文化祭編
最近は文化祭の準備のせいで、逢引きをしていない。
誰とって?
鈍感ヘビースモーカー栗栖先生である。
たまに会っても、廊下ですれ違う程度。
その時に、
「栗栖先生!」
「あぁ、佐伯。しっかりやってるか?」
「やってますよ!そりゃあもう...!」
「そうか。頑張れよ」
終わり。
元々あたしの片想いなんで仕方ないとは思うけど...。
なんだこの簡潔な会話!
せめてもう少しないの!?例えば、
「たまには会いに来いよ」
とかさ!
「佐伯が来なくて寂しいな…」
とかさとかさ!!
………。
まぁいいや。
そこまで欲を出さないにしてもだね。
もっとこう…、なんて言うの?
………。
あー!!!
なんかめんどくさっ!
いろいろ考えるのめんどくせっ!!
そもそもなんであたしはあんなボサボサ頭好きなんだ!?
おかしいよ!
おかしいよね!?
そこが最大の汚点なのだよ、佐伯夏子!!
目を覚ませ、佐伯夏子!!
お前は間違ってるぞ、佐伯夏子!!
あー……。
なんだか無性に泣きだしたい気分だ。
はぁ…。
「ねぇ、あなた佐伯さん?」
落ちるなぁ…。
せっかくの文化祭だっていうのに…。
「あの…、佐伯、さん…?」
あーあ…。
もうやだぁ…。
「佐伯夏子さん!?」
「え、あたし?」
えーと…。
「…誰でしたっけか?」
「………」
あたしの知り合いにこんな人いたかな…?
こんななんでもない日に頑張って髪巻く人はいないはずだけど。
化粧もしてるや。
しかも肌きれいだなー。
おしゃれさんだね。
「…私とあなたは初めましてよ」
「ですよねー!」
どうも初めまして。
「佐伯夏子さんよね?あなた」
「え、そうですけど…」
あたしって結構有名人だったの?
……てへ。
照れるよん。
「……私は工藤美佳。ちょっと話があるんだけど、今暇…よね」
をい!!
何その断定!
あたしそんな暇人そうに見えちゃうの!?
「…い、今忙しい」
あたしは忙しいんだ。
文化祭の準備あるし?
みんなあたしを頼りにしてるし?
「ならここでいいわ」
工藤美佳と名乗るおしゃれさんは、あたしにぐいっと顔を近付けた。
「文化祭の日、栗栖先生に告るから」
…………。
…………。
…………。
「……へっ?」
今、なんと…?
告る………?
栗栖先生……?
えっと……。
「えぇえ!?!?」
おしゃれさんもとい、爆弾発言工藤美佳さんは、あたしから顔を離した。
なんでか知らんが、彼女ではなくあたしが顔真っ赤だ。
「だから文化祭の日、邪魔しないでよね」
じゃ、邪魔ってあなたね…。
今まで誰の告白も邪魔した経験はありませんが?
あたしがきょとんとしていると、爆弾発言工藤美佳さんはふんと鼻を鳴らして、この場から去っていった。
なんかいろいろとインパクトのある人だったな…。
それよりも。
勇気のある人だなぁ。
あの先生に告白しようと思うなんて。
あたしなんか…。
あたしなんかそんな勇気これっぽっちもありゃしない。
………。
先生オッケーしたらどうしよう…。
勇気ないとか言ってる場合じゃなくなりそうじゃない?
*
文化祭当日。
あれからいろいろ考えてしまった。
考えたって何かある訳じゃないんだけども、ついつい考えてしまうってやつ。
恋したことある人なら誰だって経験あると思う。
……たぶん。
そして考えててふと思った。
あたしは閃いた。
なんで工藤美佳さんはあたしに宣言しに来たんだ?
あたしそんなに先生の周りうろちょろしてるっけか?
……いや、してるかもしれないけど…。
でもさ。
周りから見たら、あたしは先生とよく一緒にいるっていうふうに見られてるってことだよね?
…うへへへ。
なんか笑いが込み上げてしまいます。
しかしそれもすぐ止まる。
なぜなら不安が付きまとうから。
ないとは思う。
きっとないとは思うけど…。
けどそんなの分からない。
あたしは先生じゃないし、先生のこと全部知ってる訳じゃない。
学校以外の先生のことなんか、これっぽっちも知らないんだ。
だから先生の女の人のタイプなんか知らないし、今までどんな人と何人付き合ってきたかも知らない。
聞きたいけど怖くて聞けない。
だってそれで先生のタイプがあたしとかけ離れてたら、すごいショックだし…。
先生が大勢の人と付き合っていたならば、あたしなんか眼中にも入らないと嫌でも理解できちゃうし…。
つまりあたしは臆病者。
違う言い方をすればズルい。
ただ先生のこと好き好き言って、でもいざとなるとなんにもできない。
そのくせ、工藤美佳さんみたいな人が出てくると、胸のあたりがもやもやするんだ。
もしも先生と工藤美佳さんが付き合ったとしても、あたしにはとやかく言う権利なんかない。
だってあたしは先生にとってはなんでもない、1生徒にすぎないんだもん。
……あたし最低だ。
「佐伯…?」
え……?
「せ、先生!?」
先生はどこか心配そうにあたしを見つめていた。
それよりもなんで先生がここに?
「なんて顔してるんだ、せっかくの文化祭の日に…」
なんて顔?
あたしそんな変な顔してたのかな。
深刻そうな顔はしてたかもだけど…。
つかなんで今先生現れるかな…。
なんかタイミング悪い。
会いたかったけど、会いたくなかった。
…あぁ、矛盾してるや。
頭ぐちゃぐちゃだー。
「どうした?なんかあったのか?」
だからね、今そんな優しくされると勘違いしちゃうじゃん。
あたし結構単純な生き物なんだよ?
いつもわずらわしそうにあたしのこと見るくせに、こういう時はすごく心配して優しく声を掛けてくれる。
きっと誰も気付かなくても、先生は気付いてくれる。
そんな錯覚に陥ったような感じ。
たぶん、あたしは先生のこんな所が好きなんだなぁ。
「ねぇ、先生」
「ん?」
「先生のタイプってどんなですか?」
「はぁ?」
まぁ、当然の反応でしょうな。
いきなり聞くようなことでもないだろう。
でもあたしの中ではそんな気分だったんだもん。
先生の顔はなんとなく見ることは出来なかった。
「いきなりなんでそんなことを聞くんだ?」
「聞きたいから」
あー…。
あたし最悪な女を発揮している…。
まずいのは分かってる。
頭ではよぉっく分かってるんだけど…。
頭と言動がちぐはぐになっちゃってる。
もう黙ってた方がいい。
いいに決まってる。
だけど口はすごい軽かった。
カルカッタ。
………。
「大人で真面目で誠実な人」
頭を石で殴られた気分って、こんな感じなんだなぁ。
辛い。
ヤバイ。
泣きそう。
なんで理想はこうもかけ離れているのだろう。
「でもそれはあくまでもタイプだから。頭ではそう思ってても、実際は違うもんでしょ」
「実際、は…」
「そう。佐伯はそうじゃないの?」
あたし…。
あたしは?
あたしはどうなんだ?
あたしのタイプは、優しくてあったかくて面白くて…。
それって…。
真逆って訳じゃないけど、一緒じゃない。
つまりそういうこと?
あたしにもチャンスがあるってこと?
頑張っててもいい?
まだ一生懸命でもいい?
そしたら先生はあたしに振り向いてくれる?
「ねぇ先生」
「今度はなんだ」
「ありがとーございました」
先生、ありがとう。
だいすきだよ、先生。
ありがとう。
「……何が」
「えっと、いろいろ?」
「なんだそれ」
先生が笑った。
そうなったらあたしの負けなんだ。
あたしの顔も緩んじゃうよ。
まったくよー。
さっきまでの胸のもやもやどこいったんだよ。
帰ってこいとは言わないけど。
やっぱあれだね。
もやもやの原因は先生だったから、それを取り払えるのは原因の先生だけだ。
そもそもの不安の原因は工藤美佳さんだけど。
そうだ!
工藤美佳さんのこと忘れてた!
「では先生、わたくしは持ち場に戻ります!」
クラス店の係をさぼる訳にはいきません。
後でどうなるか分かんないもん。
最悪ぼこられる。
「もう大丈夫か?」
「いや、最初から大丈夫でしたから」
「……あっそ」
もう大丈夫。
いつもの佐伯夏子だ。
もやもやを無くしてくれたのは先生だ。
だからもう一度。
先生、ありがとう。
「佐伯」
その場を立ち去ろうとしたあたしを、先生が呼び止めた。
あたしは振り返って先生を見ると、先生は緩んだ顔でそこに立っていた。
「頑張れよ。でも無理するな」
がくってなった。
ずっこけた。
なんだそれ。
どんなアドバイスだ、おい。
まぁいいや。
鈍感ヘビースモーカーの捨て台詞っぽいじゃないか。
ならあたしも。
「先生」
「なんだ」
「白衣がタバコ臭いよ」
「げっ」
*
それにしても…。
気になる。
無性に気になる。
クラス店の係もそっちのけでそわそわしてるもんだから、クラスのみんなそれぞれにお叱りを受けた。
しかしそんなことも受け止められない。
とにかく気になるんだ。
さて、どうしたもんかね…。
抜け出そうか?
いや、それはまずい。
本気で殺されかねない。
でも抜け出す以外に方法なんかないよなぁ。
正直に話てみるか?
ダメダメダメダメ!!
みんなに先生が好きなんてばれるなんてやだ!!
先生にばれるっていう次にやだ!!
あー…。
ん?
「工藤美佳さん…?」
教室の前を足早に過ぎ去って行ったのは、絶対に工藤美佳さんだった。
間違いない。
あんな綺麗に髪巻いて化粧してるのは工藤美佳さんしかいないもん。
あたしは反射的に教室を出て、工藤美佳さんの後を追っていた。
なんでか、放っておけなかった。
「工藤美佳さん!工藤、美佳、さん!」
「なによ!!」
うぉ!?
工藤美佳さんは女子トイレでやっとあたしの声に振り返った。
うちの教室からこの女子トイレまで結構な距離あるよ?
「普通こんなとこまで着いてこないでしょ!?なんなのよ、あんた!」
なんなのよと言われても…。
あたしも最後の方は必死だった。
競争じゃないのは分かってるんだけど、もともと負けず嫌いな性格なもんで、振り向けおらぁ!的な何かが生まれちゃった訳よ。
負けず嫌いな人なら理解してくれるだろう。
「…何の用よ」
「用っていうか…その…」
そんなストレートに聞ける程あたしはぶっちゃけちゃんではないので。
そこであたしは考え付いた。
ソフトに聞いてみよう。
「ある鈍感でヘビースモーカーでボサボサでよれよれ白衣の男に密談があったらしいけど、何かあったようななかったような気がするんだー。どう?」
「……あんたバカじゃないの?」
ばっ……!!
せっかくソフトに聞いてやったのに!!
「…振られたわよ」
………。
「決まってるじゃない。私はただの生徒だし?こうやって頑張って髪巻いたって!ばれないぐらいに薄い化粧したって!あの人はなんにも気付かない!髪切ったことにだって気付かないのに、最初から期待なんかしてないわよ!!」
なんて声を掛けていいのか分からない。
掛けなくてもいいのかもしれない。
どうしたらいいか分からない。
「でも好きだったんだもん。想いを伝えたいって思ったのよ…」
工藤美佳さんはそう言ってうつむいた。
ぐずぐずと鼻をすする音がトイレ内に響いている。
「ねぇ工藤美佳さん。先生のどこ好きになったの?」
制服のポケットに入っていたポケットタオルを工藤美佳さんに手渡した。
工藤美佳さんはそれを見て、次にあたしを睨み付けた。
「…なによ」
「いや、なんとなく」
工藤美佳さんは訝しみながらも、あたしのポケットタオルを受け取った。
そしてあろうことか鼻をかんだ。
お約束か。
直感だけど、工藤美佳さんとならいいコンビが組めそうな気がするよ。
「顔」
工藤美佳さんは即答した。
「うん、確かに!」
そしてあたしは便乗した。
「元の素材がいいんだよねー」
「そうなのよ!普段無表情なくせに時折見せる笑顔がたまんないのよ!」
「分かる!すごい分かる!!」
「あのボサボサ頭とか汚れた白衣とか、私がなんとかしてあげたくなっちゃうのよ!何?こう…なんて言うの…?ほら…」
「母性本能!」
「そう!母性本能くすぐられるのよ!」
「うん!!めっちゃ分かる!!分かりすぎて怖いぐらい分かる!!」
こういう話興奮するね!
なかなか出来る話じゃないもんで。
アイドルならまだしも、対象が学校の先生だからねー。
あたしがのほほんとそう考えていると、工藤美佳さんは深い溜め息を落とした。
なんだよ…?
「あんたと喋ってると調子狂う」
「話したの2度目ですが」
「両方狂ってんのよ」
「さいですか…」
褒められてはないだろうな。
工藤美佳さんってさらっと酷いこと言える人だよね。
あんま悪い気がしないのは可愛いせいか?
……可愛いってズルい。
ただのひがみになってしまった。
「栗栖先生のこと好きな女子なんてたくさんいるけど、みんなあんたがいるから手は出さないのよ」
「え、あたし!?」
あたしそんなに虚勢張ってるかなぁ…?
「いっつも先生にくっついてて、ストーカーみたい」
「す、ストーカー!?」
ちょっと酷くない!?
あまりにも酷すぎないか!?
ストーカーって…。
いくらあたしでもストーカーは落ち込むよ?
何言ってもいいとか思ってるでしょ。
意外と打たれ弱いんだよ、あたし。
「でもみんなあんたのこと悪く言ったりはしないでしょ?」
「う、うん…」
それはあたしが鈍感だからとかじゃなければだけどね。
「あんたのキャラがおかしいからよ」
「………」
もういちいち突っ込むとか落ち込むとかめんどくさくなった。
工藤美佳さんはどうあってもあたしをはい上がらせる気はないらしい。
「あんた見てると、影でこそこそやってるのがバカらしくなるっていうか、嫌がらせしようとしてる自分たちが小さく見えるっていうか。とにかく!みんな身を引くわけ」
「あたしが、先生の近くにいるから…?」
「そうよ!でも私は諦めたくなかったの!あんたになんて譲りたくないと思った!!」
「うん」
「だから言ったの!私だってやる時はやるのよ!!」
「うん」
「まぁ、見事に玉砕したけどね」
そう言う割には、工藤美佳さんの顔は清々しそうだった。
あたしも先生に告白した後は泣いて泣いて、清々しくなるのかな。
なるといいな。
「あたしが告白したら、その後は工藤美佳さんが慰めてね」
「は?…意味分かんない」
とか言って。
まんざらでもない顔をしているじゃないのさ。
「それよりも、何よ、その工藤美佳さんって…?」
「だってなんて呼べばいいか分かんなかったし…。みっちゃん?かーちゃん?」
「……まじあんたうざいわ」
「ひどっ」
辛口みっちゃんということで。
*
あたしは結局クラス店の係をサボった形となり、クラス中から非難の嵐だった。
あの時は先も言った通り必死だったから、クラス店のことなんてぽっかり抜け落ちていたのだ。
仕方あるまい。
あたしはとりあえずたくさんクラスメイトに謝り続け、片付け後の居残り掃除で手を打っていただいた。
だからガランとし始める文化祭の放課後に、1人黙々と箒片手に掃除しているのです。
みんなは打ち上げの準備とか言ってさっさと帰っちゃったし。
あたしだって早く帰りたいのにー!!
って、あたしが悪いんだっけね…。
「佐伯、まだいたのか」
放課後掃除グッジョブ。
「栗栖先生!」
ご褒美だ。
神様があたしにご褒美くれたー!
ありがたやありがたや。
「もう下校の時間だぞ」
「はぁい。もう帰りまぁす」
あたしは箒を片付け、自分のサブバックを肩にかけた。
ん…?
ちょっと待てよ。
辛口みっちゃんはあたしが先生に付き纏ってるみたいな言い方したけど、でも今日先生と会ったのは先生から近付いて来たんだよ?
そうだよ!
断じてあたしが付き纏ってる訳じゃない!
あたしはストーカーじゃない!!
「先生!」
「…なんだ」
「あたしはストーカーじゃないですからね!!」
「はぁ?」
あたしは言い置いて学校を出た。
その後先生が1人でクスクス笑って、
「意味分かんねぇ」
と呟いたのは、あたしの知るところではない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は別名ライバル登場編ということで、新キャラ登場しました。
濃いですね、彼女。
たぶんこれからもちょいちょい出てくると思います。
そして栗栖先生の出番少なめでした。
誠に申し訳ない…。
感想などいただけると嬉しいです。




