

辺りは気が付くと濃い霧に覆われていた。煙草デバイスの男の声は聞こえるが、姿は確認できない。それくらい濃密なまとわりつくような霧だった。

「やっぱりわたし悪くないもん、いうこと聞かなきゃアイドル辞めさせるって脅したのタダシだよ!」

「その時に筋通すんだったねえ」

納得のいかない堂島華怜は激昂した。

「もうもうもうもうっ! ふざけんなっ! ああああああああああああああっっっ」

堂島華怜は大声を振り絞るため、目をつぶって前屈みになった。

「そろそろ良い感じかな。穴も掘れた……」

煙草デバイスの男の声が途中で搔き消えた。堂島華怜は目を開けて姿勢を正した。霧は晴れていた。

掘っていた穴は無くなっていた。さっきまで煙草デバイスの男の声がしていた場所に、男の姿は無かった。堂島華怜は強く握りしめていたシャベルを投げ捨てた。

辺りを見回すとやはり森の中だった。しかし、自分が穴を掘っていた森とは何か雰囲気が違っていた。

「二度とアイドルなんかするもんか」

そんな堂島華怜がなぜ異世界に来てもアイドルみたいに路上ライブをしているのか?


「タダシくん、シャベルをこっちに投げてくださーい」

煙草デバイスの男ののんびりした声が聞こえた。散々殴られて顔を腫れ上がらせて、視界も定かでないタダシはビビりながらも言うことを聞いて、シャベルを放り投げた。

「そのまま上がって来てくださーい」

デバイス男の声に従い、タダシはのろのろと穴から這い出てくる。穴から上半身だけ這い出したところで、頭に鈍い衝撃を受けた。タダシが投げ上げたシャベルを手にした煙草デバイスの男が、思いっきりタダシの頭をシャベルで強打したのだ。タダシはそのまま穴の中へずるずると滑り落ちていった。

「掘ってもらえるのはありがたいけど、埋めるのは僕なんだよねえ」

煙草デバイスの男はそう言うと、もうひとつの穴の方へ向かった。

「華怜さーん、シャベルをこっちに投げてくださーい」

タダシにかけた時と同じけだるげな口調でそう呼ばわった。

しかし、シャベルが投げ上げられることは二度となかった。


とぼとぼと歩いて山を降りていく間、誰にも会わなかった。霧に捲かれて気が付いたら周りに誰もいなくなっていたのだ。自分が掘らされていた穴は自分が埋められる穴だったのだろうとふと気が付いた。

「ひどいなあ」

わたしなんにも悪くないじゃん。タダシのとばっちりだよ、もう。

山奥で起きた一連の出来事はよくわからなかった。だんだん人の多い場所に移動して、なんとかお金を工面して家の近くまでやってきた。自分が無事なことはとっくに事務所に知られているだろう。家も見張られているに違いない。用心しながら家に近づいたが、とくに怪しい人物にも会わなかった。家と言っても一軒家と言う訳ではなく、古い賃貸マンションの一室が堂島華怜の家だった。

誰にも見られないようにカギを開けて部屋の中へ滑り込んだ。

人の気配がする。誰かが自分の部屋に居る。ああ、事務所の人間が待ち伏せしていたんだ。

「もう、おしまい……か」

「タダシっ! タダシなのっ?」

諦念に支配されかけた堂島華怜は、寝室から聞こえる自分の声に驚いた。寝室から飛び出てきたのは、目を真っ赤に泣き腫らした堂島華怜(自分自身)だった。

堂島華怜の事を書いていたらついつい筆が滑ってしまった。

『極悪女王』リリースの関係で、ダンプ松本引退試合を再見して、ああそうそう最終的にこうなったんだと思い出したり、確認したりしていたんだ。誰もブック書いてないのに、結果的にスンバらしいブックになっているという。55年組のエモーショナルな行動、すげえなあ。

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