83 依子ちゃんも紅く染まる夕暮れ
本栖湖攻防戦悲喜こもごも。
白糸台の願いが具現化したと思われるシナモンロールもどきが、樹海を覆うコンクリート塀に開いた孔からわらわらと現れ始めた。
「白糸台、しかし、あのロールもどき、残念でならんな」
「そうだな歪なパチモンになっている。俺の想像力はパチモンを生み出す程度の力しかないのだな」
「いや、そうじゃない。パチモン臭いのはもちろんダメだが、あのロールもどきにはもっともっと決定的にダメな部分があるっ!」
中島敦がやっぱり虎の様に咆える。
「よーく、よーく見るんだ! 白糸台!」
中島敦に言われて、白糸台はロールもどきを凝視する。
「あああああああああっ! な、なんてことだっ!」
「気づいたか! 白糸台っ!」
「ああ、中島敦っ! あ、あれはハリガネムシっ!」
ロールもどきのお尻からヒョロヒョロとハリガネムシが飛び出していた。相変わらずぎゅったんぎゅりぎゅりとのたうち回っている。
「側がカマドウマがシナモンなんとかに変わっただけじゃの」
「ということは……」
ロールもどきはそのずんぐりな体系のクセに、突然ランダムに跳躍を始めた。加えて気持ち悪い。
「やってることはカマドウマん時といっしょじゃねえかっ!」
甚五が白糸台を見ながら叫んだ。
「俺のせいなのか? 中途半端な想像力でシナモンロールをお願いしたけど、中国産のパチモンもどきしか生み出せなかったのは。俺の、俺の……」
「面白がっておるな、あの者らは」
「え?」
白糸台が鳰鳥の発言にきょとんとなる。
「お前さまの思考を拾って遊んでおるのよ。六角錐の無機物共にとって、人間様の思考は興味深いものらしいの」
「くそうっ! 俺は弄ばれていたのか! だったらもっと癒されるものを呼び出せばよかった!」
「ロールもどきでは癒しにならんのか」
「それならばっ、にゃんぱ……いや、なんでもない」
鳰鳥の問いかけに白糸台は思いのたけを吐露しそうになったが、それがパチモンとして生成されては溜まらんと考え直し、口をつぐむのだった。
心の中で葛藤を続ける白糸台の前にトコトコとリンちゃんがやって来た。今日はツインテールである。白糸台の顔を覗き込むと
「るんるるー」
と脱力系な声を上げた。
「がはっ!」
白糸台はしゃがみこみ、しばし虚脱状態であったという。白糸台には「るんるるー」が確かに「にゃんぱすー」と聴こえたのだ。リンちゃんに向かってトム・サイズモアな出早雄がサムズアップしていたとか、いなかったとか。
纐纈布は胴田貫の一閃で切り裂かれるたびに大量の血飛沫を上げる。返り血を浴び過ぎた遠目塚依子の白いワンピースは既に紅に染まっていた。
「びちゃびちゃで気持ち悪いーっ」
依子がぼやきながら、迫る纐纈布を胴田貫で退ける。幾度にも及ぶ斬撃のやり取りが続く。
「纐纈布を纏った仮面の男ってのは……あんだけ血をかぶっても大丈夫ってことは、奔馬性癩患まき散らしてるわけではないのか。すると別人かなあ?」
「なになに?」
「俺の知ってる仮面の城主は、そいつに触られたら即死亡決定、罹患したらすぐに肉がぐずぐずに腐れ落ちるという、凶悪な伝染病のキャリアなんだよね」
「じゃあ、グイン……」
言いかけたヒルヒルは、それ以上言うなというワサワサの視線を感じて押し黙った。
和三郎が知っている仮面の城主はヤバい存在だった。あれ? 祓いの詞と一緒だな。俺はこの城主を知っている。俺も鳰鳥姉さんと同じく、知らぬうちに自分の世界から弾かれた可能性が高くなったなあ。
「いあっ」
激闘の中で依子が間合いをコントロールしながら、隙を見てシュタ公の纐纈布を切ってくれたらしい。拘束が解けたシュタ公が、二人を梁にぶるさげていた纐纈布をみちみちと引き千切った。シュタ公の肩越しに、刃と布が恐ろしい音を上げながらぶつかり合っている。
「さてとヒルヒル」
越後屋のように揉み手をしながら、和三郎がヒルヒルを見やる。ヒルヒルも胡乱な目つきで和三郎を見返す。
「なのか用か」
「九日十日。衛星巨砲はいけそうかい?」
「モンキーマン」鑑賞。
弱いジョン・ウィック。以上。
纐纈城主関連でNGにした部分
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「そうじゃないのもいたけどね」
「わかった! 『豹等の仮面』!」
「いやいやいや、良い子は【改訂版】を読もうよ。つうか、ヒルヒルはデリケートな問題にぐいぐい切り込むね」
「触ったら感染っちゃうって大騒ぎするのは、リテラシーが低い証拠ですぞ。ヒルヒルの手萎え足萎えは伝染らないのにねー」
「うん、ヒルヒルごめんよ。俺が悪かったよ」
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『グイン・サーガ』をネタにするには、私には文章力と知識と勇気が足りな過ぎた。
29巻までは読んだんですけどねえ。力尽きました。魔界水滸伝とか大好きなんですけどねえ。