81 チャンチャマイヨ ナォミトリィに怯える
チャンチャマイヨと佛淵兵庫。
はりきってどうぞ!
チャンチャマイヨは迷っていた。
「此処は何処だ?私は誰だ……いや、私はチャンチャマイヨだったか」
朱塗りの大きく太い柱、紅に塗られた石壁。たまに聞こえてくるうめき声と叫び声。よくわからないが何か呼びかける声。
「ヌーコ……ナォミトリィ?」
今朝はいつものように起きて、アルパカの世話をしようと家を出たはずだった。気が付くとこのよくわからない建物の中にいた。天井が高い。建物が赤い。そこはかとなく金臭い匂いが満ち満ちている。なにか危険な匂いである。どこからともなく聞こえるうめき声も我慢がならない。チャンチャマイヨは早くこの場所から抜け出したかった。
「これは紛うことなき血の臭い」
気が付いたら牢屋の中に居た。五十嵐殿を助けようとしていたはずなのだが。途中謎の手練れに邪魔されて気絶してしまったところまでは憶えている。気が付いたら紅い柱で拵えられた牢屋の中にいた。周りには数人の男がいた。声をかけるが皆、啞なのか
「ううう」
「あああ」
と要領を得ない。よく見ると牢屋なのに鍵もかかっていない。確かに此処に入れられた男共は、唖の上身動き一つしない。脱走する心配がないのだろう。
「ふむむ」
顎に手を当てしばし黙考する。
「出てみるか」
佛淵兵庫は着流しの裾をぱんとはたいて飛び起きた。長めの両刀を落とし差しにして牢屋の扉を開けると外へとふらりと歩き出した。やけに天井の高い建物である。石を積み上げ紅く塗られた石壁は
「なんだか立派な城に見えるな。しかし、何故自分は此処に居るのだろう」
佛淵兵庫は一人ぶつぶつ言葉を並べながらそぞろ歩く。しかし、誰とも出くわさない。ときどきうめき声が聞こえるが、これはさっき一緒に居た牢屋の男衆だろうな。しかし、あの叫び声は気持ちが萎えるな。まるで断末魔の声だ。
「辛気臭くっていけないここはひとつ」
佛淵兵庫は浪人である。お勤めをしているわけではないので、食い扶持は自分で稼ぐしかない。傘貼りは性に合わずというか不器用故諦めた。自分は剣術以外取り柄がない。武士なら剣術だけでも食えただろうが、浪人は刀だけでは食ってはいけない。そこで佛淵兵庫が選んだ仕事が
「蚤とりましょう。猫の蚤とり!」
猫にたかっている蚤を取って、鳥目をいただく、「猫の蚤とり」業であった。
「蚤とりましょう、猫の蚤とり!」
紅い建造物の中で、佛淵兵庫の声が朗々と響いていた。
「まただ……ナォミトリィ。いったい何の呪文なんだ?」
チャンチャマイヨは周囲から断続的に聞こえるうめき声と叫び声に憔悴していた。おまけに朗々とした
「ナォミトリィ!」
という謎の掛け声。しかもその声は徐々に自分の方に近づいてきている気がする。
どんがらがっしゃーん。
凄まじい衝撃音が仕置き部屋に響いた。
「な、なんだ?」
和三郎は声を上げた。ヒルヒルがきょろきょろと辺りを見回す。シュタ公がびっくりして立ち上がった。
「あっ」
ヒルヒルが前方を見やって声を上げた。和三郎もヒルヒルが見ている方を見つめた。日本刀を片手に纐纈布の攻撃を捌きながら、白いワンピースの少女が近づいてくる。足許を狙った布の攻撃を躱すため少女は大きく跳躍し、後方にずざざざと滑っていく。
「知り合い?」
和三郎がのんびり尋ねる。ヒルヒルが大きく頷く。
「ヨリーですよ、富三郎マニアの!」
「人形佐七の? 極道坊主の?」
「いやいや、子連れ狼ですよ、拝一刀の」
「水鴎流。だから抜刀してないのね」
「ヨリー!」
ヒルヒルが大声で依子ちゃんを呼んだ。
「だから、ヨリーって」
依子が腰だめに斬馬刀・胴田貫を構える。
「呼ぶなっていってるでしょうがああっ!」
胴田貫が鞘走り、纐纈布を切り裂いていく。斬られた纐纈布から血飛沫が上がる。激痛に悶えるような叫び声が、纐纈布が飛んできた方角から聞こえてきた。
仕置き部屋の奥、暗闇の中から纐纈布を身に纏った仮面の男が姿を現した。
「我は誰ぞ?」
胴田貫を鞘に納めた依子ちゃんが前方の仮面の男を見据える。
「知るか、ボケ」
纐纈城内でのあれこれで終わってしまいました。
如月冴ちゃんがまだ活躍していないのに、新キャラが3人も登場ですよ。
チャンチャマイヨはコーヒーの名前でして、このほかにコーヒーの名前由来の人たちで構成されたチームを出そうと思ってたのでした。名前だけ考えて、なんにも考えていなかった。
佛淵兵庫はまたまた国枝史郎の本歌取りっす。『猫の蚤とり武士』っす。
この辺掘り下げていくと由比正雪とか出てくるんですよー。いったいどこへ行くんでしょうか?
即興で書きすぎてるか? ほんとにどうするつもりなのか、楽しみで仕方がない。