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バレンタインデー編

あたしは一代決心を決めていた。

目的はただ一つ。

明日のことをさりげなーく聞くこと。

「さりげなーく」ってとこ、味噌ね。

あたかも

「あたしは別に?なんとも思ってませんけど?ただ?やっぱ栗栖先生って人気らしーし?どうなのかなっていうね、好奇心ってやつ?みたいな?」

というのをアピールしたい。

え?何?

ツンデレでもなんでも好きに言うがいいさ!

ばれるのだけはご免なんだよ!

なんていうの?

カンに触る。

平たくいえばムカつく。

栗栖先生があーゆー性格なものだから。

まぁ、あげるけどさ。

柄にもなく手作りする気まんまんだけどさ。

ハート型のチョコに「LOVE」とか書いて、

「俺もだよ佐伯」

みたいなさー!!

「せ、先生…」

「佐伯…」

あっ、だめ先生…!

校内でそんなハレンチな…。

きゃー!!!!!

…て、いけないいけない。

妄想が大暴走しすぎだわ…。

なんてったって明日は…

「は?明日?…なんかあるのか?」

あたしが芸人だったなら、めちゃめちゃ上手くずっこけたと思う。

表には出してないけど、心の中で綺麗にこけた。

そりゃないよ、先生…。

今じゃ世の中その話題で持ちきりなはずだよ?

知らないあなたは間違っています。

男としても人間としても不完全であります。

母親の腹の中から出直してこい。

「…知らないふりですか、それは?」

「ふりしてどんな利点があるんだよ」

…もうやだな。

なんでこんな鈍感ヘビースモーカー好きになったのかな…。

おまけに頭ぼっさぼさだし。

白衣よれよれだし。

袖汚れてるし。

髭剃り怠ってるし。

なんであなたがそんなに人気者なの?

アイドントノー!!

ワタシハ、リカイ、デキマセーン!!

…英語は苦手です。

「明日は2月14日!バレンタインデーです!!」

「バレンタインデー?」

ま、まさかバレンタインデー知らないとか言わないよね…?

え、まさか…

「あぁ。バレンタインデーね。明日だったんだ」

………。

知ってんのかよ。

いっそ知らなかった方が清々しいわ。

なんだよ中途半端だな。

先生、あなたは芸人にはむいてないですね。

寂しいけどあたしとコンビは組めそうにありません。

「で、それが?」

え?

そこ聞く?

花の女子高生に向かって聞く?

普通スルーしてあげるとこでしょ?

デリカシーの欠片もありゃしない。

「えと…。きっと明日のご飯は用意しなくてもいいですね」

「はぁ?」

な、何よその変なものを見るような目は…。

「だって先生人気だし、いろんなのたくさん貰えると思うからさ…」

なんで人気かはまっっったく分かんないけどね。

こんなくたびれた26歳のどこがいいんだか…。

あ、あたしは別だけど。

あたしはちゃーんと中身見て好きになったんだもん。

…きっかけは顔だけど。

「受け取らないよ。生徒からは」

「えっ?」

何?

なんだって?

生徒からはってどゆこと?

「なんで生徒限定?」

「教師通しには付き合いで渡さなきゃいけないってのがあるんだよ。生徒にはそんなのないだろう?」

.........。

「それに生徒から物を貰うのはあまり関心できることじゃないしな」

.........。

確かに正論か...。

なんだ。

あたしの妄想はあっさり崩れた訳ね。

いーよーだ、別に!

裏を返せば誰からも貰わないんだしね!ふんだふんだ!

モテない男のただの言い訳じゃん!

「たのしみですねーあしたー」

「…なんでそこで佐伯が怒るんだ」

「え?あたしのどこをどー見たら怒ってるよーに見えます?これっっっぽっっっちも怒ってませんけど」

「…あっそう…」

怒る訳ないでしょ。

どこに怒る要素があるってんだい。



…………。

作ってしまった…。

受け取らない宣言されたのに…。

作ったのね、あたしは…。

しかもめちゃめちゃ手軽に作っちゃったってゆーね。

溶かして型作って固めた。

いわゆる普通の板チョコの味。

ははは。

もう笑うしかないね。

いろんな意味で。

さて、問題はこれをどうするかだが…。

普通に渡したって受け取らない訳でしょ?

なら無理矢理押しつけてみるか?

いやいや、そんなことしたって受け取るような奴じゃない。

なら女教師のふりして渡してみるか?

…すぐばれるよね。

いっそのこと告白するか!

はい論外。

あー!!!

どーしたらいーのー!!

あ。

こっそり忍ばせてみるか…?

今までで一番いいアイディアじゃん。

よし。

やってやらー!



先生はウソつきだ。

教師がこんな簡単にウソ吐いていいのかよ。

いや、ダメに決まっているのだ。

こーゆーの倒置法とかいったような…。

「…受け取ってんじゃん」

「受け取ったんじゃない」

「ならこのお菓子の山はなんなんだー!!?」

叫んだ。

叫んだよ。

あぁ、叫んださ。

何よ?

あたしは悪くない。

ウソつき鈍感ヘビースモーカーが悪い。

100、いや120%悪い。

あたしには寸分たりとも非はない。

「欲しいならやるよ」

………。

「……は?」

「ここにあるのは全部貰った訳じゃない。勝手に置かれてたんだよ」

な、なるほど…。

てか、あたしも似たようなことしようとしてた気が…。

しないね。

うん、しないしない。

「はぁ…。これは予想外だったな。今時の高校生がこんな古典的なやり方をするとは…」

「古典的とはなんですか!失礼な!」

「は?」

あ、つい…。

「あの…、代弁代弁」

先生は不思議そうにあたしを見たが、何も言わなかった。

言われても困るけど。

「いるか?」

綺麗に可愛く包装されたお菓子を、先生はあたしに見せた。

いやいや。

いる訳ないでしょ。

まったくもっていらないし。

「いりませんよ」

「そうか…」と先生はぽつりと呟き、おもむろに黒いゴミ袋を取り出した。

…て、ゴミ袋!?

「え、ちょちょ、何するんですか!?」

「何って?捨てる」

すてる……?

全部、捨てちゃうの…?

なんでだろう。

先生が受け取らないってこと、嬉しいはずなのに。

違う。

心のどっかでは喜んでる。

でも全体が喜んでる訳じゃない。

また別の部分ではショック受けてるかんじ。

でもまた別のとこでは怒ってる。

理由は簡単。

置いてった子たちとあたしは同じだからだ。

その気持ちが痛いくらい分かってしまうから。

「…それって、酷くないですか?」

「あ?」

「酷いと思います。その子たちの気持ち、考えてあげてください」

分かってる。

これはただのわがままだってことは分かってる。

分かってるけど言いたかったんだもん。

自分の中だけじゃ消化できなかったんだよ。

「だったら直接渡して来た奴らはどうなるの?勇気出して直接渡してくれた奴らを断って、誰かも分からないチョコを食えって?それこそ酷いって言わないか?」

「でも……」

分かってる。

分かってるけど…。

「なら佐伯ならどうする訳?」

どうするって…。

………。

「…そうなってみなきゃ分かんない」

「答えになってない」

なんでそんな冷めた目で見るの…?

あたしはこんなに頭にきてるのに!!

「酷いと思ったんだもん!しょうがないじゃん!!それ以上でもそれ以下でもないわ!!」

これって逆ギレって言うのかな。

いやいや、言わないか。

先生キレてないし。

あたしが1人でわめき散らしてるだけ。

これがあたしと先生の歳の差?

なんか泣きたくなってきた。

「先生のばーか!人でなし!」

あーあ、やっちゃった。

思った時には時すでに遅し。

あたしは先生の顔めがけて、柄にもなく可愛いバレンタイン用に売られていた包みを投げつけていた。

おまけに学校飛び出してきた。

あれが放課後でよかったよ。


中身バラバラになっちゃったな、とか。

割れたハートなんてしゃれにもなんないな、とか。

どーでもいいことはすぐに頭を埋めてくれたけど、肝心なことになると真っ白だ。

明日学校行きたくないな。

先生の授業あるし。

気まずいよねぇ、あんな言い方したんだし。

最後のなんかただのガキの悪口だもんな。

あぁー…。

完璧まずった…。

ノイローゼになりそう。

ま、いいや。

所詮、なるようにしかならんのよ、世の中。

寝る。

寝るよあたしは。



「佐伯、俺のとこ放課後来なさい」

「…ほわい?」

て、苦手な英語を使いたくなるぐらいあたしは混乱した。

しかも先生は「聞こえません」というように角に消えてしまったし。

嬉しいような、嫌なような…。

つまり複雑なんだよ。

恋する乙女の心ってつねに複雑なんだよ?

分かるかなぁ、男性諸君に。

きっとあのウソつき鈍感ヘビースモーカーには分からないだろうがな!



正座した。

床とかそんなんどうでもいい。

せめて座布団くださいなんて、今の状況では口が裂けても言えたもんじゃない。

なんでかって?

ものすごく恐ろしい悪魔みたいな2つの黒い目に見つめられてるからですよ。

そりゃもう恐ろしいのなんの。

昨日の気まずさなんかどこへやら。

その気持ちが可愛くとさえ思えてしまう。

つまり異常ってことね。

「教師に向かってばか、人でなし、とは随分と肝の据わったことを言うようになったじゃないか。なぁ、佐伯?」

う……。

いきなり痛いとこを突いてくるよね。

しかも冷たい笑顔まで浮かべてる。

誰かこの可愛いうさぎ(あたし)を助けてください。

「おまけに顔を負傷させて貰ったし」

げ…。

あれストライクしちゃったんだ…。

何から何まで裏目に出ている気がするんだけど…。

「あの…、ごめんなさい…」

とりあえず謝っておこう。

あたしが悪いんだもんね。

ん…?

元をただせば先生か…?

「とりあえず謝るのはやめなさい」

はい、すいませんでした。

なんでもお見通しなのですね。

もう太刀打ちできねーや。

「捨てるのはやめた」

「は…?」

と言ってから気付いた。

昨日のことか?

昨日のお菓子のことなのか?

…て、捨てるのはやめたぁ!?

「人でなしと言われてまで捨てれないだろう」

はぁ、と溜め息をつく先生は呆れ顔だ。

それよりも、だ。

あたしは先生を動かしたんだ。

この鈍感ヘビースモーカーの心を動かした。

それってすごくない?

あたしすごくない!?

えへへへ。

「…顔、緩んでるぞ」

あぁ、いかんいかん。

お叱り真っ最中だったっけ。

「それで、捨てなくてどうしたんですか?もしかして食べ…」

「食べてないよ。俺はそこまでお人好しじゃない」

「でしょうね」

「………」

そんなん予想の範囲内に決まっとろうが。

伊達に片想い歴長くないってやつよ。

「全部あげた」

あげたんだ…。

捨てるよりはましなんだろうけど…。

うーん…。

なんとも言い難いよね。

だってあたしがあげたのを誰かに横流しされてたら結構ショックだもん。

捨てられるよりはショックじゃないけどさ。

「これ以上の譲歩はしない」

まぁ、いっか。

あたしにはモテ男の気持ちは分からないように、先生にも恋する乙女の気持ちは分からない。

それでいいんだよね。

逆に分かる先生も気持ち悪いし。

それに。

先生なりに分かろうとしてくれたみたいだし。

今回はよしとしよう。

「あたしも結構じょーほしてるよね」

「あ?」

「いーえ、なんでもありませーん」

あたしは正座をやめた。

そろそろ足が限界なのよ。

もう先生の目怖くないし。

もう今日は帰ろう。

早く帰らないと寒さでやられる。

早く暗くなるし。

「佐伯、なんか忘れてない?」

「え?」

なんか?

忘れ物でもあるっけか?

…特にないよね。

「何ー?」

もう分かんないよー!

お手上げですわ。

先生はにやりと顔を緩めた。

「板チョコの味そのまんま」

「え…、はぁぁ!?」

それって!!

それってさ!!!

「食べたのー!?!?」

「俺当てなんでしょ?食べて悪いことはないだろう?」

えー!?

え、何!?

どゆこと!?

貰わない、つか食べないんじゃなかったんかい!

なんでよりによって適当に作ったのを食べるのよー!!

「たださ、ハートが割れてたんだけど、なんか深い意味でもあるの?」

…ははは。

栗栖先生が鈍感で良かったよ。

…来年はもちょっと頑張ろうかな。

どうせ食べて貰えるんなら。

「ありがとう、佐伯。おいしくいただいたよ」

先生、あなたはあたしを殺す気ですか?



ねぇ先生。

こちらこそありがとう。

この気持ちをくれて、ありがとう。

なーんてね。

柄にもないこと言ってるけど、まじだよ?

ありがとね、栗栖先生。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

一応恋する乙女の気持ちを描写しているつもりでしたが、いかがだったでしょうか?

感想などいただけると嬉しいです。

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