21 疑問に思わないわけがないよね
午前9時。
サナもサユリも学校に行ってしまった。
私は居間のソファーで朝食後のコーヒーを飲みながら、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
最近は夜しっかりと寝る様にしている私。
眠くはならないが寝ることはできる。
どうやら寝ている間に蓄積されたデータが解析され、整頓されている様なのだ。
スキル『情報』が機能することで、こういった使える知識が手に入る様になった。
私は居間のソファに座り、周りの家具や天井をボーと見ながら考え事をしていた。
プロの歌手になるにはどうしたらいいんだろう。
情報が欲しい所だが……。
やはり、芸能関係の人に直接聞いた方がよいのだろうか。
まあ、それはそれとして今はできる事をやって行くしかないか。
9月にもイベントあるって言ってたし。
向かい側の壁には美しい絵画が飾られている。
そう言えばボカロって歳取らないよね。多分声も劣化しない。
するってえと……。
半永久的に歌手を続けられるって事か。
私はふと少し先の事を考えた。
でも、流行り廃りとか……飽きられたりもするんだろうな。
ソフトやコンピュータもどんどん進化するし。
そうゆう意味では人間の頃より大変かも。
私はテーブルの上にあったファッション雑誌の新刊を手に取った。
まぁ、流行りのものって少しずつ装いを変えては何度も繰り返すらしいからね。
きっと良いものは普遍的なんだろうさ。
「お、この服かわいい! ……あ、これもいいな!」
私が寛ぎの一時を堪能していた最中、面前のモニターにメールのアイコンが点滅した。
>フィナ・エスカ様
>先日はありがとうございました。
>ちょっと話したいことがあるので時間あったら連絡ください。
>連絡方法;下のアイコンをクリックしていただけると通話ができます。
>株式会社3Dボーカロイド
>第1研究開発部主任 蟹江ジュン
「あ、蟹江さんだ。」
私はすぐに連絡した。
最近、面前のモニター【携帯モニター】はコンソールの子機であることが判明した。
ちょっとした作業ならこの携帯モニターだけで事足りてしまう。
モニター画面にパッと蟹江さんの顔が映し出された。
「お元気? 蟹江です。ご無沙汰してます。」
「こちらこそご無沙汰してます。」
私は深々とお辞儀した。
蟹江さんはニコニコしながら私に挨拶すると、少し横を向いてそちらに話しかけた。
「ちょっと、こっち入って。」
「あ、はい。」
誰かいんのかな?
少し小柄な女性が蟹江さんの隣りに映り込んだ。
「こちら紹介します。第6研究開発部の主任やってる蛯名モコって言います。」
蛯名さんはまじめそうな声で挨拶した。
「あ、蛯名と申します。よろしくお願いいたします。」
「フィナ・エスカと申します。こちらこそよろしくお願いいたします。」
蛯名さんの属性は『美人』、『白衣』、『大人しそう』、『小顔』、『小柄』、『スリム』、『色白』、『控えめ』……つまり、羨ましい。
蟹江さんが近況を聞いて来た。
「フィナさん最近はどう?」
「はい。毎日楽しくやっております。」
「そう、それは良かった。スキルとか使ってる?」
「ええ、少しずつですが。この前もカラオケ通信で盛り上がりました。」
私が笑顔で言うと、蟹江さんも笑顔で答えた。
「あら、良かった。まあ、ね。ホント楽しそうで良かったわ。」
蟹江さんは蛯名さんの方を向いて言った。
「あんた何か話すこと、聞きたいことあんでしょ。」
蛯名さんは私のあまりの人間ぽい話し方に驚いてる様子だった。
「ええ、でもまた今度で……。」
「いいの? あ、そうだ。私聞きたいことあったんだ。」
相変わらず独特だなぁ、蟹江さん。
「はい、何でしょう。」
「こんなこと聞いちゃっていいのかな……。」
「何でも聞いてください。」
蟹江さんは私を気遣ってか、一つ前置きした。
「そう……。まあ、もし言いたくなかったら言わなくていいからね。」
「はい。」
まさか、いきなり核心ついて来ないよね。
蟹江さんの遠慮がちな姿勢から人柄の良さが伝わる。
「フィナさん。あなた、ここに出てくる前の記憶ってある?」
来ましたー! これ、来ましたー!




