22 前世の記憶
「えと、記憶と申しますと……。」
私が問いかけると蟹江さんは丁寧に説明してくれた。
「うん。多分初め、一番初めね。眩しい光で目が覚める感じで……。」
「あ、はい。」
「モニターの向こうにオーナー、だからフィナさんの場合だったらえっと、サナさんかサユリさんだと思うんだけど……。」
「はい、そうです。サナさんが見えました。」
「あ、そこは普通なんだ……。あ、普通っていうのは他のボーカロイドも最初そんな感じだって事だけど……。」
「ええ……。あの……。」
「ん? 他に何かあった?」
「実は……う~ん。夢かもしれないんですけど……。」
前世の記憶、しかも異世界の記憶……、これ言っちゃっていいのかな?
「変な記憶があるかもしれない……。」
「!」
その時蟹江さんの瞳がキラッと光った様な気がした。
「その話し、もっと聞かせてください。」
そう言いながら蟹江さんを押しのけて割って入って来たのは、先程から隣りで静かに話を聞いていた蛯名さんだった。
「それは暗闇の場所にいた以前の記憶ですか?」
蟹江さんは呆気にとられていたが、気を取り直して蛯名さんに話しかけた。
「まあ、フィナさんも言いたくない事もあるだろうから……。」
蛯名さんはその一言で我に返った様だ。
「あ、ごめんなさい。ちょっと……。」
気が動転しちゃったのね。そりゃそうですよね。
蟹江さんは落ち着いた目で私を見た。
「フィナさんも、もし良かったら話してくれる? ここだけの話にしておくから。ただ……」
蟹江さんはやや緊張した感じで言葉を繋げた。
「もし、何か問題、大きな問題があった場合は対応しなくちゃいけないから。その時はあなたの許可を得て議題に出さなくちゃいけないかもしれない。」
私は少し緊張しながらも理解を示した。
「はい。わかります。」
「だから、言いたくない事があったら、それはもう言わなくていい。言える事だけで。」
「はい、ありがとうございます。でも、それでいいんですか?」
蟹江さんはにこやかに言った。
「勿論。それに今日言わなくても後で言ってくれてもいいし。それはあなたの自由。気にしないで。」
貫禄やなぁ。
私は事の次第を説明した。
「これは体感なので、本当に現実の事か解らないんですけど……。」
「記憶の混濁かもしれないって事ね。」
「はい。」
「いいわよ。わかる。」
「前世の記憶みたいなものがありまして……。」
蟹江さんと蛯名さんは「来た!」と言わんばかりに目を輝かせた。
「へえ! それでそれで?」
2人は私の方を興味深げに見つめている。
私は取り敢えず死ぬ直前までの流れを打ち明けた。
そして、自分なりに気が付いた前世と今のこの世界との相違点、共通点を伝えた。
コンピューターや通信機器はこちらの方が進んでいる。
多分、宇宙関連の仕事もこちらの方が一般的。
ただ、言葉や文字は同じ。音楽等の文化の進み具合も多分ほぼ同じ。
蟹江さんと蛯名さんは、途中で聞きたい事もあった様だが、黙って頷きながら聞いてくれていた。
私が話し終わると蟹江さんは真剣な顔をして言った。
「もし、その話が本当だとすると……。」
え、何か……?
「偉い! あなた友だちを庇って!」
え? そこですか? 私は蛯名さんの方を見た。
「う、うっ……。」
蛯名さん、頷きながら泣いてるよ!
「そうかそうか。仮に夢だとしても偉い! 普通じゃできないね!」
「ごめんなさい。ちょっと……。グス……。」
そう言いながら蛯名さんは鼻をかんでいた。
この人達、良い人過ぎじゃね?
てか他にほら! 驚くべきポイントがあるでしょ!
「それにしても異世界か……。蛯名さん、あんたそうゆう話得意じゃなかった?」
鼻をかみ終えた蛯名さんは目を赤く腫らしながら言った。
「はい。まあアニメや小説でみるぐらいですが。」
ここにもヲタが! 仲間発見!
「そうゆうのって量子論の多世界解釈が元になってんでしょ?」
さすが蟹江さん。いきなり難しい。
「はあ。作者さんじゃないからわかりませんが……。まあ、科学者としてはあり得ないって感じもするんですが読んでて楽しいし……いいと思います。」
「でも、実際ほら、フィナさんが。」
「あ、フィナさんのケースであれば、まだあり得るかもしれません。」
蟹江さんは蛯名さんの方を不思議そうに見た。
「え? それはどうゆう事?」
蛯名さんの眼がキラリと光る。
「例えばですね……。」
そしていきなり語り出す!
これぞヲタク! さあ、蟹江さん付いて来れるかな?
「ここに火を操る魔法があるとします。これは仮にですが呪文のみで行います。呪文を唱えるだけで何もない所に火を発生させるわけです。」
まあ、脇役レベルでも火を起こすのに使ってるよね。
「しかし、どんなに小さな火であろうとこれを生物の大脳や心臓に発生させればどうなるでしょう。」
死ぬよね、普通。
「勿論これが水や土、空間であってもただではすみません。つまり、無いはずの場所に何かを発生させるという事は人間の生態や文化そのものを大いに変化させてしまうのです。」
蟹江さんはにやけながら言った。
「あ、それSNSでささやくと屁理屈って言われるやつ~。」
「そうです。そんな事言ってたら楽しめません。」
「そうだよね~。」
「ただ、ひっかかる人もいたりして何とかリアルさを出そうとする努力も見られます。例えばマナという架空の物質か生物か解りませんが、そのマナが人の念か何かを感じて魔法を体現すると言った感じです。」
うん。まあ、ちょっとだけ違うけどね。雰囲気は伝わる。
「言いたい事はわかる。あれでしょう。ほら、鏡の妖精みたいなやつ。」
「あぁ、妖精とかの場合もありますね。魔法の媒介として。」
蟹江さんは嬉しそうに話し出した。
「『秘密のトト子ちゃん』だっけ? テキマクマヤコン、婦人警官にな~れ! とか。」
蛯名さんは申し訳なさそうに言った。
「名まえは聞いたことありますが、見たことはありません。」
蟹江さんは少し残念そうだった。
「ああ、そうなんだ。ラミパスラミパス……。」
蟹江さん! 私は知ってますよ、それ! 少し違うけど。




